24, Dec 2010
「玩具映画及び映画復元・調査・研究プロジェクト」は通称、「玩具映画プロジェクト」(TOY FILM PROJECT)といい、大阪芸術大学芸術学部映像学科の太田米男教授が同大学の藝術研究所と共同で立ち上げた玩具映画の復元プロジェクトである。このプロジェクトでは玩具映画の復元を行い、35mmフィルムに複製して保存すること、デジタルデータでの活用及び調査研究を行うことが目的である。このプロジェクトにおいて弊社IMAGICAウェストは玩具映画フィルムの実際の修復に携わり、保存のためのフィルムの複製(不燃化作業)やデジタル化を行なった。ここで紹介するのはプロジェクトを通して見えてきた今日における映画フィルムの劣化状況とそれらを復元する際の技術的問題点についてである。
玩具フィルムの缶箱

このプロジェクトが活動を開始したのは2003年であり、現在(2010.11)までに約800本以上もの玩具フィルムを復元してきた。無声映画期の大正から昭和にかけて販売された35mmの玩具フィルムを中心に、家庭用に販売された9.5mmパテ・ベビーや16mmフィルムなどもコレクションに含まれている。この8年間、復元プロジェクトに携わる中でフィルムのさまざまな劣化の状態が明らかとなった。また、それをいかに復元するかという技術的な問題点が浮き彫りになった。
復元するフィルムは主に1920~30年代の可燃性フィルムが対象であり、約90年以上の時が経っているため劣化の状態はかなり進んでいる。しかし、なかには多少の縮みはあるものの非常に状態の良いものもある。そのフィルムがどのような環境で保存されていたかによってフィルムの劣化速度や症状は全く異なる反応を示している。
フィルムの復元はオリジナル素材を修復・保存するだけでなく、その複製を取ることにある。玩具フィルムのほとんどは自然発火性のある可燃性フィルムであるため、まず不燃化作業を行い安全なフィルムに複製を取ることがその作品を保護する第一歩となる。また、可燃性フィルムは不燃化して初めて映写機にかけ、スクリーン上でみることができる。
フィルムの劣化状態がそれぞれフィルムによって全く異なるため、複製を取ることは極めて困難な作業となる。映画フィルムはもともと厳密に規格化されており、撮影、焼付、現像、映写など全ての工程で機械を通る。そのときにフィルムやパーフォレーション(フィルムを走行させるためにあけられた穴)に縮みや変形があると規格外となり、機械に通らないばかりかフィルムにダメージを与えてしまう。そこで、それぞれのフィルムの劣化に合わせた修復方法が必要になる。
玩具フィルムから見えてきた映画フィルムの劣化状況や修復技術について、以下の項目に沿って説明していく。
※これから紹介する写真や説明、修復方法は全て玩具映画フィルムで行ったわけではない。説明を分かりやすくするため、玩具フィルム以外のフィルムによる説明や修復方法なども含まれていることをお断りする。

2003年IMAGICA ウェスト入社。「玩具映画及び映画復元・調査・研究プロジェクト」に参加し、玩具映画の復元に携わる。染色や調色技術の開発プロジェクトにも関わる。日本映像学会会員
1935年、京都太秦に「極東現像所」として設立し、1942年「東洋現像所」を経て、1986年に社名を「IMAGICA」と改称する。その後、2000年にグループ会社「IMAGICA ウェスト」として現在に至る。事業内容は映画テレビ用フィルムの現像・プリント、ビデオ編集、MA、画像合成、
コピー、各種映像ソフトの企画、制作、撮影など映像技術サービス業務全般を行なう。特に近年、映画フィルムの復元に特化した取り組みにおいて、美術館、博物館、大学などのアーカイブの復元作業に力を入れている。
所在地 大阪市北区同心1-8-14
お問合せ TEL 06-6353-1711
TOY FILM PROJECT 玩具映画プロジェクト
http://toyfilm.jp/
OUA-TV 大阪芸術大学テレビ
http://www.osaka-geidai.ac.jp/geidai/
ouatv/toyfilm/
IMAGICA WEST Corp.
http://www.imagicawest.com/westcom/
http://www.imagicawest.com/westcom/
film/fil_restore.html
株式会社 IMAGICA
http://www.imagica.com/
http://www.imagica.com/work/movie/
service/archive/

