07, Feb 2015

光、闇、京都。

生駒 祐子(mama!milk)

AMeeTをご覧の皆さま、こんにちは。
音楽を奏でている、生駒祐子と申します。

あの夏、いくつかの海を渡りながらレオポルド・ショヴォー著『年をとった鰐』を読んだことのように、
ヨーロッパの西の果てでアントニオ・タブッキ著『レクイエム』を、
イスラムの地で片倉もとこ著『アラビア・ノート』を、
インド亜大陸でアンドリュー・ドルビー著『スパイスの人類史』を、
レコーディング・スタジオで佐伯誠著『装われた野生』を、
そして、ここ京都で谷崎潤一郎著『陰翳礼讃』を読んだことが、私の音楽の大きな部分を作っていると感じます。

その本を読み終え顔をあげた瞬間に、目の前の景色が、京都が、まるごと美しいものとして迫ってきた、あの日のことは忘れられません。
それまでずっと、そこはかとなく怖かったもの、......例えば京都の街のあちこちの翳りのようなものや、どこか深淵へ連れてゆかれそうな底光りや、何か包み隠しているような艶が、その瞬間から、つまり「光と闇が醸し出す悪戯」であって「美しいもの」として心に映るようになりました。

光と闇の素敵な関係や、美しさを見いだす方法のようなものを知ったことは、幸運でした。
それから私は、人の強さと弱さや、はかなさと大胆さ、喜びと哀しみの織りなす綾や、その美しさも知り、mama!milkの音楽を作るようになりました。
今では毎年、谷崎潤一郎の眠る法然院で演奏させていただいているのも、なにかのご縁でしょうか。

モノクロサイレント映画の傑作の一つ、フリッツ・ラング監督の『メトロポリス』を最初に見たのも京都の映画館で、そのモノクロームの世界の官能にはすっかり参ってしまいました。
これも「光と闇が醸し出す悪戯」でしょうか。
白と黒の世界に目をこらしているうちに、見えないもの、聞こえない音へと心が遊び、闇の奥に吸い込まれそうになったり、かすかな光に目が眩んだりの、立体的な映像美に心身ともに弄ばれてしまう快楽。
この頃の溢れんばかりの光を誇示するような映像では味わえない、もう一つの愉しみです。

ところでこのサイレント映画『メトロポリス』。
1927年の公開からこれまでに名だたる方々がサウンドトラックを添えていますけれど、私たちも、作りました。
そして、いよいよ京都で開幕する「映像芸術祭 MOVING 2015」のプログラム「メトロポリス伴奏付上映会」で、フィルム上映にあわせて生演奏させていただきます。

「メトロポリスのテーマ」
「ポ短調のワルツ」
「混乱のメトロポリス(静かな)」
「家族会議のワルツ」
「重労働のテーマ」
「機械人間」
「扇動者のメロディ」
「air」
等々。

ロトワング博士の声はやっぱり少し甲高いのかしらん、
マリアの唇からこぼれていた声はきっと鈴の音のようでしょうね、とか、
メトロポリスの喧噪や、爆発寸前の機械の音や。
映像から見えてくる聞こえない音へ心を遊ばせながら、阿部海太郎さん、清水恒輔さんと一緒にいくつかの曲を書きおろしました。
これを、巽勇太さんの自作装置の音響効果とあわせて、アコーディオン、ピアノ、コントラバスで生演奏できるサウンドトラックとして組上げてゆきます。16mmフィルムの揺らぎにあわせた字幕やナレーションのオペレーターの方々との作業も楽しみです。

メトロポリス伴奏付上映会。
多くのご協力を得て、現在全力で準備中です。
とっても素敵なことになりそうです。

生駒祐子

mama!milk 演奏会「ときのあとさき」 [ 京都 ] 法然院

mama!milk 演奏会「ときのあとさき」 [ 京都 ] 法然院 photo by Ryo Mitamura

法然院 方丈上の間 違棚壁 

法然院 方丈上の間 違棚壁 photo by Ryo Mitamura

mama!milk 演奏会「ときのあとさき」 [ 京都 ] 法然院 

mama!milk 演奏会「ときのあとさき」 [ 京都 ] 法然院 photo by Ryo Mitamura


生駒 祐子 IKOMA Yuko
生駒 祐子 IKOMA Yuko

音楽家。アコーディオン奏者。幼少よりオルガンに、吹奏楽部では打楽器等にも親しむ。1997年よりコントラバス奏者・清水恒輔とのデュオ「mama!milk」を始め、各地でのサイトスペシフィックな演奏やアルバム作品発表を重ねる他、2007年より手廻しオルゴールなどのトイ楽器や、足踏みオルガン、オートマタによるアルバム作品も発表している。また、折々に様々なアンサンブルを編成し、美術作品や、舞台、映像等のサウンドトラックも手がけている。
主なリリースにmama!milk『Duologue』(8th Album、2013、WIND BELL)、yuko ikoma『Suite for Fragile Chamber Orchestra フラジャイル室内楽団のための組曲』(2nd Album、2011、WIND BELL)、主な舞台音楽に『テンペスト』(白井晃演出、2014、新国立劇場[東京])がある。

photo by Ryo Mitamura

Yuko Ikoma offcial portfolio
http://www.yukoikoma.com/

mama!milk offcial portfolio
http://www.mamamilk.net/

映像芸術祭 "MOVING 2015"
http://www.moving-kyoto.jp/


光、闇、京都。

Category: Column





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