27, May 2017

「PiKAPiKA >> Ka-Ta-Ka-Ta」 〜映像技術の生と死を見つめる〜

懐中電灯などの光源の軌跡を焼き付ける事で絵を描くライトペインティングの技術を用いたプロジェクト『PiKAPiKA』や、アナログスチルカメラをレンズ部分に組み込んだオリジナルのフィルム映写機を用いた作品『Ka-Ta-Ka-Ta』など、映像技術に寄り添いつつ、時に俯瞰しながら、多様な作品を生み出してきたトーチカ。今回はお二人に、映像技術の変遷とトーチカの創作との関わりについて寄稿していただいた。

文:トーチカ(ナガタタケシ+モンノカヅエ)

19世紀末に映画が生まれてから今日に至るまで、映像の記録・表示メディアには様々な変化があった。たとえば、私達トーチカが生きてきた30余年だけでも、記録メディアは、映画フィルムから「ビデオ戦争(※1)」を経て、ビデオテープ、光ディスクへと変化し、現在ではデジタルデータの動画ファイルによる管理が進み、映画フィルムやビデオテープは店の棚から消えてしまった。表示メディアは、テレビはブラウン管から液晶へと薄型になり、プロジェクターは小型化と高輝度化が進み、さらには立体視の3D映像の一般普及、VRやARのゴーグルの製品化と、技術の進歩に呼応して、日々多様に変化している。

今回は、これまで私達が制作してきた作品を紹介しながら、「映像技術の進歩と記録メディアの変化」=「映像技術の変遷」と私達との関わり方について解説していきたい。

目次

  1. 映像技術の変遷の流れに沿った作品たち
  2. 映像技術の変遷に対する眼差し
  3. Ka-Ta-Ka-Ta ― 映像技術の生と死を見つめる装置

※1)ビデオ戦争(ビデオせんそう)とは、ビデオテープレコーダや光ディスクに関する規格争いである。VTR創世期以降、さまざまな規格争いが展開されている。(“ビデオ戦争”.ウィキペディア日本語版.参照2017-05-16.)


トーチカ TOCHKA
トーチカ TOCHKA ポートレート

ナガタタケシとモンノカヅエの2人による映像および現代美術作家。1998年に京都造形芸術大学で協同制作活動をはじめる。空中に光で描くライトペンディング技法によるアニメーション作品を中心に、様々な手法で「活動絵画(=活動写真+絵画)」を生み出している。制作においては「実験精神」を掲げ、試行錯誤の中から、ハッピーアクシデント(偶発的な幸運な出来事)を誘う。芸術活動のほか、テレビコマーシャルやプロモーションビデオなどの制作も行っている。ナガタは大阪電気通信大学で准教授も務めている。
主な作品に「PiKAPiKA」(第10回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞受賞、クレルモンフェラン国際短編映画祭LAB部門グランプリ)、「TRACK」(オランダ国際アニメーション映画祭ノンナラティヴ部門グランプリ・観客賞グランプリ)、最新作は、東アジア文化都市2017京都プロモーション映像「Time Travel Guide feat. Shing02」。

トーチカ オフィシャルサイト
http://tochka.jp/

東アジア文化都市2017京都プロモーション映像
「Time Travel Guide feat. Shing02」
https://youtu.be/ToAXqvTdeSg/


1. 映像技術の変遷の流れに沿った作品たち

PiKAPiKA, Lightning Doodle Project(2006)

2000年初頭、デジタルスチルカメラの値段が手頃になり、1枚の写真を長時間かけて撮影できるようになった。これによって懐中電灯などの光源の軌跡を焼き付ける事で絵を描くライトペインティングが可能となり、データなので撮影直後に確認できるようになった。まるで光が物質化したかのような幻想的なビジュアルに、心底惚れ込んだ。セレンディピティやアクシデントといわれる、偶然から生まれたイリュージョン(幻影)を大切にし、時間軸で再構成することで、光の生命あるいはアニメーションの語源でもあるアニマ(anima)を生み出せることを確信した。

STEPS(2010)

