18, Aug 2015

Arts + Material
意識を拡張する、楽器インターフェースと日々思考すること

Arts(芸術)の世界において、数多のMaterial(素材)はArtist(作家)によって作品へとされ、新たな価値を得る。そしてArtistの精神を表すものとしてのMaterialとArtistの間にはそれぞれの物語が存在するのではないか。本稿ではMaterialとArtistのみならず、その間に存在するInstruments(道具)を軸としながら、作品と作家の間にあるものを探り、アートの世界を楽しむ一助としたい。

聞き手:竹中 寛(Design Management)

1. 楽器

「どんな音楽がお好きですか?」

私と今回のアーティストの金箱氏との話題のとっかかりの第一声だった。
インタビューの前の事前打ち合わせの電話でお話しした際のことである。
そのきっかけは、楽器を自作して表現活動を行うアーティストである彼は自らを「Musical Interface Researcher、performer(楽器インターフェース研究者、演奏者)」と紹介していたからだ(※1)。そして作品として「楽器」を制作し、音を体全体で楽しむ方法を研究・実践しているアーティストである彼への私の率直な興味でもあったからでもある。

一般的に楽器はアーティストが音楽を演奏することで、アートとして成立するものであるし、私的な印象でいえば、創作楽器(※2)のように楽器そのものがアートの鍵として存在する例が過去にあるとしても、例えばかなりコンセプチュアルな解釈があるものか、ブリコラージュ(※3)的な文脈の中に存在する印象だった。つまり「楽器」そのものがその主役であった印象がとても弱かったのだ。

彼の作る楽器を彼は「共遊楽器」と呼んでいる(※1)。これは彼の造語で、障がい者と健常者がともに遊べるおもちゃ「共遊玩具」が発想のヒントになっている。電子工作的な要素があるからでもなければ、インタラクティブな要素が過分に含まれているからということでもなく、それはこれまでの私の狭い認識の中にあったアートシーンで見かけた「楽器」とは異なるものだった。

「共遊楽器」の考え方についてはTEDxでの金箱氏のプレゼンテーションで詳しく紹介されているのでそちらを参考にしていただいて(※1)ここでは、楽器インターフェースである「共遊楽器」を作ることで金箱氏が研究したいものとは何なのか?彼と楽器や音楽との関わり方を絡めながら(彼の音楽の好みまで含む)「Musical Interface Researcher、performer(楽器インターフェース研究者、演奏者)」に至るまでとその先を伺います。

TEDxでの金箱氏

TEDxでの金箱氏

※1)「共遊楽器」について | Junichi Kanebako | TEDxMatsumoto
https://www.youtube.com/watch?v=dqR1xoloSpM

※2)「創作楽器」アートワードfrom artscapeより
創作楽器とは、既存の楽器を改造し、あるいはまったく新しく作られた楽器のこと
http://artscape.jp/artword/index.php/
%E5%89%B5%E4%BD%9C%E6%A5%BD%E5%99%A8

※3)「ブリコラージュ」アートワードfrom artscapeより
フランス語の「bricoler」(素人仕事をする、日曜大工をする)から。ありあわせの手段・道具でやりくりすること。「手仕事」「器用仕事」とも訳される。
http://artscape.jp/artword/index.php/%E3%83%96%E3%83%AA%E3%82%
B3%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A5


金箱淳一 JUNICHI Kanebako
金箱淳一 JUNICHI Kanebako

1984年
長野県 北佐久郡浅科村(現佐久市)生まれ

2006年
岩手県立大学ソフトウェア情報学部卒業後、情報科学芸術大学院大学入学
「コンピューターの存在を感じさせないインターフェース」の制作を目標に研究を行う。大学院1年次にオーストリア、リンツ美術工芸大学に交換留学生として派遣。メディアアーティストのクリスタ・ソムラー/ロラン・ミニョノーらに師事。