劣化した可燃性フィルム(劣化の際にフィルムから発生するガスによって缶の内部がさびている)

加水分解によりベタベタになった可燃性フィルム
玩具映画とは家庭用の手回し映写機に数十秒から数分の短いフィルム(玩具フィルム)をかけて楽しむ家庭用の映画である。大正から昭和の初頭にかけて国産映写機と玩具フィルムが大量に販売された。
無声映画期である1930年代までは日本映画の第一次黄金期に当たるが、同時に戦禍の時代でもあった。当時の35mmフィルムはニトロセルロースを原料とした可燃性フィルム(ナイトレートフィルム)であった。ニトロセルロースは火薬や弾薬の原料でもあるため、当時は軍需品として扱われていた。また、乳剤に含まれる銀塩は高価な資源でもあった。そのため、映画館での上映が終わると興行的な価値を失ったフィルムは他の用途のために利用された。こうして日本映画の貴重な映像遺産は次々と失われていった。戦前の日本映画の残存率が5%以下という点から考えても、断片といえども玩具フィルムに残された映像は貴重な文化的、歴史的価値を持っている。
また、戦後の1950年代に不燃性のアセテートフィルムが登場すると、ナイトレートフィルムからアセテートフィルムに不燃化(複製)し、その後、オリジナルのナイトレートフィルムは廃棄されてしまった。今では不燃化作業を終えた可燃性フィルムも廃棄せず、保存の対象となりつつあるが当時は保存することよりも危険物としての扱いが強かった。というのも、当時、映画会社のフィルム保管庫や映画館などではナイトレートフィルムによる火災事故が相次いだからである。
映画が1890年代に発明されて以来、映画フィルムは110年以上ほとんど形態が変わることなく、現在もなお使い続けられている最も長い映像メディアである。フィルムの構造は画像部分を形成する乳剤(エマルジョン)面とその支持体となるベース面から出来ている。乳剤はゼラチン中に銀塩が含まれており、銀塩には感光性があるため、露光と現像によって銀像を形成する。フィルムベースに求められる特性は、物理的、化学的に強度があり、温度や湿度に対して安定性があり、透明度が高いことである。そこで、ニトロセルロースを原料とするナイトレートフィルムが使われた。ナイトレートフィルムが不燃性のアセテートに取って代わる1950年代中頃までは35mmフィルムの支持体として使用された。ニトロセルロースは今日では消防法の危険物第5類に属しており、許可が無いと保管や取扱いができない。
玩具フィルムのほとんどは可燃性であり、発火性が強く、一度燃え出すと爆発的に燃焼する。しかも、ニトロセルロースは劣化するとさらに発火しやすくなる性質があり危険性が高まる。つまり、現存する可燃性フィルムは危険性の高い状態にあるといえる。本来ならば、劣化したニトロセルロースは適切な処理により廃棄しなければならない。しかし、文化財でもある映画フィルムを廃棄することはできないので危険物専用の保存庫で保存する必要がある。
玩具フィルムのなかには一部アセテートフィルムのものも含まれている。アセテートフィルムは発火の危険はないが加水分解によりビネガーシンドロームと呼ばれる劣化症状を示し、場合によってはナイトレートフィルム以上に劣化が早く、劣化症状も激しいため、復元が不可能な場合がある。
ナイトレートフィルム、アセテートフィルムともに保存環境によって劣化の進行は全く異なり、高温多湿の環境では30年ほどで複製が不可能になるケースもある。玩具映画の大半がナイトレートフィルムから出来ており、なかには画像が失われて復元できないものもあるが、大部分はまだ末期的な状態にはなっておらず復元が可能である。
手回し映写機

