09, Aug 2010

iPhone アプリでつくる未来
PIT システムの可能性

岐阜県大垣市に在る情報科学芸術大学院大学/岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー、通称「IAMAS(イアマス)」は、科学と芸術の融合により新しい文化を発信する教育研究機関である。IAMAS出身のベンチャー企業であるGOCCO社から、iPhone アプリを核としたビジネスソリューションへの取組みを寄稿いただいた。

木村 亮介(株式会社GOCCO)

なぜ iPhone アプリなのか

岐阜県大垣市に在る情報科学芸術大学院大学/岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー、通称「IAMAS(イアマス)」は、科学と芸術の融合により新しい文化を発信する教育研究機関である。大学院、アカデミーともに一学年20~30 名程度の少数先鋭型教育であり、未来を見据えた学生たちが様々なカタチでのイノベーティブな研究開発を行っている。もともと高度情報化を政策とする岐阜県が、県の情報産業拠点であるソフトピアジャパンとともに設立し、「情報」「科学」「芸術」の各分野から第一人者である教授陣が結集し、学生たちの自由な発想を伸ばすための高度な指導を行っている。
弊社はIAMAS の学生で起ちあげたベンチャー企業であり、IAMAS から生まれる様々なアイデアやプロダクトを社会に展開していきたいというコンセプトを持っている。起業のきっかけとなったのは、弊社技術顧問である赤松正行氏(現IAMAS 教授)が発足した「iPhone 勉強会」というプロジェクトへの参画で、そこでは、教員と学生たちが一丸となってiPhone アプリについて様々な角度から検証を行い、自身でのアプリ開発の実践・販売までを目的に研究開発していた。他大学の教員、学生、また学外の人間も参加するようになったiPhone 勉強会は「モバイルカフェ」というオープンなフォーラムに形を変え、毎週多岐にわたる業種・分野の人々が参加し、意見を交わし合い交流する場となっている。様々な人々との交流の中、iPhone アプリが各分野でのビジネスソリューションになり得ると考え、弊社が誕生した。

株式会社GOCCO

木村 亮介 KIMURA Ryosuke
木村 亮介 KIMURA Ryosuke

1979 年、名古屋市出身。
愛知教育大学教育学部美術科にてグラフィックデザインを専攻する。卒業後、東海大日本印刷株式会社(現株式会社DNP東海)にてディレクター業務を3年半勤めた後に退社、中国からアフリカまで1年半の間、世界中をバックパッカーとして旅する。現在IAMAS(情報科学芸術大学院大学)メディア表現研究科2年生。赤松教授のiPhoneプロジェクトを初め、GUNGUプロジェクトなどに携わりながら、コミュニケーションに関するインターフェイスデザインについて研究中。大学院での研究と地域産業の連動したモノづくりを目指し、大学院の仲間と株式会社GOCCO.を設立。同社代表取締役。

株式会社GOCCO. 

http://goccojapan.com

ソリューションとしてのiPhone アプリ

米国のApple 社が開発した多機能モバイルデバイスiPhone やiPad はそれ自体が魅力的であるが、それはApp Store の存在が大きいことも否め ない。生活やビジネスなど様々なシーンで活用されることを想定されたあらゆるカテゴリーの20 万本を超える多種多様なアプリの中から、自分の気に入ったものを簡単な操作でダウンロードすることができる。またそのアプリ自体を制作し、個人から全世界に向けて販売可能だという点は、ビジネスの広大な可能性を感じることができる。
弊社はiPhoneアプリを企画提案して制作し、ビジネスソリューションとして企業に向けて売り込んでいくことができる環境を整えた。医療に関する情報を症状や体の部位から手軽に検索できるアプリや、特殊音楽に合わせたビジュアルイメージをインタラクションして脳活性を促進するアプリ、海外旅行を擬似的にシミュレーションして体験するアプリなど、現在進行で開発中である。またそれらのベクトルとは別に、今後の可能性を踏まえた上での下記のようなアプリの開発も行っている。

EYE Transport

iPhone の内蔵カメラで映し出している映像を、iPad / iPhone / iPodTouch にBluetooth 通信で配信できるアプリ。このアプリを使えば、死角になって見えない場所の様子を転送して見ることができる。例えば、育児でどうしても目が離せない時など、iPhone を部屋の見える場所において本アプリを使用することで、手持ちのPhone / iPad で部屋をモニタリングすることができる。今後はさらに、複数台のiPhone を無線接続し、それらをiPad で複数モニタリングできる機能など、拡張していく予定である。現在App Store にて販売中。

