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アーカイヴと再制作

連載「巨大な書庫で迷子になって」(全3回)第3回:ポピュラー・カルチャーとアーカイヴ——期待と困難文:佐藤守弘(視覚文化研究)

2018 03 31

2. サブカルチャーの資源化

2015年の夏、私はあるシンポジウムに参加するため、ロンドンをほぼ20年ぶりに訪れた。そのシンポジウムの合間に、私は、さまざまな政府機関や芸術施設があるサマセット・ハウスで行われていたザ・ジャム(1977-1982)というバンドの回顧展“All the Young Ideas”を見に行った。ザ・ジャムは、ロンドン・パンク・ムーヴメントのさなかにデビューしたバンドで、1960年代のモッド・サブカルチャーのリヴァイヴァルに功績を果たしたことで知られている。展示されていたのは、彼らの使っていた楽器やステージ衣装、レコード、当時の雑誌や手書きの資料などであり、往時を懐かしむ観客たちが多く見られた。

サマセット・ハウスでのThe Jam: About the Young Idea展示景、2015年7月、著者撮影

サマセット・ハウスでの"The Jam: About the Young Idea”展示景、2015年7月、著者撮影

ここで言う「サブカルチャー」とは、日本のマスメディアで「サブカル」と略称されて呼ばれるものとは少し違い、より社会学的な意味を持つ社会集団内の支配的な文化ではなく、その中の一部の人間が、お互いに作り上げていくような文化および文化集団のことを指す。日本の若者文化で言えば、暴走族などが挙げられるであろうし、イギリスで言えば「モッド」(複数形で「モッズ」)と呼ばれる文化集団がそれに当たる。モッドとは、1950年代の終わりから60年代中盤にかけて隆盛を誇ったサブカルチャーで、着る衣服、乗り物、ダンス、行動や振る舞いに至るまで徹底的に細部にこだわり、独自の文化のスタイルを手作りで編み上げた。はじめはモダン・ジャズ、のちにはR&Bを好み、多くは三つボタンの細身のスーツを着て、イタリア製のスクーターで集団走行をするといったライフ・スタイルで知られた。

モッズだけでない。テディー・ボーイズ、ロッカーズ、スキンヘッズ、パンクスなどのサブカルチャーは、トライブ=族と呼ばれ、同じ都市のなかに生活しながらも大人の主流文化とは一線を画した社会集団——一種の異民族——として、戦後イギリスの若者文化を理解する上では不可欠なものであった(※6)。ところが、1990年代になると、目立ったトライブが見当たらなくなる。その一因としては、レイヴに代表されるクラブ・カルチャーがあるとも言われている。

トライブ的なサブカルチャーの減衰と軌を一にするように現れてくるのが、そうした文化の保存と研究である。国立のヴィクトリア&アルバート博物館は、そうした保存・研究の中心のひとつで、たとえばモッズがスクーターに乗る際に、スーツが汚れないように羽織っていた米軍払い下げのM51パーカなどのサブカルチャーにまつわるモノを早い時期から収集、保存し、デジタル・アーカイヴ化をしている。

ヴィクトリア&アルバート博物館でのパンク・スタイルの展示景:マルコム・マクラレン&ヴィヴィアン・ウェストウッドによるセディショナリーズのコーディネートとジェイミー・リードのデザインによるザ・セックス・ピストルズのTシャツ(ジョニー・ロットン着用)、2015年7月、著者撮影

ヴィクトリア&アルバート博物館でのパンク・スタイルの展示景:マルコム・マクラレン&ヴィヴィアン・ウェストウッドによるセディショナリーズのコーディネートとジェイミー・リードのデザインによるザ・セックス・ピストルズのTシャツ(ジョニー・ロットン着用)、2015年7月、著者撮影

1994年には収集品を使って、『ストリートスタイル』という展覧会を開催し、キュレーターのテッド・ポレマスが編んだ充実した図録、Streetstyle: From Sidewalk to Catwalk (Thames and Hudson, 1994)は、2010年に改訂増補版(※7)が出版されるなど、サブカルチャー研究の基礎文献のひとつとなっている。よくあることだが、ある文化の衰亡がその保存と研究を呼び起こすという、皮肉な状況がここにある。

※6)イギリスの若者サブカルチャーについては、ディック・ヘブディジ『サブカルチャー——スタイルの意味するもの』(山口淑子訳、未来社、1986年)、およびジョン・サベージ『イギリス「族」物語』(岡崎真里訳、毎日新聞社、1999年)を参照のこと。また日本の状況については、難波功士『族の系譜学―ユース・サブカルチャーズの戦後史』(青弓社、2007年)を参照のこと。

※7)Ted Polhemus, Streetstyle, PYMCA, 2010.


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