18, Jul 2017

國府理「水中エンジン」再制作プロジェクトについて
―第1回(全4回):「問い」を喚起する装置としての「再制作」

2014年に急逝した國府理の《水中エンジン》(2012)は、國府自身が愛用していた軽トラックのエンジンを水槽に沈め、水中で稼働させるという作品だ。浸水や漏電、部品の劣化などのトラブルの度に一時停止とメンテナンスを施されて稼働し続ける不安定な姿は、発表の前年に起きた原発事故に対する批評的応答であると言える。國府の創作上においても、「震災後のアート」という位相においても重要なこの作品は、インディペンデント・キュレーターの遠藤水城が企画する再制作プロジェクトにおいて、國府と関わりの深いアーティストやエンジン専門のエンジニアらの協力を得て、2017年に再制作された。 本稿は、今回の再制作について、プロジェクトメンバー4名がそれぞれの立場から執筆する計4回シリーズの第1回目である。再制作プロジェクトの概要の紹介とともに、作品の「同一性」、「オリジナル」概念や「記録・アーカイヴ」をめぐる問題について考察する。

寄稿:高嶋慈(美術批評/京都市立芸術大学 芸術資源研究センター 研究員)

國府理《水中エンジン》

國府理《水中エンジン》2012年/
再制作(水中エンジン再制作実行委員会による・オリジナルからの部品を含む)2017年
撮影:木奥惠三
小山市立車屋美術館での展示風景

私が研究員として所属する京都市立芸術大学 芸術資源研究センターは、2015年度に古橋悌二《LOVERS―永遠の恋人たち》(1994)の修復を行うなど、「現代美術の保存修復」を活動の柱の一つとしている。國府が京都市立芸術大学出身(美術研究科 彫刻専攻修了)ということもあり、今回の再制作プロジェクトでは、作業の記録・アーカイヴ化を担うことになった。以下では、《水中エンジン》という作品の概要と再制作プロジェクトの概要をまとめた後、本プロジェクトが喚起する問いとその意義について述べる。


高嶋 慈 TAKASHIMA Megumi

美術批評。京都市立芸術大学 芸術資源研究センター 研究員。現在、ウェブマガジン・artscapeにて、現代美術や舞台芸術に関するレビューを連載中。企画した展覧会に、「Project ‘Mirrors’ 稲垣智子個展:はざまをひらく」(2013年、京都芸術センター)、「egØ-『主体』を問い直す-」展(2014年、punto、京都)。


1. 國府理《水中エンジン》の作品概要

水で満たされたアクリル製の水槽(底面の一辺110cm×高さ160cm)の中に、「スバル サンバー EK23型エンジン」が吊るされている。水中に沈んだエンジンには、キャブレータ(燃焼ガス混合装置)への空気供給パイプ、燃料ホース、排出ガス用ダクトホース、点火電源コードなどが接続され、ガソリンの入った燃料タンクや電源スイッチは水槽の上部に設置されている。排出ガスはダクトホースを通じて屋外へ排出される。水槽の水は約1.5トンあり、高さ53cmの鉄製の架台が水槽を支えている。

國府が《水中エンジン》を生前に発表したのは、2回に限られる。アートスペース虹での個展(2012年5月22日~6月3日)で初公開された後、西宮市大谷記念美術館での個展「未来のいえ」(2013年6月22日~7月28日)で再び展示された。いずれの展示でも、國府は会期中、来場者の前でエンジンを実際に稼働させている。水中で稼働するエンジンは、鈍い振動音を立てながら、放熱によって水流の揺らぎと無数の泡を発生させる。しかし、浸水や漏電、部品の劣化などのトラブルに何度も見舞われ、「メンテナンス中」の國府の姿が目撃される場合もあった。また、國府が不在の時間は、彫刻的な静態をとり、無数のコードに繋がれた臓器が培養液の中に浸かっているような連想を抱かせ、造形性や奇形的な美を際立たせる。このように、《水中エンジン》は、「作家自身が稼働させる」というパフォーマティヴな要素を組み込みながら、その度合いによって、水中での稼働という動態/調整中というワークインプログレス/彫刻的な静態という三様の作品経験を伴っていた。


