16, Jun 2010

京都デザイン活用プロジェクト

伝統的な意匠・デザインをデジタル化し、現代においての利活用を促進しようという試みは、各国でさまざまに取組まれている。京都は日本における伝統産業の集積地ともいえる存在であるが、その具体的な最近の取組みについてのレポートを掲載する。

池上周作(財団法人京都高度技術研究所)

京都デザイン活用プロジェクト

1. 京都デザイン活用プロジェクトとは

京都には西陣織や京友禅など日本が世界に誇る和装産業・和装文化が発展してきた。しかし、近年、生活様式や経済情勢の変化により和装の需要低迷が続いている。また、それに伴って、きものや帯などを華やかに彩ってきたデザインの需要も低迷している。

それらの優れたデザインを広く国内外に発信し、和装に限らない幅広い産業製品全般への利用を促進することを目的として、京都市や社団法人日本図案家協会などと共に平成20年から実施している取組である。
(詳しくは http://www.kyotodesign.jp/ 参照のこと)

本プロジェクトは三つの柱が存在する。
1本目はアーカイブ、2本目はコラボレーション、3本目はプロモーション。
これらに基づいて、システムが設計構築をはじめ、様々な事業が展開されている。

図案例

※図案例

(ア) 本プロジェクトで扱う図案

本プロジェクトで扱う「図案」は主に、(社)日本図案家協会が、これまで門外不出とし、所蔵してきたものである。

(イ) コンテンツとしての魅力

このプロジェクトを説明すると、真っ先に聞かれるのが「どれくらいあるの?」「解像度は?」
アーカイブ数は約1万点、解像度は4,000dpi、全てtifファイルにて保管されている。コンテンツの量、そして質は非常に魅力があるものであり、現状においても様々なプロジェクトが進行している。

(ウ) 活用

今までデジタルアーカイブは、しばしば「アーカイブ」する事のみが目的になっていた。本プロジェクトの目的は「活用」である。そのための仕組み作りを常に見据え、また商品の試作にも取り組んでいる。
アーカイブにおいても、システム構築においても、常に「活用」を念頭に、京都のコンテンツを中心とした活用の輪が広がりの促進のための仕組みを構築した。

プロジェクト概要図

プロジェクト概要図

2. これまでの取り組み(概要)

(ア) アーカイブ作業

社団法人日本図案家協会が所蔵している図案のフィルムをスキャニングする作業。

(イ) アーカイブシステム構築

スキャニングした画像をWebから検索を可能にするシステムの構築。

(ウ) コラボレーションシステム構築

活用を促進するため、図案家(デザイナー)、企業・職人、消費者が交流し、製品を生み出す手助けをするシステムの構築。

(エ) プロモーションシステム構築

プロジェクトの取り組みを紹介するシステム。

(オ) 試作品作成

どのように活用できるのか? 事例を提示しイメージを広げてもらうための、試作品の作成。

(カ) 展示会出展

第39回店舗総合見本市「JAPAN SHOP 2010」をはじめとした展示会に出展した。


池上 周作 IKEGAMI Shusaku
池上 周作 IKEGAMI Shusaku

1975年長野県伊那市出身
Web制作会社プランナーを経て2006年財団法人京都高度技術研究所入所後、多言 語観光情報プラットフォームをはじめ、主に公的なWebサイト・システムの構築 や運用に携わり、現在に至る。

京都デザイン活用プロジェクト

http://www.kyotodesign.jp/index.html

3. 図案画像のアーカイブ作業

アーカイブ対象フィルム
アーカイブ作業

※アーカイブ対象フィルムとアーカイブ作業

(ア) アーカイブ図案

アーカイブ対象の図案は、6cm×7cmもしくは10cm×12cmのポジフィルムとして保管されてきた。
元々は日本図案家協会が発行する機関誌「図案ライフ」に掲載するために撮影されてきたものであり、今回扱ったものの中でもっとも古いものは1970年代である。フィルムの劣化も認められた。人の手で撮られた写真には時にピンぼけやレンズ球面に起因するゆがみ・ボケも見られた。
残念ながら、全てが全て使える画像ではなかった。しかし、状態の優劣はフィルムからだけでは判断できない。また、単に高解像度でスキャニングするだけでは価値のある画像にならない。それら本来の価値を引き出し、且つ付加価値を付ける作業にも手間をかけなければならなかった。

(イ) 何に貯めるのか?

