26, Dec 2009
アナログ情報をデジタル情報に変換する手法としては、イメージセンサーを使用しての取り込みが一般的である。イメージセンサーにはスキャナーに代表されるリニアイメージセンサーとデジタルカメラに代表されるエリアイメージセンサーがあるが、あらゆる被写体に対して実物に忠実なデジタル化を行うという目的で考えた場合、色情報の正確さや高解像度での取り込みが求められるため、リニアイメージセンサーがもっとも適しているといえる。
弊社は1994年頃よりあらゆる資料のデジタル化のための研究開発に取り組んでおり、フィルムからスキャナーを介してのデジタル化の手法の開発から始まり、高精細デジタル画像の制作のためには、アナログからデジタルに変換する最初の段階が肝要と考えるに至った。
デジタル信号として、より実物に忠実に取り込む装置を考えると、リニアイメージセンサー、中でもCCDラインセンサーの使用が最適と考え、スキャナーカメラ開発への取り組みを開始した。スキャナーカメラ制作の実績のあるドイツPentacon社と連携し、弊社が培ったフィルムからスキャナーを介してのデジタル化でのノウハウとスキャナーカメラへの応用に伴う要件を定義・提供し、それに対応する設計・開発・製造を依頼し、ContentsMakerとして導入している。
本稿で主に解説するスキャナーカメラContentsMaker6000Sは専用のボディにデジタル入力に最適に設計されたレンズを装着し、精度をより高めた一体型装置である。現在のデジタル化の流れを背景として、アナログからデジタルへの忠実な変換という目的のために、ContentsMaker6000Sでどのようなアプローチをとったのかを記述する。

1948年岡山県出身
1993年有限会社ジェイ・ディー・アールを設立し、歴史資料のデジタル化とその手法の研究・開発に着手。1994年から文部省科学研究費補助金重点領域研究「沖縄の歴史情報研究」に研究協力者として参加。1998年コンテンツ株式会社へ組織及び社名変更し、あらゆる被写体の高精細デジタル化に本格的に取り組む。2005年岡山県による『岡山・わが社の技「高精度デジタル画像データ製作技術」』認定及び岡山県知事賞受賞。
データの表示装置、中でもモニターの進化は近年急速に進みつつある。PCの世界では長らくモニター解像度は1024×768、1280×800にとどまっていたが、2008年以降1920×1080クラスへの切り替えが急速に進み、それにともない平均的な画面サイズも17インチから21~24インチへと大型化しつつある。
これらの表示装置の進化の方向は、4K×2K、8K×4Kの開発等の従来技術の高解像度化だけでなく、有機ELなどの全く新しい表示形式なども開発されつつあるが、基本路線としては高精細・高画質の追求が踏襲されて行くと考えられ、それに見合う、あるいはそれを凌駕する高解像力データが求められることとなるであろう。加えて景観・建造物・資料などにおいて情報密度の高さを併せ持つデータへの需要が高まり、表示と情報を組み合わせることでデジタルサイネージ、デジタルライブラリー、次世代デジタルアーカイブなどの新しい価値を導き出す仕組みにつながる可能性を見出すことができる。
これらのハードウェアの進化に対して、高精細画像の伝送手段については、従来のディスクメディアだけでなくネットワーク配信も低コストで容易に行えるようになった。これはブロードバンドサービス産業とコンテンツ産業の隆盛に呼応するネットワーク転送レートの高速化と、クライアントPCのCPU・GPUの進化に負うところが大きい。
あわせて高精細画像の配信のための仕組みの開発も進んでいる。基本となるTIFF非圧縮画像をいかに情報の欠落を抑え配信するかについて、画像フォーマットの面ではJPEG2000やJPEG XR(HD Photo)などが提案され、配信・表示技術の面ではRIAの一部としてZoomify(Flash)やDeepZoom(Silverlight)などが開発されている。これらはOSの標準品か、それに類するものとして位置づけられつつ整備・開発が続けられており、一般的なPCであれば、高精細画像を手軽に閲覧できる環境が確立しつつある。
このようにPCの表示環境が進化し高精細画像のネット配信の足場が固められてゆく一方で、家庭用TVが直接ネットに接続されることで、TV放送の表示に留まらず様々なデータを表示するモニターとして、家庭内の情報ハブとしての役割も担うようになると考えられ、その点からも高精細画像の需要は高まる。
このような環境の変化とそれに伴う高精細デジタル化の需要の高まりにより、資料のデジタル化の観点からは、写真としてのフィルム表現とは別に、いかに正確にアナログの被写体をデジタル信号として記録するかという命題がより重みを増すこととなった。すなわち従来以上に高精細画像の需要が増え、表示装置・配信技術が高精細画像に耐えられるようになるに従い、デジタルとしていかに忠実に記録するかということが議論されることとなったのである。スキャナーカメラの開発は、そのような問題に対応するために現時点ではもっとも適当なものであるといえる。