玩具フィルムは缶や箱に入れて販売された

保存状態の良い可燃性フィルムは縮みの問題があるだけでその他は修復の過程でほとんど問題がない。1ロールが大きなフィルム(劇映画など)はフィルムにかかる圧力が大きくなることや、加水分解によってフィルムから出てくるガスの量も多く、フィルムに与える影響は大きい。その点、玩具フィルムは1ロールが小さく、個別にケース(缶や箱)に入っているため、比較的に状態の良いものが多い。ただし、フィルムに与える影響は保存環境が最も大きく関係している。
ナイトレートフィルムの劣化の特徴としてはベースの縮みはもちろんのこと、エマルジョンの溶解によるベタツキがある。エマルジョンが溶け出すとフィルム同士がくっつき、剥がすことが困難になる。また、フィルムを剥がすことが出来たとしてもエマルジョンが解けているため、部分的に画像の認識ができない場合が多い。さらに劣化が進むと乾燥し、粉状になる。ここまでになると復元は不可能になる。

エマルジョンの溶解以外にも銀画像が残留ハイポ(現像処理で行なう定着液が水洗によって完全に除去されずフィルム内に残ってしまう状態)や、空気中の硫化ガス、酸化ガスなどによって化学変化を起こし画像を失ってしまうケースがある。写真は、酸化によるフィルムへの影響をテストするために酸化力の強い硝酸ガスにアセテートフィルムを接触させたときのものであるが、数時間で銀画像に影響が現われ、1日もすると銀画像は白く酸化される。
硝酸ガスによる酸化テスト
また、エマルジョンが剥離するケースもある。下の写真のナイトレートフィルムはエッジ部分にエマルジョンのベタ付きはあるが、画像部分までは広がっていない状態である。しかし、エマルジョンがひび割れ、少しフィルムを湾曲させるだけでベースから剥がれてくる。

アセテートフィルムの劣化の特徴は、加水分解によって酢酸ガスが発生するビネガーシンドロームや、更に加水分解が進行するとフィルムの湾曲がひどくなり、フィルムのコシ(強度)がなくなってしまう。その後、白い粉が噴いた状態になり、末期的な状態になると数センチ解いただけでポキッと切れてしまうほど乾燥する。ここまで来ると手の施しようがなく、複製を取ることができなくなる。

ビネガーシンドロームは正常なアセテートフィルムにも伝染し、加水分解を誘発、促進する。そのため、ビネガーシンドロームのフィルムと正常なフィルムとを同じ空間に置かないようにラボでも保管や作業に配慮をしている。劣化したアセテートフィルムに新しいアセテートフィルムをリーダーとして繋ぐと数日間で新しいフィルムは加水分解により湾曲してしまう。ビネガーシンドロームの進行はこれほど早い。
驚くことに1970年代後半のフィルムであっても、保存環境が悪いとボロボロの状態に劣化する。フィルムがロールのまま固着し、数センチでも引き出そうとするとフィルムが折れてしまう。ここまでくるとほぼ修復は不可能な状態といえる。作品の完成当時に使用した後、フィルム缶やケースを開けることのなかったフィルムほど、こういう劣化状態になりやすい。反対に度々複製や上映などで使用してきたフィルムはキズや破損箇所は多いが、致命的な劣化状態にはなりにくい。このことからもフィルムは定期的に缶から出し、巻き返しなどによるテンションの緩和や加水分解によって発生するガスの放散に努めなければならないことが分かる。


エマルジョンが溶けて画像が認識できない


画像が失なわれた可燃性フィルム


リールに巻かれたまま硬化したアセテートフィルム
前述のように、約80年~90年前の玩具フィルムは大なり小なり劣化が進んでいる。しかも、劣化の状態は作品ごとに異なる。そのため、症状にあわせた修復処置を施さなければならない。
まず、作業環境であるが可燃性のナイトレートフィルムを修復するときは専用の作業室で行なう。可燃性フィルムは危険物第5類に属し、保管や取扱いには専用の設備と取扱者の免許が必要になる。文化財として貴重なフィルムを取り扱うのと同時にそれらが危険物であるという認識がどの作業工程でも非常に重要である。この点をおろそかにしていると、フィルムの消失はもちろんのこと、生死にかかわる重大な事故を起こしかねない。
それから、先にも述べたようにビネガーシンドロームにかかっているフィルムを取り扱うときは、他のフィルムからできるだけ隔離した環境で行なうことや、カビの発生しているフィルムを取り扱った後には機材の滅菌を行い、他のフィルムに感染が広がらないように配慮しなければならない。
それでは具体的な修復についていくつか紹介していく。玩具フィルムは何度も映写機にかけているためパーフォレーションに破損が多い。そのような場合は欠損部分に新しいフィルムをはめ込んでテープで補強し、その後のプリント(焼付け)作業ができる状態に修復する。


