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コラム

宇宙を支配する数式を、あなたの手のひらに文:橋本幸士(大阪大学教授)

2018 10 09

「宇宙のすべてを支配する数式」に関する著作が話題の理論物理学者、橋本幸士さんによる寄稿文。ひょんなことから大阪大学生協の人気商品になった“指輪”。「宇宙を支配する数式リング」という名前で登場したこの話題の指輪は、2017年の夏、橋本さんが取り組んだ「夏の自由研究」がきっかけで生まれたのだった。好きなことを好き放題やってみる“自由研究”は、やがて海を超え、思わぬところに繋がっていった――。気鋭の科学者が向き合った「夏の自由研究」についての興味深い考察。

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“夏休みの自由研究”から生まれた宇宙を支配する数式リング

驚いたことに、理論物理学者である私がデザインに関わった「指輪」が、Amazon.co.jpのレディース・リング部門で上位1〜3位を独占してしまった(2018年6月)。まさか、ジュエリーとして世の中に認められるとは思ってもみなかったのだが、それよりも、素粒子物理学の基本的な数式が、こんなに広く世の中に伝えられたことに、私は物理学者として喜びを覚えた。

宇宙を支配する数式リング
宇宙を支配する数式が刻印された指輪「宇宙を支配する数式リング」。「素粒子の標準模型に重力が加えられた作用」の数式が、リングの表面にあしらわれている。Amazon.co.jpで入手可能。リングの売り上げは非営利団体である大阪大学生協の収益となるが、大学生協から大学の基金への寄付が行われているため、広い意味で科学研究へのサポートにもつながる。

どうしてこんな指輪が誕生したのか? その発端は、2017年の夏にさかのぼる。「夏休みの自由研究」である。

私は十年ほど前から、夏休みの自由研究を(勝手に)行っている。普段の理論物理学の研究ではなく、なんでも好きな課題をするのだ。多くの場合、なにかの作品制作になる。「作品」と呼ぶとカッコ良いが、まあ、小学生レベルのものだから、特にすごいものでもない。とにかく好きなことを好き放題やってみよう、それが夏休みの自由研究だ。
面白いことに、「夏休みの宿題」と言われると、なんとなく、やらなきゃいけないコト、になって、重い腰が上がるのだ。つまりこの芸術活動(自分で勝手にそう呼んでいる)は、「いつでもやって良い」のではダメで、夏休みだからやるのであり、意義があるのである。
ちなみに、2010年のノーベル物理学賞は「グラフェンの発見」に与えられたが、その発見は、毎週決まった時間に、研究とはまったく関係ないコトを自由に試し合う研究室の風習から生まれた、と言われている。

自由研究となると、さあどんなものを作ってみようか、ということになる。たいていの場合、うちの子どもが小学校の図工の時間に作ったりするものを参考にする。ただし、私の頭の中は理論物理学でいっぱいなので、どうしても作品が科学にインスパイアされたものに。
ある夏には、子どもが紙粘土で動物を作っていたので、便乗して「フレミングの左手の法則(電磁力の法則)」を表す手の形を紙粘土で作ってみた。意外とカッコ良くできたので、研究室に飾っている。実際に作ってみると、なぜ人間の手は電磁力の法則を表せるような向きに指が曲がるんだろう、といった哲学的な問いにさいなまれることになる。大変楽しい。

フレミングの左手の法則(紙粘土版)
橋本が取り組んだ夏休みの自由研究の一つ、「フレミングの左手の法則(紙粘土版)」。
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