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ARCHIVES

アーカイヴと再制作

浮遊するアーカイブズとリポジトリ明貫紘子(キュレータ/アーカイブ研究/EizoWorkshop代表)

2021 04 21

2018年に山口情報芸術センター[YCAM]にて、開館15周年記念企画として開催された「メディアアートの輪廻転生」にてアーカイブ監修者を務め、今年開催された愛知県が主催するオンライン・アートプロジェクト「AICHI⇆ONLINE」では、愛知県美術館、愛知芸術文化センターなどに残るメディア・アートに関連する資料をリサーチしてデジタル・アーカイブするプロジェクト「浮遊するアーカイブズ倉庫:愛知県のメディア・アート」を手掛けるなど、これまでにメディアアートの記録と保存に関する様々なプロジェクトを手掛けてきた明貫紘子。AMeeTでは同氏による、メディアアートの作品制作や発表に付随して発生する資料のアーカイブに関する論考を掲載する。メディアアート特有の問題点の指摘から、具体的な実践の中でその問題に対してどのようにアプローチしてきたのか、及び今後の課題が丁寧にまとめらている。

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はじめに

このテキストは、山口情報芸術センター(YCAM)で開催された展覧会「メディアアートの輪廻転生」展(2018年)に向けて筆者が寄稿したテキスト「メディアアートの継承」の延長上で執筆した。前回は主にメディアアート作品の継承方法を考察したが、今回は作品制作や発表に付随して発生する資料に注目する。まずは資料編成するうえでメディアアート特有の問題点について改めて整理する。それに対して考察しながら、筆者が実践してきたプロジェクトについて紹介したい。

1. 問題設定1:メディアアートの可変性

メディアアートの特徴で、長所でもあり短所でもあるのは「可変性」である。その可変性は、ハードウェア等の劣化にともなう物理的な交換のみならず、ソフトウェアやプログラムのアップデートなどデジタル的な改変もある。もちろん、アーティストの意向で、作品がアップデートされていくケースもある。かつて、アーティストの三上晴子が「どの作品にも満足して完成したものは無く、バージョンアップは完成形のイメージに近づけていくために行なわれます。ですからバージョン違いについては、最新のものが最終形態に近い作品になります。」 ※1 と語ったように、可変的なメディアアートは永遠に完成形がないとも言えるし、変化し続けられる可能性が開かれているとも言えるだろう。

例えば、筆者が2011年8月に三上にインタビューした際、1996年に初めて発表して以降、少なくとも3回はアップデートした作品《Molecular Informatics―視線のモルフォロジー》(参照:Fig.1〜3)が、さらなる発展形として再制作されている真っ最中であった。そして、同年、新作《Eye-Tracking Informatics(アイトラッキング・インフォマティクス)》(参照:Fig.4)を発表した。さらに、同作品は、三上が急逝した後、作家不在で2019年に同作のアップデートバージョン》(参照:Fig.5)が再展示された。一連の作品群は、メディアアートのポジティブな「可変性」を考察する上で興味深い。

Fig.1 写真
Fig.1: 《Molecular Informatics―視線のモルフォロジー》プレミアバージョン(1996年3月)
写真提供:YCAM
Fig.2 写真
Fig.2 《Molecular Informatics―視線のモルフォロジー》バージョン2(1996年)
写真提供:YCAM
Fig.3 写真
Fig.3《Molecular Informatics―視線のモルフォロジー》バージョン3(1998年) ※2
写真提供:YCAM
Fig.4 写真
Fig.4《Eye-Tracking Informatics(アイトラッキング・インフォマティクス)》(2011年)
YCAM委嘱作品
写真提供:YCAM
Fig.5 写真
Fig.5《Eye-Tracking Informatics Version 1.1》(2019年)
写真提供:YCAM

現状、美術作品の価値を決めるのは、可変性とは対極的な不変性あるいは普遍性である。すなわち、作品を変化させることは価値が下がることを意味する。このような「固有性」に加えて、芸術作品の価値を決める要素に「希少性」がある。写真やデジタル映像など希少性が損なわれる技術や素材が用いられる場合には、作品価値を上げる=希少価値を生み出すためにエディション制など工夫が必要になる。このような制度に対して、メディアアートはさまざまな局面でリスクが高く、美術館やコレクターにコレクションされる機会が他の芸術形態に比べて少なかったといえる。

そもそも、「メディアアート」という用語にはっきりした定義はなく、さまざまな呼称があるうえにカバーする専門領域も多岐にわたる。その起源や歴史についても諸説あるように、メディアアートの定義や用語も作品形態と同様に可変的である。そのことによって、作品を「保管する場所」と「再評価の機会」が失われてきた。つまり、メディアアートをめぐる「可変性」は文脈形成をするうえで最大の弱点であることが指摘できる。

※1 筆者インタビュー(2011年8月)。書き起こし英訳はSamuel Bianchini, Erik Verhagen, Ed., Practicable: From Participation to Interaction in Contemporary Art, MIT Press, 2016, p.671.
三上は、作品を「どのように完結させていくか」という表現もしていた。同上p.668.

※2 最初のバージョンアップは、1996年9月に行なわれ、体験者が一人から二人へ変更。2度目は1998年で、三次元音響システムを採用。3度目は1999年で、コンピュターのスペック向上により視線検出の精度が上がった。また、体験者は過去の体験者のデータに影響を与える機能が追加された。(参照:Seiko Mikami. About and around the “Molecular Informatics –Morphogenic Substance via Eye Tracking” Continuum.「Molecular Informatics –Morphogenic Substance via Eye Tracking」CEDMA, 2004. pp.7-38)

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