次はフィルムの縮みが大きいために検尺ができなかったことをきっかけに新たな機材の開発を行なった事例である。検尺とはフィルムの長さを測定したり、フレームにずれがないかを確認したりする作業である。フィルムの走行はスプロケットとよばれるパーフォレーションを送る歯によって行なう。しかし、縮みが大きいとスプロケットにパーフォレーションが入らずフィルムが乗り上げてスプロケットの歯でパーフォレーション以外の部分を突いてしまうことがある。
写真の特殊検尺機はそのようなフィルムでも検尺できるように開発したもので、スプロケットを使わない設計になっているので安全に劣化フィルムを検尺することが出来る。このように劣化の症状にあわせた修復方法や機材の開発が必要になる場合が多い。その結果、以前は出来なかった作業がその後の新たな機材の導入により作業が可能になることはこの復元プロジェクトに携わる中で幾度もあった。
次の事例はアセテートフィルムの劣化により白い結晶が析出したフィルムを特殊クリーニングによって除去した例である。アセテートフィルムの加水分解がかなり進行するとこのように白い粉が出てくる。このまま複製を取ると画面にそのまま写り込んでしまい非常に不鮮明な画像となる。クリーニングを行うとほぼ完全に除去することが出来るために、複製時にはきれいな画像が得られる。
クリーニング前
クリーニング後
次はフィルムに発生するカビについてである。カビにはいろいろな種類があり、簡単に除去できるものやそうでないものなど種類によってクリーニングの方法が異なる。カビは保存環境の影響が大きく、高温、多湿の環境では繁殖しやすい。そして、エマルジョン面のゼラチンや、手垢などを栄養源として更に繁殖を続ける。一度カビが発生したものは早急に滅菌除去し、更なる繁殖を防がないと取り除くことが困難となり、不鮮明な画面になってしまう。
下の写真はカビが全面に繁殖したフィルムをクリーニングによって取り除いたものである。エマルジョンの侵食により形は残るが、ほぼ完全にきれいな状態になる。
カビ除去前
カビ除去後
続いての写真は加水分解の進んだアセテートフィルムが極度に湾曲してしまったフィルムを修正したものである。湾曲がひどいためにフィルムを巻き返してもきれいに巻き取ることが出来ないが、修復後は湾曲部をほぼ正常な状態に戻すことができるため、きれいに巻き取ることができる。湾曲したままではプリンターにかけることができないのでこのような修復が必要になる場合がある。
修復前
修復後
以上、フィルム修復についての事例を見てきたが、修復に際して注意しなければならない点がいくつかある。まず、修復時には無理をしないことが大切である。元素材にダメージを与えるような修復方法をとってはならない。もし、ダメージを与えてしまいそうな場合は、将来の技術にゆだねることも必要である。ただ、フィルムの劣化状態が非常に悪く、今修復しなければ手遅れになってしまうケースがある。そのような場合は「元素材にダメージを与えない」という鉄則が当てはまらないこともある。もしかしたら50%しか救えないかもしれないし、一度しか複製を取るチャンスがないかもしれない。それでもそのフィルムを修復するのかどうかの判断をしなければならない。当然、最終的な判断をするのはラボの技術者ではなくフィルムの所有者であることに違いはない。

