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アーカイヴと再制作

タイムベースド・メディア・インスタレーション『HUMAN EMOTIONS』の再制作・修復・保存に関する資料と議論 (全4回)―どのような形で作品を残すべきか第4回:再制作・修復・保存に関する15の議論 後半

2018 06 12

17. “構成要素(非物質)”に関する議論

17-1. 配線の仕方が表現する作品性

資料A-3.仕様書:構成要素(非物質) ※11 《機材リスト》 -フル・ヴァージョン時(作家制作) ※12

  • HD画質55インチ程度のモニター×1:正面下手
  • HD画質50インチ程度のモニター×1:正面上手
  • HD画質24インチ程度のモニター×1:ガラスとペットボトル付近カメラ用
  • 24インチ程度のモニター×3:子どもモニター用
  • プロジェクター×1:16:9のガラススクリーン用(ARTZONEではEPSON EB-W18を使用 *2900ルーメン
  • 三脚×1:ガラススクリーンに投影するプロジェクター用
  • ミニプロジェクター×1: SANWA PRJ-3(山城所有)
  • ミニ三脚×1:ミニプロジェクター用(山城所有)
  • マイク&マイクスタンド&小型スピーカー:時計くんの口元の前に設置、小型スピーカーはARTZONE所有
  • PAセット×1 (スピーカー&スタンド&ミキサー):正面下手上手に設置
  • 照明(ビデオライトセット)×1:2灯 ビデオライティングキット VL-1300キット2
  • Mac OS PC×1:照明&映像の同期コントロールに使用(使用アプリケーション:Cycling '74 MAX、VEZÉR
  • TOKISATO PLAYER×7:ラズベリーパイをベースに時里充が開発した映像同期システム
    *ARTZONEではTOP未開発だったため、MACを8台用意し再生した。
  • DMXパック×3:照明用に使用 ELATION / DP-415
  • LANスイッチングハブ:TOKISATO PLAYERの同期用に使用
  • 各種ケーブル:HDMI、RCAケーブル、LANケーブルなど
  • モニター用展示台×2:ARTZONE所有の展示台を組み合わせて制作
  • 時計くん用ステッピングモーター:撮影時に使用した。展示中は駆動しない。(山城所有)

――ここでは、山城さんに事前に提出していただいた、[資料A-3.仕様書:構成要素(非物質)《機材リスト》 -フル・ヴァージョン時]を参照しながら、構成要素(非物質)について話していきます。構成要素(非物質)は、“モニター”、“プロジェクター”、“スピーカー”などの機材と、“映像データ”などのデータの2種に分類されますが、機材に関しては、いずれも置き換え可能と考えているでしょうか。

(山城)
はい。

――「撮影時、映像に映ったもの」「オリジナル・ヴァージョン展示時、鑑賞者に見える位置にあったもの」については、実際に使用した機材は無理だとしても、撮影時、オリジナル・ヴァージョンの展示時に使用したものと同製品か、できるだけ近い機材がベストではないでしょうか。一方で、“照明&映像の同期コントロール用PC”などの「撮影時、映像に映っていないもの」「オリジナル・ヴァージョン展示時、鑑賞者に見えない位置にあったもの」は、近いものを準備する必要がないというのが私の見解です。

(山城)
そう思います。僕はモニターを選ぶ時に、シンプルなデザインのものを選ぶ傾向がある。これは好みとも言えるし、絵画で言うところのタッチのようなものとも言える。タッチだと解釈するなら、オリジナル・ヴァージョンのタッチに近いものにしてほしい。オリジナル・ヴァージョン制作時、展示台を新しく作る予算も時間もなかったので、ARTZONEにあるものを組み合わせて“モニター”の展示台を作ったんですよ。インストーラーの高橋和広君が組んでくれたんですけど、もしかしたらそういうところも、近付けたほうがいいのかもしれないですね。

正面のモニター
正面のモニター。縁が黒くシンプルなデザインとなっている(写真はARTZONEでの展示時)。
モニターの展示台はARTZONEにあるものを組み合わせて作られている。
撮影:表恒匡