図案の容量は際限なく増えていく。
1枚の図案データは200Mb~300Mbになる。それが1万枚である。当初保存にはDVDやBlu-rayを想定していたが、Blu-rayですら60枚程度しか保管できないため、データの取扱が煩雑になる。データベース化を視野に入れ、RAID5で構成したストレージサーバへの直接保存の方法をとることとした。
当初2Tbのサーバを導入したが、それでは容量不足に陥り、さらにもう2Tb追加、作業用ディスクとして安価なストレージを2Tb追加した。それで落ち着くかと思われたが、稼動状況を知らせるメールには、使用状況が90%を超えていると言う表示が……。担当者に確認すると「補正等全く手を加えない生のマスターデータとトリミングや色補正などを実施したデータ、両方をtif保管しているため容量が逼迫している」との事だった。さらにWebでの流通に利用する300dpiの画像やWebサイトで利用するサムネイル画像、それらを作成するための作業データ、などなど、サーバ容量は無限に消費されていった。結局6Tbのストレージを再度追加することとした。
一息つけたと思ったある日、サーバがアラートを上げていた。HDDの故障率を示すグラフはバスタブの形になると言われているが、スイッチを入れて直後に大量のデータを読み書きされて悲鳴を上げたのだろうか? 4つ挿されたディスクのうち2番目のディスクが故障した。RAID5の本領発揮と言うべきか、データは一切失われることは無かった。ディスクの交換と再構成によって健康を取り戻したのだが、さらに生データのバックアップも必要なのではないか、と言う話が持ち上がることとなった。

(ウ) メタタグ

画像はアーカイブしただけでは使えない。使える画像に加工しなければならない。だが、画像に手を加えて放っておいても意味がない。1万枚の中から使いたい1枚を探す手助けが必要である。その為に、画像にタグを付ける事とした。
誰が付けるのか? どうやって付けるのか? 本プロジェクトでは、フォークソノミーの考え方を導入している。画像が欲しい人が、コレクションして、タグ付けしてそれらをみんなと共有して、より誰もが見つけやすい形を作っていく。

しかし、それはあくまで土台があってのこと。 何の分類も無いデータに「さあ皆さんタグ付けを」と言っても、すぐにはしてはもらえない。そもそもサイトの認知も必要である。そこで、今回、図案の専門家である社団法人日本図案家協会の方々に依頼し、土台となるタグ付けやカテゴリ分けをしてもらった。

タグは、モチーフ、色合い(和の色)、様式など多岐にわたり整備されている。これらの専門的視点に加え、一般ユーザーが付加するタグが加わることで、検索システムが成長していくことを期待している。


4. Webサイト

タグ付けの話題の時にも述べたことであるが、アーカイブしただけでは、当然ながら活用は進まない。当然ながらWeb公開を進めて行く事となる。
多数のデータをストレス無く検索可能なシステムの構築が必須である。また、フォークソノミーの考え方での成長するアーカイブやコラボレーションの促進を図るには、会員を集める必要もある。
本プロジェクトの3つの柱を体現する3つのシステムを構築し、公開する事とした。

(ア) アーカイブシステム

図案は、カテゴリ・色見本・キーワードから検索ができる。
http://www.kyotodesign.jp/index.html

トップページ下部、左側のボタンが検索メニューになっている。

トップページ下部、左側のボタンが検索メニューになっている。

カテゴリからの検索画面

※カテゴリからの検索画面

色見本からの検索画面

※色見本からの検索画面

想定ユーザーは、商品企画者やデザイナーといった所謂クリエイターと言われる人々である。やはり、感性や直感に訴えかけられる検索システムとしたい。
そこで前述の通り、カテゴリ、色、これらは全ての分類作業は、実際にデザインを作成しているデザイナーに依頼した。

図案の詳細表示画面

※図案の詳細表示画面

関連カテゴリやキーワード、色見本など、閲覧者が次々と見られ仕組みを実装する事で、サイト内の回遊性を高めている。
図案の詳細表示画面では、会員に限り拡大縮小を行う事を可能とした他、タグ付けや気になる画像をブックマークするマイコレクション機能を提供している。


(イ) プロモーションシステム

プロジェクトの活動状況の発表や、図案に関する豆知識を発信するシステムである。ブログシステムをベースに構築しているため、単にニュースリリースのような情報発信に限らず、デザイナー自らの情報発信や、コメントによるコミュニケーションなど、プロジェクトの盛り上がりを積極的に発信し、交流が進む仕組みとなっている。

