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ARCHIVES

アーカイヴと再制作

連載「巨大な書庫で迷子になって」(全3回)第3回:ポピュラー・カルチャーとアーカイヴ——期待と困難文:佐藤守弘(視覚文化研究)

2018 03 31

1. 「クールジャパン」のアーカイヴ

昨年、縁あってアーカイブサミット2017 in 京都に参加した。アーカイブサミットとは、「ナショナルアーカイブの設立とデジタルアーカイブ振興法の制定をめざ」す文化資源戦略会議が2015年から開催しているもので、東京で行われた第1回、第2回に続いて、第3回は「社会のアーカイブ化、アーカイブの社会化」をテーマに京都で行われた(※2)。

私が担当したのは、2日目の午前に行われたミニ・シンポジウム2「クールジャパンの資源化について」の司会・進行で、明治大学で米沢嘉博記念図書館を発展させるかたちで東京国際マンガ図書館というアーカイヴ施設を計画している森川嘉一郎氏、日本動画協会副理事長としてアニメのデジタル保存に取り組んでいる吉田力雄氏、立命館大学ゲーム研究センターでヴィデオ・ゲームのアーカイヴ化の方法をさまざまに模索している細井浩一氏の発表を取りまとめた。

マンガ、アニメ、ゲームは、現代日本特有のポピュラー・カルチャーとされ、世界のさまざまな場所で消費されている。それをいわば経済的な資源として活用していこうという動きが「クールジャパン」政策である。「クールジャパン」なるものの内実が一体なんであるのかは、それが語られるコンテクストによって恣意的に変えられ、工業製品や日本食、時には武道や伝統芸能までもが、その範疇にくくられる時さえある。とはいえ、マンガ、アニメ、ゲームというポピュラーなコンテンツ産業がその中核にあることは変わりない。

文化政策においても、マンガ、アニメ、ゲームは重要なものとされている。文化庁は、それらを「メディア芸術」という(多少問題含みの)枠組み(※3)で捉えて、振興策をさまざまに講じている。1997年から開催され、今年で第21回を迎える文化庁メディア芸術祭や文化庁の「メディア芸術デジタルアーカイブ事業」の成果として公開されているメディア芸術データベース、そしてその他の連携事業や支援事業がその代表である。要するにマンガ、アニメ、ゲームは、国策として保護、振興される対象となっているのである(※4)。こうした動きのなかで、それらのアーカイヴ化も求められてくる。アーカイブサミット2017において「クールジャパンの資源化について」というシンポジウムが開催された理由は、ここにあるだろう。

しかし、マンガ、アニメ、ゲームはそれぞれメディアの基本的な性質が違うため、それらを保存するには、それぞれのメディアに応じた方策が必要であろう。マンガは、基本的には書籍であり紙を支持体とする。アニメは本来は映画であり、ゲームはコンピュータ・プログラムである。書籍であるマンガは、図書館という先行モデルがある。映画であるアニメには、フィルム・アーカイヴズが先行モデルとして挙げられるだろう(※5)。ゲームの場合は、先行例としては一般的なコンピュータ・プログラムのアーカイブが考えられるが、プログラムのアーカイヴ化自体がまだまだ実践の途上であり、先行例に乏しいというのが現状であろう。実際、ゲームのアーカイヴには、さまざまな方法が各地で試されており、ゲーム研究センターの細井氏も独自の方法を探求している。

先行例があるからと言って、マンガやアニメのアーカイヴ化も楽なことではない。日本動画協会の吉田氏によると、たとえばアニメの制作会社によって保存の方法がばらばらであることが挙げられている。また、森川氏によれば、マンガの場合でも、どこまで収集するべきかという問題があるという。すなわちマンガ文化を総体として捉えるには、公刊されたマンガ書籍を収集するだけでは不十分であり、原画や同人誌、あるいは関連する商品までも視野に入れないといけないのだが、さまざまな側面から、それには困難が伴うというのである。

このシンポジウムの冒頭に、私は司会者でありながら、問題提起としてイギリスにおけるサブカルチャーのコレクションと資源化についての短い報告をした。次節からはそれを掘り下げて考えてみたい。

※2)アーカイブサミット組織委員会の福島幸宏,小村愛美による「アーカイブサミット2017 in 京都<報告>」を参照のこと。また聴衆として参加された数藤雅彦氏(五常法律会計事務所)によるレポート、「アーカイブサミット2017に参加しました(前編:1日目)」、「アーカイブサミット2017に参加しました(後編:2日目)」において、2日間の討議の様子が詳細にまとめられている。

※3)「メディア芸術」に含まれるものは、時期により用語の異同はあるが、メディア・アート、ヴィデオ・ゲーム/メディア・エンタテインメント、アニメーション、マンガの4ジャンルである。とはいえ、この4ジャンルに共通する要素を見出すことは、従来の「芸術」の枠組みでは捉えられてこなかったということ以外には、なかなか難しい。アーカイブサミットで取りあげられたのは、ゲーム、アニメ、マンガの3ジャンルであり、そこにメディア・アートは入ってこない。逆にメディア・アートに含めうるような作品が、ゲーム/エンタテインメント(とくにメディア・デザインの要素の強いもの)やアニメーション(「アート・アニメーション」と呼ばれるような作品など)に見られることもあるものの、そこにマンガに包含される作品が入ってくることはまずない。私見では、どうやらここには2つの「メディア」という言葉に関する理解があり、それによって2つに分裂しているようにも思える。この問題については、2011年に、美学者の吉岡洋氏を座長に行われた世界メディア芸術コンベンション(ICOMAG)の第1回「『メディア芸術』の地域性と普遍性―"クールジャパン"を超えて」で取りあげられた(私もセッションのモデレーターとして参加した)。報告書がこのページからダウンロードできる。

※4)この政策の基本となっているのは、文化芸術基本法の第9条「国は,映画,漫画,アニメーション及びコンピュータその他の電子機器等を利用した芸術(以下「メディア芸術」という。)の振興を図るため,メディア芸術の制作,上映,展示等への支援,メディア芸術の制作等に係る物品の保存への支援,メディア芸術に係る知識及び技能の継承への支援,芸術祭等の開催その他の必要な施策を講ずるものとする」である。ちなみに、2009年に麻生内閣が設立を目指したものの、「国立マンガ喫茶」などと報じられて、批判のなか廃案に追い込まれた国立メディア芸術総合センターも、この事業の一環であった。

※5)日本において、映画フィルムの保存を担ってきた代表は、東京国立近代美術館フィルムセンターであり、最近、ここが東京国立近代美術館から独立して、2018年4月に国立映画アーカイブとなることが告知された。
http://www.momat.go.jp/ge/topics/fc20180206/


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