03, Mar 2010

京都芸術センター開設10周年
さらなる彼方へ

2000年4月、京都の芸術文化振興の拠点として、元明倫小学校を改修し開設した京都芸術センターは、この4月に開設10周年を迎える。京都芸術センターは10年間で、何を生み出したのか。京都芸術センターのこれまでを振り返り、そして、これからを想像/創造する開設10周年記念事業がいま開催されている。

安河内宏法(京都芸術センター アートコーディネーター)

中村大三郎《ピアノ》

可憐な振袖を着た令嬢が、いささかぎこちない様子で、ピアノを演奏している。譜面台の上に載せられているのは、ロベルト・シューマンの小曲「小さなロマンス」。鍵盤のすぐ上には「ANT.PETROF」と記されている。振袖とピアノという組み合わせは、今でこそ奇異に思えるかもしれないが、この絵画が描かれた大正時代の上流階級のたしなみとして、当たり前の光景であったという。

この気品を感じさせる四曲の屏風絵は《ピアノ》と題されている。描いたのは、京都画壇において堂本印象、福田平八郎と並んで名を馳せた日本画家、中村大三郎。モデルとなった女性は、画家の妻であった。絵画にどこかしら暖かな印象を覚えるのは、そのためだろうか。1925年に描かれたこの絵画は、現在、京都市美術館に所蔵されている。

さて、京都芸術センター開設10周年記念事業を紹介するにあたって、《ピアノ》を紹介するところから始めたのは、この絵画が、京都芸術センターと深いかかわりを持っているからである。この絵画に描かれているペトロフ・ピアノは、大正時代に地域の人々の手によって明倫小学校へ寄贈され、守り受け継がれてきた。そして今は、京都芸術センターに保管されている。さらにまた、画家中村大三郎は、明倫小学校の卒業生であった。

そもそも京都芸術センターは、1869年に開校し、1993年に閉校した明倫小学校の建物を出来る限り活かすかたちで利用している。戦前の番組小学校の特徴を色濃く残すその建物は、2008年に国の登録有形文化財に登録されるなど、高い文化財的価値を有している。ペトロフ・ピアノも同様に、多くの観光ガイドブックに掲載されるなど、広く一般に知られている。

しかしながら、京都芸術センターが元明倫小学校から引き継いだものは、建物やペトロフ・ピアノのみではない。地域の人々が明倫小学校にペトロフ・ピアノを寄贈し受け継いできたことが、あるいは中村大三郎が卒業後十数年経ってから母校のピアノを描いたことが象徴的に示すように、元明倫小学校をめぐっては、さまざまな人のつながりや思いがあったし、それは今でもなお続いている。京都芸術センターは、そうした人のつながりや思いを引き継ぎ成立したのだ。


安河内宏法
(京都芸術センターアートコーディネーター)
安河内宏法(京都芸術センターアートコーディネーター)

京都芸術センターアートコーディネーター。1980年福岡県生まれ。九州大学大学院修了。
2007年より現職。展覧会のほか、小学生などを対象としたアウトリーチ事業やボランティア・コーディネートを担当。これまで企画した展覧会に『now here, nowhere』展(2009年3月)、『ある風景の中に』(2009年9月)。開設10周年記念事業『未来への素振り』展(2010年3月5日~28日)のコーディネートを担当。


京都芸術センター

http://www.kac.or.jp/

明倫大茶会「トキシラズの庭」
http://www.kac.or.jp/bi/247

演劇計画2009白井剛公演
http://www.kac.or.jp/bi/179

演劇計画2009 / Theatre Project 2009
http://www.tp-kac.com/

式典「演劇」
http://www.kac.or.jp/bi/224

てんとうむしプロジェクト「未来への素振り」展
http://www.kac.or.jp/bi/233

ブログ:てんとうむしの育て方
http://d.hatena.ne.jp/kac10/


ではここで、京都芸術センターの基本的な活動について簡単に紹介しておきたい。京都芸術センターは次に挙げる、相互に結びついた3つの機能を有している。

制作室

制作室10
明倫小学校の教室を制作室へと改修。ダンスカンパニーや劇団、美術作家などが制作場所として利用している。

展覧会

展覧会
ギャラリーでは年間12本程度の展覧会を開催している。


1芸術文化活動センター機能
若手芸術家へ制作室と呼ばれるアトリエや稽古場を提供したり、伝統芸能から現代芸術に至る多様なジャンルの事業を開催する。
2芸術文化情報センター機能
広報誌の発行や図書室・情報コーナーの設置により、芸術文化に関する情報を発信する。
3芸術文化交流センター機能
制作室利用者によるワークショップやアーティスト・レジデンスの受入などによって芸術家と市民との、あるいは芸術家相互の交流を図る。

