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瓦礫の中の写真 ――震災と映像――林田 新(京都造形芸術大学/関西大学/京都精華大学非常勤講師)

2012 05 31

東日本大震災とそれに伴う原発事故は、極めて甚大な被害をもたらすとともに、それにまつわる膨大な量のイメージを生み出してきた。本小論では、東日本大震災を映像という観点から論じてみたい。

2011年3月11日の午後、何処に居たのか。震災について何かを話そうとする時、こうした問いがふと頭をよぎる。それは、当事者だったか否かということが、震災について思いを巡らせようとする際に何かしらの負荷を強いるからに他ならない。当事者と非当事者との狭間には深い溝が横たわっている(※1)。
かつて写真批評家の伊奈信男は、1930年代初頭にドイツから移入された「Reportage-Foto」という言葉を報道写真として訳出するとともに、次のように論じていた(※2)。

報道写真(Reportage-Foto)は、写真の諸分野の中でも、社会的に最も重要な意義を持つものである。印刷化された写真によるイデオロギー形成の力は絶大である。写真の表現形式は大衆的に最も理解しやすい。だから個人の体験はただちに国民の体験となる。否、その形式に特有な国際性によって、個人の体験はまたただちに全世界大衆の体験となるのである。

1930年前後において写真は、小型カメラの発明や感光材料の発展、あるいは印刷と写真の結びつきといった技術革新を背景に「新たなメディア」として再発見されていた。伊奈は、そこに報道メディアとしての写真の力、すなわち、個人の情報発信によるマス・レベルでの経験の共有という可能性を見出していた。それは、今日インターネット・メディアという「新たなメディア」について語られる期待とどこか似ていなくもない。
今回の震災において報じられる映像は、必ずしも当事者ではない人々へと様々な形で送りこまれてきた。それは、被災地で刻々と進行する事態を伝えるということに留まらず、しばしば「私たち日本人は...」という呼びかけや、「絆」や「つながり」といった言葉がそこに添えられ、時に過剰なまでに感動的な物語として報じられた。そのことによって映像は、感情移入を介した震災経験の共有を人々に促し、躁的な共感の共同体形成に寄与していたのではないだろうか。
他方、伊奈が写真による経験の共有可能性に心を砕いていたのと時を同じくして、文化批評家ジークフリート・クラカウアーは映像の氾濫を洪水に喩えて次のように述べていた(※3)。

写真の洪水は記憶のダムをはじき飛ばしてしまう。この映像のコレクションの奔流はあまりに激しく〔何を記憶するのかについての〕決定的特長についてのひょっとしたらあったかもしれない意識をも押し流してしまおうとする。

執拗に反復して押し寄せてくる津波や瓦礫、避難所の映像は、人々をふさぎこませ、震災に対する私たちの意識を麻痺させてしまう。震災から数日間、テレビは震災報道で埋め尽くされ、震災の映像をひっきりなしに浴びせられる経験は、極めて負荷を伴うものであった。こうして洪水のように押し寄せてくる映像の過剰なまでの可視性は、その逆説として、背後にある不可視の領域を覆い隠していき、そのことが人々の冷笑的でシニカルな態度を生み出していく。さらには、映像が被災地の様子を執拗に可視化させていくのに対して、放射能の不可視性が人々の不安を掻きたてている。

※1)2011年11月12日に表象文化論学会の企画として開催された全体パネル「災厄の記録と表象――3・11をめぐって――」ではまさにこの問いをめぐって議論がなされていた。筆者による以下の報告を参照。
http://repre.org/repre/vol14/conference06/special/

※2)伊奈信男「報道写真について」、大島洋編『写真に帰れ 伊奈信男写真論集』、前出、(初出、『日本工房パンフレット』、1934年)。

※3)ジークフリート・クラカウアー「写真」『大衆の装飾』船戸満之・野村美紀子訳、法政大学出版局、1996年、p. 28。


林田 新 HAYASHIDA Arata

林田 新 HAYASHIDA Arata

関西大学、京都精華大学などで非常勤講師。専門は視覚文化論、写真史/写真論。現在は報道写真をめぐる理念と実践に着目し研究を行っている。主な論文に、「星座と星雲――「名取=東松論争」に見る「報道写真」の諸相――」(『映像学』第84号、日本映像学会、2010年)、「写真を見ることの涯に――中平卓馬論」(『写真空間』第4号、青弓社、2010年)など。共訳論文にサンドラ・S・フィリップス「森山大道 ストレイ・ドッグ」(『森山大道 オン・ザ・ロード』月曜社、2011年)。

林田 新 WEBサイト
http://www.arata-h.com/


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