22, Dec 2017

タイムベースド・メディア・インスタレーション作品『HUMAN EMOTIONS』の修復・再制作に関する資料と議論 第1回(全4回):作品概要と制作履歴
―その作品が、その作品たり得る境界はどこなのか

AMeeTでは、美術家 山城大督によるタイムベースド・メディア・インスタレーション作品『HUMAN EMOTIONS/ヒューマン・エモーションズ』の修復・再制作に関する資料及び議論を4回に分けて掲載する。本記事の目的は2つ。1つは作家不在で再制作をしなければならない状況を想定し、記事制作を通してできる限り必要な情報を整理すること。もう1つは作品の同一性について、すなわち「その作品が、その作品たり得る境界はどこなのか」について対話・整理することで、作品の本質を明らかにすることだ。第1回目となる今回は本記事制作のきっかけとなった同作の修復・再制作に対する問題意識や、再制作における解釈のための資料としても、インタビューパートを理解するうえでも重要な作品概要及び制作履歴を掲載する。


1. 本記事制作の経緯

執筆:中本真生(MOVINGディレクター/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

この記事では美術家 山城大督によるタイムベースド・メディア(※1)・インスタレーション作品『HUMAN EMOTIONS/ヒューマン・エモーションズ』(以下、『HUMAN EMOTIONS』)の修復・再制作についての資料・及び議論(インタビュー形式)を掲載する。
最初に「なぜこうした記事を制作しようと考えたか」に触れたい。

『HUMAN EMOTIONS』のオリジナル・ヴァージョン(※2)が制作されたのは2015年2月。MOVING実行委員会が運営する映像芸術祭“MOVING 2015”の公式プログラムとして展示するために制作された。会場は、京都のアート・スペース ARTZONE。同スペースで映像が撮影、及び展示され、鑑賞者は撮影された空間の中で、撮影時に実際に設置されていたり、使用された構成要素(オブジェや照明、PAや照明機材など)に囲まれながら、撮影された映像を鑑賞した。私は、オリジナル・ヴァージョンの制作に映像芸術祭“MOVING 2015”のディレクターとして関わった。

ARTZONEで制作・展示されたオリジナル・ヴァージョン  全景 撮影:表恒匡

ARTZONEで制作・展示されたオリジナル・ヴァージョン 全景 撮影:表恒匡

同作はオリジナル・ヴァージョンの展示以降、3度再制作が行われているが、私が再制作された同作を最初に観たのは、初のフル・ヴァージョン(※3)での再制作である、ラフォーレミュージアム原宿での展示(※4)だ。この展示を鑑賞した際、いくつかの疑問が浮かんだ。

オリジナル・ヴァージョンを鑑賞した際に私は、「撮影された空間の中で、撮影時に実際に設置されていたり、使用された構成要素に囲まれながら映像を鑑賞する」ということが作品性にとって重要な要素として組み込まれていると認識した。しかし、同展の会場は撮影された空間でもないし、フル・ヴァージョンと言いつつも構成要素も揃っていない。そもそも本作をARTZONEの空間以外で再制作することは可能なのか?

オリジナル・ヴァージョンの展示では、「エレベーターで会場に向かうといった作品に至るまでのアクセスの設計」と「閉鎖された空間」が作品に集中できる環境を作り出しており、それが作品性を支えていたが、ラフォーレミュージアム原宿での展示では作品に集中できる環境作りのためのアクセスの設計がなく、閉鎖された空間も確保されていない。本当にこれでフル・ヴァージョンと呼べるのか?

ラフォーレミュージアム原宿で再制作されたフル・ヴァージョン 全景 撮影:丸尾隆一

ラフォーレミュージアム原宿で再制作されたフル・ヴァージョン 全景 撮影:丸尾隆一

これらの疑問を整理していくと、「『HUMAN EMOTIONS』が、『HUMAN EMOTIONS』たり得る境界はどこなのか」という同一性の問題に辿り着く。主にはこの同一性の問題について、本人に直接話を聞いてみたいと考え、今回の記事制作を提案した。

冒頭に「修復・再制作についての資料及び議論」と記したが、今回主にテーマにしたいのは同一性についてだ。それはすなわち「『HUMAN EMOTIONS』とは何か」を問い直すことに他ならない。この時、「モニター、プロジェクター、PAなどの機材は代替可能か」「重要なオブジェが紛失したり破損した場合、再制作が可能か」など、前述した場所性・展示空間の問題以外にも様々なことが議論の対象となる。

