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アーカイヴと再制作

修復・再制作プロジェクトにエンジニアとして関わった3人による対談:第3回(全3回)―遺し方に関する8つの議論対談:古舘健×三原聡一郎×白石晃一

2019 11 27

19. 他者による解釈

――「どのような資料を残したらよいのか」を検証するためには、「オリジナル・ヴァージョンを鑑賞したことがない人のみのチームによる再制作を重ねる」という方法も有効だと思います。

(古舘)
『水中エンジン』はある程度わかったんじゃないですか?

(三原)
ただ、サーティファイド(証明)ができない(笑)。

(白石)
結局そこですよね。

(三原)
そういう意味では、再制作した『欲望のコード』『Eye-Tracking Informatics』は「三上さんの作品」として巡回しているけど、本当はあの世に電話して確認をとらなければいけない。でもICCでの『Eye-Tracking Informatics』の展示 ※12 のように、「本人はすでにいないけど、再制作して出しました」ということが明記 ※13 されていたらそれでいいと思う。体験したい人がいる限りは出してあげたいなと。

(古舘)
確かに修復したことがわかったうえでなら多少改変があっても納得できるよね。

――あとは「オリジナルがこういうものでした」ということを、鑑賞者が何らかの形で参照できることが重要ですよね。

(はが)
スコアの場合は演奏者、つまりリアライゼーション(実行、現実化)する人のクレジットは気になるところだと思います。ヴァリエーションが増えていくことで、スコアの特性が浮き彫りになっていくということもあると思うので、どんどんトライしていく風潮が生まれたらいいですよね。そういったことは白石さんとよくお話ししています。

(三原)
そのためにまず大事なのは、作家が「勝手に作っていいよ」ということを書き残しておくことだよね。ただ三上さんは突然亡くなったから...。

(白石)
生前にそうした準備ができたらよいですね。クリエイティブ・コモンズのような取り組みも徐々に社会に馴染んできていますし。

(古舘)
『LOVERS』に関してはそういうことはないかなと思いますね。決められた通りに動かないと変だし。割と正解が決まっている。

(三原)
特殊な上映システムだよね。

(古舘)
そうそう。

(三原)
そこに改変の余地はないんだよね。

(古舘)
ないね。

(三原)
ちなみに『LOVERS』のアクチュアル・ヴァージョン ※14 は何がダメだったの?

(古舘)
モーターの動きだね。人の歩くスピードに合わせてモーターを動かしているんだけど、それがぴったり合ってなくて、たまに人が止まってもモーターがちょっと動いてたりする。

『LOVERS』ではプロジェクターをターンテーブルに乗せ、ターンテーブルをモーターで回転させることにより、人が歩いている動きを実現している。

(三原)
なるほど、平らなエスカレーターに乗っているみたいな。

(古舘)
そういう部分を全て直している。歩くスピードも一定じゃないからそれに合わせてモーターの動きも変えた。

(三原)
モーターに関しては、判断の基準はファンクションだからわかりやすい。他のことは判断がなかなか難しいよね。

(古舘)
美的な判断は難しい。3人ともエンジニアリングで関わっているということも大きいかもしれないけど。

(三原)
コモンズ(共同の、共有の)とかオープンソースだったら、もっとやばい気分になれる気がする。「このアイデアだったら俺の方がいいもの作れるよ」「こっちのほうがかっこいい」みたいな。

(白石)
僕は、アーティストが活動した時代と近い時代だと、極端な改変は行いにくいのではないか?と考えています。

(三原)
でもハッキング・カルチャーとかってそういうものだからね。

(古舘)
確かに。

(白石)
僕自身は『水中エンジン』に向ける自分の気持ちをハッカーマインドまで持っていくのは難しいかもしれないな。再制作の時も不可侵な領域が確実にある感覚を持ちながら再制作を行なっていましたし。

――例えば演劇において、戯曲がシェイクスピア作の『ロミオとジュリエット』であっても、演出家の作品としても認識されるじゃないですか。そういった関係性を美術作品が受け入れられるようになると、「俺の方がこの作品を上手く解釈できる」という状況が生まれる可能性はある。

(古舘)
正にスコアとプレイヤーの関係ですね。

(三原)
上品に言えば「解釈の良さ」(笑)。

(古舘)
そういう作品があってもいいし、そういうアーティストがいてもいい。

(三原)
時代が早すぎるんかもね。

(古舘)
『インターネット ヤミ市』 ※15 は誰でもやっていいと明言しているよね。

(白石)
インターネット・アートなど、一部ではすでに起きているということですよね。

――美術が「1点しかない」ということに依存して価値を作り上げている内は難しいように思います。現状においてメディア・アートや映像作品は美術の文脈において色々な可能性を制限されている。

(三原)
ビジュアル・アートのフォーマットでやってしまった場合ね。本来、タイムベースド・メディア ※16 は音楽とかに近いもんね。

(白石)
一回性が重要なファクターで、複製可能性がほぼないものであれば、そもそもの考え方が変わりますよね。

※12 『オープン・スペース 2019 別の見方で』 2019年5月18日(土)~2020年3月1日(日) NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

※13 ICCのWEBサイト内の『Eye-Tracking Informatics』作品解説などでは、三上の死去後、アップデートと修復を行ったヴァージョンであることや、再制作チームのメンバーなどがクレジットされている。

※14 『LOVERS』には「アイディアル」と「アクチュアル」の2種類が存在する。それぞれの詳細は以下を参照。 「『Actual』は,現行の《LOVERS》におけるパフォーマーの実際の動きに基づくもので,『Ideal』は古橋が編集したヴィデオに基づき,彼が制作時に思い描いていたであろう理想的な動作をシミュレートするものである。」(石谷治寛 執筆.“古橋悌二《LOVERS—永遠の恋人たち》展示・修復資料展示の報告”.京都市立芸大芸術資源研究センター.参照2019-08-23.)

※15 『インターネットヤミ市』はインターネットっぽいものを現実世界で自由に売り買いすることができるフリーマーケット。『インターネットヤミ市』を発案したIDPWは、「もし君が君の街で『インターネットヤミ市』をやりたいと言うなら、IDPWがそれを止める理由なんてあるかい?」(“インターネットヤミ市を開催したい君へ”.Internet Yami-Ichi(Internet Black Market).参照2019-10-20.)と明言している。

※16 「タイムベースト・メディア(time-based media)は,鑑賞が時間的に展開する媒体を指し,主にフィルム,ヴィデオ,スライド,コンピュータ,パフォーマンスなどが挙げられる。」(石谷治寛 執筆.“タイムベースト・メディアとは”.タイムベースト・メディアを用いた美術作品を保存・修復・記録するためのガイド.参照2019-06-24.)

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