2008年
情報科学芸術大学院大学修了
その後玩具会社の企画開発部門、美術大学の助手を経て、現在は筑波大学博士課程後期に在学中

photo by YOSHI KATO

2007年
DIGITAL ART AWARDS 2007 インタラクティブ部門 特別賞

2007年
第13回学生CG コンテスト インタラクティブ部門 佳作

2007年
第11回文化庁メディア芸術祭 エンターテイメント部門 審査委員会推薦作品

2007年
2007 Asia Digital Art Award デジタルデザイン
( 産業応用) 部門 優秀賞

2011年
平成23年度人にやさしい街づくり賞|愛知県

2011年
2011 Asia Digital Art Award インタラクティブアート部門 入選

2012年
2012 Asia Digital Art Award エンターテイメント部門 入選

2013年
YAMAHA Graphic Grand Prix 優秀賞

2013年
第19回学生CG コンテスト Campus Genius Award BRONZE(審査員賞)

2013年
2013 Asia Digital Art Award エンターテイメント部門 大賞, 経済産業大臣賞

2014年
玩具福祉学会賞 実践賞 大賞

2014年
2014 Asia Digital Art Award エンターテイメント部門 入選

2014年
FUKUOKA Creators Award 2014 審査員特別賞

2014年
福岡ビジネス・デジタルコンテンツ賞 奨励賞


2. Mountain Guitarに至るまで

金箱氏の代表作の一つに「Mountain Guitar(マウンテンギター)」(第11回文化庁メディア芸術祭 エンターテイメント部門 審査委員会推薦作品)がある。

Mountain Guitar ver.6

Mountain Guitar ver.6

弦が無く、持ち上げる角度や構える高さで音程が変わるこの楽器は、ギターが弾けなくても、弾いている楽しみを体感できる「楽器」として、音楽を演奏する楽しさを表現している作品である。
またこのMountain Guitarは氏の「楽器」としての初作であり、現在の彼の作品制作のテーマにも深く影響している。まず、氏がメディアアートを表現の手段とすることになった経緯からMountain Guitarを完成させるまでを伺った。

インタビュー前半は金箱氏おすすめのつくばの洋食屋さん「サロン デ サン」にて

インタビュー前半は金箱氏おすすめのつくばの洋食屋さん「サロン デ サン」にて

――メディアアートとかかわりを持ったキッカケは? (金箱)
大学ではソフトウェア情報学(情報工学)を専攻していましたが、情報工学だけでやっていくのは何か違うと思っていた大学三年の時、先生がMITメディアラボの石井裕先生(※4)の映像を見せてくれたんですね。情報工学の世界って画面の中だけの話じゃなくて、画面の外にも広がっていく、そんなアウトプットの未来が石井先生の研究からいくつも見えたんです。
その時何故か妙に安心したんですよ。「あ、僕大丈夫かも!」と思いました。自分は工作が得意だったので、それと学校で学んでいる技術を組み合わせると、画面の中と外の世界を繋ぐような取り組みができるかも知れないと思ったんです。それで、そういう研究ができる学校を調べていたらIAMAS(イアマス:情報科学芸術大学院大学(Institute of Advanced Media Arts and Sciences))が見つかりました。

――そこで(メディアアートに)つながった? (金箱)
ここで(メディアアートに)つながりましたね。入学当時は、ずばりメディアアートをやろうと考えてはいなくて、情報工学の延長として研究ができればいいなぁという気持ちでしたね。
その年の夏休み、ある作品から強い衝撃を受けたのが、作る事の始まりだったように思います。

※4)石井裕
MITメディアラボ タンジブルメディアグループ 教授。情報工学の研究者 1956年生まれ。タンジブル・ピット研究の創始者。
http://tangible.media.mit.edu/person/hiroshi-ishii/
金箱氏が大学生時に見た作品は建築空間の中において情報を風というメタファーに置き換えて風車を回した作品アンビエント・ディスプレイ「Pinwheels」
http://tangible.media.mit.edu/project/ambient-fixtures/


