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ARCHIVES

アーカイヴと再制作

連載「巨大な書庫で迷子になって」(全3回)第2回:写真とオンライン・アーカイヴ文:佐藤守弘(視覚文化研究)

2018 02 17

1. キャビネットのなかの写真

しかし、このようなデジタル/ネット時代に入る以前から、写真というメディアそのものが、元来アーカイヴ的な存在であったのではないかと主張する論者もいる(※3)。まずは、公共施設において写真が収まる場所について考えてみよう。たとえば家のなかで絵画——とくに額縁に入れられたタブロー——が収まる場所は、壁である。それが公共の施設として拡大したものが、壁にさまざまな絵画を掛けて展示する美術館であろう。書物は、本棚に収められる。これを拡大すれば図書館になる。では写真はどこだろうか。写真立てに入れられ展示される場合もあるだろうし、アルバムに入れられ、本のように見られる場合もあるだろうが、そこから漏れた多くの写真は、抽斗のなかに収められ、必要に応じて取り出されるだろう。この抽斗を拡大したものこそがアーカイヴズであると考えてもいい。というのもアーカイヴズに収められるのは、基本的には紙であり、それは書物のようには自立できないので、抽斗——ファイル・キャビネット——のなかで整理・保管されなければいけないからだ(※4)。

一方で、現代では美術館での展覧会で写真が展示されることはよくある。その時、写真は白いマットで囲まれて額縁に入れられ、白い壁に等間隔で並べられて、「美術作品」という身分に落ち着いているようにも見える。そんな美術としての写真に疑問を呈したのが、美術批評家のロザリンド・クラウス(1941-)であった(※5)。

各地の美術館に所蔵されている写真家に、ウジェーヌ・アジェ(1857-1927)がいる。彼は、19世紀パリの、なんとなく不気味にも見える都市風景を撮影し、シュルレアリストたちに大きな影響を与えたことで知られる。しかし彼自身は、けっして美術として見られるために写真を撮っていたのではなかった。彼は、画家のための資料や図書館などに所蔵する資料として写真を撮影していたのである。

Eugène Atget. Rue de la Montagne-Sainte-Geneviève. 1924. Photograph. Retrieved from the Metropolitan Museum of Art,

Eugène Atget. Rue de la Montagne-Sainte-Geneviève. 1924. Photograph. Retrieved from the Metropolitan Museum of Art, https://www.metmuseum.org/art/collection/search/286693. (Accessed February 10, 2018.)

クラウスは、アジェのネガに付された番号が、彼が作品を納入していた図書館や地誌コレクションのカード・ファイルに由来していることを指摘し、それが美術とは別の体系に属していたことを明らかにした。したがって現代では美術作品として観賞されているアジェなどによる写真が、本来は必要な時以外はアーカイヴのファイル・キャビネットのなかに収められていた資料であることを指摘することで、近代的な美術制度を批判したのであった。

※3)このセクションと次セクションの内容については、拙論「写真とアーカイブ――キャビネットのなかの世界」(原田健一、石井仁志編『懐かしさは未来とともにやってくる――地域映像アーカイブの理論と実際』学文社、2013年、212〜230ページ)に詳しく述べている。

※4)古い写真の流通経路を考えてみるのも面白い。基本的に絵画は、他の骨董品とともに、いわゆる古美術店で売られるが、写真は、浮世絵や印刷物とともに、古書店で取り扱われることが多いからだ。このことを考えると、アーカイヴズが図書館に併設されていることがよくある理由も分かるだろう。

※5)ロザリンド・クラウス「写真のディスクール空間」、『オリジナリティと反復』小西信之訳、1994、107−120。


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