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ARCHIVES

アーカイヴと再制作

浮遊するアーカイブズとリポジトリ明貫紘子(キュレータ/アーカイブ研究/EizoWorkshop代表)

2021 04 21

5. 課題:「フェアユース」と「資料保存を目的」にした活動が開く可能性

最後に、オンラインでデジタル・アーカイブを公開することに伴い、常に直面する著作権の問題について触れたい。「フェアユース」 ※8 という考え方が十分には導入されていない日本において、非商業的な活動に付随する著作権をめぐる手続きも通常の著作権クリアと同様に煩雑になってしまう。大きく、クリアしなければいけない著作権に関する事項は2つである。

  1. 資料をデジタル化あるいは複製をするための「複製権」
  2. インターネット等で不特定多数の人々へ向けて公開するための「公衆送信権」

例えば、FArSにおいて展覧会カタログをデジタル化して公開する場合、非営利目的であったとしても、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的」 ※9 にしているという観点から著作権法30条の4の定める権利制限では適法とはならず、カタログに掲載されているアーティストや執筆者全員に許諾を得る必要がある。例えば、新聞記事については、新聞社に掲載料を支払って公開したが、作品写真や社外の執筆者による記事については個別に許可をもらう必要があるため、許可が追いついていないものは該当箇所を塗りつぶして掲載した。

公開することによって、市場や関係者に不利益になるどころか、むしろよい影響を及ぼす可能性があるにもかかわらず、日本では公開できない場合が多い。つまり、「固有性」や「希少性」によって生じる利益を守ることに注力しており、それ以外で生じる利益を想定していないことが問題点だと考えられる。このことは、先に述べた可変的なメディアアートに価値を見出すことが難しい問題にもつながる。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス) ※10 の普及に尽力してきた弁護士で、著作権に詳しい永井幸輔氏によれば、著作権の機能には「アクセシビリティのコントロール」があるという。例えば、CCライセンスは、著作物に対して「ライセンス」を付与して公開することによって、著作権者の選択する一定の条件に従った著作物の利用を許諾することができ、著作物のアクセシビリティひいては利用方法に多様性を実現させる。一方、CCライセンスによる許諾は無償利用となるため、マネタイズが必ずしも容易ではないという問題があった。しかし、近年、ブロックチェーン技術を利用したデータ形式であるノン・ファンジブル・トークン(NFT)を活用することによって、個別性・単一性のあるデジタルデータとして作品を販売する試みが行われている。例えば、米国のデジタルアーティストBeepleは、自身のウェブサイトで常時閲覧可能な状態で掲載されている作品をNFTとして販売し、オークションハウスのクリスティーズにおいて約75億円で落札された。これは、作品の固有性ではなく希少性をコントロールすることで、作品のデジタルデータに新たな資産価値を付与する試みとも言える。著作権によるアクセシビリティのコントロール(対価を支払わなければ作品にアクセスできない)を行わなくとも対価を獲得することが可能となり、より広い選択肢と可能性が生まれ始めているという。

この事例は、ある著作物に対して多様な価値のレイヤーが設定できる点で興味深い。つまり、デジタルデータの著作物に対して、プレミア版と廉価版のようなものを共存させることができる。例えば、「廉価版」ではなく「プレミア版」で利益を得て、「廉価版」の著作権や利用方法を多様に設定(例えば、無償利用可とすることも十分考えられる)することができるという点で、デジタルデータの資料や作品などの著作物がより扱いやすくなることが期待できる。

永井氏によれば、近年はCCライセンスの利用拡大に加えて、スタジオジブリの場面写真が公開されたり、任天堂がゲーム動画のオンライン投稿及び収益化を可能とするガイドラインを公開するなど、著作権に対する考え方はこの10年で変化してきたという。さらに、2018年の著作権法改正では、インターネット、デジタルアーカイブやAI技術の発展に伴う新しい著作物の利用方法を想定して、一定の条件を満たせば、著作物を自由に利用することができることを定めている。また、国会図書館や図書館等 ※11 の施設には著作権の制限で特例があり、「資料の保存」を目的にした「著作物」の複製や絶版等で入手困難な資料のオンライン公開が認められている。

今後、FArSのようなオンライン上で展開するデジタル・アーカイブの活動が継続されていくためには、公益性の高い資料公開に対して著作権の制限範囲が広がることが不可欠である。そのためには、NFTのような技術的要件に加えて、メディアアート作品の文脈形成や研究のために資料保存が重要であることが認知され、さらには、図書館や美術館主体ではない組織で同等の運営ができるように、保管場所に対する概念を広げることで救済される資料が増えるだろう。この原稿を書いている時点では、とても実現しそうにない絵空事のようだ。しかし、いつか、デジタル環境と相性のよいメディアアートの資料がオンライン上に「泉のようにわいている」 ※12 日が来て、未来へ継承できることを願ってここに書き留めておきたい。

※8 著作物を一定の要件を満たして公正に利用するのであれば、著作権者の許諾を得ずに著作物を利用しても著作権侵害には当たらないとする考え方をいう。米国著作権法では、使用目的や著作物の性質等の4つの基準が定められており、それらを満たす利用には著作権の効力は及ばないという包括的な規定がある。一方、日本の著作権法では、私的使用のための複製等、著作権が及ばない利用が列挙されているが、包括的なものではない。同義語は「公正利用」。
出典:印刷用語集 https://www.jfpi.or.jp/webyogo/index.php?term=4373

※9 著作権法第30条の4 (平成30年新設)。一方で、著作物に表現された思想又は感情の「享受」を目的としない行為の具体例として、情報解析や人工知能の開発や学習が目的である場合などが想定されている。

※10 CCライセンスとはインターネット時代のための新しい著作権ルールで、作品を公開する作者が「この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません。」という意思表示をするためのツールです。CCライセンスを利用することで、作者は著作権を保持したまま作品を自由に流通させることができ、受け手はライセンス条件の範囲内で再配布やリミックスなどをすることができます。
出典:https://creativecommons.jp/licenses/

※11 著作権法第三十一条(図書館等における複製等)。
なお、「図書館等」とは、「国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの」をいい、国立国会図書館のほか、図書館法第2条第1項の定める地方公共団体等が設置する公共図書館、大学図書館等が含まれる。また、これらの施設であると共に、文部科学省令で定める司書又はこれに相当する職員が置かれていることが義務付けられている。

※12 FArSプロジェクトが実現するきっかけになったオンラインプロジェクト「AICHI⇆ONLINE」(2021年2月1日―3月21日)において、明日へと向かうための創造の意志=スローガンとして掲げられた新美南吉の詩『明日』(1932年)の一節「明日はみんなをまっている。泉のようにわいている。らんぷのように点っている。」より。

PROFILE プロフィール

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明貫紘子 | MYOKAM Hirokoキュレータ/アーカイブ研究/EizoWorkshop代表

筑波大学芸術専門学群総合造形コース、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)卒業。ドナウ大学大学院メディアアートヒストリー修了。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]学芸員を経て、「メディア・アートの記録と保存」に関する研究に着手。2013年からinter media art institute Duesseldorf(imai、ドイツ)の客員研究員として、2018年より愛知県立芸術大学非常勤研究員として、ビデオ・アートやメディア・アートのアーカイブに関する研究プロジェクトに従事。金沢美術工芸大学非常勤講師。映像ワークショップ(https://www.eizo.ws)共同代表。

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