また、私自身は本記事を、「ただ一方的に山城の考えを聞くだけの機会」とは思っていない。作品の同一性について問い直すならば対話という形式をとるのが最適だと考え、オリジナル・ヴァージョン制作の際にキュレーターを務めた、『HUMAN EMOTIONS』の制作においては当事者でもある堤拓也にも今回のインタビューに参加してもらった。私が過去に行った別のインタビューにおいて山城は「思考は対話」と語っており(※5)、山城の人間性や普段の制作プロセスなどを加味し、山城が考えをまとめるうえでも対話という形式がより適していると考えている。

※1)「タイムベースト・メディア(time-based media)は,鑑賞が時間的に展開する媒体を指し,主にフィルム,ヴィデオ,スライド,コンピュータ,パフォーマンスなどが挙げられる。」
(石谷治寛 執筆.”タイムベースト・メディアとは”.タイムベースト・メディアを用いた美術作品を保存・修復・記録するためのガイド.参照2017-11-20.)

※2)詳細は”4-1. ARTZONEでの展示(オリジナル・ヴァージョン)”に記載。

※3)映像のチャンネル数が8チャンネル(=ARTZONEで展示されたオリジナル・ヴァージョンと同数)の展示がフル・ヴァージョン。ヴァージョンの定義の詳細は第2回に掲載予定。

※4)詳細は”4-4. ラフォーレミュージアム原宿での展示”に記載。

※5)「僕にとって思考は対話で、だから誰かに「次の作品でこういうふうにしようと考えているんだけどどう思う?」と投げかけるようなことをけっこうやるんです。その相手は妻の場合もあるし、近所に住んでいる友人作家の時もあるし。そういう状況をかなり意識的に作っていて。机のうえで作るんじゃないというか…。」
(中本真生 編集[2016].(“次代を担う若手美術家二人による初の対談 八木良太 × 山城大督 対談 [後半] ”.AMeeT.2017-11-20参照.)


中本真生 Nakamoto Masaki
中本真生 Nakamoto Masaki

1983年生まれ。愛媛県新居浜市出身、京都在住。UNGLOBAL STUDIO KYOTO代表。ディレクターを務めた『映像芸術祭 "MOVING 2015"』(2015、京都芸術センター、京都シネマ、METRO、ARTZONE、アトリエ劇研 他[京都])、『MOVING Live 0』(2012、五條會舘[京都]、キネマ旬報シアター[柏])、『みずのき絵画ALLNIGHT HAPSセレクション展』(2014 - 2015、HAPS[京都])に山城が参加している。

&ART
http://www.andart.jp/

MOVING公式WEBサイト
http://www.movingkyoto.jp/


2. 本記事の2つの目的

執筆:中本真生

目的1:スケジュールの都合や作家の死などの「作家不在で再制作をしなければならない状況」を想定し、再制作に必要な情報を整理しておく。

本記事の制作まで、これまでに山城が制作してきた全作品において、修復・再制作のための仕様書は制作されておらず、今回山城にとっても初めての試みとして仕様書制作に着手することとなった。スケジュールの都合や作家の死などの「作家不在で再制作をしなければならない状況」を想定し、再制作に必要な情報を整理しておくことは、この記事の重要な目的と言える。

ただし、補足しておきたいのは、この記事は「修復・再制作に必要となる仕様書を完成させるためのプロセスの一部でしかない」ということだ。記事制作予算の問題や、実際に現段階で同作がどこかに収蔵されるわけではないなど、様々な事情によって、必要なすべての資料制作及び議論を行うには至っていない。理想としては他メンバーも加え、今回不完全だった部分についても資料制作及び議論したい。そして、もし機会をいただけるならば、作家不在での再制作の機会を経て、その際に起こった問題をフィードバックし、そのプロセス自体を記録するところまで達成したい。

もちろん現時点でも仕様書として、ある程度は参考にできる状態になっていると思うし、記憶が不明瞭になる前に、今回のメンバーで議論ができたことは、将来誰かが修復・再制作するうえでも重要な意味を持つと考えている。また、1作品についてだけでも、作家の考えを明らかにすることは、その他の作品を修復・再制作するうえでも重要なヒントになるだろう。

さらに、仕様書を完成させるためのプロセスの記録自体も、将来修復・再制作を行う際重要になるという視点も忘れてはならない。議論自体を保存することの重要性。修復・再制作時には、この議論自体も批評の対象に成り得る。