デジタル記録への要求の高度化とは別に、制作を取り巻く状況では手軽に高品質なデータを作り出すことが求められている。それらの要求を満たすため、制作者の経験値を問わず均一に、正確なデジタル化を低コストで遂行できるよう合理的な制作手法を確立することが求められている。
スキャナーカメラContentsMaker6000シリーズを開発するにあたっては、以上のような資料のデジタル化を巡る背景から、一定の経験値があるオペレーターであれば、ある程度の水準で高精細画像を制作できることを最大の目標とし、下記に示すような技術的特徴を有するよう設計した。
ハードウェア
図1 APO-COMPONON,Jos,Schneider
60,90,100mm
対象物を正確にデジタル化するため、放射状・同心円のレンズ設計とは異なり、グリッドにも適応できるよう設計されたデジタル化にもっとも適したレンズAPO-COMPONON , Jos, Schneider 45,60,90,100mmの4種を採用している(図1)。CCDラインセンサーのイメージ領域が40mm×40mmなので、焦点距離は60mmを標準として考えている。
レンズを使用することで、スキャナーでありながら立体物を撮影できる被写界深度を持ち、風景撮影などにも対応している。
文化財や美術品のデジタル化に取り組む場合、フラットベッドスキャナーを使用した際には避けられない撮影対象物との密着や、上部に撮影装置が被さるような形態は認められない場合がある。このような状況下でも、スキャナーカメラであれば対象物を斜めに設置する装置を使用したり、水平撮影を行うことで資料に直接触れることなくデジタル化できる。レンズを介するこの手法は、資料保護の視点からも有効なものである。
また、凹凸のある物体や反射がある物体などに対しても撮影技法のライティングにより的確な色情報を取得することができるなど、レンズを介することでデジタル化の際の柔軟性が増した。
図2 3ラインCCD
ContentsMakerのリニアセンサーは4μmピッチの40mm RGB・3CCDラインセンサーである(図2)。これを40mm走査することで40mm×40mmのイメージ領域とし、最大10,000ピクセル×10,000ピクセルの偽色等のない12bitまたは14bit画像を出力する。CCDに注目すれば3億個 のCCDから1億ピクセルのRGBデータを作るということができる。ダイナミックレンジ値は、レンズを介して3.3相当である。
また解像力の点では、同一資料をデジタル化し、スキャナーカメラによるデータと8×10フィルムを介したデータを比較すると、40mm×40mmのイメージ領域を持つスキャナーカメラの方が30倍以上の面積比を持つ8×10フィルムに対して解像力の点では優れていることがわかる(表1)。
| スキャナーカメラ | 8×10フィルム |
|---|---|
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![]() |
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表1 スキャナーカメラによるデータと8×10フィルムを介したデータの比較
CCDラインセンサーを採用しているため、熱の発生は比較的穏当であり連続稼働に強い特性を持ち合わせている。
図3 Contentsmaker6000S
ContentsMakerは、専用設計されたボディとレンズを組み合わせることによって色の精度と尺度の精度を確保している。A1(841mm×594mm)・300dpiでの入力の場合は、1mmを12ドットのデータで構成する精度であるが、その際の寸法精度は±0.2%である。これは分割スキャニング後の画像統合工程において精度の確保につながる。
一体型ボディ設計により小型軽量(240mm×90mm×100mm、1.5kg)であるため、真俯瞰撮影スキャニングだけでなく、あらゆる角度の撮影スキャニングも可能である。制御用PCとはUSB2.0で接続するが、電源供給兼用の専用ケーブルを用いることで一本のケーブル接続のみで動作可能である一方、電源供給端子も有しているため、用途に応じて外部アダプタ・バッテリーでの駆動も可能としている。小型軽量な本体と柔軟な電源対応による可搬性の高さを利用して屋外での風景撮影などにも対応することができる。
一般的な風景の記録の他、その高解像度を生かしてCGの背景としての使用も考えられている。コンクリート構造物の表面やビル等の構造物のクラックの確認(ダメージモニタリング)などの建築確認用途での利用も進んでいる。