STEPS あいちトリエンナーレ2010出品作品 解説

あいちトリエンナーレ2010のために制作したインスタレーション作品。当時、3D映像元年などと言われ、テレビ用としてはシャッター式(※2)、映画館等では偏光式(※3)の立体視専用めがねを装着して映像を見るトレンドがあった。しかし、私達は3Dメガネを装着する行為によって、「この映像は飛び出しますよ」ということが鑑賞者に予め伝わってしまうこと、つまりはじめから手品の種明かしをしてしまっているという手順に矛盾を感じていた。この作品は、3Dメガネの存在自体がイリュージョンとしての大きな矛盾である事に対する、私達なりのアンサーであった。エジソンが発明したキネトスコープ(※4)の様に、あるいはピープショー(※5)の様に覗き見る事を意識して作られている。

TRACK(2015)Trailer

trailer | TRACK

震災後に始まった、スマートイルミネーション横浜(※6)のために制作した作品。象の鼻公園のプロムナードで撮影し、その場に投影することで、壁の向こうに別の空間が広がっている様に見せた。当時プロジェクションマッピングが流行っていたが、あえてそれを謳わず、プロジェクションマッピングにとって主流ではない、ライトペンディングのストップモーションを投影した。横浜の港が鉄道発祥の地であることから、過去から現在へとつなげるアニメーションを制作し、原始人が火を発見し、洞窟内で松明を焚き、狩猟の方法を描き残した事が記録メディアの原点にあるという想いで制作した。

実際に投影されている記録

ここまで、デジタルスチルカメラで撮影した映像作品、立体視の3D映像作品、プロジェクションマッピングなど、「映像技術の変遷」の流れに沿った作品を紹介してきた。共通して、本来の使い方とは少し違う様に応用し、人の残像や手垢によって気配を残すことで、生命感のある、特別な作品を目指してきた。

※2)赤外線で映像と同期して左右が交互に遮光される液晶シャッターを使用する事によって立体視を得る。カラー画像が可能。(“立体映画”.ウィキペディア日本語版.参照2017-05-16.)

※3)左右の映像に直交する直線偏光をかけて重ねて投影し、これを偏光フィルタの付いた眼鏡により分離する。(“3次元ディスプレイ”.ウィキペディア日本語版.参照2017-05-16.)

※4)キネトスコープ(英: Kinetoscope)は、トーマス・エジソンによって発明(1891年)された映画を観る装置。~中略~スクリーンに映写されるのではなく、箱の中をのぞき込む形になる。(“キネトスコープ”.ウィキペディア日本語版.参照2017-05-16.)

※5)ピープショーとは、窓状にくりぬいた何枚かの絵を覗き穴から片目で見る視覚玩具。遠近法と覗き穴のレンズ効果が利用されている。また、のぞき見風に鑑賞するポルノやストリップなど、大人の遊びも指す。

※6)スマートイルミネーション横浜
http://www.smart-illumination.jp/


2. 映像技術の変遷に対する眼差し

「映像技術の変遷の流れに沿いながら、いかに特別な作品を創り出すのか?」を考える一方で、それを俯瞰する視点でも映像技術の変遷を見てきた。ここで、オーストリア、リンツ出身の映像作家Michael Palmによる興味深いドキュメンタリー映画を紹介したい。

CINEMA FUTURES

このドキュメンタリーは、記録メディアの保存という視点から、映画産業を振り返り、未来を予見するものである。予告動画の1分35秒をあたりを見て欲しい。ビネガーシンドロームでフィルムが塊の様になり、手で掴むと粉々に砕け散るシーンがある。フィルムというメディアは永久保存できないということがわかる。

また、映像がもたらすイリュージョンは人々を魅了し、映像再生機器とコンテンツの消費を促進させてきたが、マジックのトリックを知ってしまえば驚きを失ってしまうように、一度、イリュージョンの正体を知ってしまえば人々の興味は薄れてしまう。人々は、また新しいイリュージョンを求め、新しいメディアに乗り替え、過去のメディアを捨ててしまう。

