AMeeT
EVENT REPORT

イベント・レポート

松本ヒデオ展「ディテールの連鎖」

2010 11 01
会 期: 2010年9月21日(火)~10月17日(日)
会 場: ギャラリーなかむら
TEL 075-231-6632

大作「囲み取って賞でる XIX Mitochondorion's Jardin」と「Subterranean Canyon」と題された作品をメインとする陶磁作品の個展。

「囲み取って賞でる XIX Mitochondorion's Jardin」は、乾いた大地に横たわる骨か古代遺跡のように、荘厳な作品である。船を思わせる形の「Subterranean Canyon」もまた、寡黙な遺物のようだ。ともに、石膏型を使った鋳込み技法(泥しょう)と型起こし技法(タタラ板のカット片や糸状の粘土)の混合技法による。材料は磁土。陶磁がガラス板をささげ持つような箇所には、息をのむような緊張感も漂う。

見知ったような、見知らぬような、不思議な形たちが集合した構築物だ。近づいて見ると、作品のパーツのひとつひとつは、くびれたり突起を持ったり、どこかおかしみも漂わせた、いくつかの形に分類されることがわかる。

松本ヒデオは、1982年京都市立芸術大学大学院修了後、現代陶芸の若手として次々と意義深い発表を続けてきた作家である。数々の国際展に参加し、2008年に京都美術文化賞を受賞、京都精華大学陶芸コースでは長らく指導にあたってきた。

松本は、知性の陶芸家だ。陶芸界特有の難題に多々直面してきたことだろうが、土と身体と産業のしがらみとのみ格闘したのではなく、現代において土をメディアのひとつととらえ、思考と格闘してきたのだと思う。日本という固有の地域性と土との関係をテーマにしながらも、<焼き物>の土着性や通俗性を別の角度からとらえようとしている作家なのだ。松本作品では、地球の上に点在する、現代の人々の思考が集合し、生産地を離れていくのである。

「ディテールの連鎖」作品それぞれは、実は100円ショップで売られているプラスティック容器や道具を型につくられたパーツで構成されている。それらは驚くほど装飾的で古典的な形をしているが、実際には、私たちの身辺にあふれ返っている工業製品の内側の形状を示しているのだ。松本は、ありふれた安物が高価な陶作品に変貌する、と冗談めかして言う。

100円ショップに辿り着いた品々は、供給過多や製造元の倒産によって本来いるべき市場からはみ出した存在だろう。自由競争の残骸だ。今、現代美術の作品もまた、プチアートバブルの中で供給過多となりつつあり、美術史や投機の相手にされなかった作品は、アーティストのスタジオで残骸になろうとしている。安価に使い捨てられる品々を型とした松本作品は、プチアートバブルに湧く日本の脆さや絶望のたとえであるように見える。砂漠から掘り起こされた遺跡のように、この時代のアーティストの格闘の跡も、かつて宮殿であったと、いつか新たな価値を与えられるのだろうか。松本作品は、まるで遠い未来、砂の中から蘇ったように見える。地球の変容に敏感なアーティストは、時を越えて、材料やアーティストの精神や経済の循環を俯瞰するだろう。

松本は、HPに次のように記している。http://ocean-art.jp/matsumoto/

「・・・陶磁も縄文からフォルムだけでなく、各時代、地域を表現する陶磁独自のディテールを持ち、その風味を賞でられていた。陶磁は時代と地域性の文化精神を、質感から感じさせることができるものであり、フォルムを持たずとも、フェイス(域)だけでも現代の環境の中での<五感>を体感できる素材なのである」

個展会場での雑談のあと、松本は、ヘンリー・ダーガーになるしかないと不思議なことを言った。その意味を、繰り返して考えてみる。
(松尾 惠 VOICE GALLERY pfs/w)

「囲み取って賞でる XIX Mitochondorion's Jardin」100×410×90cm 01
「囲み取って賞でる XIX Mitochondorion's Jardin」100×410×90cm 02

「囲み取って賞でる XIX Mitochondorion's Jardin」100×410×90cm

「Subterranean Canyon」160×80×50cm

「Subterranean Canyon」160×80×50cm

ともに石膏型を使った鋳込み技法(泥しょう)と型起こし(タタラ板のカット片や糸状の粘土)の混合技法。素材=磁土。

写真撮影:畠山崇(会場/ギャラリーなかむら)


PAGE TOP