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アーカイヴと再制作

修復・再制作プロジェクトにエンジニアとして関わった3人による対談:第3回(全3回)―遺し方に関する8つの議論対談:古舘健×三原聡一郎×白石晃一

2019 11 27

2019年6月12日(水)に行った対談に編集を加えて構成。なお18章のみ「水中エンジン」再制作プロジェクトのメンバーであるはがみちこ、20章のみ同メンバーである高嶋慈が参加している。

インタビュアー・編集:中本真生(UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

協力:はがみちこ(アート・メディエーター)

取材撮影:表恒匡

撮影協力:ULTRA FACTORY(京都造形芸術大学)

14. スコア(楽譜)からの再現

(白石)
『LOVERS――永遠の恋人たち――』(以下、『LOVERS』)も『欲望のコード』も『水中エンジン』も、作家やオリジナル・ヴァージョンの作品に対して直接関係ある人が修復・再制作を行ったし、なお且つステークホルダー(利害関係者)がかなり身近にいる状況だったじゃないですか。でも何十年か後には、直接関係があった人たちいなくなる。僕はそういった状況で再制作が行われることを想定したい。仮に何十年か後に作品が失われ、その時代の人が失われた作品を再制作してみたいと思った時、はたしてそれが成り立つのか、成り立たせるためには今どういうものを遺しておくべきなのかということを考えているんですよね。
実施報告を読む限り、『LOVERS』は所謂スコア(楽譜)のようなものが詳細に記してある。

ムービーファイルとモーターの動きの対応を起こしたグラフの一部。
ムービーファイルとモーターの動きの対応を起こしたグラフの一部。京都での修復ではモーターのタイムラインがグラフに書き起こされ、それを基にコンピュータ上の仮想空間で作品を再現するためのシミュレーターが制作された。白石が「スコア」と呼んでいるのは、これらの資料を指す。
資料提供: Dumb Type

(古舘)
うんうん。

(白石)
でも機材などの全ての構成要素が失われ、スコアから再制作を行うということになった場合、全てを忠実に再現できるわけではないと思うんですよね。再制作をする人によって取捨選択が起きる。それが結果としてどのような変化をもたらすのかという点、また観客側は受け入れられるのかという点に強い興味があります。

(古舘)
『LOVERS』の修復では、使っている映像を全てデジタルに起こしていて、それとこのスコアや展示風景の写真なんかがあれば、かなり忠実に再現できるようにはしてあるつもり。機材だけでなく、その映像や写真が失われてスコアのみになってしまったとするならば、取捨選択は起こる。そうした致し方ない場合には、「スコアを元に解釈をしてその人なりの『LOVERS』を作る」ということがありえるのかもしれない。

——『LOVERS』の実施報告に、高谷さん自身が「『LOVERS』を一種のコレオグラフィー ※1 として考えれば、他の人物による『LOVERS』の再演も可能かもしれない。」 ※2 と書かれていますよね。致し方ない場合以外にも、現行バージョンとはまた別の可能性として作品が展開される可能性が示唆されている。

(古舘)
そうですね。例えば保存・修復において、音楽というジャンルはもともとそういう要素を孕んでいる。スコアをどう演奏するか。

(白石)
当時の楽器がなければ、当時の演奏の通りには再現できないわけですしね。

(三原)
可逆性を担保しておけるならやっちまったほうがいい気がする。ありかなしかの議論に正解はない。

(古舘)
その文脈では、スコアを見て「たぶんこの作品はこんなふうだったはず」と言いながら自分で作り、「かっこいいよな」と自分で評価するしかない。

(三原)
僕は手を動かす側としての本来の美術の面白みは「つくる実践的な知」みたいなものだと認識している。だから、最終形である結果としての作品がどこかに収まったり、価値化されること以外にも、何かがつくられた時の社会背景やその時々の人の印象や振る舞いだったり、制作チームの意思疎通の方法だったり、そういう環境含めた実践が試みられるのはすごく面白いことだと思う。

(古舘)
あと僕のやっているThe SINE WAVE ORCHESTRA ※3 だとか、三原君のモイズプロジェクト ※4 は、そもそも規則ベースというか...。三原君が三上さんの作品について「ファンクション(機能)」って言っていることと繋がると思うんだけど、再制作とはまた違った、遺し方の可能性を持っているよね。見た目が違っていてもそこで起きている現象が、なんていうか、「機能」していれば作品としては成り立つっていうか。僕や三原くんがもともと音楽について活動してたっていうのが大きいのかもしれないけれど。

The SINE WAVE ORCHESTRA『stay』(2017)
山口情報芸術センター[YCAM](以下、YCAM)での展示風景

斉田一樹+三原聡一郎+むぎばやしひろこ『moids 2.0 - acoustic emergence structure』(2009)
山口市の芳流庵で行われた国内初展示の様子

※1 舞踊などの振り付けや振付方法。

※2 詳細はタイムベースト・メディアを用いた美術作品の修復/保存に関するモデル事業 実施報告の第5章 実施内容参照。

※3 「2002年に4人のコアメンバー、古舘 健、城 一裕、石田大祐、野口瑞希によって始められたプロジェクト。音の最も基本的な要素といわれるサイン波、を参加者一人一人がそれぞれ一つだけ使うことができるというルールのもと、サイン波による集合的な音表現としてパフォーマンス、展示を展開。」(“The SINE WAVE ORCHESTRA stay”.山口情報芸術センター[YCAM].参照2019-10-06.)

※4 2004年より、斉田一樹、むぎばやしひろこ、三原聡一郎他により創発をテーマにした非中心的なインスタレーションを展開。たった1つの音の入出力機能を実装した同回路群によって環境と繊細に呼応し、有機的な音響環境をつくりあげてきた。小型マイクにより環境音に反応し、ソフトウェアによる合成波形音(ver.1, 2006)、電磁石スイッチングの物理音(ver.2, 2009)を経て、最終仕様として、放電現象を生成させるver.∞が2018年に完成。国内外のホワイトキューブから古民家、クラブスペースまで幅広い音響環境で発表を続けている。

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