これら3つの機能は芸術文化の振興を目的としていることに違いないのだが、しかし、単に優れた芸術作品や事業を作り出すことのみを主眼としているわけではない。そもそも優れた作品や事業が、自律的に成立することはない。例えば展覧会においては、芸術家、キュレーター/コーディネータ、広報担当者、そして鑑賞者といった存在が不可欠なように、芸術作品や事業には、さまざまな人のつながりが必要となる。京都芸術センターが3つの機能を通して作り出そうと試みてきたものも、そうした人のつながりである。

例えば、3つの機能のひとつ、芸術文化活動センター機能のなかに、「制作室」と呼ばれるアトリエや稽古場を提供するという機能が含まれていることに着目して欲しい。ふつうの文化施設であれば、美術作品にしろ舞台作品にしろ、既に完成された作品が持ってこられ展示・上演されることとなるが、京都芸術センターにおいては、そうしたかたちでの展示・上映と合わせて、ダンス、演劇、美術など、さまざまなジャンルの作品が作られているのである。さらにまた、各アーティストは制作室を利用している間、明倫ワークショップと題した市民向けのワークショップを開催する。好きなアーティストのワークショップに参加しアーティストと直接交流する。あるいは、ダンスに触れたことがなかった人がダンスに触れる。ワークショップは、そうしたアートと市民との、あるいはアーティストと市民との交流の場となっている。

もちろん、この制作室や明倫ワークショップは、京都芸術センターの活動の一例に過ぎないが、しかし、そのほかの京都芸術センターの活動を象徴的に示すものである。京都芸術センターという場でアーティストが活動しながら、そこに市民が関わっていく。人のつながりの動的な関係の中で芸術文化を育んでいくことを、京都芸術センターは試みてきたのである。


いま開催されている開設10周年記念事業は、そうした試みの総決算ともいうべきものである。次に、この開設10周年記念事業の概要について簡単に紹介することにしよう。そして最後に開設10周年記念事業の一環として開催する、てんとうむしプロジェクト「未来への素振り」展について詳述したい。

10周年記念事業ロゴ

京都芸術センターは2000年4月の開設以来、伝統芸能から現代芸術までのさまざまなジャンルの芸術を取り扱ってきた。開設10周年記念事業においても、様々なジャンルの事業を開催する。統一テーマは「さらなる彼方へ」。10年前に遠い彼方を目指して歩きはじめた京都芸術センターがこの10年間でどこまで辿り着いたのか確かめるとともに、10周年を機に、さらに遠いところを目指し歩み出そうとする志がこめられている。 10周年記念事業の一覧については7ページ目の表を参照いただくとして、ここでは、10周年記念事業の中から、明倫大茶会、演劇計画2009白井剛公演「静物画-still life」、そして式典「演劇」の3つの事業について詳述しよう。

明倫茶会 坂本公成 明倫茶会

明倫大茶会「トキシラズの庭」
明倫茶会は開設以来開催されている事業で、これまでにさまざまな人物を席主に迎えてきた。茶人はもちろんのこと、書家や建築家、あるいはコンテンポラリーダンサー、現代芸術家、ジャズ・ミュージシャンなど、席主の多様性は、京都芸術センターが取り扱っている芸術ジャンルの多様性をそのまま反映していると言って良いだろう。

そして、茶会の内容自体も、そうした席主個々人の意向/趣向を強く反映したものとなっている。だから、明倫茶会においては、オーソドックスなスタイルに留まらない、自由な形式の茶会が開催されてきた。たとえばコンテンポラリーダンサーの坂本公成氏が席主をつとめた茶会においては、会場中央に紫陽花が設えられ、その周りをダンサーが踊る。あるいは、作家の福永信氏が席主をつとめた茶会では、インスタントコーヒーが振る舞われ、臨席した客人同士が互いに「ラブレター」を書き交換する、といったように。
さて、開設10周年記念事業として開催される明倫茶会は、これまでに開催されてきた明倫茶会の集大成と呼ぶべきものである。美術作家の宮永甲太郎が掲げたテーマ「トキシラズの庭」のもとに3つの茶会が開催される。

