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ARCHIVES

アーカイヴと再制作

みずのき美術館の学習会 ~福祉施設の作品をアーカイブするには~トーク 第2部:価値と活用という視点で見るアーカイブスピーカー:佐藤 守弘(視覚文化研究者)、榊原 充大(建築家/リサーチャー)

2017 05 12

スピーカー:佐藤 守弘(視覚文化研究者)、榊原 充大(建築家/リサーチャー)

進行:奥山 理子(みずのき美術館)

トークイベントの写真以外の画像は、当日スクリーンに投影された資料です。各画像下のリンクからPDFにて拡大してご覧いただけます。

佐藤守弘 発表
「ミュージアムとアーカイブズ
——ニューヨーク近代美術館をモデル・ケースに」

(奥山)
デジタル・アーカイブは、福祉の造形活動の現場ではまだまだ身近になっていない取り組みかと思います。今日お二人の話をうかがって、デジタル・アーカイブを日々の業務や営みの中で用いたいと感じてもらえるような時間にしたいと思っております。ではまず佐藤さんから、よろしくお願いします。

(佐藤)
佐藤守弘です。僕は芸術学/視覚文化論を専門としていて、基本的には写真を中心に研究しています。芸術学研究者という立場ではアートに関わっていますが、アートの「外側」にあるような、遺影写真の研究なども行っています。最近はアーカイブに関わる研究会に招かれることもあり、これまでにアーカイブに関する論文が2本書籍に掲載されています。今回の私の発表では、本来アーカイブズとは一体何なのか、デジタル・アーカイブという概念が入ってくることによってそれがどのように広がっていったのか、というところまでをまとめてみたいと思います。

広い/狭い意味でのアーカイブズ/アーカイブ

(佐藤)
基本的に「アーカイブズ」という言葉は複数形であって、単数形で用いられることはありません。辞書では常に複数形で使うと書かれています。語源は、ギリシャ語で「政府」を意味する言葉。公的記録、歴史録が保管される場所という意味を持っており、要するに「公文書館」です。日本では、1971年に東京は竹橋につくられた国立公文書館がそれに当たります。それまで公文書は各省庁で保管されていましたが、公文書館ができたことで、ひとところにまとめて保管されるようになりました。公表の基準としては、重要な歴史資料の中である程度の期間を経たものを公表する、というかたちをとっています。中には公表はしたものの黒塗りばかり、ということもあるんですが(笑)。

京都には国立公文書館より前の1963年につくられた「京都府立総合資料館(2017年4月28日より「京都府立京都学・歴彩館」としてオープン)」があります。この施設が興味深いのは、Kyoto Prefectural Library and Archivesと訳されることからわかるように、図書館でありなおかつ公文書館であるという性格を持っているということです。京都に関する資料や公文書まで含めて、行政文書、歴史古文書などを統合的に収集しています。そして京都府立図書館では、デジタル・アーカイブの取り組みも非常に積極的に行われています。
当然、国立のアーカイブズは各国にあります。アメリカでは、「ナショナル・アーカイブズ」と呼ばれる国立公文書記録管理局(National Archives and Records Administration)がそれに当たります。

「アーカイブズとは何か」について、より正確に把握するために、類似した構造を持つものと比べてみましょう。まずミュージアム(美術館/博物館)。これは展示するための場所であって、絵が壁という支持体にかけられている。さらには収蔵庫という機能もあって、いわば「本物」「物そのもの」が置いてあるんです。次はライブラリ(図書館)。閉架書庫は別として、ライブラリでは基本的には本の背表紙が見える状態になってます。書棚は、収められた本のタイトルだけが一覧でき、書籍内容を見たければ本を取り出す、という構造になっています。ミュージアム、ライブラリと比較して、アーカイブズにおいてまず重要なのは、「どこに何が収められているのか」ということです。アーカイブズが持つ構造は基本的に「抽斗(ひきだし)」です。中に入れられる主なものは、本にもなっていない状態の「紙」など。ここで必要なのは、索引システムや、索引システムに代わる管理システムといったものです。その管理を専門としているのがアーキビストです。日本では司書としてのライブラリアンとアーキビストがきっちりと分業化されていないという問題も聞きますが、最近はアーキビストの数も増加しているようです。