――山城さんのおっしゃるような「オリジナル・ヴァージョンのタッチに近いものを選択する」という視点も重要ですし、同時に「鑑賞者が“映像に映っている空間”と、“再制作された展示空間”を見比べた時、できるだけ違和感を感じないように配慮する」という視点も、重要だと思います。あまりに形状・デザインが異なる構成要素に置き換わっていると、余分な意味が生じてしまうかもしれません。「見た目に美しい」ということより、「忠実に再現する」ことを優先する方がいい。

(山城)
構成要素(非物質)で、映像の中に出てくる要素は“モニター”などですが、少し映る程度です。他に、配線の仕方はポイントかもしれないですね。撮影時、オリジナル・ヴァージョン展示時には、“HDMIケーブル”、“電源コード”など、機材のコードを壁の中に隠すことができなかったので、会場の床にそのまま垂らしていました。“映像データ再生用PC”や、“照明&映像の同期コントロール用PC”を置く場所が、一箇所しか用意できず、各“モニター”、“プロジェクター”などからそこまでHDMIケーブルを這わせて接続していました。例えば、ナムジュンパイク ※13 の作品の展示では、あまり整えず、雑多にコードが処理されていることがある。そういったコードの這わせ方もタッチだと言えるかもしれない。

ARTZONEで展示されたオリジナル・ヴァージョンにおける配線
ARTZONEで展示されたオリジナル・ヴァージョンにおける配線。
機材のコードがモニターから床にそのまま垂れ下がっている。
撮影:表恒匡

(堤)
コードそのものを保存するのでなく、配線の仕方を保存するということですよね。こういったメディア・インスタレーションでは、ほとんどの場合、配線を伴うじゃないですか。配線処理の仕方は、作品の要素としてけっこう大きなウェイトを締める。それでだいぶ印象が変わりますから。

(山城)
ICC ※14 でテクニカル・スタッフとして働いている友人が、カールステン・ニコライ ※15 の作品を設営したことがあって。彼に聞いた話なのですが、その時設営した作品では、8本くらいのコードを、床にピッタリ付け、ケーブルモールなどを使わずに、きれいに揃えて真っ直ぐ引いたらしいんです。

(堤)
固定せずに?

(山城)
固定せず。両面テープで床に接着してもいないと思うんですけど、あまりに配線処理がきれい過ぎて、鑑賞者も踏まなかったらしいんです。その美しく整理された配線がカールステン・ニコライのタッチというか。見たことのないような配線をしているから、すごく存在感があるんですよね。配線については、僕が普段から注目しているから目に入るのか、普段全く配線のことを考えていない人にとっても存在感があるのかはわからないんだけど。

(堤)
認識はしていると思いますね。

(山城)
ラフォーレミュージアム原宿での展示では、壁に穴を空けることができたので、配線を壁の裏に通してもらいました。「配線は基本隠した方がいいだろう」という一般的な認識の下、インストーラーの判断で処理してくれたんだけど、本当に隠した方がいいのかを再検討し、オリジナル・ヴァージョンのように、会場の床にそのまま垂らす場合、そのようにインストーラーに指示した方がいいということですよね。 もし撮影時、壁に穴を空けられていたならば、コードは壁の中を通していました。だけれど、再制作の際には、撮影時と同じようにした方がいいという...。

ラフォーレミュージアム原宿での展示における配線
ラフォーレミュージアム原宿での展示における配線。
コードが壁の裏を通っているか、ケーブルモールで処理されているので、鑑賞者にコードは見えない。
撮影:丸尾隆一

――「固定化された時間」が生まれた時点で、色々な必然性も生まれたということだと思います。堤さんは、配線の仕方についてはどのように考えていますか。

(堤)
やっぱり「山城さん風のインスタレーションの方法」というのがあると思うんですよ。例に挙げてもらったカールステン・ニコライの作品の場合、「できるだけ直線にしてきっちり揃える」というふうに、象徴的に、作品性と配線の仕方が一致している。手間ですけど、その分再現はしやすいと思います。山城さんのテイスト、『HUMAN EMOTIONS』のテイストという視点も踏まえると、設置の仕方は重要なので、それをどう残すかというのが構成要素(非物質)においては一番の課題かなと思います。例えばオリジナル・ヴァージョンでの配線の仕方は、コードが剥き出しになっていた分、結果的にライブ感が出ていたと思うんですよね。仮設でスタジオを設えて、撮影して、そのまま展示に変換しているというのが配線で表現されていました。一方、ラフォーレミュージアム原宿での展示の記録写真を見る限り、きれい過ぎるんですよね。その違和感はあります。

