23, Mar 2017

黎明の軌跡
AUBE/中嶋昭文の作品について

執筆・画像提供:東瀬戸悟(フォーエヴァー・レコーズ勤務)

2016年11月より、糸魚健一さん主宰の京都のレーベル shrine.jpから、AUBE(オウブ)の90年代カセット・テープ作品群が月刊ペースでCD化されている。フランス語の「黎明」あるいは「白衣」「水力タービン」を意味するAUBEは、東山三条で生まれ育ち、2013年に54歳で世を去った生粋の京都人、中嶋昭文さんによるノイズ・プロジェクトである。多作家だった中嶋さんが生前に制作したタイトル数は、単独作、スプリット、参加コンピレーション、デザインワークなどを含めると実に300種に及ぶのだが、2000年代は国内での活動が少なく、インターネット上での情報もそう多くはないため、若いリスナーには馴染みが薄いだろう。

私の勤務するレコード屋、フォーエヴァー・レコーズに来るお客さんの一人として、中嶋さんと知り合ったのはAUBEを名乗る以前、1988年だったと思う。京都市立芸術大学デザイン科でプロダクトデザインを学び、卒業後に大阪船場のデザイン事務所で働いていた頃だ。最初の記憶では筒型図面ケースを持った品の良い黒装束の人。店のレコード棚をチェックする時は時折、分厚いシステム手帳を取り出しコレクション・リストと照らし合わせ、購入後は店舗、日付、値段を几帳面な文字でビッシリ書き込んでいた。スロッビング・グリッスル、キャバレー・ヴォルテール、SPK、ホワイトハウス、M.B.、カレント93、ライバッハ、エスプレンドー・ジオメトリコといったインダストリアル/ノイズを中心に、クラフトワーク、クラウス・シュルツェ、タンジェリン・ドリームなどの70年代ジャーマン・エレクトロニクス、現代音楽、ニューウェイヴ系シンセ・ポップなどが守備範囲。当時、台頭してきたハウス、テクノといった新型エレクトロニクス・ダンス・ミュージックは軽く横目で見る感じ。世代的にハード・ロックやパンクも通ってきたはずなのだが、ほぼ興味無さげ。コレクターとしては既に上級者で海外のレーベルやコレクターから直接購入したり、トレードを行っており、来店時に話をするうちに入手した貴重盤、限定盤などを分けてもらうようになり親しくなった。


東瀬戸 悟 HIGASHISETO Satoru
(フォーエヴァー・レコーズ勤務)
東瀬戸 悟 HIGASHISETO Satoru

1960年兵庫県生まれ。大阪在住。フォーエヴァー・レコーズ勤務。クラウトロック、プログレ、サイケデリック、ノイズ、現代音楽を中心に国内外のシーンに幅広く精通する。レーベル「AUGEN/HÖREN」を主宰し、ニプリッツ、鈴木昭男、宇都宮泰、山本精一、ジョン(犬)、灰野敬二、キャロライナー、エイプリル・マーチなどの作品/ライヴを企画制作。故クラウス・ディンガー、サーストン・ムーア、ジム・オルーク、メイヨ・トンプソン、モーマス、アンソニー・ムーアなど海外アーティストとの交流も深い。

フォーエヴァー・レコーズ
http://www5a.biglobe.ne.jp/~forever/


80年代初頭、大学時代にシンセサイザーを購入し、学友との展覧会の音響制作などを趣味の範囲内で小規模に行なっていたそうだが、1990年 、美術作家の有地左右一+笹岡敬による水を使ったインスタレーション『Water 1990』へ参加したことを契機に、翌1991年からAUBEとして外へ向けた音楽活動を開始。マゾンナを送り出した京都「ヴァニラ・レコーズ」でデビュー・カセット『Hydrophobia』を発表。ノイズ・アーティストとしては、かなり遅咲きで31歳の時だった。

ライブ風景(活動初期)。

ライブ風景(活動初期)。

1992年に自身のレーベルであり、デザイン・プロジェクト「G.R.O.S.S.」を設立。既に日本ではメルツバウ、非常階段、ハナタラシ、ソルマニア、NULLなど、後年「ジャパノイズ」と呼ばれるアーティスト達が活動しており、中嶋さんはAUBEがノイズ・シーンの中で遅れて来た存在であることを自覚していた。独自性を模索するうちに、本業であるプロダクト/インダストリアル・デザイナーとしての技術を最大限に生かしたハンドメイド・パッケージのカセット・テープをリリースすることで、他とは一線を画した大きな特徴を打ち出してゆく。レーザープリンター印刷と和紙や特殊紙、フィルム、組紐、ラバー、金網など、市販の材料を巧みに用いて、手作業とは信じ難い緻密な工芸品のようなテープを50~100本限定で次々に発表。その仕事ぶりは驚くほど丁寧でスピーディーだった。フェティッシュなコレクター心を刺激する作品群は、まず、そのパッケージで注目を集めていった。