目的2:修復・再制作について対話・整理していくことは、作品の同一性について対話・整理することでもある。そのプロセスにおいて、作品の本質を明らかにできるという期待。

“1.本記事制作の経緯”でも記したように、修復・再制作について対話・整理していくことは、作品の同一性について対話・整理することでもある。本記事の制作は、作品の本質を明らかにしようとする試みでもある。

例えば、今回記事を制作するうえでも参考にした“タイムベースト・メディアを用いた美術作品を保存・修復・記録するためのガイド”(※6)の総合監修の1人である植松由佳氏(国立国際美術館主任研究員)は、シンポジウム“創造のためのアーカイヴ 文化芸術資源の活用による新たな表現”(※7)などで、「作品を収蔵する際に行うインタビューにおいて、キュレーターなどのコンサバターが心がけること」として、「その作品のエッセンス、つまり核は何なのか」を明らかにすることの必要性(※8)を語っている。また、2014年に急逝した國府理氏の作品“水中エンジン”を再制作するプロジェクト“國府理「水中エンジン」再制作プロジェクト”のプロジェクト・メンバーである高嶋慈(京都市立芸術大学 芸術資源研究センター 研究員)氏は、同プロジェクトについて「《水中エンジン》という作品の本質性を浮かび上がらせる契機と捉えた方が、生産的ではないだろうか」と記している(※9)。

仕様書の制作を目的にすれば、インタビュー・議論はプロセスの一部かもしれないが、インタビュー・議論自体の重要性・おもしろさにも着目し、記事化することを選択した。

再制作に必要な情報を整理すること、そして作品の同一性について対話・整理し、作品の本質を明らかにすること。今回どちらの目的もある程度達成できたと考えている。

※6タイムベースト・メディアを用いた美術作品を保存・修復・記録するためのガイド

※7 “創造のためのアーカイヴ 文化芸術資源の活用による新たな表現” 2017年9月30日(土) 京都文化博物館 フィルムシアター

※8)この必要性については、2015年12月5日(土)に国立国際美術館(大阪)で開催されたシンポジウム“過去の現在の未来 アーティスト,学芸員,研究者が考える現代美術の保存と修復”でも語られている。以下は同シンポジウムのレポート記事から引用。
「とりわけ植松氏は,高谷氏に複数回のインタヴューを段階的に行なったことが重要であったと述べる。そうすることで,作家本人が制作時の意図を想起し,修復方法を検討する過程をたどることができ,作品の核となる部分を明らかにすることができたのだという。」(古川 真宏 執筆. “シンポジウム「過去の現在の未来 アーティスト,学芸員,研究者が考える現代美術の保存と修復」の報告”.京都市立芸大芸術資源研究センター WEBサイト.2017-11-20参照.)

※9)「今回の再制作品が「國府作品としての真正性を保っているかどうか」を議論するよりも、むしろ、「再制作を通して《水中エンジン》という作品の本質性を浮かび上がらせる」契機と捉えた方が、生産的ではないだろうか。」(高嶋慈 執筆[2017].“國府理「水中エンジン」再制作プロジェクトについて ―第1回(全4回):「問い」を喚起する装置としての「再制作」 ”.AMeeT.2017-11-20参照.)


3. 作品概要

執筆:中本真生

作品概要

『HUMAN EMOTIONS/ヒューマン・エモーションズ』は、美術家 山城大督によるタイムベースド・メディア・インスタレーション作品(※10)。
山城が用意したシチュ­エーションを、1歳と5歳と7歳の計3人の子どもたちに体験してもらい、7台のカメラでその様子を撮影。撮影された8つの映像を編集せず、山城が用意したシチュ­エーション内で、撮影時に配置されていたり、使用された構成要素(オブジェや照明、PAや照明機材など)と共に展示する映像インスタレーション作品である。

作品名: HUMAN EMOTIONS/ヒューマン・エモーションズ
作家名: 山城大督
素 材: ミクストメディア
時 間: 28分
制作年: 2015年

記録映像

ARTZONEで制作・展示されたオリジナル・ヴァージョンの記録映像
撮影・編集:山城大督

鑑賞スタイル

作品空間には白のパンチカーペットが敷かれている。鑑賞者は靴を脱いで入場し、カーペット上に座るなどして鑑賞する(※11)。上映中の出入りは自由。

※10)山城は2017年12月現在までに、タイムベースド・メディア・インスタレーション作品を3作制作している。1作目は『VIDERE DECK / イデア・デッキ』(2013)、2作目は『HUMAN EMOTIONS / ヒューマン・エモーションズ』(2015)、3作目は『TALKING LIGHTS / トーキング・ライツ』(2016)。これらを合わせてタイムベースド・メディア作品3部作と呼んでいる。

