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EVENT REPORT

イベント・レポート

THEATRE E9 KYOTO オープン文:松尾 惠(MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w)

2019 07 26

芸術の鑑賞体験は、即効性のある無しにかかわらず心身のために良いと、信じている。それは、作り手が<人>に他ならないし、現在さけばれている多様性の尊重につなげていえば、個々の生き方自体が、尊重されるべき<すべて異なる表現>だからだ。先日、美術大学を目指す高校生に「何のために美術はあるのか」と聞かれたので、「世界平和のため」と答えたらたいそう驚かれた。高校生に対して具体的な解説を省略したのは不親切だった思うが、究極の本心である。ただし、それには、相応の<愛>をもって対峙しなければならないので、忍耐や時間やお金がかかることを覚悟しなければならないとだけ付け加えた。

作り手が皆<世界平和>を唱えているわけではないが、個々に表現の価値を知る者として、この複雑で不穏な世界にあって、表現=生きる意味を搾取されたり利用されることに敏感である以上、芸術家は戦争や内紛による殺人から最も遠い存在といってもよいだろう。が、各地の芸術祭や文化政策や行政において、細やかな説明と、芸術家がなぜ創作するのかということに対する洞察や理解が省略されたまま「芸術・文化」が盛んにうたわれる。したがって、芸術にもっとも重要な個々の愛の交感は、ともすれば、平等や公平性の名のもとに忘れられる。 さて、昨今、京都では小劇場が次々と閉館した。舞台と客席が一体となる空間では、公演にこぎつけた役者や裏方のそれまでの時間が地続きとなって立ち現れてくる。その得難い芸術体験でさえ、直接の関係者でないかぎり、そのうち無いことに慣れてしまうのかもしれない、という思いがよぎった。が、ただ空間が無いだけでなく、舞台を他の鑑賞者と共有すること・観客の知らないところで育つはずの人材・無名で実験的で可能性を秘めているのに客の入らない作品との出会いなども失ったと先で気づくのかと考えたとき、その喪失感や損失は2度と穴埋めができないという危機感に変わった。小劇場の激減には、それぞれに異なる閉館事情があったにせよ、総じて、仕方がないとしてしまう世間の無関心をはじめ、芸術を受容する想像力が社会や行政に欠けていることが原因なのだ。けっして、舞台芸術の側の失敗や怠慢などではなかった。

その中で、<100年つづく劇場>をキャッチコピーに、新たな劇場THEATRE E9 KYOTOがインディペンデントに開館した。劇場が属する地域では、京都市が「文化芸術によるまちづくり」を掲げているため、先行事例として地域からの期待も大きい。もちろん、舞台芸術文化のサバイバルとまちづくりの出会いはたまたま時期が重なっただけであり、一体として出発したのではない。が、3世代4世代にわたる関わりを通じて、いずれ共有の財産になっていくだろう。舞台芸術のつわものたちのことだから、政治や経済の犠牲にならず、自身や作り手やファンを守り、ミッションを遂行していくに違いない。今年度内ほぼ休みなくプログラムはつづき、地域の人々にとって舞台鑑賞が浸透していくことを願い、舞台芸術が心身に馴染むかどうか、多くの人々に体験してもらえたらと思う。

6月下旬、こけら落とし公演の狂言とトークショーを鑑賞、懇親会に参加した。舞台の随所に手作業の跡が残り、閉館した劇場で使用されていた道具類が再利用されている。建物自体も、長年使用されていた建物を改造・再利用したものだ。すでに、ものや場所への愛情や、たくさんの人の記憶に溢れている。また、元の床板がエントランスの壁面へと生まれ変わっていた。支援者・寄付者銘板の壁や館内サインのフォントやマークは、市内の芸術際やイベントで活躍するグラフィック・空間デザインのチーム:UMMM(ムム)のデザインだ。スポンサー名を記した什器の製作は、古家具を再活用したり種々の金属を使用して什器・家具・舞台美術を手がけるユニット:sakishiraz(サキシラズ)による。

芸術を心身の一部にするには、場所や機会に向けて手作業をつうじた愛情を注ぐという形があるのだ。100年続いてほしいのは、小劇場激減の危機感とその解決に向かった数々の心意気である。

トイレのサイン
トイレのサイン
サイン・銘板製作 / sakishiraz(サキシラズ) デザイン/ UMMM(ムム)
寄付者・支援者の銘板
寄付者・支援者の銘板
サイン・銘板製作 / sakishiraz(サキシラズ) デザイン/ UMMM(ムム)
オリジナルのフォント
オリジナルのフォント
フォントデザイン/ UMMM(ムム)
床板再利用の壁とサイン
床板再利用の壁とサイン
フォントデザイン/ UMMM(ムム)
こけら落とし公演 2019年6月22日(土)・23日(日)
THEATRE E9 KYOTO 〒601-8013 京都府京都市南区東九条南河原町9-1
電話:075-661-2515 FAX:075-661-2516
https://askyoto.or.jp/e9
https://askyoto.or.jp/e9/about
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