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COLUMN

コラム

連載「都市空間と自律的文化へのアプローチ
――マンチェスター・ジン・シーン・レポート」(全4回)
第4回:ソーシャル・スペース〈パルチザン〉から見るジンとスペースの潜在力村上 潔(女性史研究者)

2018 04 19

2. 都市空間と自律的文化の展開

ここからは、「都市空間」と「自律的文化」の「あいだ」にある関係性について検討することで、今回の、そしてこの連載全体の総括を試みたい。

この4回の連載を通して見えてきたこと、それは以下のように言い表せるだろう。「ジンをみんなで作ったり、読んだりする、そうした行為を促進する」ことと、そのための「空間(スペース)を構築する」ことは、切っても切り離せない一体の活動である、と。つまり両者は、同じ精神で/同じ理念のもとに、並行して/連動してなされる営みである、と。そしてそれは草の根のアクティヴィズムとして、コミュニティの/における実践として、位置づけられ、評価されるべきものである、ということだ。

このことをさらに大きな視座から捉えるため、一つの概念を引き出してみたい。それは、「サード・スペース」という概念(「第三の空間」あるいは「第三空間」と訳される)である。「サード・スペース」とは、「場所や政策、多様なアイデンティティーのみならず、現実、イメージ、シンボルなどさまざまな要素が絡み合ってつくられたメタファー」としての、「中心でもなく周辺でもない空間」を意味する。それは、「多様な、異種のものの混交から構成される象徴的な空間であり、等質な空間とは根本的にまったく異なる」(吉田 1996: 248)(※15)、多元的という特徴をもったオルタナティヴな空間である(※16)。

ジェンダー研究者のアデーラ・C・リコーナ[Adela C. Licona]は、自身の著書(Licona 2012)において、ドリーン・マッシー[Doreen Massey]らのフェミニスト地理学・批判地理学の成果を援用しつつ、サード・スペースとジンを結びつけて論じるユニークな視角を提示した。リコーナは、ジンを「物質化したサード・スペースとしての役割を果たす」(Licona 2012: 132)ものとして、また「サード・スペースの生産性を証明する、力強い重要な証拠」(Licona 2012: 136)として評価し、「ジンは、理論と実践のあいだのギャップを橋渡しする、再編的・戦略的な可能性をもたらす」(Licona 2012: 15)ものだと説く。そして一方では、サード・スペース理論は創造的な抵抗活動を説明したり、コミュニティのアクティヴィズムを理解したりするのに役立つものだ、と指摘している(Licona 2012: 136)。これはまさに、自律的な空間で展開するジンに関する活動を評価する、という本連載の趣旨に適応されるものだ。

ジン・カルチャーは、①物質としての創作物を生み出すだけでなく、②創作・共有によって作り手/読み手が自らのアイデンティティやイメージを構築・補完する実践であり、そして③創作過程における協同や創作物の共有・流通・保存を通して現実の空間(スペース)を構築する実践でもある。以上の点から、ジンが/ジン・カルチャーが、サード・スペースという概念と密接な関係にあることは十分に理解できるだろう。

こうした視座を軸に置けば、〈サルフォード・ジン・ライブラリー〉(本連載第1回参照)や〈パルチザン〉などで展開されるジンに関する取り組みは、サード・スペースを構築・展開していくための自律的・創造的な活動――それは、創作物のみならず、それと不可分な「空間」をクリティカルに創造していく――として位置づけられるのではないか。また、本連載第3回で確認したように、〈ペン・ファイト・ディストロ〉は《ジン・クラブ》を(ワークショップではなく)「スペース」と規定していた。それはまさにこの図式を象徴する、示唆的な言辞であるといえる。このように、サード・スペースという概念の導入によって、①ジンと都市空間における実践とを連動する一体のものとして捉えるイメージと、②その作用や意味を評価する普遍性をもった視座を獲得することが可能となる。あとはそれを応用的に展開していくことだ。

冒頭の引用で見たように、トム・ガレスピー[Tom Gillespie](都市地理学の研究者)は、〈パルチザン〉を、空間が商品化されていく都市の現状に対抗する潜在力をもつ存在として位置づけている。ジンもまた、反商品化という志向をもち、消費主義・商業主義に対抗するメディアである。そして両者は、自律性・共有性・協同性・包括性という性質において共通している。つまり、〈パルチザン〉という空間とジンとのつながりからは、「都市空間」と「自律的文化」をイコールで結ぶ関係性を見出すことができるのだ。

※15)以上は人文地理学の研究者スティーヴ・パイル[Steve Pile]による規定。

※16)サード・スペースを理論化してきた代表的な研究者として、ホミ・K・バーバ[Homi K. Bhabha](ポスト・コロニアル理論)とエドワード・W・ソジャ[Edward W. Soja](都市社会学・批判地理学)が挙げられる。


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