この「トキシラズの庭」について、宮永は「茶会を庭に見立てて、過去の10年とこれからの10年を囲みとって愛でてみたい」と語る。宮永は、「トキシラズ」という言葉を、俳句でいう季違いから連想した。この「季違い」とは、俳句に置いて季節外れの季語を用いた際に使われる言葉である。すなわち「季節違い」の俳句においては、ひとつの季節に別の季節の情景が差し込まれていることとなる。

これと同じように「トキシラズの庭」では、現在という地点から、過去や未来へと思いがめぐらされることとなる。3つの茶会が結びつき、京都芸術センターの過去、現在、未来が交差する。それが明倫大茶会である。

宮永甲太郎-「エル・スール」
日 時 : 3月27日(土)、28日(日)13:00-17:00
席主・企画 : 宮永甲太郎(美術家)
会 場 : 大広間
内 容 : 抹茶
料 金 : 1,000円(申込不要)
※事前のお申込は不要。「式典」のチケットをお持ちの方は「エル・スール」のみ無料。

高橋智隆-「Birthdayお茶会 with ROBOTs」
日 時 : 3月27日(土)、28日(日)13:00/15:00/17:00
定 員 : 各席30人
席 主 : 高橋智隆(ロボットクリエイター)
会 場 : 制作室10
内 容 : 紅茶
料 金 : 1,000円

やなぎみわ―「桜守の茶会」
日 時 : 3月27日(土)28日(日)11:00/13:30/15:00/16:30
定 員 : 各席20人
席 主 : やなぎみわ(美術作家)
会 場 : 和室「明倫」
内 容 : 桜茶
料 金 : 1,000円

申込方法

往復はがきに、催し名・住所・氏名・電話番号・希望日時を明記の上、3月12日(金)〔消印有効〕までにお申込ください。はがき1枚につき1名様。同席希望の場合もお申込は1人1通、はがきにその旨ご記入ください。応募者多数の場合は抽選。


演劇計画2009白井剛演出作品「静物画-still life」

演劇計画「blueLion」

演劇計画は、京都芸術センターが舞台芸術作品を生み出すための長期的視野を持ったプロジェクトである。2004年度からはじまり、これまでに演出家の育成を目的とした上演や、ワークショップやレクチャーなどを開催してきた。今年度の演劇計画2009においても、次代の舞台芸術を担う演出家を発掘し活動をサポートするために開催された「京都芸術センター舞台芸術賞2009」や、京都・東京・フランスで活動する舞台芸術アーティストたちがワークショップを開催する「ワークショップフェスティバル」、舞踏家や現代美術作家を迎えトークセッションを開催した。

そうした演劇計画2009を締めくくる公演は、白井剛による公演である。白井は昨年3月にも演劇計画2008の一環として上演時間が2時間を越える大作『blueLion』を、京都芸術センターで制作し、発表した。この『blueLion』は上演時間2時間を超える大作であり、ダンス・音楽・映像の諸要素が緊密に結びついた作品であった。

今回の新作は、『静物画-still life』と名づけられている。白井が制作するダンス作品は、どのような点で、静物画と関わりあうのだろうか。白井は、元「Noism」の青木尚哉や鈴木美奈子、そして高木貴久恵や竹内英明といった京都を中心に活動するダンサーを迎え、約2ヶ月間京都芸術センターに滞在制作し、作品を発表する。

日時 2010年 3月19日(金)~22日(月・祝)、4ステージ
19日(金) 19:30
20日(土) 19:00
21日(日) 15:00 ★
22日(月・祝) 15:00
※受付は開演の1時間前、開場は開演の30分前
★21日(日)終演後、ポスト・パフォーマンス・トーク

会場 京都芸術センター・講堂
料金 一般前売 2,500円 一般当日 2,800円
学生前売 2,000円 学生当日 2,300円(要証明)
高校生以下 500円 (京都芸術センターのみ取扱)
*日時指定・自由席
チケット取扱 京都芸術センターチケット窓口 利用時間 10:00~20:00
構成・振付・演出/白井剛
出  演/青木尚哉、鈴木美奈子、高木貴久恵、竹内英明、白井剛


式典「演劇」チラシ

式典「演劇」
記念事業には、式典がつきものである。たとえば美術館が開館すれば、美術館長や自治体の長などが出席する式典が開催されるだろう。京都芸術センターにおいてもまた、開設10周年を記念した式典を開催する。しかし、京都芸術センターの式典は、ふつうの式典とは一風変わっている。どのように変わっているのか。それは、端的に言えば、演劇の形式を借りたものとして上演されるのである。

