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EVENT REPORT

イベント・レポート

藤信知子展「花への挑戦状」

2012 04 05
会 期: 2012年3月6日(火)~3月11日(日)
会 場: ギャラリー恵風 http://keifu.blog86.fc2.com/
〒606-8392 京都市左京区丸太町通東大路東入ル南側
TEL:075-771-1011
FAX:075-771-0358
写真提供: ギャラリー恵風

私が初めて藤信知子の作品を見たのは、2011年8月にギャラリー器館1階のショップスペースで行われたコーナー展示だった。作品は小品が中心で、器の口や取っ手に当たる部分に人形の腕などから型を取った装飾が施されていた。可愛さと不気味さが同居した作品だったと記憶している。2度目の機会は、今年2月に京都市美術館で行われた京都精華大学の卒業・修了制作展である。他の学生と比べて明らかに独創的な彼女の作品は、会場内でひと際輝いて見えた。私はこの時点でようやく彼女の存在を意識するようになり、今後個展が行われる時は必ずチェックしようと決めたのである。そして今年3月に開催されたのが、今回取り上げる個展である。

ギャラリー恵風の1階展示室には、大小15点の器が並んでいた。器のボディ部分はろくろで成形されているが、その表面には過剰と思えるほどおびただしい装飾が施されている。装飾の正体は、人形の手や首や胴体、ガラス瓶、洗剤ボトル、傘の柄、自分の手などから型を取ったものだ。また、ボディ表面には深い線刻の文様が刻み込まれており、一種呪術的な雰囲気を醸し出している。そうした異様な風体の上に中国の唐三彩の手法で釉薬がかけられている意外性も魅力的だった。

本展には「花への挑戦状」というタイトルが付けられており、作品は全て花器である。普通、花器は花が引き立つように計算して作られるが、彼女の作品は逆で、むしろ主役の花を食ってやると言わんばかりに主張していた。各作品には《カサブランカ大佐の猛威》や《マーガレットランデヴー》といった花にまつわる題名が付けられているが、直接花の姿を模しているのではない。おそらく花言葉と造形の間に何らかの関係性があるのだろうが、私は花言葉に疎く、その真意を確かめられなかったのが残念だった。

強烈な装飾は一見気味が悪いものの、見慣れてくるとむしろ可愛さに転じてくる。考えてみれば、日本の縄文土器をはじめ過剰装飾のやきものは陶芸史上に幾らでもある訳だし、いくら彼女の作品の装飾が独特だからと言って、ことさら異端視するのは間違いなのかもしれない。

藤信は、絵付け(絵画的表現)と造形(立体的表現)を兼ね備えているのが陶芸の魅力だと述べている。また、長い陶芸の歴史において100%オリジナルな表現は存在せず、どんなに新しいものを作ったと思っても、必ず過去の作例と比較されカテゴライズされてしまうとも述べている。その前提に立って自分に何ができるのかを考えた末、彼女がたどり着いたのが、引用を複合的に組み合わせて装飾とする現在のスタイルなのである。こうした思考・歴史感覚は、音楽のサンプリングや美術のアプロプリエーションを持ち出すまでもなく、現代のアーティストに特有のものである。藤信の作品を解釈するに当たっては、工芸史と美術史の両方から参照することを忘れてはならない。

思い返せば、2000年代中盤以降に私が注目した陶芸作家には、「装飾」がキーワードとなる者が少なからずいた。例えば、上田順平、金理有、桝本佳子、最近では藤信知子と花塚愛である。これらの作家はことごく若手であり、そのアプローチが批評的か生理的かはともかく、装飾抜きに作品を語ることはできない。それが時代の要請なのか、若者特有の美意識なのか、あるいはリビドーの発露なのかは今の所判断がつかないが、「装飾」を基軸にして陶芸を見ることで、何がしかの興味深い発見が得られるのは確かである。
(小吹隆文 美術ライター)

藤信知子 展 「花への挑戦状」 会場風景

藤信知子展 「花への挑戦状」 会場風景

藤信知子「カサブランカ大佐の猛威」 (吽の面)

藤信知子「カサブランカ大佐の猛威」 (吽の面)

藤信知子「マーガレットランデブー」

藤信知子「マーガレットランデブー」

藤信知子「TENNMA宇宙器」

藤信知子「TENNMA宇宙器」


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