――その作品とは? (金箱)
IAMASの1年生の時に友達と越後妻有へ行ったんですよ(大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ)その時にクリスチャン・ボルタンスキー(※5)の心臓の鼓動に合わせてライトの明かりが変わる作品(最後の教室)(※6)を見たときです。
作品と呼ぶにはあまりに巨大な建物の中を観終わって外に出た時に「作品の終わりってどこにあるのかなぁ?」と考えたのがきっかけです。
藁敷きのやわらかい床と明かりのぼんやり感に自分も浮遊している感覚になって、インスタレーションを鑑賞する時、体験の終わりってどこにあるんだろう?と。そんな疑問からモノづくりの興味が湧いてきたと思います。

――で、マウンテンギター? (金箱)
それはIAMASの授業でおもちゃを作るプロジェクト(ガングプロジェクト)(※7)があったからですね。音楽も好きだったので、楽器のおもちゃのスケッチを描いて名前を決めたら、先生も「名前がカッコいいから、作っちゃえ!」と即決でした。その時ツールキットのGainer(ゲイナー)(※8)が発展してきた時期で、Gainerを使ったプロトタイピングに適した作品だったのです。
そういうこともあって、楽器に関連した研究を集中して行うことができました。でも、IAMASの場合、修士号を取るには作品と論文が両方必要なのですが、ひとつテーマを決めて論文を書くことを考えた時に「Mountain Guitarじゃないんだろうなぁ」と思ったんです。

――違った? (金箱)
違いましたね。
入学してまずは一つ、楽器を作ってみたけど、もう少し掘り下げて考えたほうが面白いものが出来るんじゃないかなぁって。そこから、僕の作ったMountain Guitarって何だったんだろうって考え出したら「振動」につながったんですね。

――飛びますね。 (金箱)
振動をテーマにした研究につながるきっかけがあったんです。Mountain Guitarを展示したときに「楽しいけど、ギターを弾いている感覚が無くて違和感がある」というコメントをくれた人がいたんですよ。その時に、楽器を弾いている感覚はどこから来るんだろうと考えたんです。
大抵の楽器って演奏した時に振動してるじゃん、でもMounitain Guitarは振動しない。音は空気の振動だから、「振動」を使ったコミュニケーションってできないのかなぁ、というところから新しく楽器を作ってみよう。ということになって。そこがきっかけとなって、今は振動で音楽が持つ楽しさがどれだけ伝えられるかを研究しています。(音楽を他のメディアに変換して楽しむ)。
あの展示から掘り下げて考えてなかったら、Mountain Guitarの新しいバージョンを作って修了して、今の研究もなかったんだろうなと思います。

音紙相撲(行司の気持ち)

音紙相撲(行司の気持ち)

音の可視化の試作例。つくばに引っ越したての時に頂いた、スピーカーの振動を使った紙相撲で音の可視化を試みた。「はっけよい、のこったのこった」をマイクでしゃべるとその声でスピーカーが震え、紙相撲ができる。

※5)クリスチャン・ボルタンスキー
フランス人現代アーティスト、1944年生まれ。
ユダヤ人の父親が差別を受けた経験などから、「生と死」をテーマにした作品を多く発表している。

※6)最後の教室
2006年 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレにおいて、クリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマンによって発表されたインスタレーション作品。
(https://www.youtube.com/watch?v=gKwaXzJm6D4)
2015年7月現在観覧可能な日程ありとのこと、詳細は下記URLをご参照ください。
http://www.echigo-tsumari.jp/artwork/the_last_class

※7)ガングプロジェクト
http://www.iamas.ac.jp/research/2009/07/2.html

※8)Gainer(ゲイナー)
電子工作的なプロトタイピングを容易にすることを目的に開発された(フィジカル・コンピューティングを実現するためのオープンソース・ハードウェア)、I/Oモジュールとそれを制御するソフトウェアライブラリから構成されたツールキットの総称。
http://gainer.cc/


