17, May 2010
夕暮れから夜にかけて東京の街を歩くと、百貨店や駅ビル、ブティック、ショールーム、ゲームセンターなど、多様な商業施設の外壁に、カラフルな光を目にすることができる。その表現はさまざまだ。遠くからも視線をとらえる鮮やかな色、限りなく白に近い淡く柔らかな色、中には、ゆるやかに色を変えていくものもある。
照明の分野においてカラフルな光を取り入れたい場合、10年ほど前までは、着色された電球や蛍光灯を使う、あるいは、白い電球や蛍光灯にカラーフィルターを組み合わせる、ネオンを使う、といった手法がとられていた。
照明分野に定着したこうした手法とは全く異なる照明システムが、1997年、アメリカで発表された。LED(発光ダイオード)と制御技術を核とし、カラフルな光の照射を可能とするそのシステムは、「デジタルカラーライティング」と呼ばれ、アメリカのみならず、日本を含むアジアやヨーロッパの照明の分野に革命ともいえる大きな変化をもたらした。
このデジタルカラーライティングについて、その開発された経緯、技術概要、特徴、課題を説明する。
目次
(製品4点)デジタルカラーライティングで用いられる代表的な照明器具。100m以上先まで照らせる投光器、角型スポットライト、棒型ライト、小さな発光部がひも状に連なったものなどがある。いずれも光源は赤、緑、青のLEDであり、器具自体にマイクロプロセッサーが内蔵されている。
カラーキネティクス・ジャパン株式会社 広報

大学卒業後、照明メーカーに入社。1998年、上司の大槻清(現在、カラーキネティクス・ジャパン(株)代表取締役社長)がアメリカのカラーキネティクス社と出会ったことをきっかけに、日本におけるデジタルカラーライティングの事業立ち上げに参画。
2001年にカラーキネティクス・ジャパン(株)が設立されて以来、マスメディアや広報誌、ウェブサイトなどを通じて光表現の可能性を伝えるとともに、アーティストや文化施設とのコラボレーションを担当している。
1990年代の半ば、日本で青色LEDが開発されたというニュースが、当時アメリカのカーネギーメロン大学の学生であったジョージ・ミューラーとイホア・リスの耳に届いていた。すでに存在していた赤と緑のLEDに、新たに青のLEDが加わることで、光の三原色のLEDが揃ったのである。
「高輝度の青色LEDを手に入れることができれば、赤、緑、青という3色のLEDの光を個別に制御し、さまざまな色を作りだすことができる」。
このアイディアを二人は温めていた。
その後、同大学のロボット工学の研究者となった二人は、北米最大のエンターテインメント分野の見本市「LDI」(注1)を視察する。コンサートツアーや劇場、テレビ番組のセットなどに用いられるプロ向けの照明器具が集まる場である。
そこで見られるカラー演出用の照明器具は、どれも大きく重いものであり、専門家による操作を必要とする。さらに、色を変えるには、カラーフィルターを交換する必要があり、手間がかかることを目の当たりにする。照明分野における「色」の表現は、知識と機材を持つ専門家だけが取り組めるものであった。
見本市で感じた「光の色表現における不自由」と、3色のLEDはすでに揃っているという事実が結びつき、二人は、リスの自宅のキッチンでおよそ8時間をかけてプロトタイプを作り上げる。それを見た二人は、自分たちのアイディアが、照明業界をアナログの世界からデジタルの世界に導くことを直感。このアイディアを世の中に送り出すため、会社設立と製品化を進めていく。
こうして1997年、アメリカ東部のボストンにおいて、ミューラーとリスはカラーキネティクス社(Color Kinetics Incorporated)を設立。同年11月には見本市「LDI」において、赤、緑、青のLEDを光源とし1670万種類の光を作り出す照明器具、「Cシリーズ」を発表した。この製品がデジタルカラーライティングの出発点である。
(注1)
見本市「LDI」は、当時はLighting Dimensions Internationalの略。
現在はLive Design Internationalの略。
公式サイトhttp://ldishow.com/
デジタルカラーライティングの事業立ち上げの頃は、砲弾型LEDを用いていた。
1997年に発表されたカラーキネティクス社の最初の製品「Cシリーズ」。新しい光源と制御技術を用いているが、外観は舞台照明の分野に多く見られる特徴(筒型、黒色、吊り下げて使用)を継承している。
