16, Sep 2011

絵ごころがない人でも
マンガが描けるようになるソフトウェア

誰でもマンガが描けるようになるソフトウェア...。そんな夢のような(ウソのような)ソフトが、2010年の末にリリースされた。京都国際マンガミュージアムでも体験ゾーンが設けられるなど、すでに各方面でも反響を呼んでいる「コミPo!(コミポ)」。開発元のウェブテクノロジ・コム社コミPo!製作委員会の田中圭一氏からの寄稿。

田中圭一(株式会社ウェブテクノロジ・コム コミPo! 製作委員会)

1. カンタンに情報を伝えることができるマンガ表現

長々と文章を使って物事を伝えるよりも、キャラクターの絵とフキダシ(スピーチバルーン)を使ったマンガ的な表現の方が瞬時に情報を伝えることが可能である。
「マンガで教える○○」「マンガで読む○○」といった書籍が世の中に溢れていることからもマンガによる表現や情報伝達の優位性を感じることは多いはずだ。

地震の情報をマンガで解説している例

地震の情報をマンガで解説している例

これほどマンガ表現に溢れ、マンガが身近な存在である日本にあって、まだまだ「マンガを描く」という行為は特殊な技能を必要とする名人芸である。日本人なら誰でもマンガが描けるというわけではない。

カラオケの登場によって誰もが歌う楽しみを手に入れたように、ワープロの登場によって誰もが文章を書く楽しみを手に入れたように、同じように「マンガを描く楽しみ」を手に入れることができるシステムを作れないものか?
・・そんな思いからウェブテクノロジ・コムは「コミPo! 」というソフトウェアを企画した。


田中圭一 Keiichi Tanaka
田中圭一 Keiichi Tanaka

1962年生まれ。大阪府出身。
株式会社ウェブテクノロジ・コム内の コミPo! 製作委員会で委員長を務める。同時に月刊サイゾーや月刊乱TWINS(リイド社)に連載を持つ漫画家でもある。代表作に「神罰」「ドクター秩父山」など。玩具会社タカラ(現タカラトミー)で10年間営業職を勤めた後、ゲーム会社アートディンクでゲームディレクションおよびプロデュースを経験。2002年に株式会社ウェブテクノロジに入社。2008年からコミPo! の企画発案、プロデュースを手がける。

コミPo!
http://www.comipo.com/

株式会社ウェブテクノロジ・コム
http://www.webtech.co.jp/


2. マンガを解析してソフトウェアの仕様を作る

誰でもマンガが描けるようになるためには、「マンガを構成する要素の解析」が重要になる。

●マンガを構成する要素として
コマ
描き文字
効果線
アイテム(小道具やオブジェクト)
背景
キャラクター(登場人物)
マンプ(マンガに特有の符号)
フキダシ(スピーチバルーン)

マンガ構成要素_全体 マンガ構成要素_1 マンガ構成要素_2

これらの要素を組み合わせれば、マンガの形は作れる。 これらの要素の中には「アングルが自由に変えられた方が便利なもの」が存在する。この場合は、キャラクターとアイテムである。これらは3Dモデルデータを使うことで解決する。ただ、ここで気をつけることは「いかにも絵で描いたように見えるキャラクターやアイテムを3Dモデルで表現すること」である。

イラストのように見えるが、じつは3Dモデルデータ

イラストのように見えるが、じつは3Dモデルデータ


3. 最低限必要とされる素材の抽出

次に問題になるのは、「それぞれの素材について、どのくらいのデータ数、種類を用意しなければならないか?」である。例えば「どんなジャンルのマンガでも作れる。」となれば、用意しなければならないデータは、無限にある。時代劇からファンタジーやSF、キャラクターにしても、赤ん坊から老人まで、あらゆる年代、あらゆる体型、あらゆる髪型、あらゆる表情を用意しなければならない。アイテムも同様で、それこそ百科事典に載っているすべてのものを3Dモデルデータ化しなければならない。そうなると時間も予算も無尽蔵に必要となり、ソフトウェアはいつまでたってもリリースできなくなる。
では、「最低限必要とされる素材」は、どうやって絞り込めばいいのだろうか?

ここで、ちょっと本題から外れるが、少々おつきあいいただきたい。「マンガを、素材の組み合わせで作ることで、誰でもマンガが描けるソフトウェア」というアイデアは、おそらく誰でも思いつくものだと、私は考えている。なので、コミPo! を発想した際に、同じことを考えている人は日本じゅうに数万人単位でいるだろうと想像していた。では、多くの人が思いつくにもかかわらず、実際に開発できたソフトメーカがまったくなかった理由はなんだろうか?
おそらく、それが「あらゆるデータを無限に用意しなければならない点」にあると私は考えた。これが最大のネックになって、ソフトウェアを「発想はすれども実現できない」ということになるのだと思う。
そう「最低限必要とされる素材」の絞り込みこそが、このソフトウェアを世に出せるかどうかの分水嶺だと言えるのである。