可燃性フィルム専用作業室

特殊検尺機

フィルムによく発生するカビ

加水分解により湾曲したフィルム
玩具映画が製作された時代は白黒フィルムしか存在しなかったが、全てが白黒映像だったわけではない。染色や調色といった着色技法によって白黒フィルムに色を付け、シーンに合わせた色彩表現がなされていた。例えば、夜のシーンは月あかりを表現した青、夜の屋内は行灯をイメージしたオレンジ、ラブシーンはラベンダー、火事場のシーンは赤など様々な色が施された。特に、玩具フィルムは家庭用に販売することを目的としていたため、玩具フィルム専用に染色や調色を施すということもあった。このプロジェクトで復元した玩具フィルムは800本以上にのぼるが、その内の約6割にこのような着色技術が使われている。そのことからも染色や調色は特殊な表現ではなく、当時、一般的に用いられた技術であることが分かる。
染色は染料でフィルム全体を染めることである。フィルム膜面のゼラチン中に染料が浸透して、白黒銀画像と染色による色のイメージが定着する。そのため、濃度が低く白い部分ほど色が目立つ。
調色は白黒銀画像を化学的処理によって他の金属に置換して、その金属特有の色の画像にする。よって、黒い画像はなくなり、その代わりに調色された色に変化する。玩具フィルムでも良くあるのが鉄調色で青い画像が得られる。
玩具フィルムはポジフィルムであって、その元素材となったオリジナルネガフィルムが残っていたケースは今までに見たことがない。そのため、玩具フィルムは白黒ポジフィルムか、それを染色や調色により着色したプリントが残っているだけである。通常、このような着色フィルムから新たな複製ネガやプリントを作る場合はカラーフィルムを用いるのが一般的な方法である。しかし、カラーフィルムと白黒フィルムの物理的特性は異なり、白黒フィルムが銀画像からできているのに対して、カラーフィルムは色素によってできている。よって、スクリーンに映し出された場合に銀と色素による光の透過、吸収にはかなりの違いがある。そこで、弊社では当時の技術にこだわり、当時と同じ方法で染色、調色フィルムの復元を行なっている。当時の技術を再現することによって、当時スクリーンに映し出されていた色彩にできるだけ近づけられるのではないかと考えたからである。
当時は今のような自動現像機はなく枠現像と呼ばれる木の枠にフィルムを巻きつけてタンクの中に浸けて現像していた。染色や調色も同様に染色液や調色液の入った大きなタンクに枠ごとフィルムを入れて処理した。そのような化学的な処理を再現するためには現状ある自動現像機をそのまま用いることは出来ない。そこで、現像機を改造して、染色や調色のできる専用の機械を開発することになった。同時に当時の文献を参考にして、どのような化学処理によって染色や調色が施されていたのかを調査、研究した。
以下に着色された玩具フィルム(ポジ)から染色や調色技術を用いる複製フローについて説明する。
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染色は2007年よりサービスを開始しており、東京国立近代美術館フィルムセンターやその他のアーカイブからの依頼により、実際に染色技術を用いた復元作業を行っている。
調色は今年の3月に東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員の板倉史明氏との共同研究により、玩具フィルム「新大岡政談第二篇」(1928年、伊藤大輔監督、東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵)他2作品の復元作業を行った。復元の成果については、今年の日本映像学会第36回全国大会において、研究発表を行った(板倉史明、松尾好洋「日本無声映画期における染色・調色の歴史と復元」)。

関東大震災(記録)1923年[染色]

赤穂浪士一番槍1931年[調色]
フィルムからテープやDVD、ブルーレイなどのビデオ信号に変換することをテレシネという。今日では高精細度のフィルムスキャナーがあり、フィルムの解像力と同等にデジタルデータ化することができる。当然ながら、フィルムは映写環境が限られるし、使用すればするほどスクラッチやゴミの付着といったダメージが与えられる。その点、デジタルメディアは個人でどこでも見ることができ、簡単にコピーができ、また劣化もない。
ただ、保存の観点から考えるとデジタルメディアの保存性を疑問視する声も大きい。というのも、フィルムは110年以上も世界中で使用され、また、適切な環境下で保存されれば100年以上も使用することができる唯一の映像メディアとしての実績がある。しかも、何の機器を用いなくてもフィルムそのものに画像が形成されており、視認することが出来る。それに比べてデジタルメディアは数年で新たな方式が誕生し、その度に新たなメディアへと変換しなくてはならない。また、デジタルデータは劣化がないというが、データが壊れて失われていても見ただけでは分からない。また、データの劣化がなかったとしても記録メディア自体の劣化の心配がある。
弊社におけるフィルムからのデジタル化のシステムについてご紹介しよう。弊社ではフィルムからデジタルデータに変換するためのテレシネマシンとして「ムービー・トーン」がある。ムービー・トーンは自社で開発したフィルム専用のテレシネ機で光学ウェット式の間欠駆動によるコマ焼ができるという特徴をもっている。「ウェット」というのは、フィルムからデジタルに取り込む際に、フィルムの表面に付いたスクラッチキズを埋める働きをする。ウェットに使用する液はフィルムベースと同じ屈折率を持っているため、光源からの光がキズによって屈折し、キズとして見えるのを防ぐ働きをする。テレシネ機には連続駆動と間欠駆動がある。連続駆動はフィルムを連続的に流しながらデータ化する方式であり、間欠駆動は1コマ1コマ取り込み時にフレームを止めて、レンズを通して結像させる方式である。1コマずつ取り込むので画の位置が固定されユレが軽減されるため、縮みのある古いフィルムなどでは有効に働く。
デジタルに変換することの利点はフィルム修復では不可能な修復を可能にしてくれることである。フィルム修復ではユレやキズ、細部に亘るコントラスト調整や濃度ムラを修復するのには限界がある。しかし、デジタル修復では時間と手間はかかるが、そのような修復、調整が可能である。
デジタル修復前
デジタル修復後
(キズ、ゴミの除去、退色補正)

