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アーカイヴと再制作

過去の音が問うもの——「日本美術サウンドアーカイヴ」の問題意識文:金子智太郎(美学、聴覚文化研究)

2019 04 08

日本美術における音と関わる作品を調査し、その音を聞いていくことを目的とした「日本美術サウンドアーカイヴ」。同プロジェクトでは、作家自身に再制作を依頼し、展覧会・イベントなどのかたちで作品を発表する、あるいはカセットエディションやレコードのリリース、録音を展示する資料展の開催など、さまざまな形で「過去の音」へのアクセスを試みてきた。本稿では主催の金子智太郎氏に、日本美術サウンドアーカイヴの問題意識について、「音へのアクセスについて」「歴史の問い直しについて」「過去の機材を用いる理由」という3つの切り口から論じていただいた。

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過去の音が問うもの——「日本美術サウンドアーカイヴ」の問題意識

日本美術サウンドアーカイヴ(以下、サウンドアーカイヴ)は過去の日本美術における音と関わる作品を調査し、その音を聞いていくプロジェクトである。これまでイベント、個展、資料展を開催し、カセットエディションやレコードを制作してきた。活動の記録はサイトで公開している ※1

近年の「タイムベースド・メディア」を用いた作品の再制作やアーカイヴのさまざまな実践から、サウンドアーカイヴは多くを学んできた ※2 。しかし、サウンドアーカイヴの活動はこうした動向とは異なるところも多い。これまでの企画はできるかぎり作家自身に再制作を依頼し、場所と機材を提供するというかたちで進めてきた。再制作をめぐる作品の解釈は基本的に作家に委ねている。「アーカイヴ」と名乗っているが、いまのところ作品の保存より調査に重きをおいている。

そこで、ここではこうしたあまり一般的ではないアプローチをとっている理由をサウンドアーカイヴの問題意識から説明してみたい。再制作にとって問題意識がいかに重要か、柏原えつとむは1993年にこう答えた。

作者の手による再制作は、原作の時代の表現というより、むしろ〈再制作〉された時代の問題意識をより多く反映した作品であると考えます。たとえ、限りなく厳密に再現されたかに見えたとしても、原作から再制作までの時間が抱える視点の変化、あるいはその間に積み重ねされた批評や言説を、まったく無視しての再制作は不可能と思えます。制作とは単に形態や表情を追い求めることではなく、その渦中における限りない選択と決断の結果であり、それを支える作者の思念は時間を超えて戻り行くことはできないからです ※3

柏原は再制作の意義をあらかじめ明らかにしなければならないと言っているわけではない。必要なのは問題意識であり、再制作の問題意識とアプローチをいかに結びつけるかを考えることだろう。再制作の意義そのものは時間をかけて明らかになるはずだ。サウンドアーカイヴの問題意識について3つに分けて書きたい——音へのアクセスについて、歴史の問い直しについて、過去の機材を用いる理由について。

「日本美術サウンドアーカイヴ——今井祝雄《TWO HEARTBEATS OF MINE》1976年」展示風景
「日本美術サウンドアーカイヴ——今井祝雄《TWO HEARTBEATS OF MINE》1976年」展示風景

※1 日本美術サウンドアーカイヴ

※2 「タイムベースト・メディア(time-based media)は,鑑賞が時間的に展開する媒体を指し,主にフィルム,ヴィデオ,スライド,コンピュータ,パフォーマンスなどが挙げられる」
(石谷治寛 「タイムベースト・メディアとは」 [2019年4月確認]

※3 『再制作と引用』展覧会カタログ、板橋区立美術館、1993年、113頁。

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