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アーカイヴと再制作

修復・再制作プロジェクトにエンジニアとして関わった3人による対談:第2回(全3回)―修復・再制作の方法・方針と、アップデート・改変の判断に関する8つの議論対談:古舘健×三原聡一郎×白石晃一

2019 09 04

2019年6月12日(水)に行った対談に編集を加えて構成。

インタビュアー・編集:中本真生(UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

協力:はがみちこ(アート・メディエーター)

取材撮影:表恒匡

撮影協力:ULTRA FACTORY(京都造形芸術大学)

5. 改変による鑑賞体験の変化と、その是非

(古舘)
『LOVERS――永遠の恋人たち――』(以下、『LOVERS』)にはエディションが2つあります。1つは1994年にキャノン・アートラボで発表され、ニューヨーク近代美術館[MOMA](以下、MOMA)に所蔵されているもの。もう1つは2001年にせんだいメディアテークで高谷(史郎) ※1 さんが再制作を行い、2015年に京都で修復、現在、国立国際美術館に収蔵されているもの ※2 。京都での修復と同時期にMOMAでも修復が行われているのですが、MOMAでの修復ではできるだけオリジナル・ヴァージョンに近い状態で作品を維持するという方針がとられたそうです。モーターのプログラムを変えたり、再生装置をアップデートしたりしているものの、プロジェクターに関してはオリジナル・ヴァージョンと同じ方式のプロジェクターを購入し、それを使っているらしい ※3 。基本的にナム・ジュン・パイク ※4 の作品におけるブラウン管テレビと同じように、できるだけハードウェアも置き換えないという方向性のようです。

MoMAに収蔵されているエディションの360VR映像。

——ハードウェアを置き換えるなどの改変によって、鑑賞体験に影響を及ぼす場合もありますよね。

(白石)
『LOVERS』の場合、プロジェクターを動かしていたモーターの音やカシャッ、カシャッという機械音とかも、鑑賞体験の一部という感じがしますよね。『水中エンジン』の時にも鑑賞体験への影響については話題に上がりました。「オリジナル・ヴァージョンでは作者である國府自身がパフォーマティブな展示を行っていたのですが、他の誰かがその役割を代替できるのか?という議題から派生し、「やろうと思えば、遠隔操作でエンジンを動かし、演者不在とすることだってできるよね」という意見が出ました。「1回やってみようか」という話も出たんですが、それをやると全く違う鑑賞体験になってしまうんじゃないかという話になって結局やらなかった。技術的にはできるんだけど作品体験という点で腑に落ちない部分があるし、安全性を重視した結果です。

(三原)
遠隔操作ってどういうことですか?

(白石)
エンジンを自動的かつプログラマブルに起動するということです。オリジナル・ヴァージョンは國府自身が手動でエンジンをかけていたんですよ。それに倣って再制作した『水中エンジン』でも手動でエンジンをかけていました。他のトラブルの対処に追われて展覧会の締め切りまでに自動運転は実現できなかったという事情もあるんだけど、もし条件的に遠隔操作が可能だったとしてもそれが是なのかはけっこう迷いがあって...。

再制作された『水中エンジン』が実際に稼働する様子。手動でエンジンがかけられている。
『裏声で歌へ』(2017年、小山市立車屋美術館)

(古舘)
『水中エンジン』はパフォーマンスですよね。

(白石)
オリジナル・ヴァージョンと鑑賞体験がガラッと変わってしまうというのは...再制作する側としてすごく大きな判断になっていくと思うんですよね。作家本人やオリジナルの作品に対して直接的な関係性がない人が再制作を手掛けるとなると、もっともっとその壁は高くなるはずです。その壁をうまく超えるための方法ってないのかなということをずっと考えています。

※1 高谷はダムタイプのメンバーとして『LOVERS』のオリジナル・ヴァージョン制作に参加し、また京都で行われた修復プロジェクトにも参加している。

※2 詳細な再制作歴はタイムベースト・メディアを用いた美術作品の修復/保存に関するモデル事業 実施報告の第2章 事業の目的、主旨参照。

※3 現在国立国際美術館に収蔵されているエディションでは、京都での修復の際にプロジェクターが別の機種に置き換えられた。詳細はタイムベースト・メディアを用いた美術作品の修復/保存に関するモデル事業 実施報告の第5章 実施内容参照。

※4 韓国系アメリカ人の現代美術家。ビデオを中心とした芸術、ビデオアートの開拓者であり、その代表的な存在である。ビデオアートの父とも呼ばれる。

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