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COLUMN

コラム

mama!milk 20周年記念特集
「ここにいること, 旅をすること」寄稿:白井晃(演出家・俳優)、村松美賀子(編集者・文筆家)、阿部海太郎(作曲家)

2019 05 07

ときのあとさき、のあとさき

村松美賀子(編集者・文筆家)

これまで、mama!milkの演奏会になんど足を運んできただろうか。なかでも、年に1度の「ときのあとさき」は毎年聴きつづけてきた。最初は特に意識していなかったけれど、しだいに聴かないことには秋が迎えられないような感じになって、旅に出ていても日程を合わせて京都に戻ってくるようになった。そんな次第で、10年の節目でいったん終了となった2017年まで、欠かさず出向いたのだった。

「ときのあとさき」は、8月末か9月のはじめに催される、夕暮れから夜にかけての二部構成の演奏会だ。場所は京都、哲学の道にある自然豊かな法然院。第一部は夕暮れの始まりから日が沈むまで、第二部はすっかり夜になってから。夏と秋の、そして昼と夜のあわいに行われる、うつろいを味わう音楽会ともいえる。

何が起こるわけでもないけれど、特別な、本当に特別な時間と空間がそこにはあった。東山につらなる善気山のふもとに、この世とあの世をつなぐ方丈庭園が広がっている。その景色を背に、方丈の間でふたりは演奏をはじめる。

絵画のような眺めは、刻一刻とうつろってゆく。恒輔さんのコントラバスに合わせるかのように、ヒグラシが鳴く。祐子さんの顔に光が淡く射しかけ、小さな鳥が右から左へと空間を横切る。アコーディオンの音が止んだ瞬間に鹿おどしが鳴り、虫たちが声を上げはじめる。アコーディオンとコントラバスの静かな音が、黄昏どきの繊細な光やあらゆるものたちの声と混じり合い、わたしたちはこの時間をまるごと、からだで受けとめる。

変わって第二部は、夜の闇を得て、野生が息づく。ときに官能的に、ときにしなやかに疾走する音に、闇が艶めき、彩りを放つ。楽器の響きが一瞬やむと、虫の音が空間いっぱいに広がった。次の瞬間、アコーディオンとコントラバスがほとばしり、虫たちは漆黒のなかにすっと潜む。ドラマティックなコントラストのなかで、闇の密度はいっそう濃くなり、しっとりとこの場を満たしゆく。
わたしたちはこのとき、夏と秋の、昼と夜のあわいに、そして光と影のただなかでたゆたっている。

「ときのあとさき」にはもうひとつ、特徴的なことがある。演目が毎年、ほぼ変わらないのだ。曲順や各曲のアレンジは異なるけれど、多くの曲がくり返し演奏されてきた。2年目を聴いたとき、ふたりは確信的に同じ曲をやり続けていくのだな、と思った。そして、それはとても納得できることでもあった。

ふたりの奏でる音は、そのとき、その場所にしかない。だから、同じであっても同じでないのだ。曲のタイトルが一定でないのも、おそらく、そういうことだろう。セットリストをみると、「an ode」という曲はあるときは「an ode 家族の肖像」だけれど、「an ode とある歌。」のときもある。「ao」は「ao どこまでも深い青のために」とされたり、「ao 空、海、夜と朝のはざま、世界中の青のために。」と記されたりもする。

そもそも、聴く側のわたしたちも、その時々で揺らぎ、移り変わっている。変わらないものなど、この世にない。すべては変化する。ともすると忘れがちなそのことを、ふたりの音楽は思い起こさせてくれる。

「ときのあとさき」でさまざまな音に出会うと、昨年の、一昨年の、10年前の法然院での時間がよみがえってくる。光や匂いや、空気の湿りぐあい。その時の自分の心持ちも、そう。夏の終わりと秋のはじまりのグラデーションは、回を重ねるごとに豊かになり、深みを増す。

さらに、mama!milkの音楽とともにある記憶も呼び覚まされて、さまざまな記憶の欠片がつながり、その日、そのときの景色が立ち上がる。「ときのあとさき」の夜、満月がそれはきれいだったこと。バルセロナの丘から見た、燃えるような夕焼け。ガンジス川のほとりに立ちのぼる煙。幼いころのうれしかったことや、たわいもない遊び……。時空を超えて、方丈の畳の上で旅が始まる。名付けようのない感情が湧き起こり、いつしか涙を流している。

「場」とのかかわりをていねいにつくり、その日、その場所の音を奏でる。
mama!milkがやってきたのは、シンプルにそのことだ。自分たちを風景にとけこませ、その一部となって在ること。ひとつ、ひとつの曲をていねいに、演奏しつづけていくこと。どこまでも真摯に、そしてきっと、揺るぎない覚悟のもと、あふれるような想いを込めて。

なんど聴いても新しく、なんどでも聴きたくなる。それがわたしにとってのmama!milkだ。

20周年、本当におめでとうございます。

『ときのあとさき』にて
『ときのあとさき』にて
photo by Ryo Mitamura

PROFILE プロフィール

村松 美賀子 | Mikako Muramatsu編集者・文筆家

出版社勤務の後、独立。数多くの書籍や雑誌を手掛け、本の制作に伴って展示やイベントなども開催する。生活文化を中心にアートや科学など、ジャンルを超えた執筆・制作を続ける。
2004年より、mama!milkの演奏を聴き続けてきた。また、イベントで演奏会を催したり、本や雑誌でインタビューしたり、自身の編集するメディアに原稿を寄稿 してもらうなど、さまざまな形でmama!milkと関わっている。

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