楽器、音楽、コミュニケーション、探求、観察

――作品は表現?それとも研究(探究)の一環?
何となくで見てしまうと、金箱さんはパフォーマーに見えるけど?
(金箱)
表現と研究の切り分けが難しいけど、気になるテーマを基に探求した結果が表現になるというか。僕も実際は、それほど楽器の演奏歴が長いわけでは無いんです。演奏も好きですが、演奏を聞いて楽しんでいる人を見ているのが好きなんです。

――音楽というと、パフォーマンスを楽しむというのが一般的で、聞く側が演奏に使われる楽器や技法にこだわることが減っているという話をあるアーティストのコメントで聞いたことがあります。 (金箱)
プロの演奏者だと、一人でスタジオに入って黙々とエフェクターをいじってみるとか、そういった試行の結果がパフォーマンスにフィードバックされているので、そのこだわりに気づいてほしいという部分もあるのだと思います。
この部分は研究でも一緒で、突き詰めて考えながら手を動かした結果が作品にフィードバックされていると思います。

――パフォーマーって楽しませることが目的にあると思う、しかし探求する人にとっては楽しいのは結果論であって、金箱さんにとってはそこに至るアプローチや試みが重要という気がします。 (金箱)
演奏者しか味わえない、演奏の時の心地よさが観客も共有できたらいいなと思います。演奏者と観客のちょうど中間の感覚(まるで楽器に触れているように聴く、みたいなこと)を提示出来る楽器を作るのが、今の研究のテーマです。これができれば、耳で聞くだけじゃない音楽の楽しさが伝わる気がします。僕は情報工学がバックグラウンドですが、もし仮に自分のやりたいことがアナログの機構で実現できるなら、それでも良いと思っています。
電子的な機器を使うこと自体へのこだわりは特にないんです。例えば相手に振動が伝わるのなら、空っぽの長い箱のような木のベンチでかまわない。メディアアートでは使う道具や作り方が注目されることが多いですが、それを意識することが無いですね。

――その中間点ってどうやって探るのですか? (金箱)
探り方でいえば、自分が中間点(メディア)だと思ったものを実際に作って他の人に体験してもらって、それを観察する。そういう泥臭いやり方です。

――観察って何? (金箱)
展示の時、作品の近くにいて鑑賞者の反応を見る。そして時々、話しかける。その人の振る舞いや目線、反応すべてを見る感じです。その時の気付きが大切だと思います。 展示は言わば「自分が作ったものとはどんなもだったのか」ということの確認行為ですね。観察も含めてしっかりやることが次につながると思います。自分のこれまでの作品作りもこの繰り返しだったから。
作家という立場に立ったら、作品を設置(インストール)した時点で、完了するのが自然かもしれないけど、僕の場合は作品が「道具」寄りなので、人に触れてもらってなんぼと思っているところもあります。楽器を体験する人を見ていると、また新しい作品が見えてくる気がします。

――それは、越後妻有のボルタンスキーの作品を見た時に感じた「作品の完成はいつなのか?」という体験の時の感想がありましたけど、その話を伺うと金箱さんの作品はまだどれも完成というわけでは無い気がします、完成したいということではない? (金箱)
「もの」としてはちゃんとした(作品として成立するクオリティの)ものを常に作りたいと思っていますが、これが最終形だと結論付けるところまでは至っていないですね。

――アーティストにとっての作品作りって、自分の表現したいものを形にしたい、形にして理解したいという側面もあると思うのですが、金箱さんの表現の場合は、制作と確認作業の往復がとても大事な部分に見えてきました。 (金箱)
たぶん、考えるために作っていると思うんですよ。表現するためというよりも考えるためですね。そして、作るためには調べて考えなくちゃいけない。そんなループが自然に循環しているとは思います。


――考えるのが好き? (金箱)
考えるの好きです、で手を動かすのも好き、ここも時間かけるところですけど。次の考えを見つけるために作る、次の作品の為に作る感じでしょうか。