たとえば門川大作京都市長が書いた開式の言葉を、劇団地点の俳優・石田大が読み上げる。あるいは、京都を中心に活動する「ベトナムからの笑い声」や「烏丸ストロークロック」といった劇団の劇作家が書いた祝辞を、また別の劇団の俳優が読む。さらには祝舞として観世流能楽師の片山伸吾が舞い、中村典子がこの式典のために作曲した音楽が奏でられる。

こうした演劇「式典」の演出をつとめるのは、三浦基である。劇団地点の主宰者である三浦は、制作室を利用してきたほか、演劇計画で公演を行うなど、京都芸術センターと深い関わりを持ってきた。いや、三浦ばかりではない。この演劇「式典」に関わる人々はみな、京都芸術センターと深い関わりを持つ。この意味において、この演劇「式典」は京都芸術センターの「これまで」を作ってきた人物たちの手によるものだと言えるだろう。そしてまた、この演劇「式典」は、京都芸術センターの「これから」を考えるにあたっての契機となる。祝祭性に満ちた空間の中で、京都芸術センターは「さらなる彼方へ」向けて、漕ぎ出していく。

【式次第】
開式のことば 作 : 門川大作(京都市長)
出演 : 石田大(地点)
祝辞 作 : 黒川猛(ベトナムからの笑い声)
柳沼昭徳(烏丸ストロークロック)
山岡徳貴子(魚灯)
山口茜(トリコ・Aプロデュース)
出 演 : 武田暁(魚灯)
田中遊(正直者の会)
広田ゆうみ(このしたやみ)
山崎彬(悪い芝居)

制作室使用者代表のことば 作 : 土田英生(MONO)
出演 : 小林洋平(地点)

祝 舞   
片山伸吾[シテ](観世流能楽師)
森田保美[笛]、吉阪一郎[小鼓]、谷口有辞[大鼓]、前川光範[太鼓]
田茂井廣道[後見]、味方團、深野貴彦、橋本忠樹、宮本茂樹[地謡]

閉式のことば 作 : 富永茂樹(京都芸術センター館長)
出演 : 安部聡子(地点)

演 出 : 三浦基

作 曲 : 中村典子
演 奏 : 森本英希、江戸聖一郎、小山真之輔、佐藤直紀[フルート]
松田洋介、富永玲[トロンボーン]、織田貴浩[バストロンボーン]
上中あさみ、長田千草[パーカッション](DuoMAG)

日 時 : 2010年3月27日(土)18 : 00開演 ※受付・開場は開演の30分前
会 場 : 京都芸術センター・講堂
料 金 : 全席自由席/前売・予約・当日共 一般2,000円 学生1,500円(要学生証提示)
※入場は、前売・予約の方優先となります
※満席時、当日券は販売しない場合があります
チケット取扱 : 京都芸術センター チケット窓口(10 : 00~20 : 00/年末年始を除き無休)
チケット予約 : チケット予約はこちらから
お問合せ : 京都芸術センター Tel:075-213-1000(10:00~22:00/予約のみ)

※『式典』のチケットをご予約・購入いただいた方は、「明倫大茶会 トキシラズの庭」の中の『エル・スール』の席に無料で参加できます。(申込不要)


てんとうむしプロジェクト「未来への素振り」展

てんとうむしプロジェクト ミーティング風景
てんとうむしプロジェクトロゴ 作成:井上 舞

ロゴ作成:井上 舞

本展「未来への素振り」は、京都芸術センター開設10周年記念事業として開催されるもので、その企画運営は京都芸術センターの活動を支えてきたボランティア・スタッフが中心になって組織するてんとうむしプロジェクトによって行われている。プロジェクト名の「てんとうむし」は、「てんten」「とう10」「むし(6+4)」と、10周年に関連付けて名づけられている。

僕たちは、2009年6月に最初のミーティングを行って以降、10周年記念としてどのような展覧会が相応しいのか、出品作家に誰を迎えるべきなのか、どのようなかたちでアーティストと協働していくのかを話し合ってきた。そして出品作家に小山田徹と伊達伸明を迎えることが決まった以降は、両者を交えて話し合いを重ねてきた。


伊達伸明、小山田徹

もっともこれまで話し合ってきたことは、いわゆるアートに関わることばかりではなかった。むしろ大半は、一見したところアートとは関わりのないようなことだった。どこで生まれ育ったか、若い時どのような仕事にあこがれていたか、あるいは、最近出会った楽しい人や出来事など、ふつう展覧会を準備するときには話し合われることがないようなことを、僕たちは互いに語り合ってきた。そんな話し合いは、ひょっとするとただの与太話を繰り返していただけに思われるかもしれない。