※11)この鑑賞方法についてはフル・ヴァージョンのみ。映像のチャンネル数が8チャンネル(=ARTZONEで展示されたオリジナル・ヴァージョンと同数)の展示がフル・ヴァージョン。ヴァージョンの定義の詳細は第2回に掲載予定。


山城 大督 YAMASHIRO Daisuke
(美術家、映像ディレクター)
山城 大督 YAMASHIRO Daisuke

撮影:表恒匡

美術家・ドキュメント・コーディネーター。1983年大阪生まれ。岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)修了、京都造形芸術大学芸術学部卒業、山口情報芸術センター[YCAM]エデュケーターを経て、東京藝術大学映像研究科博士後期課程。映像の時間概念を空間やプロジェクトへ展開し、その場でしか体験できない《時間》を作品として制作する。2013年には個人として1年間に渡って映像表現を再考する「東京映像芸術実験室」を実施。本企画より誕生した作品『VIDERE DECK/イデア・デッキ』が第18回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品に選出された。2007年よりアーティスト・コレクティブ「Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)」を結成し、他者を介入させ出来事そのものを作品とするプロジェクトを全国各地で発表している。

山城大督 公式サイト
http://the.yamashirostudio.jp


4. 制作履歴

執筆:山城大督

執筆・編集:中本真生

4-1. ARTZONEでの展示(オリジナル・ヴァージョン)

概要

MOVING実行委員会が運営する映像芸術祭“MOVING 2015”の公式プログラムとして展示されるために制作された。共催・制作・会場は、京都造形芸術大学アートプロデュース学科が授業の一環として運営するアート・スペース ARTZONE。同スペースで撮影・初展示された。なお、以下4点は2017年12月現在までの全展示の中で、オリジナル・ヴァージョンだけにあった特徴となっている。

  • 鑑賞者は映像が撮影された空間の中で、撮影された映像を鑑賞した。
  • 撮影時のARTZONE2階の状態から、ほとんど差し引きのない状態で展示を行った。つまりオブジェや照明、PAや照明機材などあらゆる構成要素が撮影時の状態で展示された。
  • エレベーターを使って2階に上がり、さらに薄暗い空間を通ってから、『HUMAN EMOTIONS』の展示空間に入るような導線となっていた(ARTZONEは1階、2階に展示スペースを有する施設だが、『HUMAN EMOTIONS』は2階に展示されていた)。
  • ARTZONEの1階には、山城個人名義としては『HUMAN EMOTIONS』の前作にあたる、タイムベースド・メディア・インスタレーション作品『VIDERE DECK /イデア・デッキ』のシングルチャンネル・ヴァージョンが資料展示的に展示されていた。
展覧会名: 山城大督個展『HUMAN EMOTIONS/ヒューマン・エモーションズ』
参加フェスティバル名: 映像芸術祭“MOVING 2015”
※公式プログラムとして展示
展示期間: 2015年2月6日(金)~22日(日)
会 場: ARTZONE
京都府京都市中京区 河原町三条下ル一筋目東入ル大黒町44 VOXビル1・2F
ヴァージョン: オリジナル・ヴァージョン
フル・ヴァージョン(※12
展覧会情報: http://artzone.jp/?p=1685
記録映像

