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アーカイヴと再制作

連載「巨大な書庫で迷子になって」(全3回)第2回:写真とオンライン・アーカイヴ文:佐藤守弘(視覚文化研究)

2018 02 17

「巨大な書庫で迷子になって」は視覚文化研究者の佐藤守弘氏によるアーカイヴに関する連載記事(全3回)。「写真とオンライン・アーカイヴ」と題された第2回では、「写真というメディアそのものが、元来アーカイヴ的であった」という2つの主張を紹介したり、「写真アーカイヴの所有」を通した“支配”や“世界の収集”といった側面から写真アーカイヴを読み解いている。これらのアプローチにより、写真というメディアを通して「アーカイヴとは何か」を描写しているとも言えるし、また写真アーカイヴならではの問題を示唆しているとも言える。

これほど写真が撮影された時代があっただろうか。いつでもどこでも人びとは、気軽に携帯電話を取り出し、身の回りを憑かれたように撮影し続けている。

周知の通り、かつて写真とは、これほど気軽なものではなかった。写真を撮影した時点ではどのような結果になるのかはわからず、現像からプリントという過程を経て、はじめて仕上がりが確認できたのだから。時代を画したのは、1980年代中盤、富士フイルムの「写ルンです」に代表されるレンズ付きフィルムの流行であろう。カメラというハードウェアにフィルムというメディアを一体化させたそれは、写真への障壁を一気に低くしたと言ってもいい。とはいえ、現像、プリントには時間も費用もかかるので、カメラにおけるひとつひとつの露光は、今とは比べ物にならないほど貴重なものだった。

そしてデジタル時代が来る。2000年代には、デジタル・カメラの出荷台数がフィルム・カメラを抜き、さらには携帯端末に組み込まれたカメラ機能の高性能化により、今日の状態を迎えることになる。通常のデジタル・カメラと携帯端末に付属するカメラとの一番の違いは、通信機能であろう。それはまさに「端末」の名のごとく、ネットワークの端にぶら下がっていて、カメラとネットワークは、ほぼシームレスにつながっているのだ。カメラ・アプリではなく、SNS専用のアプリ内で撮影する場合はなおさらである。Twitter、FacebookなどSNSはさまざまあるが、画像に重きをおいたInstagramの場合、2017年9月の段階で、月間8億のアクティヴな利用者がいて、そのうち5億が毎日利用しているとのことである(※1)。一体、どれほどの数の写真がInstagramにアップロードされているのだろうか? これに他のSNSを加えれば途轍もない数になり、巨大なアーカイヴ(※2)を形成していると考えていいだろう。

もちろん、ネットにアップロードされる写真は、ごく一部である。その向こうには個々の記憶装置のなかに、アップロードされない写真が大量に眠っているはずである。そのなかにはアップロードに値しないミスショットや、プライヴェートなのでアップロードをためらわれるもの、あるいは先述のような一時的なメモのような写真もあるだろう。それらはネット上のアーカイヴの向こう側に、さらに巨大なアーカイヴを形成しているともいえる。

目次

  1. キャビネットのなかの写真
  2. 諸学問の基礎としての写真アーカイヴ
  3. アーカイヴの所有
  4. 写真とオンライン・アーカイヴ
  5. キャビネットから解き放たれて

※1“Strengthening Our Commitment to Safety and Kindness for 800 Million”

※2)この場合は、前回語ったように、実在する制度=機関としての「アーカイヴズ」ではなく、比喩として、単数形の「アーカイヴ」を用いる。本連載における、単数形の「アーカイヴ(archive)」と複数形の「アーカイヴズ(archives)」の使い分けについては本連載の第一回を参照。


佐藤 守弘 SATOW Morihiro

佐藤 守弘 SATOW Morihiro

京都精華大学デザイン学部教授。専門は芸術学、視覚文化論。近代における風景/トポグラフィの視覚文化研究、ポピュラー/ヴァナキュラー・イメージ研究など。単著に『トポグラフィの日本近代――江戸泥絵・横浜写真・芸術写真』(青弓社、2011年)。最近のオンライン・テクストに「場所と人間──トポグラフィの視覚文化論」(『10+1 web site』LIXIL出版、2017年8月)がある。

IN THE STUDIO:佐藤守弘の講義情報
http://d.hatena.ne.jp/satow_morihiro/

佐藤守弘の経歴/業績
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/
b-monkey/intro.html


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