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COLUMN

コラム

日常と芸術巽 勇太(作家/アートディレクター)

2015 05 11

今回の寄稿は京都で開催された映像芸術祭"MOVING 2015"の企画の一つとして、メトロポリス伴奏付上映会(※1)に参加したご縁により、筆をとらせていただきました。

私は現在、出身地でもある石川県金沢市に在住しており、バー、喫茶、ギャラリー、演奏会を行うお店を経営しています。また作家活動として写真や映像、絵画、オブジェを制作し、様々な場所での展示会に参加したり、今回のように作品を用いて演出を行う等しています。
金沢という街は、加賀藩と呼ばれた時代に城下町として栄え、三名園の一つとされる兼六園、加賀宝生(能楽)や郷土料理等の庶民文化、金箔、九谷焼、加賀友禅等の伝統工芸等といった、多くの伝統文化を現在も継承する古い都市です。私の実家も江戸初期からある禅宗のお寺であり、より歴史の深い京都は以前から身近に思い、ご縁を感じてきました。
いつも京都に訪れた際には、古い町並みや川、公園を散歩します。今回も仕事の合間に四条烏丸にある古い路地を歩きました。一般の住宅、公園、幼稚園、食堂、居酒屋、たばこ屋、印刷会社等、古くからあったと思われる建物がほとんどですが、そこは街中でも決して観光の景色ではなく、地元の人が生活をする京都の日常の風景です。

今回の滞在期間に、お店で食事もいただきました。訪れたあるお蕎屋さんでは、近所のお客さんが、出来立ての湯気のあがるかけ蕎麦を食べつつ、店主のご家族であろう店員さんと、壁一面にある手書きのメニューを背景にして、世間話に花を咲かせていました。その片隅では高齢になるおばあちゃんが、ニュースの映るテレビ画面を横目に、独り静かにうどんを食べています。趣きある店内の情景と、そのおばあちゃんの姿があまりにも馴染んでいたので初めは分からなかったのですが、お客さんの帰り際に軽く会釈をしておられたのを見て、お店の方だとようやく気がつきました。私たちが帰るときにも静かに微笑んで下さいました。一見何の変哲ないように見えますが、私はこうした情景に出会うと、何かしみじみとうれしくなります。

私の営むお店の名前は「shirasagi/白鷺美術」といいます。「白鷺」という名は、実家のすぐ側を流れる浅野川の水辺に、時折あらわれる白鷺が、静かに一羽佇む姿が美しいと思い、そこから名付けました。名前を決めるにあたって、私の中で「日常」ということがテーマにありました。作品制作においても同様に、こうした日常の何気ない景色や思考にある面白さ、美しさとの出会いが創作の糧となってきました。近年の現代美術、芸術においては、特異なもの、非日常的なものが多く制作され、私もその一人ですが、日々のふとした時に出会う一見よくあるような風景、香りや音、形、または、人の声や話し方、考え方、一見目につかないものや、思いがけない状況等、些細に思われるようなこうした光景が活動の指針となっています。

浅野川 photo by hayata tatsumi

浅野川 photo by hayata tatsumi

※1)メトロポリス伴奏付上映会...サイレント映画の傑作の一つ、ドイツ、ヴァイマール時代に製作されたフリッツ・ラング監督映画「メトロポリス」に新たな伴奏音楽を付けての上映会。作編曲・生演奏を担当するのは、アコーディオンとコントラバスのデュオ、mama!milkの生駒祐子、清水恒輔、作曲・演奏家の阿部海太郎。自作の装置で音響、演出を巽勇太が担当。これまでに金沢、岡山にて上映。


巽 勇太 Tatsumi Hayata

巽 勇太 Tatsumi Hayata

金沢在住。作家。アートディレクター。幼少から絵やオブジェを制作。近年は、日常における内省的な意識の揺らぎをテーマに、インスタレーションとして作品を制作、発表している。また2007年より国内外の美術作品の紹介、演奏会を目的とした企画組織、「白鷺美術」を運営、ディレクターを務める。自作の照明を用いて、多方面のアーティストの展示会、演奏会等、演出にも携わる。2015「メトロポリス伴奏付上映会」では自作の装置(楽器)の製作、演奏、会場演出を担当。
主な演奏会に「mama!milk Duologue 演奏会」照明担当/原美術館(東京)/2013、「アコーディオン 松原智美 × 舞踏 松本拓也 鈴木大拙館演奏会」照明担当/鈴木大拙館(金沢)/2014 、主な個展に「労働の表象」個展/白鷺美術(金沢)/2014 がある。

オフィシャルウェブサイト
http://www.shirasagi-art.net

映像芸術祭 "MOVING 2015"
http://www.moving-kyoto.jp/


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