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COLUMN

コラム

DIYの文化シーンとアクセシビリティ――その精神・実践・意義文:村上潔(女性史研究者)

2020 03 24

ライヴ・ワークショップ・ギャザリングなどの文化イベントにおいて、「十分なお金がなくとも、身体に障害があったりメンタルに不安があっても、高いコミュニケーション能力や高度な学力がなくとも参加できる環境」、そして「さまざまなマージナライズされた属性をもつ人々が、安全に、安心してその場にいられる環境」の実現を目指すためには何が必要なのか。現代女性思想・運動史及び、ジンやオルタナティブスペースを研究する村上潔氏に、その具体的な実践についてご寄稿いただいた。また冒頭・末尾では、DIY(Do It Yourself)の文化シーンにとってなぜそれらを目指すことが重要なのか、という理念・スピリットの側面にも触れている。

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私たちのジンフェアはみんなのためのもの! 私たちはこのジンフェアを、ジン・コミュニティ、そして生きられた経験とそれに伴う観点のすべてを表すものにしたい。POC〔People of Color=有色人種〕/クィア/トランス/ろう者や障害をもつ仲間たち、〔ストールの予約の〕申し込みを!

(Glasgow Zine Library/2019年1月11日/https://twitter.com/GlasgowZineLib/status/1083807864144252928

ジンは文字通りアクセシビリティがすべて。それはクィア、黒人・アジア人および少数民族、労働者階級の努力を背景に広まったもの。この多額〔580ポンド=約7万3000円〕のワークショップ参加費用をティーンに請求することは、ジン・カルチャーに対する侮辱です。

(Grrrl Zine Fair/2019年5月20日/https://twitter.com/grrrlzinefair/status/1130250550304395264

〈スウィンドン・ジンフェスト〉への参加申し込みが開始されました。私たちは、とりわけ、LGBTQIA+、POC、そして障害をもつ作り手たちの応募を奨励しています。もし心配ごとやアクセシビリティに関する質問があったら、私たちはあなたに便宜を図るために/あなたに安心してもらえるように、最善を尽くします。

(Swindon Zine Fest/2020年3月2日/https://twitter.com/swindonzinefest/status/1234460392174358531※1

1. なぜアクセシビリティが問題なのか

DIY(Do It Yourself)の文化シーンにおいて、必須の条件の一つとなるのがアクセシビリティ[Accessibility]だ。アクセスできること、アクセスのしやすさ、という意味で、それがおおよそ実現された状態が「アクセシブル[Accessible](アクセスしやすいことを意味する形容詞)」と評価される。

なぜそれが重要なのか? DIYはいうまでもなく、「自分たちでつくる」文化だ。モノを作ることを中心に考えられるが、それだけではない。たとえばライヴやワークショップを開催するスペース/環境を「自分たちでつくる」ことも、DIYの実践のひとつだ。それは往々にして、モノを作ることよりも大きな意味をもつ。

Attitude is Everything『DIY Access Guide』表紙
Attitude is Everything『DIY Access Guide』表紙:主にろう者・障害者のライヴミュージックへのアクセスを向上させる活動を続ける障害者主導の団体〈Attitude is Everything〉が、2017年に公開した『DIY Access Guide』(PDF版:26p.)。公式サイトからいくつかのフォーマットで閲覧/ダウンロードすることができる(参考文献参照)。

(高い金額の)お金を払ってモノやサービスを買うのではないやりかたで、表現したり、生活に必要なものを分け合ったり、知識や政治的な意識を共有したりする。それはつまり、(多くの)お金を払えなければ芸術・文化・知的活動、そして質の高い生活を送ることができない、という社会のありかたや価値観に対する対抗実践(運動)だ。

問題なのはお金だけではない。「健康」で、行きたいときに行きたいところへ自由に行ける、人と「ふつうに」会話ができる、自分を「うまく」表現できる。そうしたことが芸術や文化を享受するための「当たり前の条件」になってしまっている(一般にはずっとそうであってきた)現状がある。この「前提」は、お金と同様に十分な「バリア(壁)」であることに、私たち=DIY文化に関わる人々は気づく必要がある。

つまり、十分なお金がないと、身体と精神が健康でないと、コミュニケーションの能力がないと、高度な学力がないと、参加できないような活動は、DIYの活動として不適格(さらにいえば不正義)であり、そうした活動のありかたは端的に改められねばならない、ということだ。そこで、「すべての人に開かれた状態」をつくるために、アクセシビリティが問題になる。こう考えてみれば当たり前なことなのだが、しかし、それを意識して実践するのは、実は難しい。そこで、その方策や注意点・課題について、以下に簡単にまとめてみたい。

※1 いずれの引用も文面は村上による訳文。

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