AR Scale Meter

距離と位置情報から、自分が目の前に捉えた対象物の高さを測ることができるアプリ。計りたい対象物の一番上と下を指で押さえることで、対象物とのおおよその距離を計算する。次にGPS で位置を検知し、角度も考慮に入れながら対象物の高さを測定する。指で直感的に距離を測ることによって、我々が見ている風景の大きさがわかる。利用の方法としては、山の高さや住んでいる町の大きさを調べるワークショップなどの教育ツールとして、また様々な物差しとして扱えるようになれば、建築の分野など、iPhone の活用方法はまた違った可能性の顔をみせることができると考えている。

また、現在弊社はハードウェアとしてのプロダクト開発にも力をいれており、岐阜県の印刷会社と共同で開発した弊社製品「Padnote(パッドノート)」はTwitter を中心に話題になり、大手小売店で販売するに至った。iPad アプリを開発する際に適したノートが欲しい、という開発者たちの声は、モバイルカフェのような人間交流の場からこそ生まれるものであり、そのアイデアがカタチになったものである。
現在、岐阜県に限らず県外も含めた製造業とプロダクトを共同開発している。ハードウェア開発であるモノづくりとソフトウェア開発を融合することで生まれる新しいモノづくりの技術、またその輪を拡大していきたいと考えている。

Padnote(パッドノート)

PIT (Press Information Technology) システム

2009 年度のIAMAS 卒業展で、国際情報アカデミーの卒業生である山本高司氏が「iPon(アイポン)」という情報表示システムを考案した。このシステムは、iPhone の専用アプリと独自の入力装置を使って、既存の展示スペースをインタラクティブな空間へと変化させることを可能にする。概要としては、専用アプリを起動した状態でiPhone を入力装置にタッチすると、アプリがどの入力装置にタッチされたかを判別し、適切なコンテンツをiPhone に表示するというシステムである(図2参照)。弊社の「PIT (Press Informaition Technology)」は、このシステムの特許を取得し、さらに拡張したソリューションサービスとして取り扱っている。

静電式タッチディスプレイは、触れた部分の電荷の変化をとらえて位置を検出する。図1 は静電式マルチタッチディスプレイの感応を視覚化したiPhone アプリ「MoodPad」のキャプチャで、赤い円になっているところが電荷の変化をとらえた部分、つまり触れた位置である。iPhone は指の腹と同等の設置面積の電荷変化を認識するため、その面積に近い導伝性のあるものであれば認識する。

図2 はPIT 専用アプリ(テスト用)の展開概要である。
(1)がトリガーとなるタッチ画面で、タッチディスプレイが9分割してある。9つそれぞれにアプリ側でナンバリングされ、タッチした場所の組み合わせによって表示される情報が決められている。はタッチした部分の例で、その組み合わせのパターンによって(3)の画面が表示される。つまり、(2)で別の組み合わせをタッチすれば、(3)では別のコンテンツが表示される仕組みである。

図2

図1


PIT 入力装置

入力装置は、導電性のコンタクト部分がiPhone の静電式タッチディスプレイ部に正しく接することによってアプリが認識し、情報が表示される。iPhone に表示される情報についてはアプリ側で制御されている。

現在弊社のサービスとして展開しているPIT システムは、特許権利の関係上、現段階では公開することができないが、近いうちにバージョンアップしたPIT をご紹介したいと思う。

PIT サービス展開例

酒蔵の工場:

酒蔵の工場見学の様子

酒蔵の工場見学を見学者が自分のペースで自由に見学することができる新しいカタチの社会見学を実現させた試み。見学者各々がiPhone を使って情報を取得し、酒の製造工程やしこみなどiPhone に表示された専門的な映像や画像、テキストなどのコンテンツを見ながら見学する。3日間で延べ100人以上の来場があり、このシステムを利用した見学者の反応からは「わかりやすく自由に見学できた」との声が多くあった。


水族館(企画中)

水族館に展示されている生物の普段見ることができない姿や動作など、特殊な動画やコンテンツをiPhone やiPad を使って閲覧することができる。例えば夜行性の生物であったり、独特の方法で餌を捕る魚の決定的な瞬間など特別な現象を、iPhone やiPad によってその場で情報拡張することで、対象である生物への関心が深まると考えている。また、展示の生物が他へ移動することがあっても、アプリ内のコンテンツを入れ替えることで対応できるので、水族館が持つ豊富なコンテンツを様々な形で利用することが可能になる。

