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EVENT REPORT

イベント・レポート

展覧会 桐月沙樹・むらたちひろ 「時を植えて between things, phenomena and acts」(Co-program カテゴリーB採択企画)文:松尾 惠(MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w)

2021 05 28

桐月沙樹の木版画とむらたちひろの染色作品による。版画や染織を背景に作品制作するそれぞれが、素材や技法への関心や、制作とともにある時間をモチーフに構成した。作家や作品が内包し、互いに強く結びつくthings, phenomena and acts=もの(素材)、現象、行為が提示された。自身の身体をつかって時を「刻む」仕事と、染液の浸透をコントロールし時を観察する仕事の共鳴と感じた。

ギャラリー南で目を引くのは、桐月の制作行為を示す2本の丸太だ。立っている(天井から吊られている)のは、径11cm・長さ302cmの、茶室の中柱などに使われることの多い香節(こぶし)丸太という皮付き天然丸太。作品名は<found-3m2cmの版木>。その輪切りの切り口を版木として用い、2度彫り進めることによって制作されたのが、壁面に展示されている木口木版作品<1/3020-/3020-3m2cmの版木>である。彫り進む時間や作業の経過が刷られ、作品となって記録されるのに対して、版木となった香節丸太は少しずつ欠損し元の姿を消失させていく。が、残った長さは、今後の創造物を秘めた版の厚みであり、これからの時間である。なお、彫り進むとは、1枚の版木を彫っては刷ることを繰り返し、版の形状・図像がそのつど変化していくことを意味している。一方、寝ている丸太は、作品名<found- 虫食い丸太>という、径cm・長さ324cmの虫食い跡のある木材。虫食い跡の面白い曲線は、ギャラリー北の展示作品に引用されている。また、薄い合板を径30cm・高さ90cmの環状に組んだ床の立体は、かつて使用した版木を構成した作品。木版の版木は、木の繊維に沿って縦に裁断された板目と、木の繊維に対して垂直に輪切りにされた木口の2種類に分けられる。桐月は、空に向かって成長する木の時間と横に太っていく木の時間を版に用いたのだと気づく。

桐月の提示をとりまいて、壁面や頭上には、むらたちひろが展覧会初日に行ったパフォーマンスの痕跡である、作品(成果物)と映像が展示されている。むらたちひろの大作3点は、ギャラリー北に展示されている。

染料のにじみや広がりによるむらた作品は、ギャラリー北の天井の高い閉じられた空間で、その壁の向こうに別の奥行きを見せるかのようだった。水が拡げていく染料は、光の帯のようだ。防染をせず、刷毛を用いて描く作品<beyond>、刷毛と水を用いて描く作品<beyond >では、染料をふくんだ刷毛と水の導きあいを想わせる。作家が向き合った時間が可視化され、先へ先へと無限に進んでいく軌跡を想わせる。作品<unknown moments #04>は、裏面にデジタルプリントし、表から、部分的に水を吹きかけて染料を浸透させている。ここでも布の片面に捺染(プリント)した染料が水によって溶け、光へ、あるいは光の速さへと変わっていくようだ。

ギャラリー北には、1枚の版木を9回彫り進めた桐月の作品も9点展示されている。1度目に彫った版から図像を刷りとった後、同じ版にさらに図像を彫り加える。それを9回繰り返したのである。彫り進みにしたがって、それまであった図像が大胆に隠れたり、図像間の関係を変える。木材の縦方向を示す木目の上に図像が踊るように重なり、ギャラリー南にあった丸太の虫食い跡が、年輪や木目を凌駕するように図像を渡っていく。過去に後戻りすることはできず時間は消えていくが、記憶は膨大に積み重なっている、ということを強く想う。

桐月沙樹とむらたちひろは、自身の関心と誠実に向き合い、成長し続けている作家である。そのつど新しい試みに溢れた着実な進化は、創作への愛というべき惜しみない制作量や、技法や素材の探求に裏付けられるものだと思う。京都には、作品の経済的な流通とは別に、作家のそういった歩みからけっして目をそらさない人々が必ず存在する。作家をよく理解し紹介の機会の確保に努める人々によっても、創作の意志が支えられている。昨今のアートバブルの現場やオンラインは細やかな人間関係を感知しないが、実際には人間関係にこそ芸術は育まれている。本展は、創作に流れる前後の時間と作家、作家と環境の間に流れる時間などとともに、京都の芸術環境を再評価したい展覧会であった。

4月22日に本展を鑑賞。直後に、3度目の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言により、会期開始から約1週間で一時休止となった。5月25日現在も休館中ではあるが、むらたにより、染まる現象が進行していく作品が設置されているときく。再開を望む。

写真提供:京都芸術センター
写真撮影:吉本和樹
写真提供:京都芸術センター
写真撮影:吉本和樹

展覧会 桐月沙樹・むらたちひろ 「時を植えて between things, phenomena and acts」(Co-program カテゴリーB採択企画)

会期 2021年4月17日(土)-6月13日(日)10:00~20:00
※4月25日~5月31日休館、6月2日(水)再開
会場 京都芸術センター ギャラリー北・南
TEL: 075-213-1000 FAX: 075-213-1004
主催 時を植えて実行委員会
京都芸術センター(Co-program カテゴリーB採択企画)
URL https://www.kac.or.jp/events/30132/
関連企画 むらたちひろによる染めのパフォーマンス
日時:4月17日(土)10:30〜 / 15:00〜
会場:京都芸術センター ギャラリー南
アーティスト・トーク 京都芸術センター公式YouTubeチャンネルにて配信します。
登壇:桐月沙樹、むらたちひろ、渡辺亜由美(滋賀県立美術館 学芸員)
配信時期:後日ウェブサイト・SNSにて告知します
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