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アーカイヴと再制作

連載「巨大な書庫で迷子になって」(全3回)第1回:美術館とオンライン・アーカイヴ文:佐藤守弘(視覚文化研究)

2018 01 11

2016年9月14日、世界の美術ジャーナリズムが色めきだった。ニューヨーク近代美術館が、1929年の開館から現在に至るまでの3500を超える展覧会に関する資料のデジタル・アーカイヴをオンラインで公開すると発表したのだった(※3)。「展覧会歴」(MoMA Exhibition History)と題されたウェブページにアクセスすると、「1929年の開館から現在に至る展覧会〔の資料〕をオンラインで公開しています。これらのページは、更新され続けています」(※4)と書かれており、その下のボックスからキーワード検索ができるようになっている。それぞれの展覧会ページには、展示写真、プレス・リリース、展示品のチェックリスト、図録(絶版のものはダウンロード可)、そして展示された作者リストなどが掲載されている。同じニューヨークにあるメトロポリタン美術館が2014年に、所蔵作品の高精細度での複製画像を無料でダウンロードできるようにした報道に続く大ニュースであった(※5)。

初代館長アルフレッド・バー・Jr(1902〜1981)による開館時の展覧会「セザンヌ、ゴーギャン、スーラ、ファン・ゴッホ」(1929年11月7日〜12月7日)を見てみよう。156ページにおよぶ絶版の図録がPDFでダウンロードできるようになっているのだが、図書館蔵書検索サービスのCiNii Booksで調べると、同書のオリジナルを所蔵している大学などの図書館は日本でただ2館だけ。再版を含めても5館だけにしかない希少な図書である。さらに美術館内部で作られたマスター・チェックリストもダウンロードでき、それには全出品作のタイトル、サイズ、制作年、メディア、所蔵先が記載されている。

1955年に開館25周年記念としてエドワード・スタイケン(1879〜1973)のキュレーションで開催された写真展「人間家族」のページには、図録はいまでも販売されているのでダウンロードはできないが、チェックリストの他に5種類のプレス・リリースが掲載されている。そのなかには、写真の応募を呼びかけるものまであり、展覧会がどのように形成されていったかをうかがい知ることができる。また1965年にバーナード・ルドフスキー(1905〜1988)によって企画され、「ヴァナキュラー建築」という概念を確立させた建築写真展「建築家なしの建築」のページには、絶版図録のほか、9点の展示景写真が掲載されていて、斬新な写真展示の様子が確認できる。あるいは、ウィリアム・ルービン(1927〜2006)が企画し、いわゆる「部族芸術」の扱い方をめぐって論争を引き起こした「20世紀美術におけるプリミティヴィズム」展(1985年)のページには、英語版図録は刊行中のため掲載されていないものの、絶版となった他国語翻訳版が数点載せられている。そのなかにはなかなか高価であった日本語版も含まれていて、それを買った人間(私も含めて)にとっては、どことなく悔しい気持ちを抱かせることになる。

もちろんこれらの資料は、研究者には以前から公開されていたものの、基本的には現地に行って、手続きを済ませて閲覧するという手順を踏まなければいけなかった。MoMAにかぎらず、さまざまな情報を自宅のコンピュータから閲覧できるようになったというのは、まことにありがたいことである。

※3)日本での報道の例としては、「オンラインでMoMA展覧会の歴史を振り返る『The exhibition history』」(ウェブサイト『Swings』、BULANCO、2017年1月11日)。公開に関する公式プレス・リリースは、“The Museum of Modern Art Launches Comprehensive Online Exhibition History”

※4)原文は「Exhibitions from our founding in 1929 to the present are available online. These pages are updated continually.」(参照:2017年12月22日)

※5)この時点では主に学術利用や個人利用に限られるものの、所蔵作品のうちで「OASC〔Open Access for Scholarly Content〕」のマークが付けられているものに関してはダウンロード可能であった。日本での報道の例としては、「メトロポリタン美術館、約40万点の高精細画像ダウンロードを可能に」(ウェブサイト『ITmedia NEWS』、IT media Inc.、2014年5月20日)。公開に関する公式プレス・リリースは、“Metropolitan Museum Initiative Provides Free Access to 400,000 Digital Images”。さらに2017年には、37万5000点をクリエイティブ・コモンズのCC0ライセンスで公開した。


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