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アーカイヴと再制作

タイムベースド・メディア・インスタレーション『HUMAN EMOTIONS』の再制作・修復・保存に関する資料と議論 (全4回)―どのような形で作品を残すべきか第4回:再制作・修復・保存に関する15の議論 後半

2018 06 12

9章以降については、山城と、京都造形芸術大学が運営するアート・スペース ARTZONEでのオリジナル・ヴァージョン ※1 制作の際にキュレーターを務めた堤 拓也、オリジナル・ヴァージョンにて制作協力し、Nam June Paik Art Centerでの再制作 ※2 にてプロダクション・マネージメントを務めた野田智子に対して行った2度のインタビューに、編集を加えて構成。

インタビュイー:山城大督、堤 拓也(キュレーター、デザイナー)、野田智子(アートマネージャー)

インタビュアー・編集:中本真生

取材日:2017年11月10日(堤のみSkypeで参加)、2017年11月24日(Skypeでの取材)

インタビュー場所・会場提供(2017年11月10日のみ):東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)

16. “構成要素(物質)”に関する議論

16-1. 理想としての“全て残す”という方針

資料A-2.仕様書:構成要素(物質) ※3 (作家制作) ※4

  • 時計くん:時計とライトスタンドをブリコラージュしたキャラクターオブジェクトと、ガラスケース
  • 小さい椅子×3:子ども3人がすわっていたもの(ARTZONEにあったもの、山城不所持)
    *条件は検討中
  • ステージ状のテーブル:無印良品の商品から足を取った(山城所有)
  • ガラス製のスクリーン:ガラスと木材を組み合わせた山城作成のスクリーン(山城所有)
    *ガラス製のスクリーンは映像を再生するためのものなので、“構成要素(非物質)”にも分類できるが、同時に「それ自体が主体」となる、修復目的以外では置き換え不可能なオブジェでもあるので“構成要素(物質)”に記載している。
  • 竹の結界:大須の骨董市にて購入(山城所有)
  • ペットボトル×5、お皿、ガラスびん、紙皿、すりガラス×3:大須骨董市で購入したガラスびん、カルピスのペットボトル(山城所有)
  • 切り株と枝、どんぐり、石、ガラス玉:以前から集めていた石、近所の公園で拾った枝、骨董市で購入したガラス玉(山城所有)
  • お皿とロウソク、マッチ、曲げわっぱ 、五円玉、トング:瀬戸の石皿、草花木果にて購入した和ろうそく(山城所有)
  • 木彫りの人形:札幌の骨董屋にて購入した木像、大須の骨董市で購入した円空木像(山城所有)
  • 天井吊り照明器具:大正〜昭和の照明(山城所有)

――ここでは、山城さんに事前に提出していただいた、[資料A-2. 仕様書:構成要素(物質)]を参照しながら、“時計くん”、“切り株”、“木彫りの人形”といったオブジェについて話をしていきます。まずは現状でのこれらの保存状態について確認します。オリジナル・ヴァージョンで展示された構成要素(物質)で、現在保存していないものはありますか。

時計くん(写真はARTZONEでの展示時)
“時計くん”(写真はARTZONEでの展示時)。これまでの全ての展示で置かれていた。
撮影:表恒匡
切り株(写真はARTZONEでの展示時)
“切り株”(写真はARTZONEでの展示時)。これまでの全ての展示で置かれていた。
撮影:表恒匡
木彫りの人形(写真はARTZONEでの展示時)
“木彫りの人形”(写真はARTZONEでの展示時)。
ARTZONEでの展示(オリジナル・ヴァージョン)と、ラフォーレミュージアム原宿での展示にて、ミニプロジェクターとミニプロジェクターから投影される映像の間に3体置かれていた。
撮影:表恒匡

(山城)
例えば、“ペットボトル”については、「また再制作するときに新しく準備したらいい」と判断して、オリジナル・ヴァージョンの搬出時に処分しています。本当は保存しておかなければいけなかったと後で気付きました。その時は「同じ製品を準備できる」など、物理的に置き換え可能なものは処分しようと思った。偶然その時その場にあったものだったので、同じものを買えばいいと思ってしまった。ラフォーレミュージアム原宿での展示の時に当時と同じ形態である、カルピスの“ペットボトル”を揃え、現在はそれが手元にあります。

ペットボトル(写真はARTZONEでの展示時)
“ペットボトル”(写真はARTZONEでの展示時)。
撮影:表恒匡

――“ペットボトル”以外にオリジナル・ヴァージョンの展示から置き換えたものはありますか。

(山城)
オリジナル・ヴァージョンで使用した“ロウソク”も搬出時に処分しました。ラフォーレミュージアム原宿での展示の際 ※5 には、同製品の新しい“ロウソク”を用意し、オリジナル・ヴァージョンの設営に協力してもらった耕三寺顕範君に、オリジナル・ヴァージョンの“ロウソク”の写真を見ながら、できるだけ同じような溶け方になるよう点けてもらいました。現在はラフォーレミュージアム原宿での展示の際に準備した“ロウソク”を保存しています。

ロウソク(写真はARTZONEでの展示時)
“ロウソク”(写真はARTZONEでの展示時)。
撮影:表恒匡

(堤)
オリジナル・ヴァージョンの搬出時には、再制作すると思っていなかったということですよね。

(山城)
再制作するだろうとは思っていたけど、どこからどこまで保存しておくのかということを考えるのが面倒になって...。とにかく物理的に置き換え可能なものは処分しようと思った。例えば“時計くん”は、処分したらもう一度同じものを準備するのがかなり大変だから保存した。