――探求が好きですね (金箱)
そうですね。なので、いろいろ作品のことを話して「そうかそうか」で納得してしまう人とはあまり話が盛り上がらないかもしれません。「なんでなんで」系の人と気が合いますね。

――探求型アーティスト、、見た目は金箱さんが目立つの好きなパフォーマーに見えますけど中身はそうじゃないですね。 (金箱)
伝える手段にこだわりがないんだと思います。ライブパフォーマンスでも、学会でも、プレゼンテーションでもいい。言葉で伝えられれば作品という形がなくても良いとさえ思う時があります。でも、体験というのは展示以外で伝えるのはなかなか難しいですね。

――コミュニケーションという一言では伝えにくいですね。漠然としすぎていて (金箱)
自分が何故楽器が好きなのかといえば、楽器をただ一人で黙々と演奏するのが好きということではなく、誰かと演奏するのが好きだからですね。

――手段ですかね。 (金箱)
そうですね。

――なんていうんだろ、議論が好きとかスポーツで対戦するのが好きとか。もっと極端な言い方をすれば、マンガっぽいけど殴り合った後に友情が芽生えるというか 殴り合うことで気持ちを伝えあうような感じとでもいえばいいのか…。作品の目的そのものがインタラクティブであることにとても心血を注いでいるように見えます。 (金箱)
ああ~わかる。これは自分の強みだと思っているんですが、制作でどれだけ大変でも苦しいとは思わないんですよ。
例えば、光る石 the blink stone(※9)も2000個ほど作りましたけど、「こりゃ数多いなぁ」って思ったくらいで苦しいとは思わない。手を動かしている時に何かを考えつくこともあるから。もちろん、あの時は数が数なので色々な方にお手伝いいただいて、本当に感謝してます。

光る石 the blink stone photo by bozzo

光る石 the blink stone photo by bozzo

――一人で2000個は多いですよ。ポジティブマインドですね、イイですね。 (金箱)
目標を見つけて大学院(IAMAS)に行ってからは、制作に対してネガティブになることは一切ないですね。大学時代は若かったせいもあって、その時取り組んでいた学問と社会と自分の接点がなかなか見い出せずにいました。その時期が一番苦しかった。「これを勉強しても自分にとって何になるんだろう?」ってずっと悩んでいたから。でも今は、意識しなくても接点がすごくたくさん見つかるんです。もう一度四大に入り直してしっかり勉強したい気分です。

2000個!の光る石作成の現場

2000個!の光る石作成の現場

※9)the blink stone/首藤圭介・金箱淳一
http://tok-led-artfest.net/works/works-public/the_blink_stone/


インターフェース

――そういえば、光る石は楽器じゃないですね。 (金箱)
研究の主軸は自分の中にあって、光る石はまた別ものとして考えています、元々は今も一緒にやっている首藤圭介さん(※10)の発案だったので。彼のアイデアに驚きつつ、技術的な側面から関わりました。この時の制作経験から、自分の意識の枠がすこし広がった気がして「こういう経験ができるのなら、他の人とも一緒に作ってみよう」と他の人とも一緒に制作することも増えてきました。
主軸の研究とそれ以外とで分けて考えようと思いましたが、実はお互いに接点があるんでしょうね。

――光る石はインターフェースじゃないのですか? (金箱)
光る石について、首藤さんの言葉を借りれば、「石からみた、ものすごく長い時間軸からみた人間の一生」を考えるための接点(インタフェース)といったところでしょうか。
角ばった岩が、まるっとした石の形になるまでにかかった時間と、人間の一生を相対的に見てみたら、人間の一生ってものすごく短い。本当に瞬く間で、パッって位のものなのだろうなって。
「ゾウの時間、ネズミの時間」(※11)という本の中で語られているように、サイズによって寿命が違ったりすることも考えると、普段僕らの考える時間軸って人間基準でしかないなぁと。もしそれが無機物(しかも石!)からの視点だったらどうだろうね?という話が面白くて、首藤さんとは同意しましたね。