つまり、映像とは、技術の新陳代謝を人々が受け入れることで根付いたものである、と私達は考える。言い換えれば、映像メディアが、生と死を繰り返しているという見方をしている。そして、それぞれのメディアの普及と死を見守りたいとも考えている。

この「映像技術の変遷に対する眼差し」=「映像技術の新陳代謝」あるいは「映像メディアの生と死」をはじめてはっきりと具体化したのが、『Ka-Ta-Ka-Ta』だった。


3. Ka-Ta-Ka-Ta ― 映像技術の生と死を見つめる装置

2015年に3Dプリンターやレーザーカッターを使ったデジタルファブリケーションに取り組み始めたこともあり、2016年に制作した作品『Ka-Ta-Ka-Ta』では、屋外展示用の高輝度で過酷な環境にも耐えうるフィルム映写機を作る挑戦をした。
消えゆくフィルムメディアを敢えて使うことは、墓から死体を掘り起こして人造人間を作ったフランケンシュタイン博士の様に、新しい生命を自分の手から産み出したいという抑えがたいエゴからくる欲求だった。

『Ka-Ta-Ka-Ta』 制作した映写機

『Ka-Ta-Ka-Ta』は六甲ミーツ・アート芸術散歩2016のために制作した作品。
約2ヶ月間の展示期間中、毎晩屋外で建物の壁面に投影した。
写真は制作した映写機。

2灯の映写機から映し出された映像。

2灯の映写機から映し出された映像。

大量消費され不要となったアナログスチルカメラを収集し、映写機のレンズ部分とした。解体してみると、細部にわたって作りが精巧且つ頑丈で、まだ動作するものもあった。果てしなく繰り返している人間の消費活動についても改めて考えさせられた。

カメラマンやカメラコレクターの方々から譲り受けたカメラの一部。

カメラマンやカメラコレクターの方々から譲り受けたカメラの一部。

亡くなったカメラコレクターの方の遺産を保管されているお二人から譲り受けたカメラとフィルム。

亡くなったカメラコレクターの方の遺産を保管されているお二人から譲り受けたカメラとフィルム。

鑑賞者に何らかの実体を感じてもらいたいという想いで、羞悪に解体されたフィルムカメラを組み込んだ映写機を空間の中心に展示した。

防水用のフタを外した状態の映写機。

防水用のフタを外した状態の映写機。

投影したのは、ひと組の男女がつながり、新しい命を育み、そして消えるという終わりのない円環が繰り返される映像。原始の人類が洞窟の壁に壁画を描いたその日から、情報の伝承や伝達が必要とされ、常に新しい記録メディアが作り出されてきた。消費するサイクルが、繰り返される生命のサイクルに似ていると感じたことから、彼らをモチーフにした。

投影フィルムのひとコマ

投影フィルムのひとコマ。ダンサーは素我螺部(すからべ)のふたり。
光の線は、撮影時にライトペインティングで描いたもの(黄色の線)と、カッターで削って傷を入れたもの(青い線)が混在する。

フィルムは円環状に回転し、フィルムが静止している時間はLEDが点灯、フィルムが次のコマに移動する時間は消灯している。つまり、鑑賞者は、半分の時間、闇を観ていて、脳内で前後のイメージを補完することになる。空間に描かれた光の線は、ストップモーションで撮影した人間に生命を与える様に描いた。

『Ka-Ta-Ka-Ta (英題 Click Crack)』 制作の過程と作品のプレビュー

映像技術の変遷はめまぐるしく、その流れに沿いつつ、時に俯瞰しながら様々な制作スタイルをとってきたが、私達にとって映像とは光と闇、あるいは、生と死が繰り返される、鑑賞者が手に取ることのできないイリュージョンである。

この先も、映像技術は進化しメディアは多種多様に変化しつつ、淘汰されるだろう。
めまぐるしい技術の変遷にどこまでついていけるのかはわからないが、作家活動を続けることで、その生と死を見つめ続けていきたい。


「PiKAPiKA >> Ka-Ta-Ka-Ta」 〜映像技術の生と死を見つめる〜

Category: Digital Imaging





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