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アーカイヴと再制作

連載「巨大な書庫で迷子になって」(全3回)第1回:美術館とオンライン・アーカイヴ文:佐藤守弘(視覚文化研究)

2018 01 11

さてもう一度、MoMAの例を考えてみよう。巨大美術館であるMoMAには経営から日常の運営に至るまで多くの部局が存在する。もちろん美術館の核であり花形とも言えるのは、20万点を超える収蔵作品——絵画や彫刻といった伝統的なメディアの場合は「オリジナル」——が構成する「コレクション」であり、それを研究し、展覧会を企画し、カタログを作るのがキュレーターたちである。一方で、MoMAには、アーカイヴズもあり、そこにはアーキヴィストたちが働いている。そこにあるのは多くの場合紙ベースの歴史資料——手紙、論文、記録、写真など——で、利用者は火曜から金曜の午後1時から4時までのあいだ、アポイントメントをあらかじめ取れば訪れて調査することができる。ここに保存されていた資料のうち、展覧会に関係するものをデジタル化し、オンラインで公開したのが、冒頭で紹介した「展覧会歴」である。

MoMAに代表される美術館という機関=制度においては、コレクションとはモノとして存在しているオリジナルの「作品」を収集/保存/展示するところであり、アーカイヴズとは作品の外側にある資料を収集/保存するところであると峻別されている。この例は、アーカイヴズが本来どのようなものであったのかを理解するうえで役に立つと思う。

では、デジタル化によってなにが変わったのだろうか。MoMAの看板作品のひとつ、パブロ・ピカソ(1881〜1973)による《アヴィニオンの娘たち》を紹介しているウェブページを見てみよう。そのページで見ることができるのは、作品の画像、作者名、タイトル、制作場所、制作年、メディウム、サイズ、作品番号といった基本データのほかに、解説文、所蔵歴などである。画像以外はすべてテクスト情報であり、作品の外側にあるもので、厳密にいえばアーカイヴズに帰属するものともいえよう。このページは、ウェブサイトの「コレクション」のなかにある(URLでいえば、www.moma.orgというホスト内の/collection/works/というパスにある)にもかかわらず、作品だけではなく、それ以外のアーカイヴ的情報で充たされているのである。

今、不用意に「作品」という言葉を用いたが、当然ここには作品は存在しない。作品そのものはニューヨーク53丁目にある館の5階に陳列されており、私は時間と経費を捻出しないとそれを見ることはできない。ここにあるのは作品の写真複製——さらにそれをデジタル・データ化したもの——なのである。

コンピュータ/インターネット上のアーカイヴ情報は、美術館という現実の建物のなかに実在する作品の複製と、その建物内のファイル・キャビネットに収められた文書類の複製である。それらは物質性を失ったデジタル情報となって、サイバー・スペースに移住する。現実空間に存在する美術館/アーカイヴズと、概念としてのアーカイヴのあいだで漂うもの。それこそがオンライン・アーカイヴなのかもしれない。


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