弊社では、この小型軽量の特徴を利用して、いくつかのパターンの撮影装置を構成した(表2)。
![]() 移動式真俯瞰撮影装置 |
![]() 固定式真俯瞰撮影装置 |
![]() 移動式真俯瞰撮影架台 |
![]() 移動式上下自動昇降撮影架台 |
![]() 水平上下移動式撮影架台 |
![]() 屋外撮影三脚装置 |
表2 撮影装置の構成例
スキャナーカメラ単体構成だけでなく複数台のスキャナーカメラを櫓上に一列に並べることで、320cm×84cmの撮影範囲でのデジタル化を実現した(図4)。
図4 大型資料撮影装置
図5 スキャナーソフトウェアSilverFast
スキャナーソフトウェアSilverFastのContentsMaker版(図5)を採用しており、これによって以下の機能を実現している。部分指定で好きなサイズ、必要なサイズで取り込むことができるなど、基本的な操作方法は、一般的なスキャナーと同等である。そのため前述のオペレーターの基本的な訓練による高品質データの取得を容易にするとともに、下記の機能を合わせ高精細デジタル化のために重要な役割を担う。
図6 カラーキャリブレーション
専用のカラーチャートをスキャンし、264色の色データを判別し基準値と差異を比較することでキャリブレーションをおこなっている。これにより均一な色情報を維持することができる。また、キャリブレーション後でも調整が可能なためオペレーターの色調整を反映させることもできる。(図6)
図7 フォーカスチェック機能
SilverFastにはビーム表示によるフォーカスチェック機能が搭載されている。この機能は、指定範囲に対してCCDラインセンサーを駆動し、被写体のドットのコントラスト差を読み取り続け、その結果をリアルタイムで表示し続ける。この間にオペレーターがフォーカシングリングを操作しコントラスト差が最大になった箇所がフォーカス合致箇所となる。(図7)
以上がContentsMakerの特徴である。ContentsMakerは先行開発機種として5000シリーズがあり、そこからのフィードバックにより6000シリーズが開発された。現在は6000シリーズを拡張した6000プラスシリーズを開発中である。
各シリーズでの改良点を示すことで弊社におけるスキャナーカメラへの取り組みを述べる。
使用するレンズの持つイメージサークルの特性を、精度を保ちながら最大限有効に引き出す目的で、出力ピクセルサイズを8,192×12,000ピクセル(ContentsMaker5000S)から10,000×10,000ピクセル(ContentsMaker6000S)に改め、それに対応する性能を持つCCDラインセンサーに変更した。これにより感度も上がりスキャン速度の短縮化にも繋がった。
同時にボディにも変更を施した。特徴はカメラ背面および上部を平面とした点である。これによって水準器等を用いて角度調整をすることが容易になった。
また、普及率を考慮しインターフェイスをIEEE1394aからUSB2.0に変更した。スキャナーソフトにも改良を施し、スキャン速度を決定する「プログラム」の選択肢を2から4へ増やし、低感度/高速スキャンと高感度/低速スキャンの間で、より柔軟に選択できるようにした。フォーカス調整時の安定性を向上させた。
これらの変更点は、5000にはオペレーティングに多少の癖があり、スキャニングに経験が必要であったことに対して、その原因をハード/ソフトの両面から除去することを目的とし、コンセプトの一つである簡単で早い作業の実現へとつながった。
| CONTENTSMAKER 5000S | CONTENTSMAKER 6000S | CONTENTSMAKER 6000Sプラス(予定) |
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|---|---|---|---|
| 標準レンズ | Schneider:APO Componon HM 4.0/60 | Schneider:APO Componon HM 4.0/60 | |
| 撮影素子 | CCD ラインセンサー 28.6x42.0mm |
CCD ラインセンサー 40.0x40.0mm |
|
| 画素数 | 最大9830万画素 8,192x12,000ピクセル CCD換算 2.7億ピクセル |
最大1億画素 10,000x10,000ピクセル CCD換算 3億ピクセル |
最大4億画素 20,000x20,000ピクセル CCD換算 12億ピクセル |
| ビット深度 | 36bit (RGB各色12bit) |
42bit (RGB各色14bit) |
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| ダイナミックレンジ値 | 2.7 | 3.3 | |
| ファイル形式 | Tiff, Jpeg | ||