――インターフェースは入り口? (金箱)
たぶん体験の「キッカケ」だと思います。
作品自体が、ひとつの考えに至るインターフェースになることは十分にあり得ます。例えば、僕がボルタンスキーの作品に出会って興味や疑問を抱いたとき、彼の作品は僕自分が思考するための、もしくは自分に語りかけるためのインターフェースになると思うんです。
そう思うと、やっぱり自分は考えるために作っているのだと思います。

――ちょっと整理したいのですが、一般的にインターフェースと聞くと入り口的な感覚があると思います。私がいわゆるPC用語としてのインターフェースになじんでいる世代なのかもしれませんが、プラグを刺すところというか。何かに繋ぐところの最初の接点というか。
金箱さんのお話を伺っていると、接点とはちょっと違うのかな?と。
(金箱)
大学時代の僕の恩師が藤田ハミド(※12)先生というのですが、ある日先生が僕に英語の雑誌をくれたんです、英語は大して読めなかったのですけど、表紙には「the disappearing computer」(※13)と書いてあったんですね。
はじめこのタイトルを見た時、え?コンピューターが消えるってどういうこと?と思っていましたが、今だったらそれほど違和感のない話なんですよね。インターフェースの実態も、例えばマウスやキーボードがインターフェースなのかと言ったらそうじゃなくて、たぶん概念上のものなんだと思う。
例えば、マウスを右に動かしたら画面上の矢印も右に、みたいな感覚そのものがインターフェースなんじゃないかと思う。僕は自分の作品を「楽器インターフェース」って言っていますけどわざわざ「インターフェース」だけにしないのはそういうところもある。
楽器は道具なんですよね、どこまで行っても道具。

――それは「概念」なんですか? (金箱)
概念なんじゃないのかなぁ?ちゃんと考えたことがなかったなぁ。

――初めは楽器がインターフェースって見ていたんですが、お話を伺うにつれて金箱さんにとってインターフェースて何なんだろう?という気がしてきます。そんな金箱さんのインターフェース観が作品制作のメインテーマになっているように思います。 (金箱)
新しい入力装置を作りたいから研究している訳では無くて、音楽と人間の関係性を考えるきっかけの一つとして楽器を研究しているという位置づけです。

※10)首藤圭介
造形作家 女子美術大学非常勤講師 1978 年, 大分県大分市生まれ

※11)ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学
本川 達雄 著 1992年

※12)藤田ハミド
岩手県立大学 ソフトウェア情報学部 ソフトウェア情報学研究科,教授

※13)The disappearing computer
Communications of the ACM, Volume 48 Issue 3, March 2005


――楽器が無くても、その場で歌うだけでも音楽は音楽ですよね?
そういうことを踏まえて乱暴な言い方をしてしまうと、楽器って単純に言うと音楽の要素を構成する一つじゃないですか、でも実際に楽器を演奏すればそんな単純じゃないし、演奏自体はとても複雑で高度な動きをするものですから。
(金箱)
そこは自分でもしっかりと考えたいところです。
インターフェースって言っているものは「モノ」なのか「概念」なのか。「モノ」ではないという気はしています。

――そうですよね、インターフェースそのものを研究されているわけでは無いですものね。 (金箱)
ライブで演奏する時や展示会場にいる時、色んな人と一緒に楽しくなれる瞬間があるんですよ。演奏や体験を楽しんでいるのを見て、自分も楽しくなってつながる瞬間がある。そのためのきっかけが楽器や作品だったりするのかなと。

 

――つまり、金箱さんとしては「道具」をインターフェースにしているのではなくて、インターフェースを「道具」として見て、その中で音楽を選択されている感じでしょうか。 (金箱)
後者ですね。作るときに唯一こだわるのは、自分の頭の中で思い描いていたことが、作品を通して鑑賞者にどう伝わっているかということです。その結果が、自分の想定と違う方がおもしろいんですよ。

