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ARCHIVES

アーカイヴと再制作

古写真を多角的に見るためのデジタル・アーカイブ – 『上田貞治郎日本全国名所写真帖コレクション』データベースプロジェクト文:後藤真

2010 10 29

データベースは、写真史料の比較・照合をするには今や必須のものである。だがデータベースの整備が有益であるにも関わらず、現在はまだそれが十全に満たされている状況ではない。デジタル化とデータベースによって、写真の史料学的研究を発展させようという意欲的な取組みの一例を紹介する。

1. はじめに

古写真のデジタル・アーカイブ事業は、近年とみに増えてきている。たとえば、長崎大学附属図書館の幕末・明治期 日本古写真メタデータ・データベースは、古写真データベースに先鞭をつけ、写真のデジタル表示の方法について、ひとつの可能性を提示した。また、古写真を所蔵する博物館も自らの資料公開のためにデジタル化を多く進めている。たとえば、東京国立博物館所蔵古写真WEBデータベースのようなものが、その代表としてあげられる。ここで紹介する「上田貞治郎写真コレクション」データベースは、これらの古写真データベースの特徴を継承しつつ、同時に写真の「史料としての特徴」を表現することを目指したデータベース・プロジェクトである。

データベースが写真史料の比較・照合をするには、今や必須のものであり、データベースの整備が古写真を歴史学的に分析することに有益であるにも関わらず、その要請を満たすには至っていない部分がないわけではない。

そこで私は、大阪市立大学都市研究プラザの事業の一環として、「上田貞治郎コレクション」データベースの本格的作成に着手したので、その事例紹介を行う。

上田貞治郎(1860-1944)とは、戦前日本を代表する写真材料商である。彼は、上田写真機店を経営し、大阪における写真業界の中心的存在であった。上田貞治郎は約1900点におよぶ風景古写真を蒐集し、それを集成してアルバム群『日本全国名所写真帖』(現在はアルバム20巻で伝存)を作成した。それらについて、大阪市立大学都市研究プラザ「上田貞治郎写真史料アーカイブ編纂室」を中心に、デジタル・アーカイブ化を行っている。(以下、本文では、この一連のアルバム群を「上田貞治郎写真コレクション」と呼称する)また、関連資料も多く残されているため、あわせて関連資料調査を行っている。

われわれのプロジェクトの特徴は、写真をデジタル化し、公開、それも歴史資料として公開するところにある。歴史資料として写真をみるためには、いわゆる古文書とも、通常の観賞用の写真ともことなる、いくつかの特徴を踏まえる必要がある。たとえば以下のような点である。

1. 写真はそれのみではなく「アルバム」を生成する。そのアルバムの分析が、重要な位置を占める。

2. 写真は、それ自体が複製可能であり、流通するものであるため、伝来経緯を知る必要がある。

3. 写真は図像情報であり、その情報を分析するためには、常に再現・比較可能な
分析手法の構築が必要である。

4. 写真はその映像内容のみでは、歴史学をはじめとした諸学の材料としては用い得ない。どこで、誰が写したのか、台紙の種類や印刷情報、現像手法は、などという複雑なメタデータを用い分析することが欠かせない。したがって、これらの特徴をうまく取り入れることのできるデータベースを考案し作成している。

以下、作成しているデータベースについて、説明していきたい。(なお、本データベースそのものは試作段階であり、公開にいたっていない。しかし、上田貞治郎の写真については、旧版のデータベースを公開し、閲覧に供しているのでそちらを参照していただきたい)


後藤真 GOTO Makoto

後藤真 GOTO Makoto

1976年福岡県生。花園大学専任講師 博士(文学)。
情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会 主査。
専門は情報歴史学で、正倉院文書データベース(SOMODA)などを設計・作成した。最近はSOMODAの拡張・再整備とともに、古写真のデジタル・アーカイブに関する研究を行っている。『情報歴史学入門』(金壽堂出版、2009年、共著)などがある。

上田貞治郎写真史料アーカイブ編纂室サイト

http://www.ur-plaza.osaka-cu.ac.jp/archives/ueda.html

正倉院文書データベース(SOMODA)

http://somoda.media.osaka-cu.ac.jp


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