20, Sep 2017

「聴くことは表現」サウンドアーティスト吹田哲二郎

スタジオ訪問日: 2017年8月30日(水)
場 所: 〒603-8312 京都府 京都市北区紫野中柏野町22番20 紫野スタジオ
関連サイト: http://rokusai.jpn.org/schedule/index.html
写 真: 金サジ・麥生田兵吾

<彫刻>のあり方を拡大してきたミュンスター彫刻プロジェクトを思い起こすいっぽう、身近な京都では、記念碑や権威の象徴のようや公共彫刻はもとより、彫刻という言葉そのものへの共感が希薄に感じられてならない。

吹田氏は、京都芸大大学院で彫刻を専攻した。が、個人による彫刻制作から、複数のアーティストや技術者との共同制作へと移行した。しかも、見て触れる実在のモノではなく、音・音響という作品での参加である。また、近年では、六斎念仏の笛奏者・演者として活躍している。彫刻とサウンドデザインとの関係、西洋的な音楽制作としてのサウンドデザインと日本の音・音の環境である六斎念仏について、かねてから一度お話を伺いたいと思っていた。吹田氏の活動全体を知ることは、1作家としての理解をより深めたいと思うだけでなく、現代の芸術のモノや環境を知る手がかりにもなると思う。8月は、盂蘭盆・地蔵盆など、六斎念仏が繰り広げられる季節だった。今夏の活動が一段落した先日、ぜひ話を聞きたいと思い、スタジオを訪ねた。

吹田氏が他のクリエイターやアーティストと共同運営する<紫野スタジオ>は、かつて西陣織の織機と人が同居していた築100年ほどの町家。吹田氏は、スタジオ、住居、参加する千本六斎会とも、西陣の暮らしや歴史と深く関わっている。千本六斎会は、重要無形民族文化財「京都の六斎念仏」を保存継承する団体のひとつだ。六斎念仏とは、平安時代中期の僧:空也上人が鉦や鉢を叩いて念仏を広めた<鉢叩き念仏>が起源といわれ、現在は、京都に念仏系・芸能系の2系統があり、14団体がある。踊念仏をメインとする念仏系に対して、芸能系では、江戸時代中期から歌舞伎や俗謡などの娯楽性が強まり、笛や獅子舞が加わったとのこと。吹田氏は、10数年前、偶然通りがかったゑんま堂から聴こえてきたお囃子に惹かれ、半年後、芸能系の六斎念仏を保存継承する千本六斎会に加わり、現在では会長を務める。

その深い関わりの背景には、子供の頃から親しんできた西洋音楽への疑問や、大学で留学生たちが各国の歌や音楽をごく自然に披露するのに対して、日本人(吹田氏)に披露できる音楽がないと気づいた経験があった。その後、日本人としての音楽的アインデンティティー探しをする中で出会ったのが六斎念仏だ。が、西洋音楽に慣れ親しんだ耳に、なかなか笛の旋律がはいってこない。最初の2年ほどは、音楽的構造が西洋音楽と異なる太鼓のリズムが頭にはいらない。歌を口伝する人もすでに無かったので、3年目頃から、本業である作曲(サウンドデザイン)を断り、録音した笛の音を繰り返し聴き、他の奏者の指の動きを見て覚えた。そして、日本の音が体にしみついたと感じた頃ようやく自然に演奏できるようになったのだという。本来に身に備わっているはずの感覚も、明治以降の文化に染まった私たちには、そのような努力なしでは蘇らない。吹田氏は、六斎念仏をつうじて、できるだけ早い時期に日本の感覚に気づけるよう、子供たちにも伝えていきたいという。失われた日本固有の文化は他にもたくさんあって、たとえば、彫刻という概念も失われたものの代用や言い訳であるかもしれない。身辺で彫刻の意味合いが希薄になったと感じるのは、平坦な世界から日本がローカリティーを再認識する時期にきたからかもしれない。

吹田氏はまた、個人制作を離れた理由として、個人による作品制作がいわば他者を排除する表現とするなら、共同プロジェクトは共同体の中で自分の位置や役割を確定する表現だといっている。数々の共同プロジェクトでは、吹田氏の存在がなくては成立しないし、六斎念仏においては、演奏するだけでなく、文化の保存継承という意味で、ひとりの存在は大きい。吹田氏は、自身の関心や探求を芸術家として誠実に進めているだけというかもしれないが、実際には、彼が接続している文化、環境、歴史は、深くて広大だ。

旧来の彫刻が空間をXYZ軸の3次元で捉えるのに対して、空間を放射状にとらえる聴覚・「聴くこと」は表現だといった吹田氏の言葉も印象的である。GPSに監視される世界の中で、身体が奏でるアナログな音は、唯一、無限で自由な空間を示しているのかもしれないと思う。サウンドアーティスト吹田哲二郎のこれからの活動に、いっそう興味がわく。
(松尾 惠 MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w)


吹田 哲二郎 SUITA Tetsujiro

1963年生まれ。音響彫刻、サウンドデザイナー。1989 年京都市立芸術大学大学院 修士課程 彫刻専攻修了。
1988年より、パソコン、電子機器、センサーなどを用いた彫刻表現に取り組む。また、サウンドによる表現領域の研究を始める。
1992年より、プロジェクト型の作家活動に移行。ソーラーカープロジェクト、映画、TV等の映像音響分野にも活動の幅を広げる。
現在、京都市立芸術大学、京都嵯峨美術大学、成安造形大学、等で非常勤講師を勤める。
近年の主な仕事に「Trouble in Paradise / 生存のエシックス:光・音・脳」(京都国立近代美術館、2010年)、「プリペアド・トレイン ―失われた沈黙を求めて : 音を巡る。ケージ音楽小旅行[音楽監督]」(京阪電鉄、2012年)、野村仁「‘Moon’score : ISS Commander GMT-131[採譜、編曲、演奏]」(アートコートギャラリー、2013年)、「ニュイ・ノワール | 夜咄[サウンドデザイン担当]」(大西清右衛門美術館、2014年)など。

「祇園囃子」の中で演じられる雀踊り。風流ものを得意とする千本六斎だけの演目。左が吹田。

「祇園囃子」の中で演じられる雀踊り。
風流ものを得意とする千本六斎だけの演目。左が吹田。

地域の地蔵盆にも奉納が行われる。

地域の地蔵盆にも奉納が行われる。

先々代より受け継がれた笛を吹く。

先々代より受け継がれた笛を吹く。

太鼓と鉦が六斎念仏の基本だが、江戸時代に笛が加わり芸能系六斎が誕生した。

太鼓と鉦が六斎念仏の基本だが、
江戸時代に笛が加わり芸能系六斎が誕生した。


「聴くことは表現」サウンドアーティスト吹田哲二郎

Category: Events





PAGE TOP