2. 國府理「水中エンジン」再制作プロジェクトの概要

國府の急逝後、展示が困難となっていた本作は、インディペンデント・キュレーターの遠藤水城が企画した再制作プロジェクトにおいて、再制作が進められた。実際の再制作作業を担ったのは、生前の國府と関わりの深かったアーティスト、白石晃一である。また、技術的な問題に関しては、エンジン専門のエンジニアである松本章氏に協力いただいた。

今回、再制作したのは、「エンジン」の部分であり、「水槽」はオリジナルのものをそのまま使用している。國府のスタジオに遺されていたのは「水槽」のみであり、「エンジン」は廃棄されていた(2012年のアートスペース虹での個展で用いられたエンジンは損傷が激しかったため、会期後に廃棄され、2013年の西宮市大谷記念美術館の個展では、新たに別のエンジンが投入されたことが、再制作の調査過程で判明した)。

《水中エンジン》再制作の作業の様子

《水中エンジン》再制作の作業の様子

再制作作業は、エンジンの型番の特定、水中での運転方法の調査、中古のエンジン探し、スタジオからの水槽の運び出し、欠品や修理部分の調査といった準備期間(2016年10月~12月)を経て、2016年12月26日~2017年4月1日にかけて、京都造形芸術大学内のULTRA FACTORYにて行われた。水中に入れる前に、冶具フレームからエンジンを吊るし、不要パーツの除去、必要な追加パーツの取り付けや加工を行い、大気中でのエンジンアイドリングテストを何度も繰り返した後、不必要なホース類を取り去った後の穴やパーツ同士の隙間にシリコンを埋めて浸水を防ぐシーリング作業を行った。このシーリングの工程は、「水中でエンジンを動かす」ための要と言える最重要作業である。とりわけ電気系統のパーツは漏電が命取りになるため、取り外して入念なシーリングを施す必要がある。全てのパーツのシーリングが完了し、再び大気中でのエンジンアイドリングテストを行った後、エンジンを水槽の中に移設し、水中での動作テストを行った。その際、浸水箇所が発見されたため、リークチェックと再シーリングを施した。また、安全性確保の点から、オリジナルにはない要素として、空気を送り込んで浸水した水をエンジン外に排出する「エアーコンプレッサー」を取り付け、最終的に水中での稼働に成功した。

シーリング作業

シーリング作業

水槽へのエンジン移設

水槽へのエンジン移設

水中での動作テスト

水中での動作テスト

オリジナルの《水中エンジン》の制作の際、國府は図面や設計図を一切残していない(「イメージ図」としてのドローイングは描いている)。従って、今回の再制作では、過去2回の展示の記録写真や映像などの資料を調査し、分析しながらの作業となった。また、その過程や関係者への聞き取り調査において、2012年のアートスペース虹での展示と2013年の西宮市大谷記念美術館での展示では、ろ過装置の追加など、パーツの相違があったことも明らかになった。

記録写真との比較作業

記録写真との比較作業


3. オリジナル(1号機、2号機)と再制作(3号機、4号機)

上述のように、オリジナルの《水中エンジン》の展示でエンジンの違いやパーツの相違があったことを踏まえ、今回の再制作プロジェクトでは、便宜上、2012年のアートスペース虹で展示されたものを「1号機」、2013年の西宮市大谷記念美術館で展示されたものを「2号機」と呼んでいる。対して、再制作されたものを「3号機」と呼んでいる。

この「3号機」は、遠藤が企画したグループ展「裏声で歌へ」(小山市立車屋美術館、2017年4月8日~6月18日)にて展示され、予め告知された稼働予定日(計34回)に毎回約5分間、水中稼働した。「3号機」は、最終日まで壊れることなく、2ヶ月以上にわたる会期を無事に乗り切った。だが、水圧による水槽の劣化が確認されたため、安全性確保と作品保護の観点から、4月18日より、水位をオリジナルの状態よりも下げた状態での展示となった。

その後、「3号機」は、オリジナルが発表された京都のアートスペース虹での「國府理 水中エンジン redux 」展(前期:7月4日~16日)で展示された。ただし、2ヶ月以上の水没状態により損傷が激しいため、水槽には沈めず、門型から吊るした状態で、「損傷・劣化したエンジン」の痛ましい姿そのものを見せる、という展示形態が採られた。なお、後期(7月18日~30日)には、新たにもう一台再制作したエンジン(「4号機」と呼ぶ)を水中で稼働予定である(7月10日執筆日現在)。