| 画像サイズ | 281MB(8bit, Tiff) 562MB(16bit, Tiff) |
285MB(8bit, Tiff) 570MB(16bit, Tiff) |
1.2GB(8bit, Tiff) 2.24GB(16bit, Tiff) |
| 最速スキャン時間 | 360秒 | 47秒 | 約120秒 |
| インターフェイス | IEEE1394 | USB 2.0 | |
6000シリーズの開発によって、当初のコンセプトがある程度の水準で達成できたことを受け、2009年12月現在、上位機種ContentsMaker6000Sプラスを開発中である。
これは6000Sをベースとして、より解像度の高い20,000×20,000ピクセルのスキャニング範囲を持つモデルである。現時点ではオーバークオリティと判断される恐れはあるが、前述のとおり、高解像度・高品質デジタルデータへの要求は、さらに高度化すると考え開発を進めている。
ContentsMakerでの実際の撮影例と撮影時に得られた所見を記す。
建築物
平等院鳳凰堂(31,600ピクセル×7,440ピクセル 非圧縮時672.6MB ContentsMaker6000Sによるデータ)
http://www.contents-jp.com/sample/byodoin/
瓦や木材部などの表現に高精細撮影を効果が確認できる。また、複数カットを統合したもののため、さらに高解像度の画像となっている。

地図・絵図
「琉球三省併三十六島」(69cm×50.4cm、16,974ピクセル×12,361ピクセル 非圧縮時600.3MB ContentsMaker6000Sによるデータ)
http://www.contents-jp.com/sample/r36/
林子平「三国通覧図説」(1785)の付図の一つの写。薄い和紙に描かれている。和紙のディティールと墨のコントラストが実物同様はっきりと確認できる。4カットで分割撮影したものを統合したので、実寸に対して624dpiとなっている。

植物資料
花(9,140ピクセル×6,258ピクセル 非圧縮時163.6MB ContentsMaker6000Sによるデータ)
http://www.contents-jp.com/sample/flower/
押し花を真俯瞰撮影したものである。表面のディティールのほか花粉・繊毛なども見える。

市街俯瞰
岡山城俯瞰(11,999ピクセル×8,191ピクセル、非圧縮時281.2MB ContentsMaker6000Sによるデータ)
http://www.contents-jp.com/sample/okayama/
岡山県庁から岡山城を望んだものである。拡大すると城郭・石垣はおろか内部を覗くこともできる。
遠景にある山の頂上付近の民家等も判別ができる。

その他
ガラスのおはじき・色鉛筆・扇子などのサンプル(9,763ピクセル×9,688ピクセル、非圧縮時271.4MB)
http://www.contents-jp.com/sample/b-dama/
真俯瞰撮影を行い、色の再現性を確認したものである。また、素材ごとの質感の違いの表現、ある程度距離に差がある被写体に対する被写界深度が確認できる。

被写体のデジタル化については、ここまで紹介してきたスキャナーカメラ以外にも、フィルム、ワンショットデジタルカメラ、ドラムスキャナー、フラットベッドスキャナー等さまざまな方法がある。
その中においてスキャナーカメラは決して万能なものではない。リニアイメージセンサである故に、静止物には向いているが動く物体等には不向きである。たとえば、風景撮影時に人、車、風になびく木や水面など動くものがある場合、それらはノイズになってしまう。また、床などからの振動に対しても、ストロボを使ったフィルム撮影やエリアイメージセンサ(デジタルカメラ)の方がブレにくい。スキャナーカメラでは、撮影画像全体のうちブレた瞬間にCCDが取り込んだ位置でのみでブレが記録されるので、画像の一部で線状にブレノイズが発生する。この確認のためにはスキャン方向のチェックが必要となる。また、光量等の問題により入力できない被写体もある。デジタル化対象物の特性や撮影環境に合わせて最適な機材と方法を選択することが重要である。
表示装置と通信環境の進化が高精細画像の需要を増大させつつある現在において、あらゆる被写体を的確にデータ化するにはCCDラインセンサーを使用するスキャナーカメラは最適である。
高度なフィルムカメラ撮影テクニックを必要とせず、簡単な教育を受けたオペレーターが使用できるスキャナーカメラは、デジタル化の中でますます重要な役割を担うことになると考えられる一方、長所短所を把握した上で、用途に合わせスキャナーカメラにとらわれず様々な機材や方法を取捨選択することが求められる。
デジタル化の現状とスキャナーカメラ
Category: Digital Imaging