――そこはデザイナーとは違いますね。普段デザイナーはまずは思った通りに出来てないと「やばい!俺ミスったかも?」と焦りますから… (金箱)
そういう不安はないですね。あ、そうきた!みたいな驚きは次の制作のキッカケになりますから。ライブ演奏だってもともと一回限りの「チャンスオペレーション」なんですよね。始まるまではお客さんのテンションも分かりませんし、演奏もそこからスタートしますから。
インタラクティブ作品も同じです。鑑賞の方法に制限がなければ、どういう風に触られるかは全然予測ができませんから、わくわくしますよね。たまにそわそわすることもありますが。

――それがモチベーション? (金箱)
それがモチベーションですね。ブーブークッションをこっそり椅子の上に置く、みたいに面白い罠を仕掛ける感覚に近いと思います。マウンテンギターを頭に叩きつけて演奏していた子を見たときは「サイコーだな」って思いましたもの。


2. 拡張される意識

インタビューも洋食屋さんから金箱氏の自宅へと移りながらすでに4時間近くが経過していた、、、

――そろそろまとめなのですが、楽器以外でもインターフェースとして機能しているというか、インタラクティブな作品を作られていますよね。

24億分の1

24億分の1

(金箱)
「24億分の1」ですね。
指先にクリップをつけて、床にあるクッションの上に寝転がるようになっています。 天井がスクリーンになっていて、指先のクリップから計測した心拍に連動して、映し出される万華鏡の映像が変化します。音楽のテンポも心拍に同期しつつ、メロディは自動で生成されます。
24億は平均寿命から導き出した人の生涯の心拍数です。
自分の心拍を一回一回認識する機会って、まずないじゃないですか。万華鏡の映し出す像に再現性はなくて同じものが存在しない。その一回性と掛け合わせる表現にしました。また振動を起こすスピーカーを床に配置しているので、床からも心拍をドクドク体感できます。
展示した際に、子供は生まれる前に胎内で母親の心拍を聞きますが、この作品を通じて今度は母親が自分の子供の鼓動に包まれる。そんな瞬間がとても興味深かったです。この作品は、先ほどお話したボルタンスキーの作品の影響があると思います。あの時は見終わって旅館に帰ってからも感触が残っている気になって。作品を体験したことによって自分の意識が拡張される感じがしたんです。

――作品を制作したアーティストからしたら願ったりなかったりな反応ですね。 (金箱)
そうですね。
テクノロジーやメディアは「人間の身体」の拡張であると、マーシャル・マクルーハン(※14)が主張していますが、その言葉を借りるとボルタンスキーの作品は「人間の意識」の拡張でしょうね。今まで見えてなかったものが、作品と出合うことで見えるようになるということだと思います。
 会場に入って作品を鑑賞して、会場を出るという一連の流れの中で、どこで感想を得るかは鑑賞者の自由じゃないですか。作品に対する想いは、作品の前や展示会場の中でなくても、家に帰ってからでも、発作的に起こるものだと思います。
つまり「そういえばあの時のアレ、、、」とその作品について思い出したり考える時点では、まだ作品は終わっていないと思います。体験するのはあくまで鑑賞者だし、いつ再び想うかも鑑賞者に委ねられている。と考えるきっかけになった作品でした。

――メディアアートについての自分の原点? (金箱)
メディアアートだけじゃなくて、自分がアートについて考えるきっかけです。

※14)Understanding Media: the Extensions of Man
Herbert Marshall McLuhan, 1964, McGraw-Hill


10年やってみれば何かわかるかもしれない

――で、今に至ると。 (金箱)
そうですね、、そして、、楽器という道具と作品と、まだまだ考えることは多いですね。でも、今こうして研究や制作をしていますけど、自分でも不思議なんですよ。なぜ今こう続けていられるのか。