水族館の様子(企画中)

その他アイデアプロダクトの開発

生活空間にあふれる様々な電化製品は、普段私たちの耳には聞こえない「動き声」をあげているという着眼点から生まれたプロダクトを紹介したい。身の周りの電化製品は、光や電波、磁気を出しており、それらの波動について焦点を当て研究し、音に変換する実験をした。機械の「動き声」は興味深く、装置を使ってその音を聴くことは新しい体験になると感じた。それらを聴く装置、つまりテクノロジーのサウンドスケープを聴くための新しいデバイスを現在商品化に向けて開発中である。プロトタイプはIAMAS 研究生であった菅野氏、1年山本氏、弊社森で制作した。

Photophone

光の波動を音に変換して聴くことができる装置
使用部品:フォトトランジスタ、単四電池 x 2

Magnet Phone

電化製品に電気が流れた時に発する磁気を感知して、音に変換させて聴くことができる装置
使用部品:コイル、単四電池 x 2


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今後の可能性

iPhone をはじめとしたスマート・フォンやiPad などのデジタルデバイスとその周辺機器、また周囲の生活環境が今後どういった関係性を築いていくのか、つまりそれらを中心に紡がれていくユーザー・エクスペリエンスの可能性について、弊社はこれから提示していきたいと考えている。

例えば、我々が日常的に使う環境、機器の一つとして「自動車」があげられる。
センサーの集合体である自動車は、同時に情報の集合体でもある。燃料やオイル状況、タイヤの状況、高速道路の利用履歴、または緊急時の応急処置のための情報など、自分の乗っている車の情報を集約し、カーディーラーとのネットワークを組むことも考えることができる。また、カーステレオとiPhone を接続させれば、クラウド上にあるオーディオラックをストリーミングし、ジュークボックスのように機能させることも可能である。自動車周辺情報のフロントエンドとして、また、その情報をクラウドと繋ぐツールとしてiPhone をはじめとしたスマート・フォンが多いに活躍することは想像できる。

家庭でのコミュニケーションについては、どんなことが起こるだろうか。
例えば家族での旅行プランを練る時など、日時や場所の希望がなかなかまとまらない時もある。もし各自がiPhone を使って、日常的に様々な場所で自分の行きたい場所の情報を集めていれば、各自の情報をiPad に集約し、家族みんなで閲覧しながら作戦会議をすることもできる。情報集めにはtwitter の「~なう」のような友人達が発してくれるつぶやきなども役に立つかもしれない。家族みんなに、自分の見つけてきたスポットのプレゼンテーションをしたり、旅行のスケジューリングや予約などもそのまま簡単にできる。

街という大きな環境での歩き方も変わっていくだろう。毎日のように新しい店が生まれ、思わぬ場所に行列ができ、気になるモノは絶えない。そんな状況に物怖じせずに、自分の住む街をもっと楽しく暮らすために、自分の欲しい街の情報を能動的にアーカイブしていくためのツールとしてスマート・フォンは便利であろう。気になる本、かわいい服、居心地のいいお店を瞬時にiPhone に取り込んで「自分のための街の図鑑」をつくっていくことができる。訪ねてきた友人や家族に、自分の住む街を、自分で集めた図鑑を手にしながら紹介できるかもしれない。

iPhone をはじめとしたスマート・フォンやiPad などのデジタルデバイスは、日常的な環境を楽しく、便利に、創造的に変化させていく可能性をまだまだ秘めている。PIT システムのように、現実的にその場所へ行くことでしか得ることができない情報体験、またそこに発生するコミュニケーション、周囲の環境や機器間での関係性、またそれらをつなぐネットワークはさらに重要なキーワードになってくるであろう。
実際のリアルな体験とバーチャルの体験を相乗的に表現できるもの、つまりハードウェア的な現実世界での発想力と、ソフトウェアの部分での発想力がうまく相互作用しながら相乗効果が生まれるようなイノベーションと研究開発が今後はさらに必要であり、そこから生まれるデザインコンセプトやアイデア、またコンテンツ内容が世の中に新しい感動を与えることができると考える。


iPhone アプリでつくる未来
PIT システムの可能性

Category: Digital Imaging





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