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EVENT REPORT

イベント・レポート

松井智惠 作品「ハイジ 54:プルシャ」上映

2014 11 12
上映日: 2014年10月18日(土)~19日(日)
会 場: 京都府京都文化博物館6階和室
http://www.bunpaku.or.jp/
画像クレジット: ©Chie Matsui

「ハイジ 54:プルシャ」は、今年4月25日〜5月11日「平成26年春の有隣荘特別公開」(大原美術館/倉敷市)の招聘作家:松井智惠が、倉敷に滞在し、制作した映像作品。有隣荘では、建物全体をインスタレーションした中に組み込まれたが、今回京都では、<映画もアートもその他もぜんぶ>と銘打った京都国際映画祭アートプログラムの一環として、映像のみが独立する形で公開された。

松井智惠は、80年代はじめ、美術自体がインスタレーションという言葉をまだうまく飲み込めない時代にあって、大学院生という最若手でありながら、鮮やかにその手法を定着させた作家である。その後、中断なく活動し続ける中で、さまざまな示唆に富んだ空間を創出してきた松井は、自然な成り行きのように、インスタレーションに、映像ときにパフォーマンスを組み入れ始めた。松井が44歳のときから、映像はハイジシリーズとなり、現在まで制作されている。よって連番で示されてきた数字は年齢である。作品名はヨハンナ・シュピリ作「アルプスの少女ハイジ」から採られているが、松井の映像作品は、その物語自体を忠実に辿るものではない。物語をひもときつつ、44歳であった松井が、44歳のハイジという虚構と松井の自伝的要素を交差させて出発させた寓話的作品であり、自身によるパフォーマンスの記録ともいえる存在なのである。

ハイジシリーズの映像には、そのときどきの上映地で撮影されたシーンが必ず挿入され、映像に込められた土地や建物や時間が、現実の時空と入れ子のようにかかわり合う。松井自身が演じる登場人物は、松井そのものであって、虚構の存在でもある。薄衣、裸足、毛皮の帽子で、さまざまな異空間へと踏み出していく。原生林、廃工場、古い屋敷、干潟、池、川、長々とつづく煉瓦塀・・・を巡り、霧、水、舟は、その人物を昼か夜か判然としない時間へも運ぶ。ハイジシリーズ各作品に、初期のインスタレーション作品が荘厳さや静謐を伴ったまま動く物語となったと感じる一方で、一コマすつが天然顔料で描かれたヨーロッパの古典絵画を見るように美しく、たとえ山道を歩く裸足やずぶぬれの衣が痛々しかろうと、安らかでさえある。

今回の「ハイジ54:プルシャ」では、倉敷の陽射しの中や夜の水島工業地帯と有隣荘が舞台である。有隣荘はいくつもの時代を経て厳然と建つ屋敷だが、いま住む人はない。松井は、かつて人々が団らんした洋間、無人の時間を映し続けてきた鏡、人と別の時間を生きてきたような庭石や木々を慈しむように、ひとり想いにふけるように、それぞれの空間や時間と静かな関わりをつなげていく。それは、生と緩やかにつながっている死者の安らかな振る舞いのようだ。死者たちは、生者の目に映らないだけで、明るい陽射しや木々の間のそここにさざめき、私たちと同じ時を過ごしている。映像の中の松井はもはや彼女自身ではなく、彼岸にいるさまざまな人々の存在をなぞるかのようなメディウム(霊媒)なのかもしれない。そう考えるとき、インスタレーション作品やパフォーマンス、ドローイング制作でさえも、松井の創造行為は、彼岸と連続するためにあるとさえ思えてくる。

松井智惠はまた、美術を大きく振動させた関西ニューウェーブの1人と数えられている。この30年近く松井の作品を見つづけることのできる幸せは、私たちが20世紀から21世紀へと携えてきた霊的な身体の確信であり、松井という美術家の仕事に、芸術が、死者との連続を可能にする数少ない仕事であるという確認である。とりもなおさず、アナログとは、彼岸との連続性であるとさえ思うのである。
(松尾 惠 MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w)

有隣荘
http://kurashiki-kankou.com/spot/yurinsou.html
http://www.ohara.or.jp/201001/jp/D/yurinso_14.html

松井智惠HP
http://www.chie-matsui.com/home/

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より

「ハイジ54:プルシャ」より


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