撮影・編集:山城大督

記録写真
全景 撮影:表恒匡

全景 撮影:表恒匡

2階入口壁面 撮影:表恒匡

2階入口壁面 撮影:表恒匡

写真下部に映っている3つの小さい椅子などは、2017年12月現在までに行われた全ての再制作で設置されていない構成要素。 撮影:表恒匡

写真下部に映っている3つの小さい椅子などは、
2017年12月現在までに行われた全ての再制作で設置されていない構成要素。
撮影:表恒匡

切り株上の枝、どんぐり、石、ガラス玉の数量、配置は展示毎に異なる。 撮影:表恒匡

切り株上の枝、どんぐり、石、ガラス玉の数量、配置は展示毎に異なる。
撮影:表恒匡

図面
図面

本記事掲載にあたり、当時の図面を参考に山城が制作。 PDFで閲覧する

制作メンバー
出演: 高橋樟馬、ヒル アラーニ けい、山城丗界
サウンド・パフォーマンス: 中川裕貴
音 楽: 安野太郎
音 響: 伊藤良平
撮 影: 浅野豪、有佐祐樹、小崎高司、嶋田好孝
映像システム: 岩田拓郎、時里 充
協 力: 高橋静香、ヒル薫子、耕三寺顕範
インストーラー: 高橋和広(Kusunoki Works)
グラフィックデザイン: 仲村健太郎
キュレーター: 堤 拓也(ARTZONEディレクター)
アシスタント・キュレーター: 近藤由佳(京都造形芸術大学 アートプロデュース学科3回生)、中原愛奈(同2回生)
制作アシスタント: 青山 南、新井優希、川濱暢也、耕三寺顕範、島田真親、深見悠介、藤本悠里子、宮浦亜央衣、­山口玄汰稜
制作協力: 野田智子(一本木プロダクション)
クレジット(※13
主 催: MOVING実行委員会
共催・制作: ARTZONE
協 力: 京都造形芸術大学 映画学科、同アートプロデュース学科
共 催: 京都芸術センター
後 援: 京都市
協 賛: 株式会社 資生堂、Q-Games Ltd.
助 成: 公益財団法人 花王芸術・科学財団、公益財団法人 三菱UFJ信託地域文化財団、一般財団法人ニッシャ印刷文化振興財団
撮影のシチュ­エーション

ARTZONEの2階にスタジオセットを設置(このセットはそのまま展示空間となった)。そこに、1歳と5歳の男の子、7歳の女の子の3人に入場してもらう(3人は何が起こるか聞かされていない)。古い時計でつくられたオブジェ(子どもたちが“時計くん”と命名)を通して子どもたちに別室から“指示”を出し、事前に山城が考案したいくつかの出来事を子どもたちが体験する様子を7台のカメラで撮影した。

“時計くん”と命名されたオブジェ。 撮影:表恒匡

“時計くん”と命名されたオブジェ。 撮影:表恒匡

撮影時の様子

時計くんは、「キラキラ光る球で遊んでごらん」「お菓子を食べていいよ」「(7歳の女の子に)バイオリンを弾いてよ」などと語りかけ、終盤まで子どもたちはそれに従い穏やかな時間を過ごしていた。だが、時計くんの指示に素直に従う7歳と5歳の子どもに対し、次第に1歳の子どもは自分の好奇心のままに動きはじめた。最終的には自分の行動を制御された1歳の男の子が泣き出し、その泣き声が大きくなっていく中で撮影は終了した(※14)。

制作時の写真
撮影前日の会場の様子。 撮影:山城大督

撮影前日の会場の様子。 撮影:山城大督

撮影本番時を捉えた定点カメラのキャプチャ画像。

撮影本番時を捉えた定点カメラのキャプチャ画像。

制作時のその他資料
撮影時における「時計くん」と「子ども3人」のコミュニケーションの構想ドローイング

撮影時における「時計くん」と「子ども3人」のコミュニケーションの構想ドローイング

映像同期システム図(実際の展示ではMacを再生機器の台数分用意して同期した)

映像同期システム図(実際の展示ではMacを再生機器の台数分用意して同期した)

撮影時のスタッフ配置図と撮影方法プラン

撮影時のスタッフ配置図と撮影方法プラン

撮影の様子と展示のイメージドローイング

撮影の様子と展示のイメージドローイング

※12)映像のチャンネル数が8チャンネルの展示がフル・ヴァージョン。ヴァージョンの定義の詳細は第2回に掲載予定。

※13)「共催:京都芸術センター」以下のクレジットはすべて映像芸術祭“MOVING 2015”全体にかかるクレジット。

※14)撮影時の様子については、『HUMAN EMOTIONS』についての山城へのインタビュー記事“映像芸術祭『MOVING2015』参加作品 『HUMAN EMOTIONS/ヒューマン・エモーションズ』 山城大督インタビュー 後編 ”.の2ページ目で本人が語っている。