カラーキネティクス社は創業当初、自らが開発した照明システムを簡潔に説明するとき、「フルスペクトル・デジタル・ライティング(full spectrum digital lighting)」(注2)と表現した。これは、照明システムの特徴を述べたものである。製品や技術の名前ではない。
「フルスペクトル」は「あらゆる波長の光」を意味し(注3)、1台の照明器具で多様な色を作り出せることを示している。「デジタル」という言葉は、デジタル制御技術が活用されていることを表現している。
日本では、「フルスペクトル」という言葉を身近な「カラー(色)」に置き換え、語順も変えて、「デジタルカラーライティング」と呼ぶことにした。これは、カラーキネティクス社のパートナーである日本法人、カラーキネティクス・ジャパン株式会社が考案したものである。
こうして、カラーキネティクス社による新しい照明システムは、国際的にも日本においても、カラーフィルターや着色されたランプなどを用いる従来の「カラーライティング」と区別されたうえで広がり、浸透していく。
(注2)
英語の「spectrum(スペクトラム)」は、日本語ではスペクトルと言われる。
(注3)
「フルスペクトル」を直訳すると「あらゆる波長の光」だが、カラーキネティクス製品がすべての波長の光を含んでいるわけではない。その後、カラーキネティクス社は、「インテリジェント・ライティング(intelligent lighting)」という言い方に変えた。
カラーキネティクス社によるランプ型のLED照明、「iColor MR」のパッケージ。
「フルスペクトル・デジタル・ライティング」と書かれている。
日本においても、このポップな印象のパッケージのままで販売された。
このモデルの生産は終了し、現在は販売されていない。
デジタルカラーライティングの特徴は、光源であるLEDの特徴に、制御技術による特徴を加えたものである。
デジタルカラーライティングの特徴 = LEDの特徴 + 制御技術による特徴
<LEDの特徴>
寿命が長い
消費電力が少ない
光に紫外線を含まない
発熱が少ない(注4)
反応が早い
<制御技術による特徴>
1670万種類の色を表現
多様な発光パターンを表現
照明器具を個別に制御可能
舞台照明で用いられる市販の制御機器にも対応
(注4)
LEDそのものからの熱は少ないが、基盤や他の部品とともに照明器具に組み込まれた場合、放熱の仕方によっては、照明器具が熱をもつ場合がある。
デジタルカラーライティングを代表する照明器具のひとつ、「Color Blast 12(カラーブラスト12)」。
撮影:筆者
デジタルカラーライティングという照明システムに用いられる照明器具は、主に以下の要素で構成される。
LED・・・光を出す部品
マイクロプロセッサー・・・光を制御する部品
その他の部品
ハウジング(外側の躯体)
デジタルカラーライティングにおける照明器具の構成要素
これらのうち、デジタルカラーライティングの特徴をもたらしているのは、LEDと、マイクロプロセッサーに書き込まれたプログラム(制御技術)である。この2つについて、以下に説明させていただく。
「物を照らす」ことを目的とする照明器具の光源としてLEDを活用したのは、カラーキネティクス社が世界で先駆けであった。炎、電球、蛍光灯に続く、新たな光源の登場をいち早く伝えたことになる。
彼らがデジタルカラーライティングを発表した1997年当時、日常生活で見られるLEDの代表的な用途といえば、テレビやオーディオ、炊飯器といった電気製品のON/OFFを示すインジケーターの光である。LEDという言葉は、一般の人にとって身近ではなかった。
その後、交通信号機の光源が急速にLEDに変わる。また、携帯電話の普及により、その液晶パネルのバックライトに用いられるLEDの存在が知られるようになる。こうして、LEDという言葉と、「LED=光るもの」という図式が広く知られるようになった。
デジタルカラーライティングが世に出てから約10年を経た現在、LEDを光源とする多様な照明器具が世界中で販売されている。ここでご注意いただきたいのは、「LED照明=デジタルカラーライティング」ではないということである。
「LED照明」は、LEDを光源とする照明全般を指し、マイクロプロセッサーの有無は示していない。単純に電源のON/OFFの切り替えに反応するだけのものも含まれる。一方、「デジタルカラーライティング」は、LEDとマイクロプロセッサーを搭載した照明システムを指す。