――あと、オリジナル・ヴァージョンで展示した“小さい椅子”は、もともとARTZONEの所有物であり、山城さんは所有していないですよね。

(山城)
はい。

小さい椅子(3脚)(写真はARTZONEでの展示時)
“小さい椅子(3脚)”(写真はARTZONEでの展示時)。
ARTZONEでの展示(オリジナル・ヴァージョン)のみで、“時計くん”の前に並べられていた。
撮影:表恒匡

――私は「実際に撮影時に使用されたもののように見える」のではなく「実際に撮影時に使用されたものである」ことが重要であると考えています。「なくなってしまったものは同じ製品などの代用品で補わざるを得ない」という考えは山城さんと同じですが、本来は“ペットボトル”も“ロウソク”もオリジナル・ヴァージョンで展示したものであるべきだと思います。

(山城)
もう一度同じような作品を作る機会があれば、全て保存しますね。

――複製不可能と定義しているから、「実際に撮影で使用されたもの」「オリジナル・ヴァージョンで展示されたもの」であること自体が重要であり、基本的に構成要素(物質)は全て置き換え不能。そのため、積極的に置き換えることはしないけれど、オリジナル・ヴァージョンの搬出時、すでに捨ててしまったものがあるから、再制作時に置き換えざるを得なかった。

(山城)
残念ながら、まとめるとそういうことです。

※1 詳細は4-1. ARTZONEでの展示(オリジナル・ヴァージョン)に記載。

※2 詳細は4-3. Nam June Paik Art Centerでの展示に記載。

※3 構成要素(物質)は、“時計くん”、“切り株”、“木彫りの人形”といったオブジェのこと。この記事では、これら以外の構成要素を構成要素(非物質)と呼び、分類したうえで議論する。それぞれの定義について、構成要素(物質)は「そのオブジェ自体が主体」であり、構成要素(非物質)は映像、光、音声などの非物質の要素及び、それらを再生するために存在する、“モニター”、“プロジェクター”、“スピーカー”、“照明機材”などを示す。例えば『HUMAN EMOTIONS』のフル・ヴァージョンは6つの“モニター”と2つの“プロジェクター”で映像が上映されているが、ここでは“モニター”、“プロジェクター”=機材(ハードウェア)そのものが主体ではなく、あくまで映像を再生するために存在しているので、構成要素(非物質)に分類される。機材(ハードウェア)も含めて主体と言える作品もあるかもしれないが、『HUMAN EMOTIONS』については、あらゆる機材が置き換え可能と定義されており、これに該当しない(このことについては17-1. 配線の仕方が表現する作品性で山城によって言及されている)。

※4 仕様書はインタビュー時点のもの。まだ制作中であり、未確定・仮の条件も含む。

※5 詳細は4-4. ラフォーレミュージアム原宿での展示に記載。

PROFILE プロフィール

山城 大督 | YAMASHIRO Daisuke美術家、映像ディレクター

美術家・ドキュメント・コーディネーター。1983年大阪生まれ。岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)修了、京都造形芸術大学芸術学部卒業、山口情報芸術センター[YCAM]エデュケーターを経て、東京藝術大学映像研究科博士後期課程。映像の時間概念を空間やプロジェクトへ展開し、その場でしか体験できない《時間》を作品として制作する。2013年には個人として1年間に渡って映像表現を再考する「東京映像芸術実験室」を実施。本企画より誕生した作品『VIDERE DECK/イデア・デッキ』が第18回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品に選出された。2007年よりアーティスト・コレクティブ「Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)」を結成し、他者を介入させ出来事そのものを作品とするプロジェクトを全国各地で発表している。

山城大督 公式サイト

堤 拓也 | TSUTSUMI Takuyaキュレーター、グラフィックデザイナー

1987年滋賀生まれ。2013年から2016年までARTZONEディレクター。同年よりポズナン芸術大学(ポーランド)にて1年間滞在後、2017年よりアダム・ミツキエヴィチ大学大学院社会学部カルチュラル・スタディーズ専攻在籍。主なキュレーションに「Made in.between East-West」(2018)、岸井大輔個展「戯曲は作品である」(2015)、「Before Night Falls 夜になるまえに」(2015)、山城大督個展「HUMAN EMOTIONS」(2015) など。オンラインリサーチサイトUNDERSCAN: Issue 2°に参加、現在公開中。

UNDERSCAN

公式サイト

野田 智子 | NODA Tomokoアートマネージャー

1983年岐阜生まれ。2008年静岡文化芸術大学文化政策研究科修了。無人島プロダクションにてアーティストのマネジメント、作品販売に携わった後、フリーランスとしてNANJO and ASSOCIATESにて国際美術展の広報などに携わる。2013年よりアートマネジメントを専門とした個人事務所「一本木プロダクション」を主宰。2015年から2018年まで「Minatomachi Art Table, Nagoya[MAT, Nagoya]」ディレクターとしてアートプログラムの立上げから企画運営に関わる。2018年より「あいちトリエンナーレ2019」ラーニングセクションに従事。アーティストユニット「Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)」メンバー。

一本木プロダクション

中本 真生 | Nakamoto Masaki

1983年生まれ。愛媛県新居浜市出身、京都在住。UNGLOBAL STUDIO KYOTO代表。ディレクターを務めた『映像芸術祭 "MOVING 2015"』(2015、京都芸術センター、京都シネマ、METRO、ARTZONE、アトリエ劇研 他[京都])、『MOVING Live 0』(2012、五條會舘[京都]、キネマ旬報シアター[柏])、『みずのき絵画ALLNIGHT HAPSセレクション展』(2014 - 2015、HAPS[京都])に山城が参加している。

&ART

MOVING公式WEBサイト

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