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EVENT REPORT

イベント・レポート

展覧会「おさなごころを、きみに」文・撮影:松尾 惠(MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w)

2021 01 31

親子や幅広い年齢層がともに美術館を訪れ、優れた芸術表現の可能性を知る「はじめの一歩」となる企画(リーフレットより)。メディアテクノロジーによる作品や映像は、美術館を初めて体験する子どもを新しい遊びへ誘うようだ。大人ももちろん、美術館への先入観があらたまるような刺激的な体験だ。

導入部の「はじめに」では、<のらもじ発見プロジェクト>のカラフルでおかしみのある文字が、女子高生の心をいきなりわしづかみである。会場全体、映像作品以外は撮影可。つづく名和晃平や吉岡徳仁の作品にも、カワイイ!キレイ!と声をあげ、作品の文脈や価値をすり抜けて、<私>の1日としてスマホにおさめている。観客のわくわくする気持ちに満ちた会場だが、ガイドマップには、押さえるべき美術館のルールが記されている。楽しみながら学んだことは、この先他の美術館を訪れるときにも活きるだろう。

楽しげな観客に押されるように会場を巡る。筆者がとくに興味深かったのが、触覚や身体表現に関する「からだとしょっかく」の展示。インタラクティブな作品、俳優・ダンサーの森山未来とアンドロイドが対話する映像などの中で、もっとも響いたのが<触覚年表>である。紀元前から現在までの触覚の歴史が図解される壁一面の年表だ。昔から人々が<触れる>ことで得た文明や文化を、人が人と接触を避けるべきときに俯瞰するというのは、なんとも皮肉なことである。

音と言葉による「おととことば」では、アイデアル・コピーのまるでスパイの道具のようなキットがみられる。匿名的で活動期間もよくわからないとされるアイデアル・コピーは、京都発である。そこに緩やかにつながる人間関係から生まれた大きな本"silence"は、二次元から音空間へ3次元へと想像が広がる大人の絵本だ。

京都とのつながりでいえば、忘却にまつわる「ぼうきゃく」のゾーン。かつて京都造形芸術大学のCGコースを率いた幸村真佐男の<非語辞典>、<二言絶句集>が整然と並ぶ様は圧巻だった。コンピューターで漢字やアルファベットをランダムに組み合わせてできる無限の文字列を製本した作品だ。平成も令和もあるらしい。<非語辞典・人名編>では、観客自身がモニターの画面に触れ、無限の組み合わせから選ばれた名が、観客の新しい名前になる作品。筆者に与えられた新しい名前は「北里ダニエル田村麻呂」だ。レジェンド幸村真佐男がメンバーのひとりだったCTGのコンピュータアート草創期の作品もめずらしい。

最後は宇宙に関する「ぎんが」。美術館で<一家に1枚宇宙図2020>を観ることは、科学と芸術が宇宙でつながっていると想像を掻き立ててくれる。

本展を鑑賞し、地方都市で相次ぐ芸術祭の意味を考え直した。美術館が子どもの新しい感覚を開くサーカスの本部だとすれば、地方での芸術祭は巡業するサーカス団であろう。お話の中の子どもは、サーカスに魅かれてついていってしまうものだ(連れていかれる場合もある)。物語のサーカスのように、誰かに忘れがたい体験を残すことは芸術の底力だと思う。

往路、東京行きの新幹線では一車両に乗客が数名しかいなかった。時勢からして、たくさんのどういう人々が不在なのか想像しながら、なぜ無理を押して自分は行くのかと考えた。が、それは、美術に対面するには、そこへ行かなければならないからという、とてもわかりやすい理由だ。移動が制限されたとき、どうしても動かなければならないのは、生きるのに必要な、そこにしかない体験を求めるときだ。美術に向かう態度の何かがコロナ禍以前と変わったと感じる、筆者自身の「はじめの一歩」だったかもしれない。

以下写真は全て「おさなごころを、きみに」展示風景(東京都現代美術館、2020年)。

おさなごころを、きみに 展示風景
名和晃平《PixCell-Bambi #10》2014年 東京都現代美術館蔵
おさなごころを、きみに 展示風景
のらもじ発見プロジェクト《のらもじ発見プロジェクト》①(部分)2020
おさなごころを、きみに 展示風景
IDEAL COPY Archive 1997/2000
おさなごころを、きみに 展示風景
幸村真佐男 奥:《非語辞典》(黒) 手前:《二言絶句集》(青) 1983~ 作家蔵
おさなごころを、きみに 展示風景
《触覚年表》2018/2020(部分)
おさなごころを、きみに 展示風景
phono/graph × NISSHA 『silence』project (部分)2019

展覧会「おさなごころを、きみに」(第23回文化庁メディア芸術祭協賛事業

会場 東京都現代美術館 企画展示室 3F
〒135-0022 東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
TEL:03-5245-4111(代表)
またはハローダイヤル 03-5777-8600(8:00-22:00 年中無休)
https://www.mot-art-museum.jp/
会期 2020年7月18日(土)- 9月27日(日)
休館日 月曜日(8月10日、9月21日は開館)、8月11日、9月23日
開館時間 10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
観覧料 一般1,300円/大学生・専門学校生・65歳以上1,000円/中高生800円/小学生以下無料
※ 小学生以下のお客様は保護者の同伴が必要。
※ 身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料。
主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館
共催 株式会社NHKエンタープライズ
特別協力 MADD. Committee/アストロデザイン株式会社
機材協力 シャープ株式会社/キヤノンマーケティングジャパン株式会社
協力 公益財団法人科学技術広報財団/「一家に1枚宇宙図」制作委員会 /一般財団法人ニッシャ印刷文化振興財団/国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)/株式会社ビデオリサーチ/ミネベアミツミ株式会社/株式会社アミューズ/株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション
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