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EVENT REPORT

イベント・レポート

みることに触れる、描くことの現在文:松尾 惠(MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w)

2020 01 10

美術館のリニューアル完成、行政主催のアートフェアやオークションなど、2019年の京都の美術は祝祭がつづいた。また、世間を賑わせるほどではないが、現在進行形の美術では、ギャラリーが3〜4世代目へと移行しつつあり、コマーシャル活動や、社会と多面的にリンクする多彩な活動拠点となっている。話題性が必ずしも質や継続性を伴うとは限らないものの、華やかな表層というのは、この時代を歴史として彩っていくのかもしれない。

一方、芸術家の街としての日常は、着実である。華やかさの陰で、トップスターを支える層ともいえる無名作家・若手作家・アマチュアの存在も忘れてはならない。現在進行形の美術をとらえるうえで、芸術系大学の現役学生という最年少の作家たちの活動も見過せない。ときに、優れた企画、個々の質の高い作品と出会うことがあるのだ。

本展「みることに触れる、描くことの現在」が、そのひとつだ。学内展ではあるが、訴求力がじゅうぶんあったと思う。洋画コースの11名の在学生による。ゼミ担当は、一線で活動する画家:安喜万佐子で、そのコメント<この展覧会は、一年にわたり、学生たちが、他の学生の作品から読み広げる力をつける、そして、作品が繋ぐ自分なりの美術史文脈を創造(想像)してみるというプロジェクトを経て行われたものです。>は、美術の日常にとって、とても心強い。出展学生は、東 完治、工藤千夏、原 美菜、関 孔太郎、大石いずみ、朱 泓宇、岡田 文、松宮慧美、望月さやか、山下真由、岩下優香。すでに学外での作家活動を始めている人もいるが、これからさらに磨かれていく原石の集合である。

特徴的なのは、各作家の作品数が多いこと。各出展者の思考を探るのにじゅうぶんな点数だ。また、プロジェクトの方向性が示すとおり、互いに作品の解説文を掲示しているのも本展の特徴といえる。仲間の作品を観て、理解して、形容することは重要だ。芸術活動は、創り手・送り手・受け手によって構成される社会活動だ。すぐれた芸術家は、3つの役割を兼ねる。未成熟とはいえ、本展の最年少作家たちは、すでにその実践を始めたといえる。

創り手の実践として印象に残る作品では、たとえば岩下優香は、石膏で盛り上げたイメージにクレヨンや鉛筆を塗りこめる。身体が筆圧をとおして作品に関わり、手近な画材が物質に還元されていく中で、この作家の可能性は、自身の予想以上に開かれたのではないか。作業の集積と結果は、きっとこの先につづく表現活動を支えるだろう。大石いずみは、学内有志による高見島プロジェクトに参加し、現地で手にした見知らぬ人の写真を元に制作している。被写体が不詳であるだけでなく、撮影者も時も場所も目的も不明な写真である。それらの写真からすでに真実はこぼれ落ち、フィクショナルな存在となって、ただ人の営みの上を通過した時間だけを提示したことだろう。郷愁に頼らず、おそらく時間を描こうとした大石の表現には、パネルの厚みや側面に流れる絵具などにも、じゅうぶんな考察と目的を感じた。山下真由は、幼い頃の記憶をモチーフにする。無表情にお遊戯する幼児たちは、得体の知れない不安に包まれていた幼少の頃を思い起こさせる。その周辺に点滅する明るい記憶も共有できる。描くこと・観ることは、記憶の共有や再編集につながるのだろうと思う。ほか8名の各作品にも、鋭敏な感覚や誠実な制作態度を見ることができた。良い意味で世俗と隔絶された学生の作品は、鑑賞者の内に新しい鑑賞眼を開いてくれる気がする。

芸術家の日常はゆっくりと熟成する。また、生(き)のままの感性は、知性によって熟成する。それが美術の現場のリアリティーであろう。最年少の創り手である学生と優れた現役作家がわたりあった1年に触れる、貴重な展覧会だった。

岩下優香 作品写真
作者:岩下優香 タイトル:初山 サイズ:80.3×65.2cm
素材:鉛筆、クレヨン、綿、石膏地 制作年:2018年
大石いずみ 作品写真
作者: 大石いずみ タイトル(写真右):Keep a record #9  サイズ:130×55cm
タイトル(写真左):Keep a record #10 サイズ:130×55cm
素材:蜜蝋、油彩、和紙、麻布、パネル 製作年:2019年
展示風景
作品左から、工藤千夏・山下真由・大石いずみ
展示風景
作品左から、岩下優香・望月さやか・岡田文・大石いずみ
立体:朱泓宇
山下真由「役」 162×130cm/油彩、ラメ、おはじき、ビーズ、キャンバス/2019年
山下真由「役」 162×130cm/油彩、ラメ、おはじき、ビーズ、キャンバス/2019年

みることに触れる、描くことの現在

会期 2019年12月18日(水)〜12月28日(土)、2020年1月6日(月)
会場 京都精華大学 ギャラリーフロール
http://www.kyoto-seika.ac.jp/fleur/
〒606-8588 京都市左京区岩倉木野町137
開館時間 10:00~18:00
休館日 日曜日および12月29日(日)〜2020年1月5日(日)
入館料 無料
撮影 出展者
主催 京都精華大学芸術学部洋画コース安喜ゼミ
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