なお、カラーキネティクス社は、LEDの製造はしていない。自らが開発する照明器具の用途やサイズに適したLEDをLEDメーカーから仕入れ、他の部品とともに器具に組み入れる。
カラーキネティクス社「Color Blast 12(カラーブラスト12)」の発光面。
赤、緑、青のLEDが配置されている。
撮影:筆者
デジタルカラーライティングでは、照明器具にマイクロプロセッサーが組み込まれている。マイクロプロセッサーには光を制御するプログラムが書き込まれており、赤、緑、青という3色の光の強さを個別に調整する。その結果、3色が混色されて1670万種類の色を表現することができる。さらに、指定した2色の間を移ろい続ける、あるいは、非常に短い時間だけストロボのように光るなど、さまざまな発光パターンを作り出す。
光を制御するこの技術は、「クロマコア(Chromacore)」と名付けられ、デジタルカラーライティングの核をなしている。
ユーザーは、技術の存在を気にすることなく、専用コントローラーのボタンやダイヤルを使って、気軽に好きな色や発光パターンを選ぶことができ、さらに変化のスピードを微調整といったこともできる。照明の経験や専門知識は全く必要ない。 高度な演出を求めるユーザー向けには、時間軸に沿った光のプログラムを作成することができるソフトウェアやハードウェアも提供されている。
デジタルカラーライティングに用いられる照明器具には、マイクロプロセッサーが組み込まれている。
デジタルカラーライティングにおける光源は、赤、青、緑のLEDである。これら3色のLEDがひとつの器具の中に配置される。
赤、青、緑の3色は「光の三原色」と呼ばれ、この3色を組み合わせることにより、さまざまな色を表現することができる。3色の英語の頭文字を省略し、「RGB」と言われることもある。
デジタルカラーライティングでは、赤、緑、青の光の強さを、それぞれ256段階で調整している。3色の強弱の組み合わせで生まれる色の種類は、約1670万種類である。
| 赤 | 緑 | 青 | 混合された色 | |||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 256段階 | × | 256段階 | × | 256段階 | = | 約1670万種類 |
この結果、淡い色調から、目が覚めるような鮮やかな色調まで、同じ照明器具で表現することができる。なお、3色を同じ強さで混ぜ合わせると白色となる。
デジタルカラーライティングでは、ひとつの系統に接続された照明器具すべてに個別の番号を与える。この番号は「ライトアドレス」と呼ばれている。(個別の番号を設定することができるのは、すべての照明器具にマイクロプロセッサーが搭載されているからである。)
アドレスを設定すると、1台のコントローラーから複数の照明器具に対し、それぞれ異なる指示をすることができる。例えば、1番は赤で固定、2番は緑と青の間を推移といったように。)ライトアドレスの仕組みにより、多数の照明器具を使っての複雑な光演出が可能になっている。
デジタルカラーライティングでは、赤、緑、青のLEDを用いている。これを色味の異なる白色LEDに置き換えて制御することで、多様な白色光を表現することができる。この色温度を変えられる照明システム(インテリホワイトシリーズ、略称iWシリーズ)は、2002年にカラーキネティクス社から発表され、日本においても導入されている。
色温度を変えられる照明器具と、それを導入したある企業の会議室の様子。利用者は、壁に取り付けられた専用スイッチパネルを押すだけで、白の色味の選択や強弱調整をすることができる。
撮影(会議室):ナカサアンドパートナーズ
デジタルカラーライティングでは、三角形で囲まれた範囲の色を表現することができる。
照明制御技術「クロマコア」は、1670万種類の色の表現だけでなく、多様な発光パターンを作り出す。
照明器具には固有のライトアドレスが与えられる。
デジタルカラーライティングの主な用途は以下のとおりである。
デジタルカラーライティングを単独で用いるほかに、映像や音響、噴水、タイマー、センサーといった他の要素を組み合わせて用いる例もある。例えば、ある店舗では、客が入ってくるとセンサーが感知し、LEDの光が変化する。別の商業施設では、季節や催事に合わせた映像コンテンツが用意され、LEDで構成される面に出力している。