AUBEのサウンド・メイキングは、常に一つの作品に対して、水、蛍光灯、金属、ガラス、心拍、脳波といった、一つの素材だけを使い、それをサンプリング・ソースにアナログ/デジタルのエフェクト加工を施しながら、ミニマムな音をマキシマムなノイズ音響へと変成する作法で組み立てられる。どれだけ轟音になろうとも、逸脱することなくストイックな気品すら感じさせるサウンドと端正なデザイン・ワークがノイズ・ミニマリストたるAUBE/G.R.O.S.S.の真髄だ。因みに「Gross」は英語で「粗野」「下品」という意味があるが、言うまでもなく逆説的命名で、隅々まで繊細な気配りが施されている。


先に書いたようにAUBE/G.R.O.S.S.を始める以前から、中嶋さんはファックスと郵便で海外レーベル/アーティストと幅広い繋がりを持っており、自身の作品をトレード・アイテムとして提供し、存在を浸透させながら、同時に自分のコレクションを充実させるという一石二鳥の方法を取っていた。今や東京在住のジム・オルークに、ゲルニカ、細野晴臣、ジャパノイズ、日本のフリー・ジャズやアンダーグラウンド音楽を最初に紹介したのが、マニアックなレコード・コレクターで、ジムとのデュオ「プラスティック・パレス・ピープル」でも活動するドイツのクリストフ・ヒーマン(H.N.A.S./MIRROR)だったという話は有名だが、さらに遡って、そのクリストフに様々な日本のレコードを送っていた張本人が実は中嶋さんなのだ。私も当時まだ無名だったジムの他、レジェンダリー・ピンク・ドッツ、ズビニグエフ・カルコウスキー、ディ・フォーム、モーヴ・サイドショー、コステス、ルドルフ・エバーなど、多くのアーティストやレーベルを紹介してもらい、それが仕事上役立つことが多々あった。

1994年初来日したジム・オルークと(Matthew Kaufman撮影)。

1994年初来日したジム・オルークと(Matthew Kaufman撮影)。

AUBE以外に、モンド・ブリューイッツ、マゾンナ、ディーゼル・ギター、サードオーガン、C.C.C.C.、MSBR、カポッテ・ムジーク、ダニエル・メンチ、スモール・クルエル・パーティー、サドゥン・インファント、スメグマ、テイント他、国内外のアーティスト達の作品もG.R.O.S.S.でリリースし、90年代中期ノイズ・シーンのネットワーク作りに大きな貢献を果たした点は評価に値する。キャバレー・ヴォルテールのアルバム・タイトルにあやかり「スタジオ・メッカ」と名付けられた古い町家の中嶋さん宅は、それらのアーティスト達がライヴで京都を訪れた際の宿泊場所であり、録音やミックス作業の場でもあった。

「G.R.O.S.S.」からリリースされたカセット作品。

「G.R.O.S.S.」からリリースされたカセット作品。

生真面目な人柄ゆえ、国内外のレーベルから舞い込む作品リリース、コンピレーションへの参加要請、コラボレーションなどのオファーをほとんど断らず、着々とこなしてゆくうちにAUBEの知名度は上がってゆき、1995年頃には毎月何らかの作品が出ているという状況が生まれた。多作という点ではメルツバウ秋田昌美さんと並ぶ勢いだった。ライヴ活動に関しても、初期はアート・ギャラリーでの展示に付随するパフォーマンスが主だったが、難波ベアーズを中心にライヴ・ハウスのノイズ系企画イヴェントに出演。膨大な作品リリースと平行して精力的に行なった。海外からの招聘も始まり、1998年には英の国民的DJジョン・ピールがキュレーターを担当した「メルトダウン・フェスティヴァル」に参加。英、米、全欧、ロシア、香港に至るまで、世界各国で演奏を行なっている。

ライブ風景(2000年前後/海外ツアー時)

ライブ風景(2000年前後/海外ツアー時)


2005年、イタリアの大御所M.B.とコラボレーションした頃を境に、体調を崩されたことで作品リリースが徐々に減ってゆき、ライヴも停止。2007年頃には外部との接触をほとんど断ってしまった。内外の知人から「連絡が取れない」という声を聞くようになり、あれだけマメで律儀な人が一体どうしたんだろう?と気にはなっていた。私自身も最後に会ったのは2008年だったと思う。ただ、その頃から膨大なレコード・コレクションを少しづつオークションで売却し始めていたので、時々そのページを覗きに行っては出品画像の完璧さに「ああ、相変わらず中嶋さんらしいな」と感嘆しつつ無事を確認していたのだ。

2013年12月6日、非常階段/インキャパシタンツのT・美川さんから「海外サイトで中嶋さんの訃報が出ているのだが本当なのか?」との連絡を受け、唯一の消息窓口だったオークション・ページが8月末に止まっているのを見て驚き、すぐ家に電話してみたところ、たまたま在宅だったお姉さんから9月25日に亡くなったことを告げられた。死去後、中嶋さん宛にフランスから届いた手紙に、AUBEの名付け親であり、フランス語が堪能なお姉さんが返信を書いたことによって、ようやく海外からの逆情報で他界を知らされたのだった。

