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EVENT REPORT

イベント・レポート

冊子「ポワゾン・ルージュ2018」発行(研究プロジェクト〜現代社会における<毒>の重要性〜の記録集)文:松尾 惠(MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w)

2019 05 29

イベントとしては昨年9月に公開討論会を開催した研究プロジェクト。その研究「現代社会における<毒>の重要性」の2018年の成果を記録した冊子が刊行された。公開討論会の文字起こしではなく、書き下ろしの論稿集。

現代社会は、毒か薬か、善か悪かなどの二元論的な思考によって成り立っている。その中で、この研究は、毒にも薬にもなりえるモノや存在とか、毒と薬の両義性:ファルマコンなどについて語る。執筆者は、討論会の登壇者をふくむ、研究の代表者:吉岡洋(美学・芸術学)、大久保美紀(美術家/パリ第8大学造形芸術学部)、加藤有希子(近現代美術史・表象文化論/埼玉大学基盤教育研究センター)、小澤京子(表象文化論・芸術史/和洋女子大学)。男をダメにする女を毒婦と呼んだり、お金にならないことやアマチュアを蔑んで「女・子供のすること」などというので、執筆者4人中3人が女性であるということ自体、なかなか毒々しいと思う。女・子どもとは、そもそも「取るに足りない」とか「足手まといになる」という意味である。女・子どもであること自体が、世の中にとって、もしや<毒>なのか。<毒>が何であるか、それぞれに思考が拡がる本である。

中でも、身体に悪い真の毒物を取り上げた「絵画の物質性ー絵画、毒、薬、そして血と汚穢」(小澤京子)の項を、現代の芸術表現を思い浮かべながら興味深く読んだ。美術館で目にする名画にも、19世紀に珍重された鮮やかな壁紙やドレスにも、有毒な顔料や染料が用いられた。美しい海を表現する<エメラルドグリーン>など、その代表格である。

時代とともに、死に至らしめる猛毒は美術や装飾から姿を消すが、芸術には、それでも毒物はつきものである。芸術が毒か薬か、もし心の良薬であるとしても、物質的に毒性を帯びてきたし、副産物として撒き散らしてもきた。現代の芸術大学では、環境汚染や健康被害を憂慮して、有機溶剤やさまざまな廃液など毒物の排除にかかっている。芸術系学生をはじめ、アレルギーの増加、アレルゲンの多様化とともに、創作する側も安全を選択するようになった。毒への耐性が希薄になるにつれ、中身も面白くなくなる気がする。耐性という意味では、あらゆる表現に対する精神的な耐性もまた、急速に希薄になっているように思う。

本冊子は、芸術や表現、とくにアールブリュットに対して勇気と批評が生まれる気がした。冊子は無料配布。基本、研究プロジェクトからの直接の手渡しになるので「京都大学こころの未来研究センター」に連絡をしていただきたい。A5版の魅力的な表紙の冊子である。

ポワゾン・ルージュ2018
ポワゾン・ルージュ2018
ポワゾン・ルージュ2018
発行日 2019年3月25日
発行所 京都大学こころの未来研究センター
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp
編集責任 吉岡洋
価格 無料配布
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