――その疑問は、多分ずっと続くんじゃないですか? (金箱)
うーん、すごい不思議なんですよね。

――それは金箱さんのモチベーションが続いているからじゃないですか? (金箱)
僕が今、博士課程で在学している筑波大出身のアーティストで、明和電機の土佐 信道さん(※14)が「作るのは簡単だけど、作り続けるのは難しい」と言われていたんですよ。本当にそう実感します。闇雲に作っていたIAMAS生時代より、手を動かす前にじっくりと考える時間が長くなりましたね。
僕は2007年にIAMASに入学したので、まず10年やってみれば何かわかるかもしれないと思って続けています。でも続ければ続けるほど、考える事が増えてますね。いろいろな人の縁もあって、刺激にもなります。

――動いている人には縁もできるのでしょうね (金箱)
そうかもしれませんね。パフォーマンスイベントの企画もプレゼンテーションも、自分が動いているから出来ることですし。いろいろなところに行きながら、そこでしかできないこと、というのは常にやっていきたいですね。

今回、初めの意図は金箱氏の作り上げる「楽器インターフェース」について、彼がそれを作るに至った経緯などを伺いつつ進めるという趣旨であった。しかし、彼のアートとの出会いや、作品を作るに至るまでの経緯を伺うとそこでは終わらないことがわかり、インタビューはここでは書ききれないような多方向に脱線を繰り返しながらその先を探る話はさらに進んでいった。
その中で彼がクリスチャン・ボルタンスキーとの出会いで語った「意識の拡張」という言葉に、彼が作り上げる「楽器インターフェース」の目指す方向性があるように思え、そして彼の思考がまだまだ続くことを示唆した形でインタビューを終了した。
今回は多方面に脱線しながらも金箱氏と道具とのかかわりを探りながら、氏の見据える方向性を探るものだった。そんなところからも、道具とアーティストの間にあるストーリーや想いを感じて頂ければ幸いである。

※14)土佐信道・明和電機
土佐信道 明和電機代表取締役社長 1967年生まれ
明和電機は土佐信道によるアートユニット
http://www.maywadenki.com/


竹中 寛 HIROSHI Takenaka
竹中 寛 HIROSHI Takenaka

1976年生まれ 大阪市立大学大学院創造都市研究科 都市経済政策研究分野修了 青年海外協力隊→老舗照明メーカー(照明デザイン)→某印刷会社(CMFデザイン→デザインマネージメント)
プロダクトデザイナーとしてのデザインにこだわらず、創造性(Creativity)の視点からのデザインについてジャンルを問わず試行(思考)中。


今後の主な展示案内

魔法の美術館 ~ようこそ光のワンダーランドへ~
場  所 新潟県 新津美術館
会  期 平成27年6月20日(土)~8月23日(日)
休館日 月曜日(ただし7月20日、7月27日、8月17日は開館)
開館時間 午前10時~午後5時まで(観覧券販売は午後4時30分まで)
WEBサイト http://www.city.niigata.lg.jp/nam/exhibitions/exhibitions26.html
魔法の美術館 ~光と遊ぶ超体感型ミュージアム~
場  所 埼玉県 さいたまスーパーアリーナ4階 TOIRO
会  期 平成27年7月21日(火)〜8月31(月) 会期中無休
開館時間 午前10時~午後6時まで
WEBサイト http://www.mahou-museum.com/ticket.html
つながるアートの力 ~それぞれのコミュニケーションのありかた〜
場  所 兵庫県 尼崎市総合文化センター5階 美術ホール
会  期 平成27年7月25日(土)~8月23日(日) 会期中無休
開館時間 午前10時~午後5時まで(入館は午後4時30分まで)
WEBサイト http://archaic.or.jp/event/gallery/detail.php?id=97
遊べる!デジタルアート展 ~五感で楽しむワクドキな不思議ワールド~
場  所 福岡県 アクロス福岡 交流ギャラリー
会  期 平成27年8月5日(水)~8月9日(日) 会期中無休
開館時間 午前10時~午後6時まで
WEBサイト http://www.acros.or.jp/r_event/sponsor_detail.php?event_id=7571

Arts + Material
意識を拡張する、楽器インターフェースと日々思考すること

Category: Feature





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