4-2. Parades Galleryでの展示

概要

awaiが企画した山城大督『The Projected Image Laboratory』展にて発表。会場は長野県松本市のParedes Gallery。

オリジナル・ヴァージョンの映像は全8チャンネルあるが、そのうちの時計くんの映像(※15)を除く7チャンネルについて、山城がシングルチャンネルに再編集。時計くんの映像とともに、2チャンネルの映像インスタレーションとして構成された。シングルチャンネル・ヴァージョンとしては初の展示となる。

なお会場のサイズの都合により、映像以外の構成要素も選定して配置された。また、オリジナル・ヴァージョンとは異なり、白のパンチカーペットが敷かれておらず、鑑賞者は靴を履いたまま鑑賞した。

展覧会名: 山城大督『The Projected Image Laboratory』展
展示期間: 2015年5月23日(土)〜31日(日)
会 場: Paredes Gallery
長野県松本市中央3-10-7
ヴァージョン: Reconstuction matsumoto ver.
シングルチャンネル・ヴァージョン(※16
展覧会情報: https://awaiartcenter.tumblr.com/post/117576163882/the-projected-image-laboratory
記録写真
全景。向かって右手のモニターで再生されているのが、7チャンネルの映像を1つに再編集したメインの映像。向かって左手の、壁面に投影されているのが時計くんの映像。 撮影:岡田和奈佳

全景。向かって右手のモニターで再生されているのが、7チャンネルの映像を1つに再編集したメインの映像。
向かって左手の、壁面に投影されているのが時計くんの映像。
撮影:岡田和奈佳

外観(『The Projected Image Laboratory』展 開催時) 撮影:岡田和奈佳

外観(『The Projected Image Laboratory』展 開催時)
撮影:岡田和奈佳

展示スペースに受付とカフェスペースが隣接していた。 撮影:山城大督

展示スペースに受付とカフェスペースが隣接していた。
撮影:山城大督

図面

本記事掲載にあたり、当時の図面を参考に山城が制作。 PDFで閲覧する

制作メンバー
展覧会企画: 茂原奈保子
映像編集: 山城大督
クレジット
企 画: awai
協 力: Parades Gallery、Give me little more.、古道具 燕

※15)撮影時には時計くんの実物がモーターで動いており(別室からリモコンで操作していた)、展示においても実物の時計くんが動くことが理想とされている。しかし、時計くんを動かすモーターを自動で制御する仕組み作りが整っていないという事情で、オリジナル・ヴァージョンも含めた、2017年12月までのすべての展示において、実物の時計くんを動かすことはできていない。その代わりとして、2017年12月までのすべての展示において、動かない実物の時計くんと共に、動いている時計くんの映像がプロジェクターで投影されている。

※16)映像のチャンネル数が2チャンネルの展示がシングルチャンネル・ヴァージョン。ヴァージョンの定義の詳細は第2回に掲載予定。


4-3.Nam June Paik Art Centerでの展示

概要

Nam June Paik Art Center(韓国・ソウル)にて開催されたグループ展『Wrap around the Time』にて発表。同展はナム・ジュン・パイクの作品と若手作家の作品を対で展示するという企画で、ナム・ジュン・パイクの作品及び若手作家は複数のキュレーターにより推薦された。山城は高橋瑞木氏(MILL6 Foundation 共同ディレクター)により選出されている。対となるナム・ジュン・パイクの作品としては《ロボット K-456》が出品された(※17)。

シングルチャンネル・ヴァージョンとしては2度目の展示となるが、Parades Galleryでの展示と異なる部分として、メインの映像をプロジェクターで投影した点、映像に英語&韓国語の字幕を加えた点などがある。

またParades Galleryでの展示と同様に、会場のサイズの都合から、映像以外の構成要素も選定して配置されており(※18)、さらに白のパンチカーペットが敷かれておらず、鑑賞者は靴を履いたまま鑑賞した。

なお、スケジュールの関係上、搬入時に山城は現地に行っておらず、山城の指示により現地スタッフが展示作業を行った。山城が現地に行かずに展示を行った機会としては、2017年12月現在においては唯一となっている。

展覧会名: 『Wrap around the Time』
展示期間: 2016年1月29日(金)〜2016年7月2日(土)
会 場: Nam June Paik Art Center
10 Paiknamjune-ro, Giheung-gu, Yongin-si,Gyeonggi-do, 17068 Korea
ヴァージョン: シングルチャンネル・ヴァージョン(※19
英語&韓国語字幕入
展覧会情報: https://njpac-en.ggcf.kr/archives/exhibit/the-10th-anniversary-remembrance-exhibition-of-nam-june-paik-wrap-around-the-time
記録写真
全景。メインの映像がプロジェクターで投影されている。 撮影:山城大督