建築設計や照明デザイン、ステージデザイン、アートに関わるクリエイターは、デジタルカラーライティングの登場により、「いかにして色を出すか」を考えることから解放され、「どんな色を選ぶか」、あるいは、「色にどんな変化をもたらすか」というクリエイティブな過程に専念することができるようになっている。
これは、デジタルカラーライティングの開発者たちが望んでいたことである。光の色を扱うことの不自由さを取り除き、軽やかに、かつ繊細に色表現をすることのできる光のツールを提供したい、という思いが現実のものになり、多くの人に活用されているのである。
デジタルカラーライティングを発表したカラーキネティクス社は、当時、自らの照明システムを「光の絵の具箱」にたとえた。同じ絵の具を使っても、全く異なる絵画が生まれるのと同様に、同じ照明システムを用いながら、全く印象の異なる光の風景を描き出すことができる。デジタルカラーライティングの登場により、世界中のクリエイターにとって、表現の道具がひとつ増えたのである。
東京・銀座ではデジタルカラーライティングを取り入れた建物を多数見ることができる。
そのひとつ、百貨店「松屋銀座」の外壁。
湘南海岸のランドマーク、「江の島展望灯台」(神奈川県藤沢市)。
デジタルカラーライティングの中で最も遠くまで照らすことのできる投光器が採用されている。
撮影:ナカサアンドパートナーズ
デジタルカラーライティングが急速に普及した背景として、以下が挙げられる。
(1)デジタルカラーライティングが登場するまでは、建築にカラフルな光を取り入れるという取り組みが少なく、目新しさを求める設計者や、新しい付加価値を加えたい施設オーナーに受け入れられた。 (なお、テレビ番組のセットやコンサート、演劇における照明では、色を使いこなすカラーライティングが浸透していた。)
(2)細かく色の調整ができるため、特定の色を確実に表現したいクリエイターや施設に採用された。
(3)いったん導入すると、機器を設置したままで光の色や発光パターンを変えることができるため、新鮮な印象を保ちたい、あるいは、季節や時間帯ごとのテーマカラーを表現したいという店舗の思いに合致した。
(4) 鮮やかな色と素早い動きを表現できるため、ゲームセンターやパチンコホールなど、目を引きたい店舗に受け入れられた。
(5) 電球や蛍光灯に比べて寿命が長いため、高所やせまい所など、メンテナンスのしづらい場所に照明を設置したい場合に採用された。
(6) 環境への配慮が求められる世界規模の流れの中で、この照明システムの「消費電力が少ない」という特徴や、器具から出る熱が少なく、空調の負担が軽減される点が注目された。

(上:演出例)デジタルカラーライティングでは、いくつかの形状の照明器具を用いる、あるいは、多様な光演出のプログラムを再生することで、同じ空間でありながら全く異なる雰囲気を作り出すことができる。
撮影:ナカサアンドパートナーズ
棒状の器具を用いた間接照明。器具を設置したまま、光の色や発光パターンを調整することができる。
撮影:筆者
建築の分野においても、コンサートステージやテレビ番組のセットにおいても、照明と映像の垣根がなくなりつつある。デジタルカラーライティングでは、映像コンテンツを出力する仕組みがすでにあり、国内の複数の商業施設に利用されている。しかし、新しい表現の可能性を見出すためにも、照明と映像の両方の需要に応えられる製品と、その役割を理解したうえで提案し使いこなせる人材の育成が今後ますます求められるだろう。
光源であるLEDの明るさは向上を続けている。これに伴い、デジタルカラーライティングの照明器具は、パソコンの進化と同様に、外観は変わらなくても、性能が向上し続けている。長期にわたって利用しているユーザーが、複数の照明器具のうちの1台だけを交換したい場合や、追加で購入したい場合、手持ちの旧モデルと新たに購入する最新モデルでは、全く同じ光を出すことが難しい。こうした場合に備え、ユーザーにとっても商品を供給する側にとっても、長期にわたり安心してこの照明システムと付き合える仕組みが必要となるだろう。
照明器具を映像出力の媒体として用いる例が増えている。
撮影:筆者
繊細な色表現を可能にした照明システム 「デジタルカラーライティング」
Category: Digital Imaging