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EVENT REPORT

イベント・レポート

高嶺格作品「The Unwelcomed歓迎されざる者」(文化庁メディア芸術祭京都展「Ghost」)

2018 04 05
会 期: 2018年1月14日(日)~1月25日(木)
*文化庁メディア芸術祭京都展「Ghost(ゴースト)」全体会期は1月14日(日)~2月4日(日)
(開催概要=http://mediaarts-kyoto.com
会 場: ロームシアター京都 ノースホール
協 力: (株)ライゾマティクス、TYO、TYO Drive、岩田拓朗、岩川洋成(共同通信)、福島幸宏(京都府立図書館)

1997年度から毎年開催されている文化庁メディア芸術祭は、「アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル」(公式サイトより)。地方開催にも注力され、今年は京都で開かれた。「幽霊=Ghost(ゴースト)」というテーマのもとに、会場のロームシアター京都の随所で体験型・映像・立体作品・アプリ・書籍・漫画など、種々の作品が見られた。

その中の、高嶺格氏の「歓迎されざる者」の鑑賞体験を記したい。会場に点在する他作品を抜けると、地下の小ホールの高嶺作品にたどり着く。演劇型作品の説明はあるが、出入り・滞在時間は自由である。

ほの暗いホールのほぼ中央で、白い服の女が椅子に掛け、本を掲げ、朗読していた。壁際に座って聴きはじめると、金子光晴、原民喜、与謝野晶子、高橋新吉、茨木のり子などや朝鮮名の文学者の詩が次々と読み上げられていく。朗読者の声は静かでやわらかいが、詩は、それぞれに、戦争に翻弄されたつつましい個人の凄まじい怒りと悲しみの声であった。徐々にいくつかの戦争、詩人にまつわるエピソード、その息子や弟など詩の主役たちが浮かんできた。朗読者の周囲で、天井から吊られた透明のガラス壜が、いくつも上下に揺れていた。ときどき顔を上げると、対面する壁の大鏡に、鑑賞者たちの姿が霊のようにぼんやり映るのが見えた。

次の朗読者に入れ替わるときに席を離れ、工事用足場の階段をあがっていくと、そこはホールを見おろす回廊だった。まるで夜の暗い水の淵だ。手すりに数メートル間隔で2台のモニターが設置されている。一方の映像では、粗末な木造船が波に揺れていて、船の中では女がたった一人本を読んでいる。それは階下にいる朗読者なのだが、船と水面の映像に合成され、どこか知らない海へと漂い出てしまっているのだった。朗読者を囲んでいたガラス壜が、波に揺れる船の形に吊られていたと知る。もうひとつのモニターには、永遠の漂流時間を示すように、無人の木造船が、単調に寂しく波間を揺れている。ざわざわと波音が流れ続けていた。

会場入り口に掲示されたコメントによれば、本作発表の直前、秋田市在住の高嶺氏は、海岸へ出かけた。北朝鮮の「脅威」として禍々しく報道されたのち、放置されていた漂着船を見るためだ。傍に、ハングルが書かれた将棋のコマが落ちていたそうだ。流れ着いた船の人々は、白骨となって辿り着いた。木造船の湿った臭いを想像する。日本海で見る、フジツボのいっぱいついたような木片の潮や死んだ魚の臭いである。あるいは、それ以上の腐臭であったかもしれない。高嶺氏の記憶に臭いが刻まれていたとしたら、それは、本作の見えないもうひとつのメディアであると思う。これまでも、高嶺氏の作品には、パフォーマーの汗や衣服、朽ちた家具や粘土など、むせるような臭いを感じることがあったが、思い返せば、それらは、生きる者の臭いであった。が、本作では、<死>に至る<生>の強烈な臭いや、<死>そのものの臭いを想像する。もしかすると、再現不可能なそれが、作品を取り巻く霊的な気配だったのではないかと思う。

国境のなかった昔、海の遭難者は、漂着した島や国で生きていかねば仕方がなかった。が、新しく生きなおすこともできた。文学の始まりは朗詠であったと聞くが、そのまた始まりは、漂着者と迎える者が、言葉の通じない中で交わした声や音だっただろう。彼らは、霊媒=メディウムのように、交感したのだろう。

声や臭いの気配という不可視のメディアによって、高嶺氏の作品は、もっとも「幽霊=Ghost(ゴースト)」的であった。芸術祭というハレの場からも、上書きの繰り返しである美術からも遥か遠くにある作品だった。誰が「歓迎されざる者」なのか、今も繰り返し考えている。
(松尾 惠 MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w)

なお、高嶺氏は、現在キューバにおける以下の展覧会に本作のインスタレーションバージョンによって参加している。
凱旋展は、来る6月に青山スパイラルで開催の予定。
http://www.jpf.go.jp/j/project/culture/exhibit/oversea/2018/02-01_profile.html


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