しかし本展を作り上げるためには、そんな話し合いが必要だった。そして、展覧会ばかりではなく、僕たちにとってのアートを考えるためにも、きっと大切なことだった。

本展はふたつのセクションから成る。伊達伸明がコーディネートをつとめるギャラリー北には、僕たちの記憶と関わる空間が作られている。暗闇として設えられたギャラリー空間の中を、鑑賞者は小さなブラックライトを片手に探検する。壁面には蓄光シートが設置され、ブラックライトのほのかな光の痕跡を残す。そして、鑑賞者はふいに気づくことになるだろう。壁には落書きのような文字が埋め込まれていることに。

ここに埋め込まれている「落書き」は、てんとうむしプロジェクトの参加者から集めた思い出である。文章という形態を取ったものもあれば、呟きめいたものもある。いずれにせよそれらは全て、誰かの人生や少なくとも人生のひとつの季節と分かちがたく結びついたものである。

伊達伸明がボランティア・スタッフと協働で準備したのは、こうした記憶と出会う空間である。そこで出会うのは誰かの私的な記憶であることに違いないのだが、しかし、おそらくは私的であるがゆえに、他の誰かにも共有・共感される。他の誰かの記憶が僕たち個々人の記憶の中にある出来事と共鳴する。そのようにして、僕たちの記憶は掘り起こされる。

他方、小山田徹がコーディネートをつとめるギャラリー南には、ささやかな小屋が建てられ、その内部や周囲には見慣れた日用品が展示される。そこに展示されている物は、一見したところ何の変哲もない物ばかりで、ギャラリー空間には相応しくないと思われるかもしれない。

しかし、ギャラリー北の「落書き」がそうであったように、ここに展示されているのは、その物の持ち主の人生と深く結びついたものである。青春時代を象徴する物もあれば、亡き夫の愛した物もある。そこには、人の生を支えてきた、小さな物語が付帯している。展示されている物からその物語の全貌をうかがい知ることが出来ないにしても、そこからは私的な物語の気配や人の生の痕跡が感じ取れるだろう。

またギャラリー南では、会期中連日、ギャラリートークを開催する。トーカーをつとめるのは主にてんとうむしプロジェクトに参加しているボランティア・スタッフで、会場内に展示されている物を糸口に、出品作家の二人と一緒にトークをする。どのような人生を歩んできたのか、今何が好きなのか、これから先どういう風に生きて行きたいのか。ここでもまた、小さな物語が紡がれ、その物語はその場にいる聴衆と共有されていく。

こうしたふたつのセクションから成る本展に対して、「それはアートではない」という批判が向けられるかもしれない。その批判はある意味では正しい。ギャラリーや美術館に展示される美術作品こそがアートだと言う立場に立つのなら、すなわちアーティストの卓越した能力によって作られた物こそがアートだと言うのであれば、本展において展示されるものは全てアートではない。

しかし、そもそもアートとは何だろうか。先に記した「アートとは卓越性を示すものだ」という主張が拠って立つのは、作品そのものに価値が内在しているという立場であるだろう。そこではアーティストの類稀なる才能によって作品が作られ、鑑賞者がその作品を鑑賞し、アーティストの才能を受け取る、という図式が成り立つ。

しかし、たとえどんなに名作とされる美術作品であっても、その価値は地域的・時代的・文化的な制約に服している。いや、美術作品だけではない。そもそも価値とは、物とそれに接する人々の関係のうちに発生するものなのではないだろうか。そうである以上、価値観の多様化した現在において重要なのは、優れた作品を作り出し鑑賞者に向けて一方的に提示することではなく、むしろ、物と人とを充実したかたちで結びつける関係性を作り出すことであろう。

本展が目指すのは、まさにそうした充実した関係性を作り出すことである。ボランティア・スタッフにとってのかけがえのないものを提示し、語る。そうすることで、ふつうの物/ふつうの人だと思い見過ごしていたものが、ほんの少し厚みを持って見える。物や人へと向けるまなざしに変化が生じる。ここで起きているのは、物や人それ自体と僕たちの関係性の変化に他ならない。

だから僕たちには、一見すると与太話に思えるような話し合いが必要だった。プロジェクトに参加している個々人が語り合うことで、その人へと向けるまなざしが変わる。てんとうむしプロジェクトは、これまで一貫してプロジェクトに参加している人々同士の新たな関係性を作り出す「素振り」を繰り返してきたのだ。