この難題に対する答え、それは「作成可能なマンガのジャンルを絞り込む」ということであった。それも、多くの人が共感でき、慣れ親しんだジャンルであり、カンタンにマンガが作れるソフトウェアというコンセプトに合致したものでなければならない。

それらを満たすジャンルとは「学園マンガ」「学校を舞台にしたマンガ」である。このジャンルを選んだ理由は以下のとおり。

  • 学園マンガなら予備知識や複雑な設定が不要で、誰でも描けて読める
  • 誰でも「学園生活」の経験があり、親しみやすい
  • 背景データや小道具は学校の内部と、その周辺だけで成立する
  • 服装データが、制服と教師の服だけで成立する
  • キャラクターは、最低限若い男女だけで成立する

これによってデータの絞り込みが実現して、コミPo! というソフトウェアの開発・発売の目処が立った。もちろん、それ以外のデータは、発売後にユーザーの声に耳を傾け、ニーズの高いものから追加リリースしていけばいいわけであり、ここに「追加ダウンロードコンテンツ」の市場も形成できるビジネスプランが見えてきた。

水着などコスチュームデータは別売りのダウンロードコンテンツ

水着などコスチュームデータは別売りのダウンロードコンテンツ


4. 誰でも直感的に使える
ユーザーインターフェイスの重要性

仕様が整い、素材の準備を進めるのと同時に、ソフトウェアの操作画面(GUI)のデザインと仕様が重要になる。
コミPo! が「誰でもカンタンにポッとマンガが作れる」ことを謳うのであれば、操作画面の使い勝手がよく、マニュアルを読まなくてもすぐに操作できるくらいの簡便性が要求される。つまりコミPo! には、直感的に操作できるGUIが必要だということになる。 GUIの仕様で気を配ったのは「ユーザーに、おや?っと思わせて、触ってみようと思わせる」といった導線を用意するということであった。

明るくて楽しい色合いと分かり易いアイコンで構成されたGUI

明るくて楽しい色合いと分かり易いアイコンで構成されたGUI

例えば、上の図、キャラクターの中央部にある四角と丸が組み合わさったアイコンは、思わずマウスのポインタを重ねて「動かしてみたくなる」ような形をしている。動かしてみると、上下の○は3D モデルデータを上下に動かすことができることにユーザーは気がつく。左右の○は左右の回転、中央の四角は上下左右の自由な回転、ということに気がつく。こういった「導線」を用意することで、チュートリアルを見なくともユーザーは操作を覚え、コミPo! の操作を楽しみながら、そして無意識に学ぶことになる。 また、コミPo! のGUIで気を配ったのは「ツール的」な冷たい感じではなく、「玩具的というかゲーム的」な「明るくにぎやかで分かり易い」アイコン・サムネイルになっている点である。これは、「マンガを作っている過程、操作している時も楽しいソフトウェア」を目指した結果である。


5. コミPo! の登場がマンガ界にもたらしたこと

私たちが2010年12月にコミPo! を販売開始して以来、多くのユーザーがマンガ作品をWeb上やコミケなどの同人誌即売会などで発表している。継続的にマンガ作品を発表している人の多くは「今までマンガを描いたことのない人、マンガ家に憧れていたけれど絵が描けないので諦めていた人」が大半だ。その中で、コミPo! でプロのマンガ家としてデビューしたユーザーが現れたのである。ひとりは、芥川賞作家の長嶋有氏。氏はマンガ家に憧れていたものの絵が描けないために諦めていた。氏は現在、太田出版の「ぽこぽこ」というサイトで「フキンシンちゃん」という作品を連載している。
また、もう1名、ダ・ヴィンチ・恐山氏が、ガンガンオンラインにて「くーろんず」という作品を連載している。ダ・ヴィンチ・恐山氏は、既に竹書房の「まんがくらぶ」にて「輝きジョシ子さん。」という4コマの原作をやっているマンガ原作者で、ツイッターでのフォロワーが38,000人を越えるという人気者であった。ただ、絵が描けないことから原作のみを担当してきたが、コミPo! を手にしたことでマンガ家デビューを果たすことができたのである。

ダ・ヴィンチ・恐山氏による不条理ギャグマンガ「くーろんず」

ダ・ヴィンチ・恐山氏による不条理ギャグマンガ「くーろんず」

私たちは、今後もコミPo! を使ったプロのクリエイターが誕生する可能性は高いと考えている。これは、音楽業界に例えると、楽器を生演奏するアナログ・ミュージシャンに対して、「打ち込み」と言われるDTP(デスクトップミュージック)によるデジタル・ミュージシャンの誕生期を思い起こさせる。コミPo! の登場によってマンガ制作の手法は、従来の「ペンやタブレットによる手描きから興す手法」とはまったく別の「データの組み合わせによって製作する手法」が確立された。これはマンガ製作における大きな革命であり、偉業であると自負している。


絵ごころがない人でも
マンガが描けるようになるソフトウェア

Category: Digital Imaging





PAGE TOP