(山城)
配線を隠すとスタジオらしくなくなるということか...。確かにその通りだね。配線がないからきれい過ぎるんだ。

(堤)
再制作における展示空間について、できるだけARTZONEでのオリジナル・ヴァージョンの再現を目指すのであれば、何かしらの形で「その場で撮ったライブ性」ということが表現できればいいと思います。それは配線等々でしか醸すことができないかもしれません。

――いかに「『HUMAN EMOTIONS』にとって必然性のある配線の仕方にできるか」を意識するという話ですよね。

(堤)
それはテキストでは残しにくいと思います。

――抽象的な表現になったとしても、指示書には残しておいた方がいい。

(山城)
ラフォーレミュージアム原宿での展示の搬入後は、「きれいに仕上がったな」と悦に入っていたけど、今記録写真を見比べて、スタジオ感がコードで出ることに気付いた。そういうことはなんとなく感じ取ってはいたんだけど、はっきりとした理由までは分かっていなかった。そもそも、なぜ一般的なスタジオでコードが雑に処理されているかというと、「映像に映らないからいい」と考えられているためですよね。

――一時的に存在するものだから。

(山城)
「撮影が終わったらすぐに撤収する」という事情もある。それを一つのメッセージと解釈し、意図して「そういうふうに展示してください」と指示書に残すことはすごくいいと思いますね。

――繰り返しになりますが、色々な必然性が生まれるのは、時間を固定化した時点です。『HUMAN EMOTIONS』のような作品の場合、オリジナル・ヴァージョン制作後、「何をどのように再現すべきか」という分析が必要になります。

(山城)
仕様書には「オリジナル・ヴァージョンの展示と同じように配線にすることを望む」という記載を追加したいと思います。確かに書いていないと、きれいに捌きますよね。

(堤)
再制作する際のインストーラーの立場としては、何も指示がなければきれいに捌きたいですよね。

※11 構成要素(非物質)は映像、光、音声などの非物質の要素及び、それらを再生するために存在する、“モニター”、“プロジェクター”、“スピーカー”、“照明機材”などを示す。例えば『HUMAN EMOTIONS』のフル・ヴァージョンは6つの“モニター”と2つの“プロジェクター”で映像が上映されているが、ここでは“モニター”、“プロジェクター”=機材(ハードウェア)そのものが主体ではなく、あくまで映像を再生するために存在しているので、構成要素(非物質)に分類される。機材(ハードウェア)も含めて主体と言える作品もあるかもしれないが、『HUMAN EMOTIONS』については、あらゆる機材が置き換え可能と定義されており、これに該当しない。

※12 仕様書はインタビュー時点のもの。まだ制作中であり、未確定・仮の条件も含む。

※13 韓国系アメリカ人の現代美術家。ビデオを中心とした芸術、ビデオアートの開拓者であり、その代表的な存在である。ビデオアートの父とも呼ばれる。

※14 「NTTインターコミュニケーション・センター(略称:ICC)は,日本の電話事業100周年(1990年)の記念事業として,1997年4月19日,東京/西新宿・東京オペラシティタワーにオープンした,NTT東日本が運営する文化施設です.」「展覧会活動では,ヴァーチャル・リアリティやインタラクティヴ技術などの最先端テクノロジーを使ったメディア・アート作品を紹介してきたほか,従来の形式や分類を超えた企画展を開催してきました.」(ICC WEBサイト “ICCについて”、参照2018-05-21.)

※15 「1965年カール・マルクス・シュタット(現ドイツのケムニッツ)生まれ.アーティスト/ミュージシャン.aka alva noto,noto,aleph-1.音響学,幾何学,結晶学など物理科学の成果を独自に応用し,物理的現象や情報の創造的なプロセスを微視的に扱う作品を,電子音やヴィジュアル・アートを越えて発表し,国際的な評価を得る.」(ICC WEBサイト “カールステン・ニコライ”、参照2018-05-21.)

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