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ARCHIVES

アーカイヴと再制作

連載「巨大な書庫で迷子になって」(全3回)第2回:写真とオンライン・アーカイヴ文:佐藤守弘(視覚文化研究)

2018 02 17

4. 写真とオンライン・アーカイヴ

時代は移り、アーカイヴズのファイル・キャビネットに収められていた写真は、デジタル化され、インターネットで公開されるようになった。インターネット上で利用できる写真アーカイヴをいくつか紹介してみたい。

アメリカ議会図書館のデジタル・コレクションでは、写真史的に重要なFSAの写真プロジェクトで撮影されたネガから起こした写真をなんと17万点以上も公開している。FSAとは、アメリカ合衆国農業保障局の略称で、この機関は1935年から経済学者ロイ・ストライカー(1893-1975)の指導のもと、大恐慌で疲弊したアメリカを写真によって記録するプロジェクトを行って、フランクリン・ルーズヴェルト大統領(1882-1945)の農民救済政策への支持が集まるようにしたという。そこに集まった写真家には、ウォーカー・エヴェンズ(1903-1975)、ドロシア・ラング(1895-1965)、ベン・シャーン(1898-1969)、ゴードン・パークス(1912-2006)などがいて、その写真群は、後のドキュメンタリー/報道写真に大きな影響を与えた(※12)。

Destitute pea pickers in California. Mother of seven children. Age thirty-two. Nipomo, California. California Nipomo San Luis Obispo County United States

Lange, Dorothea, photographer. Destitute pea pickers in California. Mother of seven children. Age thirty-two. Nipomo, California. California Nipomo San Luis Obispo County United States, 1936. Feb. or Mar. Photograph. Retrieved from the Library of Congress, https://www.loc.gov/item/2017762891/. (Accessed February 10, 2018.)

もちろん17万点を超える写真をすべて見ることなどできない。しかし、撮影された地域や主題、写真家などで絞り込むことができるようになっていて、この膨大で貴重な写真群に、いつでもどこでもアクセスすることができるようになったことの意味は、写真研究者や歴史研究者だけではなく、この時代に興味がある人間にとっても大きいだろう。ちなみにこのデジタル・コレクション全体には、FSAの写真以外にも膨大な量のアイテムが公開されていて、前掲の犯罪者写真ギャラリーの写真もここで発見した。

ニューヨーク公共図書館のデジタル・コレクションも楽しい。ここでは全部で729,730点のアイテムが公開されていて、そのうち写真は293,447点(オンライン・アーカイヴの場合、量は重要である)。このコレクションを研究に利用することもあるが、実はよく使うのは、毎年の年賀状に使う画像の選定である——去年は“rooster”、今年は“dog”で検索して、それぞれなかなか面白いステレオ写真を見つけた。というのも、ここでは「パブリック・ドメインのみを表示する(Show Only Public Domain)」というチェック・ボックスが付いているし、あるいは細かい引用例も表示されるので、使いやすいのである。今回のトップ・ページに使用したニューヨーク市警察本部の犯罪者写真ギャラリーの写真も、ここで発見した。ちなみにどちらのサイトでも、 “Cite this Item”として画像の引用、キャプションの付け方が個々のアイテムに従って自動生成されるようになっていて、利用者にとても親切である。

翻って日本では、ナショナル・アーカイヴズである国立公文書館も「デジタルアーカイヴ」を公開しているが、行政文書が中心のため、画像のアーカイヴとしては、けっして使いやすくはない。有名なのは「国立国会図書館デジタルコレクション」であるが、著作権切れの書籍を探すのにはよく使うものの、ここも一点ものの写真を探すのは、なかなか難しい。

私が研究でよく使うのは、前回も触れた京都府立京都学・歴彩館(旧・京都府立総合資料館)の「京の記憶アーカイブ」である。ここで見つけた「大正大禮京都府記事關係寫眞材料」は、1915年に京都で行われた大正天皇の大嘗祭および即位の式典に湧く京都の様子を記録したもので、ある学会誌に掲載予定の論文「一九一五年の電気都市——大正大礼とイルミネーション」を執筆する際には、この資料を中心として考察を進めた(※13)。

また某所で土木工事の視覚的記録について講演することになり、1885年にはじまる琵琶湖疏水の工事について考える資料として、『琵琶湖疏水工事写真帖』と河田小龍(1824〜1898)が描く『琵琶湖疏水図誌』(1890)を見つけ出した。上記のアメリカのオンライン・アーカイヴに比べると検索が多少しにくいという難点はあるものの、すべてがクリエイティブ・コモンズの「CC BY 2.1 JP」のライセンス——「適切なクレジットを表示し、ライセンスへのリンクを提供し、変更があったらその旨を示」せば、自由に共有・翻案ができる——に則っている点は、利用者としてはこの上もなくありがたい取り組みであると言えよう(※14)。

※12)ジル・モラ『写真のキーワード――技術・表現・歴史』(前川修、小林美香、佐藤守弘、青山勝共監訳、昭和堂、2001年)の「農業保障局(FSA)」の項(121-123)を参照のこと。

※13)論文の概要は、『10+1 web site』201708(特集「トポグラフィの生成と言説」)に掲載された拙文「場所と人間──トポグラフィの視覚文化論」に記述している。

※14「京都府立総合資料館、新データベース(アーカイブ)システム「京の記憶アーカイブ」を公開」(ウェブサイト「カレントアウェアネス・ポータル」国立国会図書館、2015年11月4日)を参照のこと。また京都府立京都学・歴彩館(旧・京都府立総合資料館)によるオンライン・アーカイブ事業の代表例である、ユネスコ「世界の遺産」に認定されている「東寺百合文書」においても「CC BY 2.1」ライセンスで公開した経緯に関しての福島幸宏「京都府立総合資料館による東寺百合文書のWEB公開とその反響」(ウェブサイト「カレントアウェアネス・ポータル」国立国会図書館、2014年5月22日)も参照のこと。


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