これらが狭い意味でのアーカイブズですが、他にも様々なところで「アーカイブ」という言葉が使われるわけですね。例えばNHKは「アーカイブス」と称し、古い番組を系統立てて収集しています。なお、発音しにくいという理由により、NHKは独自の判断で濁点を抜いているそうです。あるいは「アーカイブ立国宣言」のように国策や政策の中で「アーカイブ」という言葉が使われる場面も増え、それに伴い言葉の意味も拡張しています。こうして拡張された先に、「ウェブ・アーカイブ」や「デジタル・アーカイブ」という言葉があるわけです。

MoMAの体制

(佐藤)
ここから、ニューヨーク近代美術館(MoMA)を例に挙げて、ミュージアムにおけるアーカイブズのあり方を見ていきましょう。MoMAは世界最初の同時代の美術を収集する美術館です。早い時期から、いわゆる絵画や彫刻以外に、デザイン、映画、写真、舞台芸術といった様々な分野のものを収集対象にしています。

佐藤守弘 スライド06

スクリーンショットはMoMAの公式ウェブサイト より。赤字の翻訳、茶色の枠は佐藤氏が付加(本画像以下同じ)。
[PDFで見る(4.69mb)]

まずMoMAの組織がどうなっているかを簡単に説明します。MoMAは「学芸部門」と「研究・教育部門」という二つの部門に分かれています。キュレーターを抱え、作品を直接管理しているのが、学芸部門。学芸部門には建築&デザイン、素描、映画、メディア&上演芸術、絵画&彫刻、写真、版画&絵入り本といった分野があります。目立つのはこの学芸部門ですが、MoMAには研究・教育部門もあり、アーカイブズはこちらが担当しています。

展覧会などの事業に比べてあまり表には出ませんが、研究・教育部門はその他にも講座、国際プログラム、小中学校の教員に向けたプログラムや所蔵歴調査、保存修復、企画などを手がけています。よく言われるのは、アメリカの美術館ではそれぞれの分野のプロフェッショナルがいて、お互いを尊重しながら独立して仕事をしている、ということ。つまり、コレクションを管理する部門と、また別でアーカイブズを管理する部門があるわけです。日本の美術館・博物館でここまで分業した体制が取れているところはなかなかないのではないかと思います。

MoMAのアーカイブズは「研究・教育部門」の「研究資源」のカテゴリにあります。MoMAのウェブサイトの「研究資源」のページでは「アーカイブズには、美術館の歴史に関係する第一次資料が収められています」と説明されています(※5)。対して、「コレクション」というページもあり、そこには「常に進化しているコレクションは、ほぼ20万点の近代美術の作品があり、現在7万3000点以上がネット上で閲覧できます」と説明があります(※6)。

※5)原文は「The Archives contain primary source materials related to the history of the Museum」(”Research Resources”.MoMA ウェブサイト.参照2017-05-05.)

※6)原文は「Today, MoMA’s evolving collection contains almost 200,000 works from around the world」そして「This website features more than 73,000 artworks」
(”About the Collection”.MoMA ウェブサイト.参照2017-05-05.)


佐藤 守弘 SATOW Morihiro

佐藤 守弘 SATOW Morihiro

京都精華大学デザイン学部教授。専門は芸術学、視覚文化論。近代における風景/トポグラフィの視覚文化研究、ポピュラー/ヴァナキュラー・イメージ研究など。単著に『トポグラフィの日本近代――江戸泥絵・横浜写真・芸術写真』(青弓社、2011年)、アーカイブに関連する著作として、「写真とアーカイブ――キャビネットのなかの世界」(原田健一、石井仁志編『懐かしさは未来とともにやってくる――地域映像アーカイブの理論と実際』学文社、2013年)、「産業資本主義の画像=言語――写真アーカイヴとセクーラ」(『PARASOPHIA京都国際現代芸術祭2015[公式カタログ]』、2015年)がある。

IN THE STUDIO:佐藤守弘の講義情報
http://d.hatena.ne.jp/satow_morihiro/

佐藤守弘の経歴/業績
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/
b-monkey/intro.html


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