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COLUMN

コラム

mama!milk 20周年記念特集
「ここにいること, 旅をすること」寄稿:白井晃(演出家・俳優)、村松美賀子(編集者・文筆家)、阿部海太郎(作曲家)

2019 05 07

mama!milk, その演劇との親和性

白井晃(演出家・俳優)

私がmama!milkの音楽と遭遇したのは、今から7年前、演劇の公演で使用する音楽を探している時だった。アコーディオンが際立つ音色を探している時、mama!milkの音楽に出会った。そして、今まで感じたことのない情動が起こり、このデュオが関わるCDを必死になって全て手に入れた。それからと言うもの二人の音楽の虜になってしまった。

mama!milkの魅力とは何か。私がmama!milkの音楽に対して言及できることがあるとすれば、やはり演劇との親和性についてではないかと思う。音楽と演劇は古代から密接な結びつきをしてきた。音楽は物語の中で、登場人物たちの心象を強調してくれる。そのことによって、物語が際立ってくるものだ。

私は、mama!milkの音楽を聴いた時、とても演劇的だと思った。それは言い換えれば、人の心を映している、と言っても良いのかもしれない。音楽には色んな種類がある。物語を語る音楽、風景や景色を描く音楽など。そんな中、mama!milkの音楽はひとりの人間の心象風景と言い切っても良いと思っている。例えば「the moon」で言えば、この曲から聞こえて来るのは、月の風景ではなく月を見ている人の心の有様なのだ。mama!milkのどの楽曲も、触れた瞬間、私はいつも情動を引き起こされる。しかもそれはいきなりやって来る。情動というのがいきなり起こる感情だとすれば、まさに最初の何小節を聞くだけで一気に感情を揺さぶられる。

私は、音楽のことは専門的には分からないので、何故、mama!milkの音楽にそのような力があるのかは分からない。コード進行が人の心を揺さぶるのか、楽曲の多くに取り入れられるワルツ(三拍子)のリズムなのか、それすらもよく分からない。でも、「Parade」の最初の二小節を聞いただけで、自分の中にある感情の何かが揺さぶられて、いつしか目から涙がこぼれ落ちている。それはもはや、理屈ではない。

人は、いつも他者との関係で生きているし、周りの世界と対峙しながら生きている。歓びもあるし、切ない思いもあるし、苦しいことも嬉しいこともある。世の中がとても嫌に思えたり、とても素晴らしいと思えたりもする。そう思える感情がmama!milkの音楽には溢れているように思うのだ。恐らくそれは、アコーディオンの生駒祐子さんの生きる上での感情のひとつひとつが、音色の上に表れているからなのだと思う。私の勝手な憶測だが、生駒さんは、いわゆる音楽の理論や知識から音を選んではいないように思える。自分の心が揺らめく音、自分の心が浮き上がる音、自分の心がさざめく音、そんな一音一音を丁寧に探しながら紡いでいく。そして、生駒さんがアコーディオンで綴る音の雫を、コントラバスの清水恒輔さんがしっかりと受け止めて支える。清水さんが凄いのは、その零れ落ちる音色たちを冷静に論理的にしっかりと組み立てていくところだ。生駒さんのメロディに、寄り添いながらも決して同調するだけではない。むしろ、思いがけないコードや奏法で、心の揺れを客体化する。だから、ふたりの音楽は情緒的であるにも関わらず、決してべたつかない。こうやってmama!milkの音楽は成り立っているように思うのだ。

私が、最初に音楽をお願いしたのはシェイクスピアの代表作『オセロ』だった。シェイクスピアの三大悲劇のひとつを、mama!milkの既存の楽曲「Quietude」や「kujaku」「Gala de Caras」などの生演奏で、オセロと妻のデズデモーナの心の揺れを表してくれた。その後、シェイクスピアの最後の戯曲『テンペスト』ではオリジナル曲をお願いし、この戯曲を主人公・プロスペローの記憶の物語として表現してもらった。ラストシーンで流れた「A Little Drop」の詩情がなければ、この作品は到底終わることができなかった。そして、KAAT神奈川芸術劇場で創作したストリンドベリの『夢の劇』では、mama!milkのおふたりと音楽家の阿部海太郎さん、トウヤマタケオさんとの四つ巴で音楽を担当して頂き、天上から人間世界に舞い降りた天使の切ない思いを、詩情豊かに描いてもらった。

「夢の劇」舞台写真
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『夢の劇-ドリーム・プレイ-』舞台写真
撮影:二石友希 提供:KAAT神奈川芸術劇場

私は、演劇との親和性でしかmama!milkの音楽を語ることは出来ないが、その立場で言えるのは、人の心を扱うのが演劇だとしたら、人の心を映すのが音楽だということだ。きっと、mama!milkはいつも人の心を映そうとする。だから、常に情動を起こさせ、情緒をつくり、記憶を呼び起こし、私たちの体の中で何かが木霊するのかもしれない。

過日、おふたりとトークセッションをKAATで行った。その時、私のために用意して下さった楽曲があり、頂いた曲に「your voice」と言うタイトルをつけ、歌詞を書いて歌わせてもらったのだが、おふたりと一緒にリハーサルをしている時、突然、猛烈な心の揺れが生じて二人の前で激しく嗚咽してしまった。その嗚咽は、その後一日中続いて、私は本当に動揺してしまった。でも、その時思ったのだ。これがmama!milkの音楽なんだと。

結局のところ、私がmama!milkについて語れることと言えば、この出来ごとが全てであり、このことに尽きるのかもしれない。

こうして、私はmama!milkの音楽を心から愛し続けることになったのだ。

PROFILE プロフィール

白井 晃 | Akira Shirai演出家・俳優

KAAT神奈川芸術劇場芸術監督。ストレートプレイからミュージカル、オペラまで幅広く発表し、緻密な舞台演出で高く評価されている。自身の演出する舞台『夢の劇』(2016、KAAT神奈川芸術劇場)、『テンペスト』(2014、新国立劇場)、『オセロ』(2013、世田谷パブリックシアター)などにて、音楽制作・演奏にmama!milkを起用している。

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