4. 作品の「同一性」、「オリジナル/再制作」をめぐる問題と「記録・アーカイヴ」

ここで、根本的な問い(とその連鎖)が発生する。今回再制作されたエンジンは、「國府理作品」と呼べるだろうか?上述したように、國府が生前に発表した「1号機」と「2号機」では、エンジン自体はそれぞれ異なるものが使用されていた。では、「劣化や損傷」を前提として含む作品、すなわち「オリジナル」という概念自体が曖昧な作品を「再制作」するとは、何を根拠に言えるのだろうか?あるいは、國府自身が会期中も調整を施し続けたことを考えると、《水中エンジン》は「永遠に未完成」であり、「作品としての自律性」「完成形態」への拒絶が必然的に組み込まれているのではないだろうか?では、そうした「未完成さ」「脆さ」「壊れやすさ」も含めて「再現」できるのか?あるいは、「完全安定稼働」の実現を目指すべきなのか?だが、「完全安定稼働」をゴールと設定し、それがもし実現してしまった場合、「原発へのメタファー」という本作の重要な要素、科学技術に対する國府の繊細な批評精神は失われてしまうだろう。

ここで、今回の再制作品を「國府作品である」と宣言する根拠として、唯一オリジナルである「水槽」を用いているからだ、とひとまずは言うことができる。この場合、「水槽」は、水を貯めるタンクとしての物理的なフレームであると同時に、《水中エンジン》という「作品」の同一性を支える概念的なフレームでもある。それでもなお、作品の「同一性」がどのレベルにあると考えるのか?によって、「國府作品である/ない」という判断は相対的なものとなる。「水槽の中に浸かっているエンジン」という彫刻的な静態の再現ではなく、「水中でエンジンを稼働させる」というコンセプトのレベルに判断基準を置くならば、ひとまずそれは達成されたものの、安定性や安全性確保のためにエアーコンプレッサーを追加する、水位を下げるなど、物理的なレベルでの同一性はむしろギャップが広がっていくからだ。

「國府作品であるかどうか」という同一性をめぐる問題は、近代的制度としての美術館という登録/排除のシステムの問題でもある。今回の再制作品が「國府作品としての真正性を保っているかどうか」を議論するよりも、むしろ、「再制作を通して《水中エンジン》という作品の本質性を浮かび上がらせる」契機と捉えた方が、生産的ではないだろうか。

また、上述のように、國府は《水中エンジン》の図面や設計図を残していないため、今回の再制作では、写真や映像といった記録資料や展示に関わった関係者の記憶を参照しながらの作業となった。それは、単に物理的なレベルでの「復元」「再現」を超えて、設計図レベルで再構築していく、すなわち「再制作」が同時に「アーカイヴの構築」でもある、という二重の意味をはらんでいたのである。その過程で、國府の思想や現代日本の社会状況に対して改めて再考する機会となれば、この再制作プロジェクトの意義は限りなく大きい。


展覧会情報

國府理 水中エンジン redux

会 期: 前期:2017年7月4日(火)~7月16日(日)
後期:2017年7月18日(火)~7月30日(日)
※前期・後期で展示内容が大幅に異なります
開廊時間: 11:00-19:00(7月16日、30日のみ18:00まで)
会 場: アートスペース虹
http://www.art-space-niji.com/
企 画: 遠藤水城
主 催: 國府理「水中エンジン」再制作プロジェクト実行委員会
遠藤 水城(インディペンデント・キュレーター)/ 白石 晃一(アーティスト)/ 高嶋 慈(批評家)/ はが みちこ(アート・メディエーター)/ ヤノベ ケンジ(アーティスト)
協 力: アートコートギャラリー、アートスペース虹、京都市立芸術大学芸術資源研究センター、京都造形芸術大学 ULTRA FACTORY、東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)
助 成: 公益財団法人 関西・大阪21世紀協会 アーツサポート関西、
公益財団法人 テルモ生命科学芸術財団
公式サイト: https://engineinthewater.tumblr.com/

國府理「水中エンジン」再制作プロジェクトについて
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