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EVENT REPORT

イベント・レポート

ウィリアム・ケントリッジ——歩きながら歴史を考えるそしてドローイングは動き始めた……

2009 11 10

<京都会場>終了

会 場: 京都国立近代美術館
会 期: 2009年9月4日(金)~10月18日(日)
主 催: 京都国立近代美術館、東京国立近代美術館
後 援: 南アフリカ共和国大使館

<東京会場>終了

会 場: 東京国立近代美術館
会 期: 2010年1月2日(土)~2月14日(日)
主 催: 東京国立近代美術館、京都国立近代美術館
後 援: 南アフリカ共和国大使館

<広島会場>終了

会 場: 広島市現代美術館
会 期: 2010年3月13日(土)~5月9日(日)
主 催: 広島市現代美術館、京都国立近代美術館
後 援: 南アフリカ共和国大使館

ウィリアム・ケントリッジの日本で初めての大規模個展。京都会場での展示が終了し、以降東京、広島で開催される。
京都国立近代美術館において鑑賞。美大生や若いアーティストにとってドローイングとアニメーションの関係を探る絶好の機会であるせいか、会場の方々で学生の団体鑑賞に出会った。アニメーション作品の前には数十人の若者が床に座りこんで鑑賞、ロビーでは真剣な面持ちで感想を述べ合う光景も見られた。

チラシによる本展紹介文:「ケントリッジの作品は南アフリカの歴史と社会状況を色濃く反映しており、自国のアパルトヘイトの歴史を痛みと共に語る初期作品は、脱西欧中心主義を訴えるポストコロニアル批評と共鳴する美術的実践として、1995年のヨハネスブルグ・ビエンナーレや1997年のドクメンタ10などを契機に世界中から大きな注目を集めるようになりました。しかし私たちは、その政治的外見の奥で、状況に抗する個人の善意と挫折、庇護と抑圧の両義性、分断された自我とその再統合の不可能性などの近代の人間が直面してきた普遍的な問題を、彼の作品が執拗に検証し語り続けていることに注目すべきでしょう。」「京都国立近代美術館とウィリアム・ケントリッジとの3年間にわたる緊密な協同作業を経て実現されるもので、日本では初の大規模な個展となります。」

この時代の企画者と芸術家の情熱を強く感じた展覧会だった。美学・芸術学的、美術史的理解は、本展図録の熟読によって深めていただきたいと思う。また、ぜひ今後の東京・広島会場で鑑賞されることをお勧めしたい。ここでは、鑑賞者としての感想を記したい。

前述紹介文のように、本展は、ウィリアム・ケントリッジに触れる最良の機会である。とくに、日本人にとっては、西洋起源の美術の呪縛から解放されるきっかけとなるかもしれない。

世界、あるいは美術と置き換えてもよいが、それが西洋の白人男性のものであり彼らの見ている世界(美術)は日本女性の私が見ているものと違う、と感じる瞬間は多い。さらに言えば、現実の世界は老いた白人の男のものである。日本という特異な位置の国にいて、身の回りや国際的に起こっている現在の美術について考えるとき、私=日本人にとってその必然性は何なのだろうか。アジアの国々の同業者と関係を深めることでその答えを探りたいと思っているが、それだけでは、新たな考えに結びつくかどうか心もとない。そのように思っていた中での、ウィリアム・ケントリッジとの出会いであった。

実写映像作品に登場するウィリアム・ケントリッジは、50歳代であるにもかかわらず、実年齢より遥かに老成し賢人めいて見える。それは、複雑な思考によって成熟が早まった結果であろうが、世界を相手に成長する人が必然的に得た姿でもあろうと思う。作品もまた、老いた人からのメッセージように感じられる。しかし彼の作品は、抑圧的でなく、深い苦悩と同じくらいのおかしみにあふれていて、古い村の語り部による、人生の示唆に富んだ物語のように思えてくる。

発達した交通や情報網によって地球がひとつの文化圏であるとさえ感じる現代、固有の文化というものは、古老や少数民族や辺境の地にのみ残されていると感じることが多い。その中で、たとえば、歴史や新たな国際的習慣や倫理・道徳などから取り残される不安と闘ったり、取り残されることで固有の価値観を探ろうとするウィリアム・ケントリッジと、私という日本人は、どこかで精神を共有できるのではないか。本展によって、私は、このような勇気を得た。
忘れられつつある古い村の語り部のような存在になること。それが、この時代の美術とともに社会に生きる意味のひとつではないだろうか。

本展と併設のコレクション展も、視覚と思考の両面からケントリッジ展と明確に関連づけられており、たいへん見ごたえがあった。
(松尾 惠 VOICE GALLERY pfs/w)

「I am not me, the horse is not mine」プロジェクションを使ったレクチャー/パフォーマンス      第16回シドニー・ビエンナーレ(2008年6月)にて ©the artist

「I am not me, the horse is not mine」
プロジェクションを使ったレクチャー/パフォーマンス
第16回シドニー・ビエンナーレ(2008年6月)にて
©the artist


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