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EVENT REPORT

イベント・レポート

ルサンチカ「GOOD WAR」文:松尾 惠(MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w)

2021 03 15

某日、それまで面識のなかった演劇カンパニー<ルサンチカ>から、「公演を観て、意見や感想を聞かせてほしい」と招待のメールが届いた。小劇場や小規模な公演では、観客がほとんど顔見知りのことが多い。京都では画廊でも同じで、愛好家の社交場であることはよいけれど、縁故関係の確認を繰り返すだけでは、真摯な批評の場にほど遠い。そんな中、見ず知らずにアプローチすることの珍しさと同時に勇気に感心し、劇場へ出かけた。

実績も充分な、将来を期待される若手カンパニー。2019〜2021年の3年間<U30支援プログラム>を受け、今回の上演に至っている。
U30支援プログラム http://www.bungei.jp/enfes/kinen_u30.html

本作は、演出家:河井朗の実体験に基づく。HPには、<医療ミスによって植物状態になった祖母と、そのカルテを書き換え事実を隠蔽した大学病院を起訴することをやめた母と私の実体験を起点とし制作をはじめた三部作「理想の死に方」、「仕事とは」に続く三作目、最後の作品です。前作までに引き続き、人々にインタヴューを行いその中で生まれた言葉を元に制作を行い>とある。
公演詳細 https://www.ressenchka.com/goodwar

劇中、ひんぱんに<し>という語が発せられた。後日、河井氏と交わしたメールによれば、それは、死、市、私、氏、詩のいずれでもあった。筆者は、死はもとより、誰かにとっての居場所を越境する・されることの象徴として<市>という文字を思い浮かべていた。行政区分によって、昔ながらの文化圏が分断される例をよく見るからだ。河井氏のメールにはまた、<国や命、身分のことによく想像を張り巡らせた結果の「争い」でした>とあった。自身の壮絶な体験は、生の側に立つ人、生死の境界にいる人を分断する力との闘いであったと想像した。

聴覚に、鮮烈な記憶が残る作品であった。観客席と舞台が入れ替わっており、観客は舞台上から芝居をみる。舞台を見上げるのとは、音の響きが異なる。観客席は、感染症対策として、一席おきに座席が二つ折りにされたまま縛られ、使用できなくなっている。見えない客ごと拘束されたような客席は異様だ。そのあいだのところどころに、小道具(美術作品)が呪術や祈祷の道具のように点在している。俳優は、その中のさまざまな方向から現れた。女1人と男3人のみ。それぞれに性格や職業を帯びているが、定かではない。声や音は、奥行きや幅をもって方々から聴こえる。ときどき関西弁が混じり、生々しく響く。BGMがない代わりに、セリフから聴こえる擬音を反芻する。

すみずみまで消毒され、劇場特有の匂いがなかったことも印象的だ。除菌、抗菌され、人の息遣いもマスクに封じられて、劇場に蓄積されてきた舞台作品の気配が除霊されてしまったかのような空間だった。その中を、ダンサーの山下残が客席後方から軟体動物のように座席の背を這い超え、舞台へと近づいてきた。彼の叫びのようなモノローグは、激しいドラムの音と駆け上るように激しくなった。
無菌、無霊の空間に、演出家が拾い集めた多くの言葉が、飛び散った気がした。

昨年来、コロナ禍による精神の変化を素早く受容したのは、やはり身体や言葉であるように思う。いま、表現はオンラインやオンデマンドで無数に配信されている。それらへの共感やリアリティーとは何かと考えるとき、接点は、実体験や記憶であろうと思う。本作"GOOD WAR"が深く沈殿させている痛みは、観客それぞれからも傷や痛みを引き出したに違いない。今後もクリエイションを重ねながら各地を巡回する(予定)の本作は、未知の人々へのインタビューをつうじて、癒えないことの共有を試み続けるのだと思う。

また、河井氏は、創作を進化させるとともに、演出家としての将来を目指し、制作側に立って数々の現場を踏んでいる。現在は、東京・豊岡・京都の3拠点を行き来しながら、実践において、舞台芸術と地域や社会との関係を学んでいる。豊岡での拠点は、平田オリザ氏(劇作家・演出家・青年団主宰)が芸術監督を務める江原河畔劇場である。コロナ時代という大転換期に、社会を豊かに持続させるのは、地方に分散していく優れた人材と拠点であると実感する。

ルサンチカ「GOOD WAR」

上演日時 2021年2月5日(金)19;00、6日(土)11;00/15:00
会場 京都府立文化芸術会館
〒602-0858 京都市上京区寺町通広小路下ル東桜町1番地
TEL 075-222-1046
構成・演出 河井朗
原案 「よい戦争」(作:スタッズ・ターケル)
ドラマトゥルク 田中愛美
出演 伊奈昌宏、諸江翔大朗、山下残、渡辺綾子
写真撮影 manami tanaka
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