プロモーション

(ウ) コラボレーションシステム

SNSの仕組みをベースとした、ものづくりのためのコミュニティである。 公開・非公開の掲示板を介してものづくりをしたい人(企業・職人)、ものづくりをして欲しい人(消費者)、図案を使って欲しい人(デザイナー)が協力しあえる場を提供している。コラボレーションの進展が本プロジェクトの成功の鍵であり、本システムの盛り上がりには大いに期待している。

コラボレーションシステム

5. 携帯デバイスへの対応

※iPhone版画面

※iPhone版画面

昨今のiPhoneをはじめとしたスマートフォンの普及は、めざましいものがあるが、本プロジェクトにおいてもアプリケーションを開発、公開する事とした。一般の方々に図案を見てもらう・購入してもらうと言った使い道だけでなく、例えば営業マンが見本帳の代わりに持ち歩くと言う用途も想定している。
Webで実現している検索機能はほぼ網羅しており、拡大縮小機能もまた実装した。
今後のバージョンアップで、図案購入機能についても対応を予定している。

ダウンロード itms://itunes.apple.com/lv/app/iswatches/id366262374?mt=8


6. プロモーション活動

本プロジェクトは、リアルワールドとの接点を持ち、図案が世界に広がっていく事を目的としている。Webサイトの公開だけでなく、積極的な露出を行う事が重要であり、その為に活動を行った。
主としてノベルティや試作品を制作し展示会で配布・展示を行った。展示会での反響は大きく、コンテンツ量への期待や「京都」への期待、世界的に広がる和柄・和文化への関心をビジネスに繋げようとする企業からの引き合いを受ける事となった。

(ア) 試作品の作成

(1) タンブラー台紙

4種作成し、スターバックスコーヒージャパンの協力の元、京都市内で配布された。金属箔を活用した印刷により、見栄えも良くタンブラーコレクターがブログで紹介するなど、好評を博した。

タンブラー台紙
(2) マイバッグ

タンブラーと同じく、配布用のノベルティとして制作した。こちらは、主に京都市主宰イベント等で配布を行っている。

マイバッグ01
マイバッグ02

(3) ポット

デザインを用い、京都の職人が作成した漆塗りのポット。

漆塗りのポット
(4) パソコン

ポットと同じく、京都の職人が作成した漆塗りのパソコン。

漆塗りのパソコン
(5) 革のメモカバー
革のメモカバー
(6) シールプリント機

図案を背景にして撮影する事ができる。
二条城、東映太秦映画村、京福電鉄嵐山駅に設置されており、修学旅行生を中心に人気を博している。

シールプリント機
(7) 出力見本

様々な素材への出力見本。
鏡、鉄、ベニヤ板、タイルなど図案の活用の可能性を探った。

出力見本

(イ) 展示会出展

(1) タンブラー台紙

東京ビックサイトで開催された、JapanShop2010に出展した。
デザインを調味料に見立て、スパイスケースを多数陳列し「沢山の図案がある」ことを表現した。反響は大きく、コラボレーションが早速始まっている。
その他、京都市主催の伝統産業の日での展示を行った。

JapanShop2010 出展会場の様子01
JapanShop2010 出展会場の様子02

(ウ) 京都デザイン活用コンペティション

大学生、短大生、大学院生を対象としたプロダクトデザインコンペティションを実施している。学生に希望の図案を預け、プロダクトデザインのアイデアを出してもらおうと言う試みであった。受賞作品は、実商品化に向けて今年度中に企業との協議を進める予定である。


7. ビジネス展開へ向けて

以上の様に進められてきた本プロジェクトであるが、京都の伝統産業の振興のためアーカイブの維持のため、自走を求められている。
そのために様々な試行錯誤が行われてきた。今後、維持に止まらず当然プロジェクトの発展のため、さらに下記の様な展開を予定している。

(ア) コラボレーション展開

展示会などをきっかけに既にいくつかのコラボレーションが進んでいる。
これらの案件一つ一つを形にし、プロモーションを行う事で、さらなる展開を行っていきたいと考えている。

(イ) ダウンロード販売

当初より予定されていたダウンロード販売であるが、300dpi画像についてはWebからのダウンロード販売を可能にすべく、作業を進めている。これは、サンプル作成やプレゼンテーション資料の作成に活用して欲しいと言う意図で行う。最大解像度の画像については、Web配信の困難さもさることながら、使用方法によって条件のすり合わせ等々が必要であり当面予定されていない。


京都デザイン活用プロジェクト

Category: Digital Imaging





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