全景。メインの映像がプロジェクターで投影されている。
撮影:山城大督

図面

Nam June Paik Art Centerでの再制作時、展示作業マニュアルのために制作 PDFで閲覧する

制作メンバー
キュレーター: 高橋瑞木
プロダクション・
マネージメント:
野田智子(一本木プロダクション)
翻訳: ヒル薫子
英語字幕: 丹羽彩乃

※17)「《ロボット K-456》が自動車にはねられて史上初の交通事故犠牲ロボットになる」というパフォーマンスの記録映像と実機が展示された。

※18)Parades Galleryでの展示とは、選ばれた構成要素が異なっている。Nam June Paik Art Centerでの展示の方が構成要素が多い。

※19)映像のチャンネル数が2チャンネルの展示がシングルチャンネル・ヴァージョン。ヴァージョンの定義の詳細は第2回に掲載予定。


4-4.ラフォーレミュージアム原宿での展示

概要

ラフォーレミュージアム原宿(東京)にて開催されたグループ展『IAMAS20 Calculated Imagination IAMASが発信するメディアアート展』にて発表。同展は、ラフォーレ原宿とIAMASが共同で企画し、IAMASの卒業生、教授陣が出展・参加した。

フル・ヴァージョンでの再制作は初であり、2017年12月現在においては唯一となっている。

可能な限り完全な状態で設置することが目標とされたが、会場のサイズ、展覧会の構成の都合により、展示空間のサイズや壁の構成をオリジナルから改編。設置するオブジェの数も減らされた。映像や照明、音響機器は一部、IAMAS所有機材の中から選択されている。

展覧会名: 『IAMAS20 Calculated Imagination IAMASが発信するメディアアート展』
展示期間: 2017年3月10日(金)~2017年3月16日(木)
会 場: ラフォーレミュージアム原宿
東京都渋谷区神宮前1丁目11番6号ラフォーレ原宿6F
ヴァージョン: フル・ヴァージョン(※20
展覧会情報: https://www.laforet.ne.jp/museum_event/iamas/
記録写真
全景 撮影:丸尾隆一

全景 撮影:丸尾隆一

オリジナル・ヴァージョンで時計くんの前に設置されていたマイク、マイクスタンド、小型スピーカー、3つの小さい椅子などがない。またモニター、プロジェクターやモニター台などは、IAMASの所有機材の中から選択したものであり、オリジナル・ヴァージョンで使用していた機材と異なる。 撮影:丸尾隆一

オリジナル・ヴァージョンで時計くんの前に設置されていた
マイク、マイクスタンド、小型スピーカー、3つの小さい椅子などがない。
またモニター、プロジェクターやモニター台などは、IAMASの所有機材の中から選択したものであり、
オリジナル・ヴァージョンで使用していた機材と異なる。
撮影:丸尾隆一

切り株上の枝、どんぐり、石、ガラス玉の数量、配置は展示毎に異なる。撮影:丸尾隆一

切り株上の枝、どんぐり、石、ガラス玉の数量、配置は展示毎に異なる。
撮影:丸尾隆一

図面

ラフォーレミュージアム原宿での再制作時、キュレーターに展示プランを提示するために制作 PDFで閲覧する

制作メンバー
キュレーター: 伊村靖子、高尾俊介
映像システム: 時里充
設営協力: 耕三寺功三
クレジット
主 催: 情報科学芸術大学院大学[IAMAS]、ラフォーレ原宿

※20)映像のチャンネル数が8チャンネル(=ARTZONEで展示されたオリジナル・ヴァージョンと同数)の展示がフル・ヴァージョン。ヴァージョンの定義の詳細は第2回に掲載予定。


主な参考資料

『HUMAN EMOTIONS』に関する参考資料

修復・再制作に関する参考資料

記事制作者(第1回)

監修・編集・
執筆(1~4章):
中本真生(MOVINGディレクター/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)
執筆(4章)・
編集協力:
山城大督
編集協力: 堤 拓也(キュレーター、デザイナー)
協 力: 野田智子(一本木プロダクション)

タイムベースド・メディア・インスタレーション作品『HUMAN EMOTIONS』の修復・再制作に関する資料と議論 第1回(全4回):作品概要と制作履歴
―その作品が、その作品たり得る境界はどこなのか

Category: Feature





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