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アーカイヴと再制作

カワラ・オンたち:アーティストとツイッター・ボット文:奥村雄樹(アーティスト/トランスレーター)

2015 09 29

コンセプチュアル・アーティストとして世界的に知られ、昨年の夏にこの世を去った河原温。その河原の名義で日々みずからの「生存」を告げるツイッター・ボット(自動的にツイートを投稿するプログラム)。河原の実践に魅せられ、テキストやパフォーマンスを通じてそれにアプローチしてきた奥村雄樹は、アーティスト本人の逝去後もツイートが続けられていることに興味を持ち、ボットの「中の人」であるポール・サイヤーにインタビューを行った。今回の寄稿は、その対話を記録した映像作品へのイントロダクションおよびサプルメントとして書かれたものだ。同じ名を持つアーティストとボットの奇妙な共通点と相違点、そして前者の逝去による両者の関係性の更新をめぐって、奥村の考察が素描されている。

実のところ河原温(カワラ・オン)はふたりいる。いやふたつある。

一方は著名なコンセプチュアル・アーティストだ。制作当日の日付だけが記された絵画の連作《今日》や「I am still alive」とだけ打ち込まれた電報を友人に送る連作《私はまだ生きている》といった作品で知られている。半世紀に及ぶ仕事をまとめた大規模な個展「サイレンス」がニューヨークのグッゲンハイム美術館で開かれたことも記憶に新しい。他方はプログラミング・コードだ。それはカワラ・オン名義のツイッター・ボット(@On_Kawara)を使って2009年1月から毎日同じ時刻に「I AM STILL ALIVE」とツイートしている。2014年の夏にアーティスト本人がこの世を去って からもずっと。重要なのはどちらの「カワラ」も非物質的な存在であるということだ。彼らは肉体を持たない。とはいえ特定の人物の肉体と結びついてはいる。これに関して筆者はとても幸運な人間だと言えるかもしれない。両方のカワラの「中の人」とじかに顔を合わせたことがあるのはいまのところ筆者しかいないだろうから。

前者のカワラが非物質的であると言えるのはなぜか。まずカワラ(とされる人物)は1966年から公的な場所に姿を現したことがない。よって私たちが生きる現実において彼は「カワラ・オン」という名前によって指し示されるだけの概念的な存在である。さらに「カワラ・オン」は作家の本名ですらない。いわゆるアーティスト・ネームである。つまるところ「カワラ・オン」は名実ともに架空の人格であり物理的な指示対象を持たない純粋な「名前」なのだ。コンセプチュアル・アーティストというよりはむしろコンセプトそのものである。ちなみにカワラに結びついた肉体=作品制作におけるフィジカルな作業を担当する人物=いわばカワラのゴーストライターの名前として行政機関に登録されていたのはおそらく「カワハラ・アツシ」であった。これらの点については筆者が山辺冷というペンネームで書いた=山辺冷という架空の批評家のためにゴーストライトした追悼文 でも取り上げたことがある。

ところで先に述べたように筆者はカワラ――いやカワハラ――と会ったことがある。2012年2月のことだ。山辺名義の初のテキスト はカワラが50年代に日本で取り組んだ絵画やドローイング(主に《浴室》など)と66年にニューヨークで始めたコンセプチュアルな連作(主に《今日》や《私はまだ生きている》など)との架橋を試みるものであった。それがカワハラ本人に評価されて幸運にもそのころ準備中だったカワラの新しい本 に掲載される運びとなった関係でニューヨークの自宅に招待されたのである。カワハラは高齢だったがエネルギーに満ち溢れていた。コンセプチュアル・アートから人類の文明さらには擬似科学的な超自然現象まで様々なトピックについて縦横無尽に語ってくれた。深く敬愛しながらも一方的な面識すら持ち得なかった謎の人物とじかに言葉を交わしながら共に時を過ごすという夢のような体験であった。


奥村雄樹 OKUMURA Yuki

奥村雄樹 OKUMURA Yuki

1978年生まれ。東京藝術大学大学院博士後期課程修了。アーティスト/トランスレーター。ARTISTS' GUILDおよび調布会メンバー。近年の主なプロジェクトに《ローマン・オンダックをはかる》(MISAKO & ROSEN/WIELS)、《高橋尚愛とは誰なのか:ダニエル・バウマンによるインタビュー》(Annet Gelink Gallery)、《現代美術の展望はどこにある?》(上野の森美術館)、《アッシュトレイ》(ケルン日本文化会館)、《肉体契約(番外編)》(blanClass/Etablissement d'en face)、《多元宇宙の缶詰》(blanClass/豊田市美術館/千葉市美術館)、《高橋尚愛:ワイド・ホワイト・スペース(1967年のアントワープ)からウィールズ現代美術センターのプロジェクト・ルーム(2013年のブリュッセル)へ》(WIELS/森美術館)、《知らないことを思い出す(芸術家の幽霊)》(東京都現代美術館)、《河原温の純粋意識 あるいは他世界(と)解釈》(東京国立近代美術館)などがある。

Yuki Okumura | 奥村雄樹
http://yukiokumura.com/


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