こうした「素振り」は、展覧会会期中、鑑賞者に対して行われることとなる。来るべき未来への準備運動として、これまでの過去・現在を振り返り、語ることによって、人々の実感にしっかりと結びつき、個々人の生を支えるかけがえのない何かを共有しようとする。僕たちは、そうした「素振り」を通して、未来を想像/創造するのだ。


京都芸術センター開設10周年記念事業一覧

開設10周年記念事業 さらなる彼方へ
※申込は電話(075-213―1000)・FAX(075-213-1004)・E-mail(info@kac.or.jp)いずれかの方法で。また京都芸術センター窓口でも受け付けます。

事業名開催日時・会場会場 主な内容等料金等
展覧会
「わざゼミ報告展-ものにこころをこめるわざ-」
3月1日(月)
-9日(火)
10:00-20:00
大広間 わざゼミ2008参加者7名(井上唯、碓井ゆい、大下邦弘、上村直子、出村実英子、中尾美園、牧野三津子)による報告展 無料
展覧会
「伝統工芸品にみる道成寺」
3月1日(月)
-11日(木)
10:00-20:00
*3月7日(日)休み
フリース
ペース
「道成寺」をテーマに、それにまつわる工芸品を展示。能装束や日本舞踊で用いる鐘などを展示予定 無料
関連企画
講演「釣鐘物語」
3月11日(木)
16:30-17:30
フリース
ペース
講師:小野俊成(道成寺副住職) 無料
申込不要
展覧会
てんとうむしプロジェクト「未来への素振り」
3月5日(金)-
28日(日)
10:00-20:00
ギャラリー
北・南
京都芸術センターボランティア・スタッフと出品作家が協働して企画運営する展覧会
出品作家:小山田徹(美術作家)、伊達伸明(美術作家)
無料
継ぐこと・伝えること43
「芸能における笑いと遊び心」
3月6日(土)
14:00
講堂 伝統芸能における「笑いと遊び心」をテーマに、落語、邦楽、日本舞踊などを豪華な顔ぶれで御紹介します。
出演:富山清琴(重要無形文化財保持者/地歌)、若柳吉蔵(若柳流宗家)、林家染丸(落語家)ほか
共催:京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター
前売(一般)
3,000円
当日(一般)
3,500円
学生
1,500円

(チケット発売)
京都芸術センター
大丸京都店
高島屋京都店
京都会館

チケットぴあ
TEL:
0570-02-9999
Pコード:
400-971
第299回市民寄席 3月7日(日)
14:00
講堂 出演・演目(出演順):
桂二乗/つる
桂春菜改メ桂春蝶/山内一豊と千代
露の都/子はかすがい
笑福亭円笑/祇園祭
笑福亭福笑/はははぁ家族
前売
1,500円
当日
1,800円

(チケット発売)
京都芸術センター
大丸京都店
高島屋京都店
京都会館

チケットぴあ
TEL:
0570-02-9999
Pコード:
400-241
素謡の会番外編「道成寺」   3月11(木)
19:00
大広間 出演:
シテ 河村晴道
ワキ 味方玄、
ワキツレ 味方團、田茂井廣道
アイ 茂山七五三
地頭 河村和重
前売
2,000円
当日
2,500円

(チケット発売)
京都芸術センター
京都観世会館

チケットぴあ
TEL:
0570-02-9999
Pコード:
400-728
明倫レコード倶楽部 其の34
「早春の聴き初め」  
3月13日(土)
14:00
フリース
ペース
曲目:
トーマ:歌劇「ミニョン」序曲
ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調「英雄」ほか
ナビゲーター:亀村正章
500円
(要事前申込)
センター制作支援公演
セレノグラフィカ「グレナチュール」
4月10日(土)、
11日(日)
フリース
ペース
出演:セレノグラフィカ 2,000円
(チケット発売)
京都芸術センター他
地点「誰も、何も、どんなに巧みな物語も」 4月22日(木)-
4月25日(日)
フリース
ペース
出演:地点 2,000円
(チケット発売)
京都芸術センター他
開設10周年記念シンポジウム 4月17
(土)14:00
講堂 テーマ「京都芸術センター 未来/世界」 無料
(要事前申込)
オープンキャンパス 5月3日(月・祝)-
5日(水・祝)
10:00-20:00
京都
芸術
センター
各所
制作室利用者ショウケース
ワークショップ
センターアーカイブ展示・上映 ほか
無料
(一部要事前申込)

京都芸術センター開設10周年
さらなる彼方へ

Category: Feature





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