数多い中嶋さんとの思い出の中で、米サンフランシスコのバナナフィッシュ誌の依頼で1996年にAUBEのインタヴュー記事を書いた(英訳は加藤デビッド・ホプキンズさん)時のことは忘れられない。スタジオ・メッカを訪れて行った2時間に渡るインタヴューでは、既に数年間の交友があったものの、それまで知ることのなかった中嶋さんの経歴と考え方を改めて語ってくれた。バナナフィッシュ誌には毎号掲載アーティストの録り下ろし曲を収録したCDが付属しており、この号でAUBEが提供した『Shanti』という7分29秒の曲には、インタヴュー時の会話録音テープが音源素材に使われている。極端に変調され、既に元素材は全く聞き取れない状態になっているのだが、私と中嶋さんの唯一のコラボレーション作品である。

2014年1月にスタジオ・メッカに残されたAUBEのマスターテープ類、デザイン版下、資料、1万点ほどのLP/CD/カセットテープ・コレクションなどを引き取り整理を始めた。中嶋さんが、あらゆる物をパラノイアックなまでに記録整理し、捨てずに残しておく性格だったおかげで夥しい物量に比べて分類作業はずいぶんと楽だった。その後、中嶋さんと交流のあった多くの方々の助力を得て、同年3月に大阪心斎橋FUKUGAN GALLERYでリリース作品の回顧展示、9月に難波ベアーズで追悼イヴェント「Heart Of G.R.O.S.S.」(出演:JOJO広重、T・美川、能勢山陽生、日野繭子、長谷川洋、ペインジャーク、ソルマニア、マゾンナ、サードオーガン、Synth Sistres)も開催出来た。

2014年3月 FUKUGAN GALLERYでの展示。

2014年3月 FUKUGAN GALLERYでの展示。

今回の再発リリースを契機に、AUBE/中嶋昭文さんの作品と業績が再注目されることを願ってやまない。拙文が少しでもその手助けになれば幸いです。
(協力:shrine.jp http://www.shrine.jp/


shrine.jp 再発CDリリース情報

AUBE 中嶋昭文が、自身のレーベル「G.R.O.S.S.」から90年代にリリースした初期カセットテープ作品7タイトルを、京都のレーベル shrine.jpがCDにて再発。

Aube 『Spindrift』

再発第1弾は水音を素材にした1992年作『Spin Drift』。

2016年11月17日リリース ¥2,000(税別) SGR-001

Aube 『Drip』

再発第2弾。前作『Spin Drift』(しぶき)に続き、水音をマテリアルにした1992年作『Drip』(しずく)。美術作家、笹岡敬の個展時に行なったライヴ・パフォーマンスの録音を加工。スピーカーからしたたり落ちる電子ノイズ雫。

2016年12月15日リリース ¥2,000(税別) SGR-006

Aube 『Luminous』

再発第3弾はAUBE活動初期に親交が深かった美術作家、有地左右一と笹岡敬によるインスタレーション『Luminous』から生まれた1993年作。変圧して意図的に切れかけの状態にした蛍光灯と点灯管の点滅音をマテリアルにしたフリッカー・ノイズ音響。

2017年1月15日リリース ¥2,000(税別) SGR-011

Aube 『Flash-Point』

再発第4弾はAUBE活動初期に親交が深かった美術作家、有地左右一と笹岡敬による蛍光灯の点滅を題材にしたインスタレーション『Luminous』への音響制作参加を発展させ、大阪造形センターで行ったライヴ・パフォーマンスを収録。変圧した点灯管の音を素材に使用。録音はDiesel Guitar 能勢山陽生。

2017年2月9日リリース ¥2,000(税別) SGR-016

Aube 『Submerged Tension Remix』

再発第5弾は、1993年に、岡崎豊廣(ディスロケーション)のレーベル「Steeple & Globe」からリリースした1992年録音作『Submerged Tension』のリミックス版。音源マテリアルは初期AUBEが繰り返し使用した水音。

2017年3月16日リリース ¥2,000(税別) SGR-021

Aube 『Frequency For Collapse』

再発第6弾。美術作家しばたゆりが、岡山の廃ビルにあったアート・スペース「自由工場」内で、1993年から1994年末のビル解体に至るまで、ワイヤーを張り巡らせたインスタレーション『崩壊の周波数』設置時にフィールド採集した音源を加工。

2017年4月16日リリース ¥2,000(税別) SGR-026

Aube 『E-Power』

再発CD化第7弾にして最終リリース作。1つの電圧制御発信器(VCO)だけを音源に使用した1994年作。オリジナル・カセットのアートワークは1点づつ異なる廃棄レントゲン写真を再利用。タイトルは中嶋氏が敬愛していたEP-4へのオマージュ。

2017年5月21日リリース ¥2,000(税別) SGR-031


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Category: Column





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