ムービー・トーン
映画フィルムの劣化状況や修復時の問題点についてみてきたが、現存するフィルムの状態は多種多様で、なかには末期的とも思える、今の修復技術では全く手の施しようがないものも少なくない。特に、アセテートベースの極度の劣化によってフィルムに触れるだけで切れてしまい、ほどくことすら出来ないフィルムをよく見かける。今、我々が取り組んでいる新たな試みとして、このように劣化してしまったアセテートベースから画像部分だけを取り外し、新たな支持体へとトランスファーする技術の開発がある。アセテートの特徴としてベースの劣化は激しくてもエマルジョンの劣化は少ないため、画像がまだきれいに残っていることが多い。そのエマルジョンを生かして蘇らせることができれば、今まであきらめていた数多くのフィルムを救うことが可能となり、映画修復技術における新たな一歩が加わることになる。
映画修復において大切なことは絶対にあきらめないこと。どうにもならないほどに劣化したフィルムでも、そのフィルムに向き合い続けることによって、何か答えやヒントなどの解決策が沸いてくる。それが修復として完璧なものでなくても、そこからスタートするとまた新たな答えが見えてきて更に一歩前進することができる。
このプロジェクトでも修復不可能のために返却せざるを得ないフィルムがいくつかあった。そのたびにプロジェクトの代表である太田氏からは再度、修復依頼があり、我々も新たな方法にチャレンジしながら復元に至ったケースがある。どんなに短い玩具フィルムでも800本という数の作品を復元する中でラボの技術も向上していった。これからも、さらに難しい修復技術に挑戦し、一本でも多くのフィルムが再び世に出て、スクリーン上に蘇ることができるように努力していきたい。
参考Webサイト
映画フィルムの修復現場から(1)着色フィルムの復元について
(『映画テレビ技術2007.7月号(No.659)』P12~17掲載記事)
http://www.imagicawest.com/westcom/film/movie/doc_f070711.pdf
映画フィルムの修復現場から(2)ビネガーシンドロームに関する一考察 ~加水分解=加酢分解?~
(『映画テレビ技術2007.8月号(No.660)』P26~30掲載記事)
http://www.imagicawest.com/westcom/film/movie/doc_f070813.pdf
映画フィルムの修復現場から(3)映画の里親第四回作品 霧隠才蔵[パテベビー版]の復元作業に当たって
(『映画テレビ技術2008.12月号(No.676)』P40~45掲載記事)
http://www.imagicawest.com/westcom/film/movie/doc_f081215.pdf
特殊講義「映像文化の創造と倫理Ⅰ アーカイブと映像マネジメント」(立命館大学映像学部)
ラボ:フィルム復元について
http://www.ritsumei.ac.jp/eizo/gp/image/gp_report2008_p28-33.pdf
特殊講義「映像文化の創造と倫理Ⅰ アーカイブと映像マネジメント」(立命館大学映像学部)
フィルム修復と復元方法
http://www.ritsumei.ac.jp/eizo/gp/image/gp_report2009_P47-55.pdf
映画復元の最前線
-「玩具映画及び映画復元・調査・研究プロジェクト」の実作業より-
Category: Digital Imaging